3.彼が変わった日
高校二年生になってから少し経ったある日、響は休みを利用して一人で自宅からはかなりの距離がある公園に足を伸ばしていた。
春の陽気が残り、少しだけ暑くなって来たこの時期。今から十年前、響と龍河そして彼の家族を変えてしまったのもこの時期だった。
今から十年前、龍河の両親は離婚をした。原因は彼の父親の浮気だった。その時期の事を思い出すと響自身、頭と心が痛くなる程だった。
彼の母親も凄く病んでしまったのだが響の両親の助力もあり、すぐに立ち直る事が出来た。
だが、問題は龍河の方だった。響と龍河がお互いに小学校に上がったばかりの頃だったのだが、父親が大好きであった龍河の心に裏切りと言う形で残された傷は計り知れず、今でも彼はその傷に苦しんでいた。
かつての龍河は寡黙なわけでは無かった。
太陽のような笑顔で周りを笑顔にしてしまう程の、笑顔がとても良く似合う元気な少年だった。だが、その父親に裏切られた事から心を閉ざしてしまい、今では寡黙と言えば聞こえは良いが、実の所を言うと感情が上手く出せなくなってしまったのだ。
響はある所で立ち止まると、ジップパーカーのポケット入れてあったスマートフォンの電源をオフにすると目の前に広がるシロツメクサの花畑を見渡す。
「此処は何時来ても変わらないな…」
街の喧騒からかなり外れたこの場所は十年前から何も変わってはいない。
響の耳に入るのは風の音や、木の葉が擦れ合う音だけ。彼は目をそっと瞑り、そのシロツメクサの絨毯に身を投げる。
これから話す話は今から十年前のこの時期。龍河の両親が離婚してから少し経ったある日の小さな、だけど彼と響にとってはとても大きな事件の話だ。
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