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夜の闇に紛れて世間を渡っていくのが忍者のあるべき姿なのだよ、と私に忍道を説いた男がいた。幼かった私はその言葉にはいと頷いて修行に励んだ。タソガレドキの忍軍に相応しい忍者になるために。
しかしながら、あれから十数年。私もその人も明るい太陽の下、姿を隠すこともできず、また、しないでいる。完全に組頭のせいだ。
「クソタレガキの忍軍の方ですかー?」
「くせものさんの部下ですかー?」
「バイトいきません?ねっねっ、いきましょー!」
「ナメさんは好きですかー!」
井桁の制服を着た10歳児がおよそ10人まとわりついている。組頭のせいだ。戦場であった子供が忍術学園の生徒だったせいで我々は週に一度はこの学園に組頭を連れ戻しに来る羽目になった。それにしても彼らは、たまごとはいえこんな怪しい人間に近づいて……警戒心を持て、警戒心を………
天を見上げると尊さんの悔しげな声がどこからか聞こえてきた。土井先生にまた負けたな。
「ほらほら、土井先生がそろそろお戻りになられるよ。こんな怪しい人にくっついてないで授業、授業」
一人一人引き剥がしていくも彼らはわらわらと再び集まってくる。人の心を殺せと習ったはずなのに、扱いに慣れてしまったのが情けないやら。
「なんでわかるんですかー?」
「土井先生のこと、知ってるんですかー?」
「散った散った!早く授業に行きなさい!土井先生も山田先生も困るから!君らの成績不振が一番の悩みのタネなんだから!」
そっと忍たまたちを送り返して、廊下に立つ土井先生に頭を下げる。土井先生も困ったように会釈を返した。
「名前、帰るよ」
「はい」
いつの間にか戻ってきた組頭がそっと手を差し出した。小さいときから変わらない、たまの子供扱いだ。帰るよの言葉の前に「闇の中に」とついたのはきっと私の気のせいではない。たまごたちと戯れても、私たちは命の重さがチリより軽い忍者だった。
「組頭」
「どうかした?」
ぱちりと目を開けるとそこは忍術学園でなかった。夢を見ていたらしかった。
「……夢を見ていたようです」
「最後の夢は楽しかったかい?」
私はそれに答えず、腹の傷に手をやった。止血するのも無駄、失血死するのも時間の問題だろう。
組頭はいつもの座り方をして、床に転がった私を眺めていた。ぱちりぱちりと火の粉の燃える音、怒号、悲鳴。格子の外の喧騒を耳にしても、動こうともしない。
「……諦めなさったのですね」
「まあ、もういいんじゃないかと思ってねぇ。戦もそろそろ終わるべきだろう、あの子たちのためにも」
轟々と音を立てて火の手が迫る。組頭は、タソガレドキの、我々忍者の未来がもうないことを受け入れたようだった。尊さんも、陣さんも誰一人飛び込んで来ない。彼らもまた、組頭の決断に従ってそれぞれの場所でその命の終わりを受け入れたのだろう。
「組頭、わたしは……あの子たちに出会ってから……なぜでしょうか、ずっとずっとこのままのような気がしていました……タソガレドキは領地を得ることに腐心し、忍たまたちはずっと忍たまのまま……なぜでしょうね、そんなことがあるはずもないのに」
「不思議だね、私もずっとそう思っていたよ。伊作くんも、伏木蔵くんも、みんなたまごのままだと思っていた…」
組頭は小さな窓の向こうを見やった。今宵は新月、忍者にとって最も都合の良い日の一つだ。星しか見えない闇の中でも、迫り来る炎の音があっても、組頭には襲撃者の正体が分かっているらしかった。あの子達なら良いと、そうして己の運命を受け入れた。
「彼らは光だ……そんな彼らの未来の礎になるのも、悪くはないだろうさ」
さて、と組頭は滑らかに立ち上がった。包帯まみれの顔、見えない指先、火傷のせいでひきつるように笑む目。
「最後まで付き従ってくれた私の大事な部下だ。最後の死に様くらいは選ばせてあげよう」
ちゃきん、と音がして星明りにクナイや忍び刀や棒手裏剣が鈍く光る。轟々と炎が燃えている。
「いちばん、きれいなやつを」
その答えに組頭は楽しげに笑った。「お前は何にも学ばないね」とため息をつかれる。
「まあ、地獄行きの道で高坂あたりが先に待ってるはずさ。さっさと合流して、雑炊用意して、一緒に待ってておくれ」
「尊さんが、待ちくたびれて怒り出す前に来てくださいね」
「そうだね、すぐに追いつこう」
「……組頭」
「わかってるよ」
組頭は忍び刀を残して全部どこかにしまった。私が先にいってしまったら、組頭はどうするんだろうとふと不安になった。その不安を組頭はちゃんと汲み取ってにやりと笑った。
「大丈夫、地獄への道は一本道だからね。迷い癖のお前でも大丈夫。安心して先に行きなさい」
幼い頃の致命的な方向音痴は、もうとっくに治っていた。他でもない、厳しい厳しい組頭によって。地図なしで見知らぬ地に放り出され、何日もかけて泣きながら詰所まで歩き戻ったこともある。
息をゆっくり吐いて、組頭をみると、にやりと笑んだ目が三日月のようで、この新月の日になんと愉快なものかと笑みがこぼれた。迫る炎を背に、鍛錬の時にさんざん見た、忍刀の構え方で。
ガタンと木戸を乱暴に押し上げる音。背後の侵入者にも組頭はちらとも動揺せず、刀を振る。
こんな時なのになんだかとっても安心した。さすが、タソガレドキ忍軍の長、この人に付き従った私の人生、何一つ間違ってなかった。
そして最後にわたしが見たのは、きらりとひかる鉄と、こんなタイミングで飛び込んできた伊作くんの焦った顔と、それから、炎と。
しかしながら、あれから十数年。私もその人も明るい太陽の下、姿を隠すこともできず、また、しないでいる。完全に組頭のせいだ。
「クソタレガキの忍軍の方ですかー?」
「くせものさんの部下ですかー?」
「バイトいきません?ねっねっ、いきましょー!」
「ナメさんは好きですかー!」
井桁の制服を着た10歳児がおよそ10人まとわりついている。組頭のせいだ。戦場であった子供が忍術学園の生徒だったせいで我々は週に一度はこの学園に組頭を連れ戻しに来る羽目になった。それにしても彼らは、たまごとはいえこんな怪しい人間に近づいて……警戒心を持て、警戒心を………
天を見上げると尊さんの悔しげな声がどこからか聞こえてきた。土井先生にまた負けたな。
「ほらほら、土井先生がそろそろお戻りになられるよ。こんな怪しい人にくっついてないで授業、授業」
一人一人引き剥がしていくも彼らはわらわらと再び集まってくる。人の心を殺せと習ったはずなのに、扱いに慣れてしまったのが情けないやら。
「なんでわかるんですかー?」
「土井先生のこと、知ってるんですかー?」
「散った散った!早く授業に行きなさい!土井先生も山田先生も困るから!君らの成績不振が一番の悩みのタネなんだから!」
そっと忍たまたちを送り返して、廊下に立つ土井先生に頭を下げる。土井先生も困ったように会釈を返した。
「名前、帰るよ」
「はい」
いつの間にか戻ってきた組頭がそっと手を差し出した。小さいときから変わらない、たまの子供扱いだ。帰るよの言葉の前に「闇の中に」とついたのはきっと私の気のせいではない。たまごたちと戯れても、私たちは命の重さがチリより軽い忍者だった。
「組頭」
「どうかした?」
ぱちりと目を開けるとそこは忍術学園でなかった。夢を見ていたらしかった。
「……夢を見ていたようです」
「最後の夢は楽しかったかい?」
私はそれに答えず、腹の傷に手をやった。止血するのも無駄、失血死するのも時間の問題だろう。
組頭はいつもの座り方をして、床に転がった私を眺めていた。ぱちりぱちりと火の粉の燃える音、怒号、悲鳴。格子の外の喧騒を耳にしても、動こうともしない。
「……諦めなさったのですね」
「まあ、もういいんじゃないかと思ってねぇ。戦もそろそろ終わるべきだろう、あの子たちのためにも」
轟々と音を立てて火の手が迫る。組頭は、タソガレドキの、我々忍者の未来がもうないことを受け入れたようだった。尊さんも、陣さんも誰一人飛び込んで来ない。彼らもまた、組頭の決断に従ってそれぞれの場所でその命の終わりを受け入れたのだろう。
「組頭、わたしは……あの子たちに出会ってから……なぜでしょうか、ずっとずっとこのままのような気がしていました……タソガレドキは領地を得ることに腐心し、忍たまたちはずっと忍たまのまま……なぜでしょうね、そんなことがあるはずもないのに」
「不思議だね、私もずっとそう思っていたよ。伊作くんも、伏木蔵くんも、みんなたまごのままだと思っていた…」
組頭は小さな窓の向こうを見やった。今宵は新月、忍者にとって最も都合の良い日の一つだ。星しか見えない闇の中でも、迫り来る炎の音があっても、組頭には襲撃者の正体が分かっているらしかった。あの子達なら良いと、そうして己の運命を受け入れた。
「彼らは光だ……そんな彼らの未来の礎になるのも、悪くはないだろうさ」
さて、と組頭は滑らかに立ち上がった。包帯まみれの顔、見えない指先、火傷のせいでひきつるように笑む目。
「最後まで付き従ってくれた私の大事な部下だ。最後の死に様くらいは選ばせてあげよう」
ちゃきん、と音がして星明りにクナイや忍び刀や棒手裏剣が鈍く光る。轟々と炎が燃えている。
「いちばん、きれいなやつを」
その答えに組頭は楽しげに笑った。「お前は何にも学ばないね」とため息をつかれる。
「まあ、地獄行きの道で高坂あたりが先に待ってるはずさ。さっさと合流して、雑炊用意して、一緒に待ってておくれ」
「尊さんが、待ちくたびれて怒り出す前に来てくださいね」
「そうだね、すぐに追いつこう」
「……組頭」
「わかってるよ」
組頭は忍び刀を残して全部どこかにしまった。私が先にいってしまったら、組頭はどうするんだろうとふと不安になった。その不安を組頭はちゃんと汲み取ってにやりと笑った。
「大丈夫、地獄への道は一本道だからね。迷い癖のお前でも大丈夫。安心して先に行きなさい」
幼い頃の致命的な方向音痴は、もうとっくに治っていた。他でもない、厳しい厳しい組頭によって。地図なしで見知らぬ地に放り出され、何日もかけて泣きながら詰所まで歩き戻ったこともある。
息をゆっくり吐いて、組頭をみると、にやりと笑んだ目が三日月のようで、この新月の日になんと愉快なものかと笑みがこぼれた。迫る炎を背に、鍛錬の時にさんざん見た、忍刀の構え方で。
ガタンと木戸を乱暴に押し上げる音。背後の侵入者にも組頭はちらとも動揺せず、刀を振る。
こんな時なのになんだかとっても安心した。さすが、タソガレドキ忍軍の長、この人に付き従った私の人生、何一つ間違ってなかった。
そして最後にわたしが見たのは、きらりとひかる鉄と、こんなタイミングで飛び込んできた伊作くんの焦った顔と、それから、炎と。
