第3話  恋は突然やってくる!

  • 水谷梨子

    部長ぉ、聞いてますかぁ?

  • 仲月部長

    聞いてるよ。

  • 水谷梨子

    ねぇ、部長……。

  • 仲月部長

    はいはい。

  • 仲月部長

    ほら、水谷。
    部屋の前だぞ。

  • 水谷梨子

    部屋?

  • 水谷梨子

    ふふふ、誰の?

  • 仲月部長

    おまえの部屋だよ。

  • 仲月部長

    中まで連れてってやるから、早くカギ出せ。

  • 水谷梨子

    んふふふ。
    もう飲めませんってば……。

  • 仲月部長

    …………水……谷……?

  • ***
  • 水谷梨子

    ────んっ、頭イタ……。

  • 仲月部長

    そりゃ、そうだな。
    あれだけ飲めば。

  • 水谷梨子

    ぶ、部長っ!?

  • 水谷梨子

    え……、
    ということは、ここ、部長の家……。

  • 仲月部長

    ほら、二日酔いの朝にはこれが効く。

  • 水谷梨子

    あ、ありがとうござ……い────……。

  • 言い切る前に、部長の唇がふわりとやさしく、私の額に触れる。

  • 水谷梨子

    !?

  • 仲月部長

    じゃ、先に出るから。

  • 仲月部長

    水谷はゆっくりと来い。
    ちゃんとカギかけてな。

  • ポトンと、私の手のひらに落ちるカギ。

  • 水谷梨子

    は、はいっ!

  • 水谷梨子

    (ど、どうしよう。展開が早すぎて何が何だか……)

  • 水谷梨子

    (坂戸さんと別れてまだ間もないっていうのに、こんな浮かれモードでいいの?)

  • 酔っていたとはいえ、昨晩の出来事は覚えてる。
    私、部長に────……。

  • 仲月部長

    『俺が忘れさせてやるよ』

  • 仲月部長

    『俺のことしか考えられなくなるまで、俺で埋めつくしてやる』

  • 水谷梨子

    とかとかとか!
    思い出すだけでも、恥ずかしいっ。

  • 水谷梨子

    いただきます。

  • 水谷梨子

    ……ぶはっ!

  • 水谷梨子

    す、すっぱ……っ!
    なにこれ、グレープフルーツ!?

  • 溝口課長

    水谷ちゃん、コーヒーくれる?

  • 水谷梨子

    (ちゃん?)

  • 水谷梨子

    課長、どうぞ。

  • 溝口課長

    サンクス、水谷!

  • 水谷梨子

    へっ?

  • 溝口課長

    マーケティング会議が終わったら、会議室の片づけもよろしくな。

  • グー!と親指を立てて、入れ立てのコーヒーを口に運ぶ、溝口課長。

  • 水谷梨子

    (だ、誰っ!?)

  • 第1会議室
  • 水谷梨子

    失礼します。

  • 仲月部長

    あっ!

  • 水谷梨子

    部長、片づけなら私がやります。

  • 仲月部長

    ぷっ!

  • 仲月部長

    前にも似たようなことがあったね。

  • 水谷梨子

    前って、おとといのことじゃないですか。

  • 水谷梨子

    あ、そうそう。
    忘れないうちに、カギをお返ししますね。

  • 仲月部長

    ああ。

  • 水谷梨子

    それにしても、驚きました!
    部長が住んでるマンションって、社員寮の真向いにあるんですね。

  • 水谷梨子

    あの……、
    きのうは酔っていたとはいえ、いろいろとご迷惑をおかけし、本当に本当にすみませんでしたっ!!!

  • 仲月部長

    迷惑?

  • 仲月部長

    むしろ、うれしいよ。
    水谷の弱いとこ、見れて。

  • 水谷梨子

    え?

  • 仲月部長

    全部受け止めるよ。
    もっと、さらけ出して。

  • 水谷梨子

    あ、あの!

  • 水谷梨子

    部長は、私のこと……、
    好き、なんでしょうか?

  • 仲月部長

    好き、だよ。

  • 水谷梨子

    ……!

  • 仲月部長

    顔、真っ赤。

  • 水谷梨子

    だ、だって……。

  • 水谷梨子

    部長みたいなカッコイイ人から、“好き”って言われて、迷惑に思う人なんていません。

  • 仲月部長

    俺のこと、
    “カッコイイ”って思ってくれてるんだ。

  • 水谷梨子

    は、はい。

  • 水谷梨子

    私だけじゃありません。
    女子社員みんな、部長のこと“カッコイイ”って言ってますよ。

  • 仲月部長

    水谷以外の女性には興味ないよ。

  • 水谷梨子

    えっ?

  • 水谷梨子

    こ、困ります……。

  • 仲月部長

    困る?

  • 水谷梨子

    部長のこと、よく知らないし……。
    部長だって、私のこと、まだ知らないですよね。

  • 水谷梨子

    どうして、私なんですか?

  • 仲月部長

    俺はずっと水谷に恋してたんだよ。

  • 水谷梨子

    え?

  • 仲月部長

    2年前、大学時代から付き合っていた彼女からこっぴどくフラれてね。
    そんなとき、水谷に出会ったんだ。

  • 水谷梨子

    わ、私に?

  • 仲月部長

    そう、水谷に。

  • 仲月部長

    声を聞くたび、電話を取り次いでくれるこの子はどんな子なんだろうって、いつも思ってた。

  • 仲月部長

    水谷が出ないときは、今日は休みなのかなとか、風邪でもひいたのかなとか心配したりしてね。

  • 水谷梨子

    ……部……長……。

  • 水谷梨子

    部長、どうしよう、私……。
    すごく、うれしいです……。

  • 仲月部長

    いつの間にか、楽しみになってたんだよ。
    特に何か話すわけでもなかったけど、水谷の声を聞くたびに心が安らいだ。

  • 仲月部長

    それが恋なんだって気づいたのはつい最近で、顔の見えない水谷に俺はずっと恋してたんだ……。

  • 水谷梨子

    部長。

  • 水谷梨子

    部長のこと、好きになってもいいですか?

  • 仲月部長

    きのうから言ってるだろ?

  • 仲月部長

    俺のこと好きになれって。

  • 水谷梨子

    ふふふ。
    そうでしたね。

  • 仲月部長

    だから、
    このカギは水谷にやるよ。

  • 水谷梨子

    え?

  • 仲月部長

    いつでもおいで。

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