怪奇探偵

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「お願いです。母を探して下さい」
 そうお願いしてきた彼女は、志田伸子。怪奇探偵怨神勇人に母・君子の捜索を依頼して来たのだった。
「ちょっと待って下さい。私は怪奇を扱う探偵です。人捜しは専門外ですよ」
「はい。分かっています。だからこそ、お頼みすることにしたんですよ。母が行方不明になったのは、1年前ですから」

 伸子の母・君子が失踪したのは、1年前。
 父・忠男が亡くなってから1ヶ月後のことだった。山菜を採りに行くと言って、朝、家を出て行った時から。

「しかしながら、失踪から1年経っているので、必ず見つけ出せるとは、限りません。それと、期間を設けさせていだたきます。依頼は、君子さんだけの失踪だけを取り扱っているだけではないので。この条件を飲めますか?」
「期間は、どれくらいなりますか?」
「最長でも、2週間が限界かと」
 伸子は少し考えた。後、「お願いいたします」と答えた。

「さて、現場と思われる山林に来たが、どう攻めるか」
 勇人は頭を悩ませた。
「情報が少なすぎる。山の怪奇で、捜してみるが、山の怪奇は多すぎるからな。地道に出くわすまで登山と山菜採りかな。いや、待てよ。山と言えば、木霊(こだま)が居たな。木霊捜してを捜して話を訊いてみるか」

 木霊(こだま)。
 樹齢100年以上の木に宿る妖怪だ。
「樹齢100年の木。見つけられるのか?やるしかないのよな。どちらにしても」

 それから1週間後、何とか巨木を見つけ、勇人は木霊に会うことができた。

「木霊、ようやく会えた」
「ぼくをさがしてたの?」
「ああ、話を訊きたくてな」
「いいよ。ひまだからつきあってあげる」
 勇人は木霊に、ここに来た経緯を話した。
「なるほどね。いらいされて、おばあさんをさがしにきたのか」
「ああ。1年前から行方不明のな」
「いちねんまえね」
「そうなんだ。だから手掛かりがなくてな、悪戦苦闘中だ」
「いちねんまえから、みかけるおばあさんならいるよ」
「え!?」

「何だって!?」
「いちねんまえから、よくみかけるおばあさんならいるよっていったの」
 勇人は慌て君子の写真を見せた。
「うん。このおばあさんでまちがいないよ」
「そうか、生きてたのか。でもなぜ家に帰らないんだ?」
「さあ、しらない。でもやまじじぃといるみたい」
「山爺とぉ!」

 山爺(やまじじぃ)。
 ひとつ目の人形妖怪。
「なぁ、山爺の住みかわかるか?」
「わかるけど、いくの?」
「ああ。案内頼めるか?」
「いいけど、あんないだけね」

「ここだよ。ただ、きをつけてね。やまじじぃはひとのこころがよめるから」
「分かった。ありがとう」
 わらぶき屋根の古い家屋だった。
「心が読めるか。厄介だな」
 ガタッ。
 戸が開いた。
 1つ目の男と目が合った。
 山爺だ。
「きょえぇ!」
 いきなり山爺が鉈を持って飛び掛かって来た。
「うお!」
 いきなりのことで、勇人は尻餅をついた。
「まて、待て、待て!心が読めるんじゃないのか?俺に敵対心はない!」
 山爺の振り下ろした鉈が止まった。  
「君子のことをなぜ、知っている?探偵?」
「心を読んで話されると、色々聞きたい話はあるとおもうが、話がややこしくなるので、対話で話さないか?」
「いいだろう」

 山爺(やまじじい)の家に入ると君子がいた。
 とりあえず捜し出せたことに、勇人は少し胸を撫で下ろした。
「君子の娘に頼まれて、君子を捜していたと。君子を連れて行くのか?」
「いや、そうとも限らない。捜して欲しいと依頼を承ったが、見つかったら連れ戻してほしいとは、言われていない」
「ん、どう言うことだ?」
「言葉通りの意味ですが。あなた方の話によっては、このままで良いのではと思っています」
「……」
 山爺と君子は、お互いに顔見合せた。
「あなた方を見ていると、どちらかが一緒に居ることを強制したわけではないみたいなので」

 1年前、君子は夫を亡くし、意気消沈していた。何も手につかず、悲しみに暮れる日々を過ごしていた。そんな時、気分転換のため、山に山菜採りに出掛けた。そこで君子は山爺(やまじじい)と出会った。
 偶然だった。山爺は食糧調達のため、山の麓に降りて来ていた。その時、出会ったのだ。
 山爺と出会った時、君子は少し驚いたが、それだけだった。
 山爺は、そのことに驚いたが、君子の心を読んで、哀れみを覚えた。
「うちで少し休んで行かないか?」
 自然とそんな言葉が出ていた。
 君子は頷き、山爺について行った。

「それからだ、一緒に暮らすようになったのは」
「そうか」
 勇人は立ち上がった。
「どうする?」
 勇人は背を向けた。
「帰るさ。伸子さんだけには生存報告する。ただ、それだけだ。場所はばらさない。」
 山爺と君子の顔が輝いた。
「じゃあな。2人で幸せに暮らせよ」
 勇人は2人の家を後にした。

終わり
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