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「まだ怒ってるの?」
鳴に夜ランに無理やり連れ出されて私は公園のベンチで足踏みしながら鳴がぐるっと走って帰ってくるのを待っていた。ひとしきり走って鳴はストレッチをしたり肩を回したりする間もぶすくれた顔で黙っていた。
公園に来るなり鳴が投げ捨てたベンチコートはいいひざ掛けになった。鳴はじとっと私をみて何も言わないまま伸脚、それからベンチに近寄った。
「……怒ってるに決まってるでしょ」
「うわ、めんどくさ!鳴がいらないって言ったんだよプレゼントもさあ」
「は!?それでも用意するのが普通じゃない!?まじでありえないから!」
鳴は地団駄踏んで怒って、それからはあ~~ってわざとらしいため息をついて隣に座った。ベンチコートを渡すと横向きにして、2人の膝にかかるようにしてくれた。
鳴と喧嘩したのはたしか、クリスマスの後。プレゼントを野球部の皆に堂々と自慢して当然の結果としてカルロスたちに普通にいじられ(ここまでは割と普通だから全然怒ってない。彼女なしに彼女いいでしょと言いまくる鳴は普通にウザいと思うし)それを私のところに持ち帰ってきて喧嘩になった。喧嘩の詳細はあまりに思い出してもあほらしいので省く。基本的にはわあわあ鳴が喚いていた。その間に「誕生日プレゼントなんていらないし」っていう言葉が出たのだ。めんどくさい性格の鳴は年末に実家に戻って年明け早々戻ってきてまだぐちぐち切れている。
「いい加減機嫌なおしなよ。樹も困ってるでしょ」
「は?なにそれ関係ないでしょ」
「あるよ。私樹の先輩だもん」
「名前は、」
ぐいっと肩を掴まれて顔をしかめた。左側に座っている鳴が、左手でものを掴むと握力がすごい。左腕のピッチャー、小さな白球を毎日何百と握る指の強さは、私からしたら未知の世界みたいな。
「おれの、彼女でしょ」
「……うん」
海とも宝石とも言いがたい青い目が私を睨むみたいに、縋るみたいに見ていた。日々マウンドでバッターを圧倒してる人の本気の目は怖い。私は困ってうん、と頷いた。
「名前は俺の彼女なんだから、甘やかしてくれてもいいでしょ」
「いや、鳴だいぶ周りから甘やかされてるからこれ以上私が甘やかす必要がないんだってば……」
呆れて鳴を見るとつーんと口を尖らして聞こえないふりをしている。雅さんも周りの同級生も甘いし樹は強く出れないだけだけど結局甘い。才能のある末っ子だから甘やかされて当然だと思ってるし、貪欲だからまだ足りない足りないって喚いている。
「はあ……鳴、私飲み物買うけど何がいい?」
「ココア。バンホーテンのやつね」
はいはい、と立ち上がってすぐそこの自販機に小銭を入れる。ランニングでよく来る公園だから鳴は飲み物も把握してる。私は甘いものはあんまりだからあったかいお茶のペットボトルを買った。
「はい、鳴誕生日プレゼントね」
「しょうがないな~~」
散々アイスやら何やらもらったのにまだ甘いものを飲めるらしい。嬉々として左手を伸ばす鳴に待ったをかけた。
「熱いから、気をつけてね」
指先をやけどでもして感覚が変わってしまったらこれ以上ない損失だから、ポケットのハンドタオルを巻いてプルタブを開けてから鳴に渡した。
「結局名前が甘やかしてんじゃん」
「……いいの、私鳴のファンだもん。鳴が野球強いから鳴のこと好きなんだもん」
「何それ、」
鳴が笑ってココアに口をつけた。缶の割にぬるい、愚痴ってそれでもふた口。
「じゃあ絶対負けられないじゃん」
「うん、鳴は負けないでしょ」
試合で得点の差はあったとしても、もう鳴は折れたりしないでしょと言うと鳴は黙った。
今見えてる星が見えなくなったら春になって、そしたらすぐに夏になって、鳴はまた必ず甲子園に行く。もう鳴の気持ちが折れるところが見えないの。鳴は黙ってココアを飲み干し、「……そうならないように頑張ってるんだよ」と言った。あの熱いマウンドで、帽子のつばから覗くあの夏しか会えない青い目を私は何より待っている。
