2:クラスの人気者、響。
「おお、ヒビとリュウじゃねえか!
またお前らと同じクラスになれるとはな!」
「おう、がっちゃん!おはよう!」
「…はよ」
あれから一緒にバイクに二人乗りをして登校した響と龍河の二人は、何とか遅刻しないで無事に教室に着くことが出来た。
そして、響ががっちゃんと呼んだ赤茶色のつんつんとセットされた髪をした八重歯の男子生徒、山形篤はそんな二人に声をかけて背中を思い切り叩く。
「いってえなあ…!」
「本当にお前ら仲良いよなあ」
「…まあ、家が隣同士だからな」
何やらニヤニヤとした顔で篤は響の顔を覗き込む。そして、響はそれを頬を若干膨らませ睨み付ける。
実はこの篤と言う男は、響が龍河が好きだという事を一目で理解した程に直感が冴え渡っている。響自身この男に恐怖さえも覚えていはいるが、その奇抜な格好からそうは見え難いが義理や人情に厚い人柄の為、龍河の事を相談したりと信頼している。
「あっ!ヒビ君だ!」
「響くん!おはよう!」
「ヒビくんと同じクラスだなんて、嬉しい!」
「がっちゃんばっかり狡い!ヒビ君、こっちで一緒に話そうよ!」
「え、あっ。おはようっ。うん、今行くね!」
クラスメイトの女子に腕を引かれた響は篤と龍河に一瞬視線を向けた後、その女子のグループの中で言葉を交わす。取り残された龍河と篤はその姿をロッカーに寄り掛かりながら見つめる。
元々寡黙な龍河と篤の間には静寂が流れるが、その静寂を破ったのは篤だった。
「リュウよ。お前、それで良いのか?」
「…何がだ」
「俺っちの勘をナメないほうが良いぜ?と言うか、何時もより眉間の皺が増えてるけど?」
篤は自分の眉間をトントンと左手の人差し指で叩くとさらに龍河の眉間の皺が深く刻まれる。
「…新聞配達のバイトで寝不足だからじゃないか?」
龍河は右手の人差し指と親指で眉間を摘むと、そのまま自分の席へと向かってしまう。
篤はそんな姿を呆れたように苦笑を浮かべ、
「お前らどれだけ不器用なんだよ…」
と、お互いの気持ちを隠し通そうとする友人達をただ見つめていた。
実際、響はその可愛い系の見た目で話しかけやすいなどの理由から、女子からの人気が非常に高かった。そして、それは龍河も例外では無かった。
龍河はその強面の顔からは見て取れないが、実に寡黙で冷静な男だ。その顔と寡黙さの中に生まれるギャップという物がある特定の女子には人気が高い。
「ヒビ君って三上君と仲良いの?」
「実は幼馴染で家も隣同士なんだ」
「良いなあ」
「私もヒビ君と幼馴染になりたかった!」
響は女子生徒達とこんな会話を続けていた。当たり障り無い程度に話していく。
響が龍河の席に視線を向けると、其処には黒のフレームの度が入った眼鏡を掛けて読書に耽る彼の姿があった。
「三上君が読書する姿って、本当に画になるよね…」
「ねえ?本当に格好良いよね…」
そうこれが龍河がモテる所以だ。あの強面な一面がこの様に知的な一面も見せる事もあるので、そのギャップが女子生徒の心を掴んで離さない。そして、それは響も例外では無い。
彼女達が彼を囃し立てる時、響の胸や腹の中は言い知れぬ気持ち悪さが渦巻く。彼自身、これがどう言った感情で、どうしてこう言う感情が起こるか頭では理解はしているが、どうしても心は付いて来てくれない。
「ヒビ君?どうしたの?怖い顔して…」
一人の女子生徒の声に我に返った響は慌てて困ったように笑うと、無理矢理その黒い感情を腹の奥に押し込める。
「ごめんごめん。少し考え事してた」
「具合悪いのかなって思っちゃったじゃん!」
「本当にごめんって!で、何だっけ?」
響は何事も無かったかの様に、黄色い声で話し掛けて来る彼女達と会話を進めていた。
そんな姿を何とも言えない表情で見つめる視線がある事にも気付かずに。