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私って昔からそう。
かわいそうって思うものには、すごく弱い。 -
《拾って下さい》
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とくに、道端に捨てられている子猫や子犬を見ると、つい────……。
小さい頃から、何度、親に怒られただろう。 -
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猫
ニャオ。
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美亜
(ニャオ?)
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朝、目覚めると目の前に見知らぬ子猫が一匹と────。
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サクヤ
…………。
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美亜
ふふふ。
まつ毛、長い。 -
猫
ニャー、ニャー。
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美亜
えっ……、
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美亜
ね、猫っ!?
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ピンポ~ン。
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美亜
あったま、イタ……。
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朝から何度か鳴らされるチャイム。
朝っぱらから一体だれ? -
美亜
やば……、
靴、靴……。 -
美亜
はぁーい。
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玄関を開けると────!
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ケイゴ
未亜、会いたかったよ!
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美亜
ケ、ケイゴ!?
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私は今、人生最大のピンチに直面している。
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ケイゴ
美亜~♡
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美亜
ちょっ……!
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ぎゅっと、私を強く抱きしめる彼。
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この先を通すわけにはいかない。
だって……!
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美亜
ど、どうしたの?
こんな朝早くに……。 -
ケイゴ
そんなの、未亜に会いたいからに決まってるだろ。
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ケイゴ
なんか美亜の顔見たら、腹減った。
なんか作ってよ。 -
美亜
えっ!?
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ケイゴ
ってことで、おじゃましまーす♪
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美亜
わっ、わっ……!
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美亜
ダメダメ!
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ケイゴ
なにがダメなんだよ。
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美亜
しょ、食材がない!
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美亜
冷蔵庫の中、空っぽなの!
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ケイゴ
おとといのカレー、残ってるだろ?
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ケイゴ
作りすぎたからって言って、冷凍保存してたじゃん。
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美亜
そ、そうだっけ?
あははは……。 -
ケイゴ
美亜って、けっこう家庭的だし。
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ケイゴ
そんなわけで、おじゃましま~す。
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美亜
ダッ……!
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ケイゴ
あっ!
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もう終わりだっ!!!
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美亜
ご、ごめんっ、ケイゴ!
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美亜
出来心というか、なんていうか……!
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ケイゴ
めっちゃカワイイ♡
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美亜
え?
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猫
ニャー。
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しっぽをフリフリとさせながら、さっきの子猫が彼の足にすり寄る。
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テーブルには空になった缶が転がったまま、さっきまでベッドにいたカレがいつの間にかいなくなっていた。
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ケイゴ
……ったく、なんだよ。ひとりでやけ酒かよ。
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美亜
あははは……。
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ケイゴ
きのうはホントゴメンッ!
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ケイゴ
バイトのシフトに急な変更があってさ。
この埋め合わせは必ずするからっ! -
美亜
そ、そんな、別にいいよ。
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手を合わせて謝る彼をよそに、私はもう一人のカレを探していた。
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カレに出会ったのは、きのうの夜────。
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大学生A
乾杯!
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大学生A
で、で、で?
未亜ちゃんはズバリ! 男は顔? 中身? -
美亜
……中身、かな?
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大学生A
でしょー!
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大学生A
じゃあ、今度俺と────……。
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きのう、彼から今日は会えないと連絡をもらった後だった。
大学の同じサークルの先輩に呼び出され、急遽合コンに参加することになった。 -
彼氏がいるのにもかかわらず、話を合わせるのも、笑顔を浮かべるのも、いい加減飽きてきた頃────。
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サクヤ
……もぉう、女なんか好きになるもんか。
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心も体もぼろぼろになった、サクヤくんに出会ってしまった。
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サクヤ
女ってさ、そばにいなきゃ寂しいとかいって、他に男つくっちゃうわけ?
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美亜
さあ、人にもよると思うけど。
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美亜
どうして?
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サクヤ
へへ。
地元に残してきた彼女の話。 -
サクヤ
しかも、新しい男が俺のダチってさ……。
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美亜
え……。
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サクヤ
おっ!
それ、飲まないんならちょーだい。 -
美亜
あっ、私の!
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サクヤ
未亜ちゃんと間接チューだ♡
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美亜
もう飲み過ぎ!
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サクヤ
……ははは。
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サクヤ
こんなの全然。
ぜーんぜん、飲んだうちにならないって。 -
美亜
もう十分、酔っぱらいだよ
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サクヤ
ほら、未亜ちゃんもじゃんじゃん飲んで、嫌なことパーッと忘れちゃおう!
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美亜
私は別に忘れたいことなんてないし。
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サクヤ
じゃ、つきあってよ。
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サクヤ
お願い。
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美亜
…………。
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美亜
少し、だけなら……。
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カレをなぐさめてあげるつもりが、一緒に飲んでいたらなぜか意気投合しちゃって。
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これもまたなぜか、私の家で飲み直そうということになり────。
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サクヤ
ねぇ、未亜ちゃんは彼氏いたりするの?
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美亜
え?
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サクヤ
あ、いるんだ。
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サクヤ
なんで家にあげてくれたの?
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美亜
わ、わかんない……。
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サクヤ
彼氏以外の男、よく家にあげたりするの?
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美亜
……しないよ!
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美亜
そんなことするわけ────……。
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サクヤ
ねえ、キス、していい?
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美亜
…………うん。
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酔った勢いで、そのまま咲弥クンと────。
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猫
ニャー。
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ケイゴ
そうかそうか、おまえミルクが飲みたいのか。
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子猫を抱き上げ、頬をすり寄せる彼。
彼はなにも知らない。 -
ケイゴ
コンビニでミルク買ってくるよ
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美亜
えっ?
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美亜
う、うん。
お願い……。 -
ケイゴ
あっ!
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美亜
な、なに?
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ケイゴ
美亜、なんかリクエストある?
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美亜
えっ……。
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美亜
私は大丈夫。
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彼を笑顔で送り出し、ほっとしている自分が恐ろしい。
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どうしよう……。
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猫
ニャー。
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この猫は一体……。
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美亜
ん?
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あっ!
マンションの前に捨てられてた猫だ! -
美亜
あちゃー、拾ってきちゃったんだ。
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美亜
どうしよう。
うちのマンション、ペット禁止なのに……。 -
サクヤ
なら、うちで飼うよ。
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美亜
え?
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ベランダのカーテンがゆらゆらと揺れる。
サクヤくんが、ひょっこりと顔を出す。 -
美亜
サクヤくん……。
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サクヤ
寒い。
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サクヤ
あたためてよ。
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白い息を吐きながら、私を見るカレ。
まるで、猫みたいに。 -
美亜
うん。
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カレに溺れててもいいよね?
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彼が戻ってくる前まで─────。
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(作者)聖ゆうな
The END××
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