ホラー集

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 これは、5名の人間が体験するデスゲームの話である。

 家のポストに宛名のない封筒が入っていた。
 文緒は、その封筒を開けて見る。
「賞金1億円の人生すごろくゲームに参加しませんか?」
 文面を見て、文緒は眼を丸くする。
 文緒には、難病を抱えた母がいた。
 その為に、文緒はこの人生すごろくゲームの招待を受けるのだった。

「マジ!?」
 光は手紙の文字に眼を踊らせた。
「賞金1億円の人生すごろくゲームに参加しませんか?」
 現在無職の光にとって寝耳に水だった。
 もうテンション上がりまくりだ。勿論招待を受けるのだった。

「はぁ。真司君に会いたい。だけど今月もうお金ないのよね」
 愛はため息をついた。
 とりあえず愛は、ポストからたまった郵便物を取り出して、確認するのだった。
 無記名の封筒を開けて文面を見ると愛は、眼を飛び出させた。
「賞金1億円の人生すごろくゲームに参加しませんか?」
「嘘!?」
 何度も見返しだが、間違いない。愛はその招待を受けるのだった。

 耕三はパチンコから帰り、ポストを見る。無記名の封筒が入っていた。それを開けて見る。
 中身の文面を読むなり耕三の顔が喜色満面になった。
「賞金1億円の人生すごろくゲームに参加しませんか?」
「うは!?」
 耕三は、人生すごろくゲームの招待を嬉々として受けるのだった。

「はぁ。退屈な毎日」
 純子はため息をついた。郵便物を取って来て、ソファーに座る。
 郵便物を次々と開けていったが、ある1つの郵便物の中身の文面を読むなり、手を止めた。
「賞金1億円の人生すごろくゲームに参加しませんか?」
「えええええ!?」
 驚きながらも純子は、喜色の笑みを浮かべ、万歳した。
 純子も当然ながら、このゲームの招待を受け、参加するのだった。

 5人は指定されていたアパートの一室に集まっていた。
「ここでいいのかしら?」
「知らない人間が5人も集まっているのだから、おそらくは」
 そうこう話しているうちに、5人の意識が朦朧(もうろう)としてくる。
 気付けば、5人はその場で意識を失う。
 次に5人が目覚めた時、「人生すごろくゲーム」が始まるのだった。

「皆さま、人生すごろくゲームの招待に応じていただきまして、誠にありがとうございます」
 主催者は深々と頭を下げた。
 今か今かとゲームが始まるのを、待ち焦がれる5人。
「では、人生すごろくゲームのルールを説明させていただきます」

 人生すごろくゲームのルール。
 サイコロを振り、1番早く15マス目のゴールにたどり着くと勝ち。
 単純明快なルールだ。
 そんなことで1億円。皆は俄然やる気を出した。
「それではじゃんけんして、順番を決めて下さい。勝った人順です」
 5人はじゃんけんした。
 じゃんけんした結果順番が決まる。
 耕三→光→純子→愛→文緒の順番で、人生すごろくゲームがスタートする。

「それでは、人生すごろくゲームスタァート!」
 耕三は、スタート地点に置いてあるどでかサイコロを手に取り、放り投げた。
 出目は5。
 上々の出だし。
「では、お先に」
 耕三は皆に笑顔を見せながら、マス目を進んで行った。
 耕三がマス目に着くと、巨大なモニターのスイッチが入り、モニター画面に耕三の姿が写し出された。
 すると、耕三の足元の床が抜け、耕三が落下した。
 深さ3メートル程の奈落になっているらしく、ほぼ垂直に落ちた為、耕三は怪我などはしなかった。
 ゴロゴロと巨大な何かが転がる音がする。
 何が起こっているのか分からない耕三は、オロオロするばかりで、目の前に通路があるみたいだったが動けなかった。
 音は通路の方から聞こえて来て、どんどん音が大きくなる。
 パニック状態の耕三は、パニックのあまり、座り込んで動けなくなっていた。
 耕三の前に大岩が現れる。
 避ける暇もなく、耕三は大岩に轢かれた。

 4人は、耕三の死を見せつけられ、悲鳴を上げた。
「なんなのよ?」
「私たち死ぬの?」
「いやああああぁ!」
「死にたくない!」
「ご静粛に。これは、1億円を賭けたゲームなのです。ゲームに勝って1億円入って来るなら、割りに合うでしょう?」
 主宰者の言葉は、4人を黙らせるのに、十分な破壊力を持っていた。

 耕三の落ちた床パネルが元に戻る。
「では、ゲームを再開いたしましょうか。次の番は光様ですね」
 4人の視線が光に注がれる。
「いやああああぁ!私は死にたくない!」
 光は絶叫し、スタート地点から逃亡する。
 ドアへ向かってまっしぐら。
 ドアの前へたどり着き、ドアノブを回すが、ドアは開かなかった。
「逃げることは叶いません。誰かがゴールするまで、この人生すごろくゲームは終わりませんので。要はゴールすれば良いんです」
 光は主催者のその言葉を受けて、心を決めたようだ。
「ゴールすれば、出られる?」
「はい」
「わかった」
 光はスタート地点へと戻り、覚悟を決め、サイコロを手に取り振った。
 出目は5。
 4人は絶句した。
「ああ、詰んだ」
 絶望。
「では、マスへお進み下さい」
 光はとぼとぼとと、マスへ進んで行く。
 5マス目へたどり着く。
 光は目を瞑(つぶ)った。
 誰もがまた、と思った。しかし、数分しても何も起こらなかった。
 4人はとまどった。
「では、純子さん行きましょうか」
 主催者以外は皆、ポカンとしている。状況が飲み込めていないのだ。
「どう言うことなの?」
「ああ、そうでした。マス目の罠はランダムで移動するんですよ」
 つまり、光は命拾いしたのだ。
 光はへたり込んで、泣き始めた。

 純子の番が来た。
 純子はサイコロを手に取り、投げた。
 出目は3。
 純子は重い足取りで、マス目まで歩く。
 マス目に着くと、目を閉じた。
「はい。次の方」
 何も起こらなかった。セーフ。
 純子はへなへなと腰を落とした。

 愛の番だ。
 愛は手を合わせて願う。
 それからサイコロを投げた。
 出目は3。
「やった!」
 ガッツポーズが出る。
 愛は意気揚々とマス目に移動した。

 いよいよ文緒の番が来た。
 ゴクリとつばを飲み込んで、サイコロを手に取る。
 サイコロを投げる。
 出目は3。
 3人連続で同じ目。
「やったぁ!」
 文緒は、歓喜した。
 ゆっくりと歩き出し、マス目へ向かった。

 1巡した。
 1人が死亡し、4人が生存した。
 5のマスに1人。
 3のマスに3人。
 2巡目が始まる。

 光にサイコロが再びわたる。
 唾を飲み込んでから、投げる。
 出目は3。
 8マス目。
 丁度半分だ。
 光は、恐る恐る3マス進む。
 8マス目に到達する。
 何も起こらないように祈る光。
「……では、次の方。純子様の番です」
「やったぁ!」

 2巡目の純子の番がやって来た。
 サイコロを手に取る。投げる。
 出目は5。
 8マス目。
 光と同じマス目だ。
「やったあぁぁ!」
 喜びを隠しきれず、るんるん気分でマス目に向かう純子。
 純子が光のいるマス目へと到着すると、光と純子のいるマス目の床が開いた。
 2人共落下する。
 落ちたのは、水の中。
 水の中には先客がいた。ピラニアだ。
 ピラニアはすぐさま2人を補食した。
 水の中は、血の海に変わった。
 あまりのことに、愛と文緒は愕然とした。
「ああ、先程の補足になりますが、トラップは1人回るごとにランダムに移動します」

 2巡目。愛の番がやって来た。
 手汗をびっしょりかいている。当たり前だ。マス目のトラップが1人回るたびに変わると聞かされては。
 愛は、サイコロを手汗まみれにしながら投げた。
 出目は6。
 9マス目だ。
 愛は重い足取りで、9マス目へ向かった。
 特に何もなかった。
 愛は息を吐いた。

 2巡目最後の文緒。
 残り2人。
 文緒はサイコロを手に取る。
 思い切り投げた。
 出目は6。
 愛と同じマスだ。だが、油断は出来ない。先ほどのピラニアの件がある。
 文緒はゆっくりと愛のいるマス目へと向かう。
 愛のいるマス目へとたどり着く。
 2人は祈った。
「トラップが来ませんように」

「では、3巡目にいきましょう」
 愛にサイコロが手渡される。
 あと6マスでゴール。
 運が良ければ、このターンでゴールできる。
 6が出ろと祈りながら、愛はサイコロを投げた。
 出目は5。
 惜しいあと1マス。
 これで、トラップに当たらなければ、4巡目でゴールできる。
 愛は、期待に胸膨らませながら、14マス目に向かった。
 ゴール手前にたどり着く。
「さあ、あなたの番よ」
 文緒を手招きした瞬間、愛の足元の床が開き、愛は落下した。

 トラップが発動した。
 愛は落下し、うずくまった。
 顔を上げると更なる絶望が待っていた。
 仮面を被り、チェーンソーを持った人が立っていたのだ。
 バルバルバルバル。
 チェーンソーのエンジン音が唸りをあげる。
 仮面人はチェーンソーを振り上げた。
 愛はなす術なく、一刀両断された。

 文緒の番だ。
 文緒以外、全員死んでしまった。
 サイコロを握る手が震える。
 サイコロを抱えながら、手首を握り、震えを抑える。
 深呼吸してから、サイコロをふる。
 出目は6。
 15マス目。
 つまり、ゴールだ。
「やったあぁ!」
 文緒はガッツポーズして、喜んだ。

 もう、最高の気分だった。
 1億円が手に入る。母を助けられる。
 文緒はスキップしながら、ゴールへ向かった。

「ゴール、おめでとうございます。では、賞金をお渡ししますか。なんて、言うと思いますか?」
「え、え、え、え、え?」
「これはデスゲームなんですよ。実際人が死んでいる。犯罪行為です」
「え、どう言うことですか?」
「この人生すごろくゲームは犯罪です。なので、ななにも差し上げることができません」
「つまり、この人生すごろくゲームは、無意味だったと?」
「まあ、あなたたちにとっては。ですが、私にとっては違います。最高のエンターテイメントでした。参加してくれたあなた方には、感謝してますよ」
 文緒は絶望した。
 主催者は、ニヤリと笑った。
「その顔が見たかった。絶望に彩られたその顔を」
 文緒の足元の床が開き、文緒は絶望うちひしがれながら、奈落に落ちて行った。

終わり
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