『梨子、好きだよ』

『乗ってく？』

『あ、もしもし、先生？　うん、私ならいつもの場所にいるけど……』

『行けないって、先生なにかあったの？』

『……なんで謝るの？』

『そ、そっか。じゃあ、少し我慢すればいいんだよね？　先生が大学に戻れば、私“彼女”として堂々としていられるわけだし……』

『それはいいけど……』

『うん』

『…………』

『……いい、来ないで。来なくていいから！』

『来ないで！　もしまた誰かに見られたら、もう言い逃れできなくなるから』

『先生が……、私のせいで先生が、先生になれなくなっちゃったらヤダから。だから、もう来ないで……』

『…………水谷？』

『……風邪、ひくよ？』

『……誰か────、先生、待ってんの？』

『ち、違うよ！　俺じゃない。みんなが知ってるよ、宮間と水谷がデキてるって』

『別にいいけど。その、宮間と何かあったの？』

『え……』

『バ、バッカじゃねーの！　来ねーヤツ待ったって仕方ねーじゃん』

『関係あるよ！　好きなコが目の前で泣いてるの、ほっとけるわけねーじゃんっ』

『え？』

『そうだよ。あぁ、サイアク。このタイミングで告るなんて。……好きなんだ、水谷のこと。ずっと好きだった』

『俺と付き合わない？』

『水谷、今、すっげぇー胸が痛いだろ。それを治すには、新しい恋をすることなんだって』

『俺っ！』

『なんで笑うんだよ』

『……ねぇ、梨子。梨子の瞳に映ってんの誰？』

『ときどき遠い目してる。まだ宮間のことが忘れられないのかよ？』

『もういいよ、梨子。謝られると、余計ツライから』

『梨子。俺は別に体が欲しくて抱いてんじゃないよ。いい加減、俺のこと見てよ……』

『見てねーよ、全然っ！　俺のことなんか全然見てない。いつも、俺を通り越して、他の誰かを見てる』

『ずっと……、ずっと、梨子の心が欲しかった』

『別れよう、梨子』

『ほら、ちょうどいいじゃん。俺は東京の大学に行くし、梨子は地元の短大に行くんだろ？　どう考えたって遠距離恋愛は無理だよ。だから、卒業前に俺ら別れよう』