ドラマ集

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「はあはあはあ」
 貴史は息を切らし、物陰隠れて、ピルケースを開けた。
 中にはピンク色の粉が入っていた。その粉をを指で1つまみして、口に含んで飲み込んだ。
 味はまるでしなかった。
「15分」
 薬が効き始める時間。それまで、隠れて居なくてはならない。
 汗が、ポタポタと垂れる。
「後10分」
 ガチャ、ガチャ。
 鍵のかかったドアノブを無理矢理回す音がした。
「ここが、怪しい。斧持って来い!」

 警備員は、すぐ近くの消火栓を開けて、中にあるBOXの鍵を開けた。
 中から、斧を取り出す。
「おもいっきり、壊せ!」
 警備隊長が命じる。
「はい!」
 斧を持った警備員は、斧を両手で振り上げた。
 ガツッ!
 斧がドアに突き刺さる。
 一撃でドアは壊れない。
 もう一撃。
 ドアノブに当たり、ドアノブが弾け跳んだ。
 さらに二撃。三撃。
 そこでようやくある程度ドアが破砕され、ドアんを抉じ開けることに成功した。
 斧をその場に投げ捨てた。
「よし、行くぞ!」
「はい!」
 二人は破壊したドアを蹴り飛ばし、部屋の中へと入った。

 ドアが壊された。貴史に緊張が走る。
 汗ばんだ手で、ピルケースをポケットにしまう。
 部屋の灯りが灯る。
「居たな、博士」
 見つかってしまった。
「博士、抵抗しないで下さい。ラボに戻りましょう」
 そうは言うが、二人は警棒を取り出し、明らかに警戒していた。
「ラボに必要なのは私どはない。私の研究成果マッスルパウダーだろう?」
「マッスルパウダー??」
 二人顔を見合わせた。
「なるほど、たかが警備員には、知らせられないか。マッスルパウダーのことは」
「なにを言っているんだ?」
「しかし、私が危険だと言うことは、警戒を見る限り、知らされているようだな」
 二人は警棒を構えた。
「だが、遅い」
 貴史は床を蹴って、素手で警備員二人に向かって突っ込んで行った。
 警備隊長は警棒を振り上げるが、貴史の腕の方が早かった。
 右アッパーが、見事に顎に決まった。
 グキィ。
 殴った右腕にに痛みが走るが、気にせず右腕を振り抜いた。
 殴られた警備隊長は、天井に頭から突き刺さった。
「さて、次は君だ。どうする?私と戦うかね?」
 警備員は、天井に突き刺さった隊長を見た。
「ひいいぃ!」
 悲鳴を上げて、背中を向け貴史から逃げ出した。
「痛っ」
 貴史はその場にしゃがみこむ。
「こりゃあ、体に負荷がかかりすぎるな」
 マッスルパウダー。それは、人体のリミッターを解除し、強化する薬だった。

 マッスルパウダーは、貴史の作った薬だ。本来は、治癒力を高める為の薬を開発していたのだが、その途中で、もう一つの効果があることが分かった。
 本来人間には、人体が破損しないように、リミッターがある。しかし、この薬は、肉体的潜在能力を引き出すことが確認されたのだ。
 現在は、治癒力を高めるためではなく、肉体的潜在能力を引き出す為に研究が進められるようになっていた。
 スポーツのドーピング。それだけではない。もう少し研究が進めば、軍事利用も考えられる。
 その危険性にも、思い至った為、薬を持って逃げ出したのだが、このあり様だった。
「右腕が痛い」
 右腕がズキズキ痛む。
「戦いは避けた方が良いな。殴っただけでこの様だ」

 何度か交戦はあったが、研究所の外へは、意外と時間はかからなかった。
「ふう、効果時間はまだあるな」
 時間は昼の12時過ぎ。
「時間的タイミングは悪くない」
 貴史は駐車場に向かい、人気(ひとけ)のある車を探した。
 程無くして、車内でお弁当を食べてる男を発見した。
「あんたに恨みはないが、すまないな」
 呟き、貴史は男の前に、斧を持って現れた。
「すまないが、車を譲ってくれないか?」
 斧をちらつかせながら言った。
 車内いた男は、驚き怯え、かくかくと頷き、一目散に車から出て行った。
 貴史は車に乗り込んだ。
「ああ、完全に犯罪者だな。これで、警察に駆け込む訳にも行かなくなった。さて、どこへ逃げるべきか?」
 貴史は車のエンジンを始動させた。

 車で走り出すとすぐに追手の車がやって来た。
「この車じゃ不利だな」
 こちらは軽トラック。相手は普通乗用車3台。
 アクセルを思い切り踏むが、すぐに、前方以外の3方を囲まれてしまう。
 しばらく並走していたが、乗用車3台の速度が急に落ちた。
 何だと思い、前方を見ると、橋が壊れていた。
 貴史は即座にハンドルを切り、ブレーキを踏んだ。
 落ちる寸前で、車は止まった。
 手のひらから汗が滲んでいた。
 貴史は車から降りると、上司が立っていた。
「さあ、もう逃げられない。戻って来るんだ」
「嫌です」
「なぜだね?お金は十分に与えているはずだが」
「お金じゃないんですよ。私の中の正義観が訴えかけているんですよ。これ以上この研究を続けてはならないと」
 貴史はチラリと後ろを見て、橋の空白は10メートル程と目測する。
「正義観?ふざけたことを。マッスルパウダーは、軍にとって有益だ。この国にとってもだ。わが国が独占販売すれば、多大な利益を生み出すことぬる」
「それが戦争に使われてもですか?」
「無論だ」
「交渉決裂です」
「どうするつもりだ?」
「こうするんですよ」
 ポケットからピルケースを取り出し、崖に投げ入れた。
「ああ、何てことを!」
 そして貴史は崖に向かって走り出した。
「やめろ!死ぬ気か!?」
 貴史はジャンプした。10数メートルの崖を飛び越えて。
 着地すると、あっかっんベーして、貴史は走り去った。

終わり
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