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「それで……いつになったら歌唱部に来てくれるんだい?」
「歌唱部に入部する予定はありませんので」
「相変わらずつれない人だね」
「はあ」
どうして私は、本番前の鑑香先輩に迫られているんだろう。メガネまでかけていつもと雰囲気が違って心臓に悪い。壁に押し付けられて逆光なのとメガネのせいで表情が読めなくていつもの三割増しで怖い。
「お、名前!美化部に来るなら助けてやるけどどうする?」
「それか羚さんが来るのを待つか。どっちがいい?」
「どっちも結構です!」
黄色の衣装の士狼と紫の駆。ふわふわもこもこのついた衣装は可愛らしいけどポイント以外は黒でまとめてかっこ良く見せるのも忘れてない。いつもかっこよさ重視だもんね、と思っていたらウインクが飛ばされた。今日は前々から歌う予定だったデュエット曲が初披露になるためか生徒たちからの前評判は高く、2人ともやる気が入っている。
美化部に入る気がないと見るや否や、2人は笑いながら去り。それを追いかけるように一年コンビの一兎くんとみのりくんが歌いながら通過した。楽しそうに歌っている様子はとてもかわいいのだけど「先輩、迫られてるんですかぁ?!」「名前先輩、がんばれ~」この2人に限っては助ける気すら、ゼロ。一兎くんの赤毛がゆらゆら揺れて可愛らしい。本番が近くて呼ばれてるというのもあるんだろうけど2人はさっさと離れていった。アイラヴユウ!だの2人で楽しそうに歌っている姿にちょっと癒された。
「名前、こんなところにいたのか」
「麻布先輩!助けてくださいー!」
「鑑香殿、悪いが一時的に名前を解放してくれないか?衣装の仕上げがある」
なら仕方ないねと鑑香先輩は私を解放した。
「麻布先輩、助かりました」
「いや、私こそ無理を言って用意させてすまない」
麻布先輩の衣装は着物に袴とロングジャケット、それから赤い刀。これだけでも十分なようだが最後に桜の枝を腰のベルトに挿して完成する。先輩の歌う曲にちなんで桜前線を意識して、五分咲きの桜を花屋に用意してもらったのだ。ありがとう、と礼を言われて会釈を返す。出番があるから、と麻布先輩が立ち去るのに合わせて逃げようとするもがっちり鑑香先輩に掴まれてそれは叶わず。助けを求めようにも麻布先輩はあっという間に舞台袖へ。振り出しに戻った。
「名前先輩、本当に捕まってるんですね」
「担ぎ上げて救出してもいいんですけど、美化部に入るっていう条件付きなんですよ」
ライオンらしい衣装の五本松くんと、鹿?の霧山くん。助けを求めようにも求められない。
「霧山くん、かわいいね。鹿なの?ねえねえ困ってる先輩を今日だけは無償で助けてくれないかな?」
「すいません、部長たっての指示なので!」
ちなみに鹿じゃなくてガゼルです!と爽やかなお返事。恐るべしイチジョウダニ教。部長に対する信仰はあつい。
「あーーー!丸目先輩!!助けてください!ヘルプミー!」
美化部1年ズを諦めたところに救世主。丸目先輩なら信頼できるし、合気道やってるから鑑香先輩なんて秒殺できるのでは?と期待が募る。
「あれ?水月くんと名前ちゃん?お邪魔しちゃったかな」
「やあ、丸目くん。往来で悪いね」
「丸目先輩ご覧の通り捕まっちゃったんですもう先輩しか頼れませんお願いですから助けてくださいなんなら次の推しイベ代走しますから!」
「えっ、困ったなあ。でも僕は出番があるし……」
実は今も緊張しちゃって歩き回っていたんだ、と苦笑して丸目先輩はパラパラとトランプを操って見せた。緊張してるといいつつも舞台に立てば億万長者を夢見る人々を弄ぶ歌を堂々と歌い上げるのだろうから本当に尊敬してしまう。
「ってことで、ゴメンね!」
「あっ……」
推しイベのことはまた今度よろしくね!と頼むのも忘れないのはある意味さすがだ。走り去る先輩に運営担当の女子生徒が歓声をあげた。王子様ならとらわれている哀れな後輩の1人くらい助けてほしかった。
「さて、そろそろ観念したらどうかな」
「絶対嫌、です!私は今の部活で十分満足してるんで」
「おや苗字。あまりに来るのが遅いから探しに来てしまったよ」
「あっ!水月先輩何してるんですか!」
「牧先生、光司!」
「水月、ついに後輩にまで手ぇだしたのかよ」
「燎、水月先輩のことだから何かお考えがあるのだろう」
牧先生と歌唱部トリオが鑑香先輩につられてやってきた。
「先輩、仕事だけはさせてください!」
今回の私の仕事はお花の提供。麻布先輩のお花やホールを飾る花の手配。それから今朝突然連絡のあった牧先生の髪を飾る花。先生はもともと自分で用意していたらしいがいざ髪をセットしたらイマイチ足りなかったらしく追加を頼まれたのだ。
「先生、屈むか座るかしてください」
「はいはい、綺麗に頼むよ」
綺麗な銀髪にぐるっとツタを巻いてそれから空いた部分を埋めるようにピンをつけたオレンジの花を差し込む。バックスタイルも綺麗に見えるようにパールやら花を差し込んで完成。残りの花は手にもつなりなんなりしていただくことにする。
先生の曲は音楽祭の事前披露でも聞いたけどダークで嘘にまみれた女の子がモチーフらしい。先生自身の魅力をもってすれば華やかな舞台になることは間違いないけど髪を飾る花で少しでも鮮やかなものになればいいなと思う。
「はい、完成です」
「すごい、あっという間だったね」
「ありがとう、光司。じゃ、私牧先生のヘアセット崩れないか心配だし、スプレーしたいし、これで……」
「逃がさないよ」
すかさず鑑香先輩の手が伸びる。牧先生は用事は済んだからと笑いながら控え室に戻った。助けてくれても良かったのに、あの人は面白いかどうかで物を判断するところがある。
「で、水月。苗字捕まえて何してたんだ?」
「歌唱部に勧誘を、ちょっとね」
「ちょっとなんてものじゃなかったですけどね」
歌唱部に囲まれて、今度こそ本当に詰んだ。ちなみに鑑香先輩に詰め寄られるより、光司に「歌唱部入らない?楽しいよ!」とか「名前ちゃんと一緒に歌えたらきっと楽しいと思う」とか笑顔で言われる方がグラグラくる。
「いい加減諦めたらどうだ?部活動ポイントもそこそこ稼いでいるし悪くないと思うが。なあ、燎?」
「ソファもあるし歌ってりゃあいいからある意味楽だぞ。俺も水月にしつこく勧誘されたクチだけどよ、面倒くせえならさっさと折れた方がいいと思うぜ?」
「元はと言えば葛野大路が鑑香先輩に私のこと話したからでしょ!?」
「僕は歌唱部で会計をしてるのだから、話の中で計算が異様に早いクラスメイトの話が出てもおかしくはないだろう」
葛野大路はブルーのラインが綺麗なシルクハットを嫌味ったらしくかぶり直して見せた。こういうのが様になるから美形は嫌だ。
「う~っやだ!絶対歌唱部なんか入んないから!私は今のままで十分なの!」
「名前ちゃん、歌唱部、嫌なの……?」
「うっ光司、あのね、そういうわけじゃなくてね」
光司のフェイスペイントが涙型だからか迫られると罪悪感がひどい。泣かせたいわけじゃないし泣きたいのはこっちの方だ。
「おい歌唱部に文句つけんのかよ」
「そういうわけじゃないですってば!」
色違いのサーカスをイメージした衣装の3人詰め寄られ私は死にそうになった。とくに五月女先輩が小道具のムチをパシパシふるってくるのが怖い。こんなの恐喝だぞ。
憎らしいのは元凶たる鑑香先輩が何も言わずにこにこしてることだ。っていうか相方の東本先輩の姿が見当たらないな。頻繁に悪いことを企む幼馴染の2人組らしく鑑香先輩と東本先輩が歌う今回の曲は共犯がテーマだ。音楽祭での事前披露ではもちろん、それから普段かけないメガネに大人っぽい服装には事前の衣装公開の時点で生徒たちが悲鳴をあげていた。
「桂士?人混みはイヤだって言って本番直前まで控え室に篭ってるよ」
だからなんで貴方は人の考えが読めるんだ。人嫌いで引きこもり、鑑香先輩としか話そうとしない東本先輩だけど音楽祭で引きずり出されて以来ちょくちょく表に顔を出すようになった。今日は初の歌唱部勢揃いで鑑香先輩もやる気が入ってるらしい。やる気ついでに新入部員の勧誘はやめてほしい。
「水月?何をしてるんだ」
「羚」
「3人は出番が早いんじゃないのか。早く行った方がいい」
そうだった!と慌てて去っていく3人。しかし一難去ってまた一難だ。
いつもと変わりなくキビキビとしたイチジョウダニ先輩は美化部の後輩たちの応援に来たのだろう、制服のままだった。前回のデュエットコンテストではやる気の入った貴族衣装で鑑香先輩とデュエットを披露していたが、今回は後輩たちにポイント争奪戦は任せているらしい。
「ところで苗字、美化部の入部届けがまだ提出されていないようだが」
「私、美化部にも入る気ないんで!」
なぜ、と理解しがたい感情を前面に押し出してイチジョウダニ先輩は眉をひそめた。美人が怒ると怖い。とはよく言われるが本当に怖い。本気で私が美化部に入るものだと思っているから、部長信者の後輩たちに全力で勧誘するよう指示を出しているのも怖い。
「お二人が揃っていて丁度いいのでお伝えしますけど、私は数学部でパズル解いて入賞したりみんなでコンテストに向けて問題解きまくったり解方の議論を交わすだけの生活が好きなんです!……そりゃあ弱小部で、ポイントもまだまだだから予算も少ないですけど、次こそ大会で優勝してスライヴセントラル代表で国際大会でる予定なので私が数学部やめるわけにはいかないんです!兼部も無理です!」
「その数学を生かして、学期末にポイント集計とか会計を手伝ってくれるだけでもいいんだけどね?」
「歌唱部には葛野大路がいるでしょう!葛野大路は優秀だからわたしなんていらないですよ!」
「そうか……」
困ったね、と言わんばかりの鑑香先輩と真顔で考え込むイチジョウダニ先輩の姿は美形とだけあって思わず屈しそうになったけど私は諦めるわけにはいかないのだ。私がいなくなったら数学部のただでさえ少ない部員が1人減ってしまうし変わりの1人を見つけるのは変人揃いの数学部ではめちゃめちゃ難しい。だから、無理、それ以上の理由はちょっと出てこないけど……
「個人的に、お前に興味がある。美化部に入らないというのならそれでいい。かわりに私と付き合わないか?」
「は?」
「羚、そういう抜け駆けはなしだよ」
「悪いがいくら水月とはいえ、これは譲れない。すまない」
「先に目をつけていたのは私だけど?」
「あとさきというのはこの場においてあまり関係ないだろう。選ぶのは彼女だ」
「ちょっと待ってください、話が飛躍しすぎじゃありませんか」
「美化部の入部届けを出すのが先か、婚姻届けを出すのが先か……まあいずれ両方出すことになるだろうからどちらが先でも問題はないだろう?」
「そういうことなら私はどうだろう?兄とやってる会社の方も順調だし苦労はさせないよ?学園の教師に親類ができるというのは君にとってもマイナスじゃないだろうし」
「あの、私の話聞こえてます!?」
「諦めなよ、歌唱部の入部を先延ばしにした苗字が悪いんだからさ」
「って東本先輩、見てたなら止めてください!」
「嫌だよ……面倒くさい。キミが水月の手を取るなら話は別だけど」
あんまり巻き込まないでよ、人と関わるのは好きじゃないからさと東本先輩は嫌そうに私から離れて舞台袖へ。
「水月、先に行ってるよ」
「彼女を頷かせたら私も行くよ」
「水月、そんなにすぐに話がまとまるとは思えないが」
「だから先輩方聞いてます!?」
場内アナウンスが流れ歌唱コンテストが始まってしまった。水月先輩の出番までに話はつくのだろうか。天翔学園歌唱コンテスト、開幕します!明るい司会の声に反して私の気持ちは暗くなるばかりだ。
「歌唱部に入部する予定はありませんので」
「相変わらずつれない人だね」
「はあ」
どうして私は、本番前の鑑香先輩に迫られているんだろう。メガネまでかけていつもと雰囲気が違って心臓に悪い。壁に押し付けられて逆光なのとメガネのせいで表情が読めなくていつもの三割増しで怖い。
「お、名前!美化部に来るなら助けてやるけどどうする?」
「それか羚さんが来るのを待つか。どっちがいい?」
「どっちも結構です!」
黄色の衣装の士狼と紫の駆。ふわふわもこもこのついた衣装は可愛らしいけどポイント以外は黒でまとめてかっこ良く見せるのも忘れてない。いつもかっこよさ重視だもんね、と思っていたらウインクが飛ばされた。今日は前々から歌う予定だったデュエット曲が初披露になるためか生徒たちからの前評判は高く、2人ともやる気が入っている。
美化部に入る気がないと見るや否や、2人は笑いながら去り。それを追いかけるように一年コンビの一兎くんとみのりくんが歌いながら通過した。楽しそうに歌っている様子はとてもかわいいのだけど「先輩、迫られてるんですかぁ?!」「名前先輩、がんばれ~」この2人に限っては助ける気すら、ゼロ。一兎くんの赤毛がゆらゆら揺れて可愛らしい。本番が近くて呼ばれてるというのもあるんだろうけど2人はさっさと離れていった。アイラヴユウ!だの2人で楽しそうに歌っている姿にちょっと癒された。
「名前、こんなところにいたのか」
「麻布先輩!助けてくださいー!」
「鑑香殿、悪いが一時的に名前を解放してくれないか?衣装の仕上げがある」
なら仕方ないねと鑑香先輩は私を解放した。
「麻布先輩、助かりました」
「いや、私こそ無理を言って用意させてすまない」
麻布先輩の衣装は着物に袴とロングジャケット、それから赤い刀。これだけでも十分なようだが最後に桜の枝を腰のベルトに挿して完成する。先輩の歌う曲にちなんで桜前線を意識して、五分咲きの桜を花屋に用意してもらったのだ。ありがとう、と礼を言われて会釈を返す。出番があるから、と麻布先輩が立ち去るのに合わせて逃げようとするもがっちり鑑香先輩に掴まれてそれは叶わず。助けを求めようにも麻布先輩はあっという間に舞台袖へ。振り出しに戻った。
「名前先輩、本当に捕まってるんですね」
「担ぎ上げて救出してもいいんですけど、美化部に入るっていう条件付きなんですよ」
ライオンらしい衣装の五本松くんと、鹿?の霧山くん。助けを求めようにも求められない。
「霧山くん、かわいいね。鹿なの?ねえねえ困ってる先輩を今日だけは無償で助けてくれないかな?」
「すいません、部長たっての指示なので!」
ちなみに鹿じゃなくてガゼルです!と爽やかなお返事。恐るべしイチジョウダニ教。部長に対する信仰はあつい。
「あーーー!丸目先輩!!助けてください!ヘルプミー!」
美化部1年ズを諦めたところに救世主。丸目先輩なら信頼できるし、合気道やってるから鑑香先輩なんて秒殺できるのでは?と期待が募る。
「あれ?水月くんと名前ちゃん?お邪魔しちゃったかな」
「やあ、丸目くん。往来で悪いね」
「丸目先輩ご覧の通り捕まっちゃったんですもう先輩しか頼れませんお願いですから助けてくださいなんなら次の推しイベ代走しますから!」
「えっ、困ったなあ。でも僕は出番があるし……」
実は今も緊張しちゃって歩き回っていたんだ、と苦笑して丸目先輩はパラパラとトランプを操って見せた。緊張してるといいつつも舞台に立てば億万長者を夢見る人々を弄ぶ歌を堂々と歌い上げるのだろうから本当に尊敬してしまう。
「ってことで、ゴメンね!」
「あっ……」
推しイベのことはまた今度よろしくね!と頼むのも忘れないのはある意味さすがだ。走り去る先輩に運営担当の女子生徒が歓声をあげた。王子様ならとらわれている哀れな後輩の1人くらい助けてほしかった。
「さて、そろそろ観念したらどうかな」
「絶対嫌、です!私は今の部活で十分満足してるんで」
「おや苗字。あまりに来るのが遅いから探しに来てしまったよ」
「あっ!水月先輩何してるんですか!」
「牧先生、光司!」
「水月、ついに後輩にまで手ぇだしたのかよ」
「燎、水月先輩のことだから何かお考えがあるのだろう」
牧先生と歌唱部トリオが鑑香先輩につられてやってきた。
「先輩、仕事だけはさせてください!」
今回の私の仕事はお花の提供。麻布先輩のお花やホールを飾る花の手配。それから今朝突然連絡のあった牧先生の髪を飾る花。先生はもともと自分で用意していたらしいがいざ髪をセットしたらイマイチ足りなかったらしく追加を頼まれたのだ。
「先生、屈むか座るかしてください」
「はいはい、綺麗に頼むよ」
綺麗な銀髪にぐるっとツタを巻いてそれから空いた部分を埋めるようにピンをつけたオレンジの花を差し込む。バックスタイルも綺麗に見えるようにパールやら花を差し込んで完成。残りの花は手にもつなりなんなりしていただくことにする。
先生の曲は音楽祭の事前披露でも聞いたけどダークで嘘にまみれた女の子がモチーフらしい。先生自身の魅力をもってすれば華やかな舞台になることは間違いないけど髪を飾る花で少しでも鮮やかなものになればいいなと思う。
「はい、完成です」
「すごい、あっという間だったね」
「ありがとう、光司。じゃ、私牧先生のヘアセット崩れないか心配だし、スプレーしたいし、これで……」
「逃がさないよ」
すかさず鑑香先輩の手が伸びる。牧先生は用事は済んだからと笑いながら控え室に戻った。助けてくれても良かったのに、あの人は面白いかどうかで物を判断するところがある。
「で、水月。苗字捕まえて何してたんだ?」
「歌唱部に勧誘を、ちょっとね」
「ちょっとなんてものじゃなかったですけどね」
歌唱部に囲まれて、今度こそ本当に詰んだ。ちなみに鑑香先輩に詰め寄られるより、光司に「歌唱部入らない?楽しいよ!」とか「名前ちゃんと一緒に歌えたらきっと楽しいと思う」とか笑顔で言われる方がグラグラくる。
「いい加減諦めたらどうだ?部活動ポイントもそこそこ稼いでいるし悪くないと思うが。なあ、燎?」
「ソファもあるし歌ってりゃあいいからある意味楽だぞ。俺も水月にしつこく勧誘されたクチだけどよ、面倒くせえならさっさと折れた方がいいと思うぜ?」
「元はと言えば葛野大路が鑑香先輩に私のこと話したからでしょ!?」
「僕は歌唱部で会計をしてるのだから、話の中で計算が異様に早いクラスメイトの話が出てもおかしくはないだろう」
葛野大路はブルーのラインが綺麗なシルクハットを嫌味ったらしくかぶり直して見せた。こういうのが様になるから美形は嫌だ。
「う~っやだ!絶対歌唱部なんか入んないから!私は今のままで十分なの!」
「名前ちゃん、歌唱部、嫌なの……?」
「うっ光司、あのね、そういうわけじゃなくてね」
光司のフェイスペイントが涙型だからか迫られると罪悪感がひどい。泣かせたいわけじゃないし泣きたいのはこっちの方だ。
「おい歌唱部に文句つけんのかよ」
「そういうわけじゃないですってば!」
色違いのサーカスをイメージした衣装の3人詰め寄られ私は死にそうになった。とくに五月女先輩が小道具のムチをパシパシふるってくるのが怖い。こんなの恐喝だぞ。
憎らしいのは元凶たる鑑香先輩が何も言わずにこにこしてることだ。っていうか相方の東本先輩の姿が見当たらないな。頻繁に悪いことを企む幼馴染の2人組らしく鑑香先輩と東本先輩が歌う今回の曲は共犯がテーマだ。音楽祭での事前披露ではもちろん、それから普段かけないメガネに大人っぽい服装には事前の衣装公開の時点で生徒たちが悲鳴をあげていた。
「桂士?人混みはイヤだって言って本番直前まで控え室に篭ってるよ」
だからなんで貴方は人の考えが読めるんだ。人嫌いで引きこもり、鑑香先輩としか話そうとしない東本先輩だけど音楽祭で引きずり出されて以来ちょくちょく表に顔を出すようになった。今日は初の歌唱部勢揃いで鑑香先輩もやる気が入ってるらしい。やる気ついでに新入部員の勧誘はやめてほしい。
「水月?何をしてるんだ」
「羚」
「3人は出番が早いんじゃないのか。早く行った方がいい」
そうだった!と慌てて去っていく3人。しかし一難去ってまた一難だ。
いつもと変わりなくキビキビとしたイチジョウダニ先輩は美化部の後輩たちの応援に来たのだろう、制服のままだった。前回のデュエットコンテストではやる気の入った貴族衣装で鑑香先輩とデュエットを披露していたが、今回は後輩たちにポイント争奪戦は任せているらしい。
「ところで苗字、美化部の入部届けがまだ提出されていないようだが」
「私、美化部にも入る気ないんで!」
なぜ、と理解しがたい感情を前面に押し出してイチジョウダニ先輩は眉をひそめた。美人が怒ると怖い。とはよく言われるが本当に怖い。本気で私が美化部に入るものだと思っているから、部長信者の後輩たちに全力で勧誘するよう指示を出しているのも怖い。
「お二人が揃っていて丁度いいのでお伝えしますけど、私は数学部でパズル解いて入賞したりみんなでコンテストに向けて問題解きまくったり解方の議論を交わすだけの生活が好きなんです!……そりゃあ弱小部で、ポイントもまだまだだから予算も少ないですけど、次こそ大会で優勝してスライヴセントラル代表で国際大会でる予定なので私が数学部やめるわけにはいかないんです!兼部も無理です!」
「その数学を生かして、学期末にポイント集計とか会計を手伝ってくれるだけでもいいんだけどね?」
「歌唱部には葛野大路がいるでしょう!葛野大路は優秀だからわたしなんていらないですよ!」
「そうか……」
困ったね、と言わんばかりの鑑香先輩と真顔で考え込むイチジョウダニ先輩の姿は美形とだけあって思わず屈しそうになったけど私は諦めるわけにはいかないのだ。私がいなくなったら数学部のただでさえ少ない部員が1人減ってしまうし変わりの1人を見つけるのは変人揃いの数学部ではめちゃめちゃ難しい。だから、無理、それ以上の理由はちょっと出てこないけど……
「個人的に、お前に興味がある。美化部に入らないというのならそれでいい。かわりに私と付き合わないか?」
「は?」
「羚、そういう抜け駆けはなしだよ」
「悪いがいくら水月とはいえ、これは譲れない。すまない」
「先に目をつけていたのは私だけど?」
「あとさきというのはこの場においてあまり関係ないだろう。選ぶのは彼女だ」
「ちょっと待ってください、話が飛躍しすぎじゃありませんか」
「美化部の入部届けを出すのが先か、婚姻届けを出すのが先か……まあいずれ両方出すことになるだろうからどちらが先でも問題はないだろう?」
「そういうことなら私はどうだろう?兄とやってる会社の方も順調だし苦労はさせないよ?学園の教師に親類ができるというのは君にとってもマイナスじゃないだろうし」
「あの、私の話聞こえてます!?」
「諦めなよ、歌唱部の入部を先延ばしにした苗字が悪いんだからさ」
「って東本先輩、見てたなら止めてください!」
「嫌だよ……面倒くさい。キミが水月の手を取るなら話は別だけど」
あんまり巻き込まないでよ、人と関わるのは好きじゃないからさと東本先輩は嫌そうに私から離れて舞台袖へ。
「水月、先に行ってるよ」
「彼女を頷かせたら私も行くよ」
「水月、そんなにすぐに話がまとまるとは思えないが」
「だから先輩方聞いてます!?」
場内アナウンスが流れ歌唱コンテストが始まってしまった。水月先輩の出番までに話はつくのだろうか。天翔学園歌唱コンテスト、開幕します!明るい司会の声に反して私の気持ちは暗くなるばかりだ。
