3:魔法
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パチッ
小さな音と共に照らし出される室内に、静は少しホッとして辺りを見回した。
積み重なった書類、ファイル、ダンボールーーー雑然としたその様子は“あの日”のまま……
「ん~~~ダメダメっ!」
ぶんぶんと頭を振って、改めて顔を上げる
今はそれどころじゃない、早く探さないと……
地面に這いつくばるようにして、ハンカチを探し始めた静
薄いピンク色なので目立つタイプではないけれど、入り口付近にあるはずなのだ
箱やファイルをどかしたり隙間を覗き込んだりバタバタしているとーーー
ガチャッ
突然扉が開いた。
「きゃっ……!」
必死だったので足音すら聞こえなかった静は、ひどく驚いて振り返った。
その視線の先にいたのは
「……静さん……やっぱり、いた……」
荒い息を吐きながら見つめてくる遼
走ってきたのか脇腹に手をやり髪を乱したその様子に、静は思わず呟いた。
「どうして……?」
ぽかんとした静の顔を見つめたまま、遼がゆっくり息を整える
後ろ手に扉を閉めながら
「陽子さんが教えてくれて」
陽子先輩!よけいなことして……っ!
悪戯好きな先輩の笑顔を思い出し嘆息してから、静はふと首を傾げた。
あれ……私倉庫に行くなんて言ったっけ?
心の声が聞こえたように、遼が口を開く
「きっとここだろうなと思って。探し物って、これでしょ?」
掲げた遼の手に握られている、1枚のハンカチーーーそれはまぎれもなく静の探していたものだった。
「あっ!それっ!!」
反射的に駆け寄って手を伸ばすけれど、その指先が触れるより早くハンカチがひらりと逃げる
「ちょっと……!」
慌てて手を伸ばすも、長身な遼の頭より上にあげられてしまいまったく届かない
「返してっ!」
必死で背伸びをする静
しかし遼はハンカチを持った手をさらに上げて、そんな静を見下ろした。
よっぽど大切なものなのか、見上げてくる静の顔は険しい
キュッとしかめられた形の良い眉
睨んでくる少し潤んだ綺麗な瞳
不満そうに突き出した厚めの唇ーーー
思わず力が抜けた指先から、滑り落ちるハンカチ
「あっ……」
静が掴もうと動くよりも早く、遼の腕はその華奢な身体を抱き締めていた。
「なっ!ちょっと……っ!」
驚く静にかまわず、ただただきつく抱き締める遼
必死にもがいても男の力にはかなわず、静はしばらく抵抗していたが途中で諦めたように力を抜いた。
何も言わない遼の背中に手を回し、軽く叩く
「……苦しい」
その小さな囁きに、遼はやっと反応を示した。
静の長く柔らかな髪を指先で弄びながら、耳元に囁き返す
「話……聞いてくれますか?」
聞きたくない
なんて言ったら、離してくれないんだろう
静は観念してゆっくり頷いた。
それを確認してから、遼が腕の力を抜き少し身体を離す
向かい合う二人の間に流れる微妙な空気
今度は何を言うつもりかしら
まさか改めてキスしましょうとでも?
眉を寄せて俯く静の頬を右手で軽く撫で顎に添えると、遼はそっと上を向かせた。
見つめ合う2人
一瞬の沈黙のあと、遼が目を合わせたまま口を開く
「昼間は、すみませんでした」
「何の話?」
「あんなこと、思ってないんです。つい勢いで……」
「思ってなきゃあんなこと言わないでしょう」
静の冷たい一言に、遼は眉を寄せた。
「静さん……」
「つまりポロッと本音が出たんでしょ?」
「ちがっーー」
「別に良いわよ。あなたがどれだけ軽くて遊び人でも、私には関係ないから」
パシッと遼の手を払い、素早くハンカチを拾い上げる静
柔らかい布の感触に少しホッとして一息つくと、強く遼を睨み
「二度と私に関わらないで」
言い切って背中を向けるが、ドアノブへ伸ばした右手首を強く掴まれて動けなくなる
「……離して」
「本音は、その前に言いました」
その前……?
あの発言の前……なんだっけ?
もしかして、『恋人同士になればーーー』っていうあれ?
ふと頭に浮かんだ遼の言葉に、静は軽く笑って頭を振った。
「あのね……」
「そうやって流されるくらいなら、たとえどんな関係だろうと繋がっていたかった」
突然腕を引かれ思わず顔を上げる
待っていたのはあまりにも真剣な瞳で
「どんな手を使ってでも、あなたを俺のものにしたかった」
何を言っているの?
わからない……どうして、そんなにーーー
思いがけない言葉に動揺してしまうけれど、静は咄嗟に手を振り払って再びドアノブに手を伸ばした。
「っ、静さん……」
「そういえばうちの部署の女の子達、みんなあなたのファンみたいよ」
ガチャッと扉を開け薄暗い廊下を歩きながら笑う
「営業部でもモテるでしょ?」
「静さん!」
「選び放題ね」
「俺が欲しいのはあなただけだ」
はっきり言い放たれた言葉に静は前を向いたまま嘆息すると、ゆっくり足を止めた。
同じく立ち止まった遼を見上げ、微笑む
「内緒にしてたんだけど、実は私魔法が使えるの」
眉を吊り上げ息を呑む遼へウインクしてみせると、不意に右手を伸ばした。
遼の長めの前髪をすくい額に手を当ててから、見開かれた瞳を塞ぐように手をかざす
「あなたは目を覚ます。あなたは気付く。本当に大切なものに。本当に大切な人に。1…2……」
魔法と言うよりおまじないのようなものだが実際良く効くと好評で、緊張している同僚や泣いている後輩、大事な商談前の上司でさえたまに頼んでくるぐらいだったりするのだ
「……3」
カウントを終えそっと手を離し、見つめてくる遼へ静は首を傾げた。
「どう?誰が見えた?今頭に浮かんだ人が、あなたの本当に大切なーー」
「経営戦略部の雨宮静さん」
息をのむ静をまっすぐ見つめ、遼が呟く
「あなたしか見えない」
その瞳があまりに真剣だったので、静は笑って流すことができなかった。
顔が熱い……黙ったまま下を向くと、不意に髪の毛を触られてビクッとする
しばらく黙って髪の毛を触っていた遼が、小さく囁いた。
「俺のものになって?」
なんなのこれは
一体何が起こっているの
本気、なわけないわよね?
まだ会って数日しか経っていないのに
お互いのことなんかなにも知らないのに
こんなのおかしい……
「静さん」
「い……」
「い?」
「い……やっ!!」
思い切り叫び、静は急いで走り出した。
小さな音と共に照らし出される室内に、静は少しホッとして辺りを見回した。
積み重なった書類、ファイル、ダンボールーーー雑然としたその様子は“あの日”のまま……
「ん~~~ダメダメっ!」
ぶんぶんと頭を振って、改めて顔を上げる
今はそれどころじゃない、早く探さないと……
地面に這いつくばるようにして、ハンカチを探し始めた静
薄いピンク色なので目立つタイプではないけれど、入り口付近にあるはずなのだ
箱やファイルをどかしたり隙間を覗き込んだりバタバタしているとーーー
ガチャッ
突然扉が開いた。
「きゃっ……!」
必死だったので足音すら聞こえなかった静は、ひどく驚いて振り返った。
その視線の先にいたのは
「……静さん……やっぱり、いた……」
荒い息を吐きながら見つめてくる遼
走ってきたのか脇腹に手をやり髪を乱したその様子に、静は思わず呟いた。
「どうして……?」
ぽかんとした静の顔を見つめたまま、遼がゆっくり息を整える
後ろ手に扉を閉めながら
「陽子さんが教えてくれて」
陽子先輩!よけいなことして……っ!
悪戯好きな先輩の笑顔を思い出し嘆息してから、静はふと首を傾げた。
あれ……私倉庫に行くなんて言ったっけ?
心の声が聞こえたように、遼が口を開く
「きっとここだろうなと思って。探し物って、これでしょ?」
掲げた遼の手に握られている、1枚のハンカチーーーそれはまぎれもなく静の探していたものだった。
「あっ!それっ!!」
反射的に駆け寄って手を伸ばすけれど、その指先が触れるより早くハンカチがひらりと逃げる
「ちょっと……!」
慌てて手を伸ばすも、長身な遼の頭より上にあげられてしまいまったく届かない
「返してっ!」
必死で背伸びをする静
しかし遼はハンカチを持った手をさらに上げて、そんな静を見下ろした。
よっぽど大切なものなのか、見上げてくる静の顔は険しい
キュッとしかめられた形の良い眉
睨んでくる少し潤んだ綺麗な瞳
不満そうに突き出した厚めの唇ーーー
思わず力が抜けた指先から、滑り落ちるハンカチ
「あっ……」
静が掴もうと動くよりも早く、遼の腕はその華奢な身体を抱き締めていた。
「なっ!ちょっと……っ!」
驚く静にかまわず、ただただきつく抱き締める遼
必死にもがいても男の力にはかなわず、静はしばらく抵抗していたが途中で諦めたように力を抜いた。
何も言わない遼の背中に手を回し、軽く叩く
「……苦しい」
その小さな囁きに、遼はやっと反応を示した。
静の長く柔らかな髪を指先で弄びながら、耳元に囁き返す
「話……聞いてくれますか?」
聞きたくない
なんて言ったら、離してくれないんだろう
静は観念してゆっくり頷いた。
それを確認してから、遼が腕の力を抜き少し身体を離す
向かい合う二人の間に流れる微妙な空気
今度は何を言うつもりかしら
まさか改めてキスしましょうとでも?
眉を寄せて俯く静の頬を右手で軽く撫で顎に添えると、遼はそっと上を向かせた。
見つめ合う2人
一瞬の沈黙のあと、遼が目を合わせたまま口を開く
「昼間は、すみませんでした」
「何の話?」
「あんなこと、思ってないんです。つい勢いで……」
「思ってなきゃあんなこと言わないでしょう」
静の冷たい一言に、遼は眉を寄せた。
「静さん……」
「つまりポロッと本音が出たんでしょ?」
「ちがっーー」
「別に良いわよ。あなたがどれだけ軽くて遊び人でも、私には関係ないから」
パシッと遼の手を払い、素早くハンカチを拾い上げる静
柔らかい布の感触に少しホッとして一息つくと、強く遼を睨み
「二度と私に関わらないで」
言い切って背中を向けるが、ドアノブへ伸ばした右手首を強く掴まれて動けなくなる
「……離して」
「本音は、その前に言いました」
その前……?
あの発言の前……なんだっけ?
もしかして、『恋人同士になればーーー』っていうあれ?
ふと頭に浮かんだ遼の言葉に、静は軽く笑って頭を振った。
「あのね……」
「そうやって流されるくらいなら、たとえどんな関係だろうと繋がっていたかった」
突然腕を引かれ思わず顔を上げる
待っていたのはあまりにも真剣な瞳で
「どんな手を使ってでも、あなたを俺のものにしたかった」
何を言っているの?
わからない……どうして、そんなにーーー
思いがけない言葉に動揺してしまうけれど、静は咄嗟に手を振り払って再びドアノブに手を伸ばした。
「っ、静さん……」
「そういえばうちの部署の女の子達、みんなあなたのファンみたいよ」
ガチャッと扉を開け薄暗い廊下を歩きながら笑う
「営業部でもモテるでしょ?」
「静さん!」
「選び放題ね」
「俺が欲しいのはあなただけだ」
はっきり言い放たれた言葉に静は前を向いたまま嘆息すると、ゆっくり足を止めた。
同じく立ち止まった遼を見上げ、微笑む
「内緒にしてたんだけど、実は私魔法が使えるの」
眉を吊り上げ息を呑む遼へウインクしてみせると、不意に右手を伸ばした。
遼の長めの前髪をすくい額に手を当ててから、見開かれた瞳を塞ぐように手をかざす
「あなたは目を覚ます。あなたは気付く。本当に大切なものに。本当に大切な人に。1…2……」
魔法と言うよりおまじないのようなものだが実際良く効くと好評で、緊張している同僚や泣いている後輩、大事な商談前の上司でさえたまに頼んでくるぐらいだったりするのだ
「……3」
カウントを終えそっと手を離し、見つめてくる遼へ静は首を傾げた。
「どう?誰が見えた?今頭に浮かんだ人が、あなたの本当に大切なーー」
「経営戦略部の雨宮静さん」
息をのむ静をまっすぐ見つめ、遼が呟く
「あなたしか見えない」
その瞳があまりに真剣だったので、静は笑って流すことができなかった。
顔が熱い……黙ったまま下を向くと、不意に髪の毛を触られてビクッとする
しばらく黙って髪の毛を触っていた遼が、小さく囁いた。
「俺のものになって?」
なんなのこれは
一体何が起こっているの
本気、なわけないわよね?
まだ会って数日しか経っていないのに
お互いのことなんかなにも知らないのに
こんなのおかしい……
「静さん」
「い……」
「い?」
「い……やっ!!」
思い切り叫び、静は急いで走り出した。