SF集
仁枝は、宇宙飛行士だった。
作業中の事故により、1人宇宙を彷徨い、死を待つだけだった。
しかし、運良く惑星に不時着して、命を拾うことになった。
酸素濃度計を見ると、壊れていなければ、標準を示していた。
濃度計を信用して、動きづらい宇宙服を脱いだ。
大地踏み締めると、わらわらと小さなハムスターたちが、沸いて出て来た。
地割れはしなかったものの、突然の大きな地震にハムスターたちは、驚いて外に出て行った。
するとそこには、見たことのない巨人が立っていた。
「なんなんだ、あの巨大生物は!?」
「分からん。だが、我々より強い生物であることは間違いない。震源から見て、地震を引き起こした生物だろう」
ハムスターたちは、仁枝を総力を挙げて、取り囲んだ。
「なになになに?」
見渡せど、見渡せど、大量のハムスターが一斉に出て来た。
「皆、準備はいいか」
「「「OKだ!」」」
ハムスターたちは咆哮をあげる。
「行けぇ!」
「「「おおお!」」」
仁枝の体に、ハムスターたちは、次々とかじりついた。
かじりつかれた仁枝は、襲われたことを自覚して、足を振り、ハムスターたちを自分の体から引き剥がした。
ハムスターたちは、足の振りで一気に払い退けられた。
「「「のわわ!」」」
10数匹が地面に叩きつけられて、負傷することにった。
幸い死者は出なかったものの、叩きつけられたハムスターたちは、傷だらけだった。
ハムスターたちが傷を負ったのに、すぐさま気付いた仁枝は、からだの動きを止めた。
「何だ?動きが止まったぞ?」
仁枝は、どうしたら害を加えることをしないと伝えられるか考えた。
考えた結果、野生を忘れた獣は、腹を見せることを思い出し、仰向けでゆっくり倒れることにした。ハムスターたちを踏み潰さないように。慎重に。
「倒れた。倒したのか?」
「おそらく」
「いや、違う」
「どう言うことだ?」
「からだが大きくてよく見えないが、腹が見えるように倒れているように見える。もしかしたら、あれは服従のポーズではないのか?」
「何だって!」
「服従。……確かにそう見えなくもない」
「敵意はないと言うことか?」
「おそらく」
「ではどうするのだ?」
「巨大生物が動くのを待とう」
仁枝が動くのを待つことにしたハムスターたちだった。すると、雨が降りだして来た。
「まずい。皆、大水が来たぞ!急いで巣穴に避難するんだ!」
ハムスターたちは、一斉に一目散に、巣穴へと駆け出した。
その様子を頭だけ動かして、仁枝は見た。
雨は小雨のようだったが、ハムスターたちにとっては、問題ありなのかな?
そんなことを思いながら、仁枝は上半身を起こした。
ハムスターたちは、巣穴へ大急ぎで戻って行く。
仁枝はハムスターたちの巣穴の場所を確認すると、ゆっくりと立ち上がり、脱ぎ捨てた宇宙服の場所へと戻った。
仁枝は宇宙服を脱ぎ捨てた場所に戻ると、ヘルメットを抱え持った。
そうして、ハムスターたちを刺激しないように、ゆっくりと巣穴へ近付いた。
「巨大生物がこっちに来るぞ。何か持って」
「何するつもりだ?」
ハムスターたちに緊張が走った。
仁枝は巣穴への出入り口にヘルメットを置いた。
そうすることで、巣穴への水の侵入を防げると思ったからだ。
「水が侵入して来ない。何がどうなってる?」
「巨大生物が持っていた物を出入り口に被せたら、水の侵入がなくなった」
「と言うことは、巨大生物は我々を助けてくれたのか?」
「そう言うことになるな」
「そうだとしてどうする?」
「とりあえず、大水が襲っている間は何も出来ない」
「大水が止まるまで、また様子を見るか」
雨が弱まる。
仁枝はヘルメットを巣穴の出入り口から外す。木の木陰を見つけ、そこに避難したためそこまで濡れずにすんだ。
ハムスターたちが巣穴のから、ひょこひょこと顔を出す。
仁枝はハムスターたちを愛らしいと思った。
巣穴のがら続々と顔を出すハムスターたち。
「どうやら、助かったようだ」
「1匹も被害が出なかった」
「これはあの巨大生物のおかげかな」
「そうだな。感謝しよう」
ハムスターたちは、仁枝を見上げた。
そこから、仁枝とハムスターたちの共同生活が始まった。
仁枝と暮らすことによってハムスターたちは、守り神を得た。
仁枝のおかげで、外敵からの脅威がなくなったのだ。
しかし、ハムスターの生涯は、短い。仁枝はたくさんのハムスターたちの死を見届けることになった。
その中で、ハムスターたちの世話をすることに幸せを見いだした仁枝は、故郷の星に帰りたいとは思わなくなっていた。
このハムスターたちを私が死ぬまで、末代まで面倒をみようと決めたのだった。
そうして仁枝はハムスターたちから、神のような存在として扱われるようになった。
それは、仁枝が死を迎えるまで、続いた。
やがて、仁枝が亡骸となる。
「ああ、神が逝ってしまわれた」
そして、骨になった仁枝の体は、神聖な聖地として、ハムスターたちから崇められたのだった。
終わり
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