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「ああっ!」
「何?!どうしたの」
「イヤリング落とした!」
部活もない、授業も早く終わった放課後。陽太くんと久しぶりに放課後にお買い物をしてカフェに入った。このカフェはかわいいラテアートが人気で陽太くんはメンたんとモンたんのラテアートを喜んで写真に収めた。ラテアート、初めて見たよってにこにこ笑顔を見せてくれるから、私もとっても嬉しくてどきどきしてしまう。
そんな中、ふと触った右の耳についてたはずの飾りがなくて、私は素っ頓狂な声をあげて陽太くんを驚かせてしまった。なくしたのが陽太くんにかわいいねって褒めてもらった小さい石だったからショックも大きい。
天翔学園は割と校則がゆるくてヤンキーみたいな格好の後輩もときたま見かけるし(同じ歌唱部の先輩である燎さんもヤンキーみたいな見た目だし)、水泳部の一年生の一兎くんみたいにかわいい顔してピアスをあけてる子もいる。士狼くんみたいにアクセサリーいっぱい付けてても指導はないし、芦原くんみたいにファッションリーダーとして着こなしに熱心な子もいる。反対に学園の王子様である丸目千熊先輩とか、麻布汐先輩みたいにきっちりかっちり制服を着込んでる人もいる。
陽太くんはあんまり派手なのは好きじゃないみたいだから、私は小さいイヤリングとか華奢なペンダントとかをよくつける。だから毎日付け替えるために色々アクセサリーを持ってるんだけど、今日つけてきたやつは特別だった。陽太くんにも褒められた小さいけど綺麗なオレンジのイヤリング。光の角度でいろんな色を見せるそれは、前に陽太くんがかわいいねって言ってくれたから陽太くんと出かけるときとか特別な時しかつけてない。
「やだあ、どうしよう……もともとイヤリングすぐ落とすし無くすからピアスにしようと思ってたんだけど、これは替えどきだよねえ」
「え?!名前ちゃん、耳に穴あけるの?!」
「うん……割と真剣に検討中」
「ぜ、絶対痛いよ……?」
「でも士狼くんがバチンッてなるのは一瞬って言ってたし今日みたいによく落としちゃうから……」
陽太くんはびっくりした顔で両手をぎゅっと握った。士狼くんの耳を思い出したのかも。士狼くん耳に複数穴空いてるし。
「陽太くん、ピアスあけるの反対?」
「は、反対ってわけじゃないけど……」
眉を下げて困った顔をするので私も困ってしまう。陽太くんはうーんと悩ましげな顔をしているので、沈黙を守るために私はカフェラテを飲み干した。もう泡しかないけど私の方はネコの絵柄だった。
「名前ちゃん、」
「うん。賛成派になった?」
「いや、賛成はできないけど……」
なんで嫌とか上手く言えないんだけど、と言い淀みながらも陽太くんは私の顔を見た。正確にはなにも付いてない右耳を。
「今から一緒に落し物で届いてないか探しに戻らない?それから、落ちにくいやつお店で見てもらおう?」
「やっぱり反対なんじゃない」
「うう……そうなんだけど……でもね、絶対痛いよ!名前ちゃんが痛い思いするの嫌だし……名前ちゃんは痛い思いしてもいいの?」
と陽太くんは困った顔をして私を問い詰める。困った。歌唱部は陽太くんのお願いとか困った顔に弱い。私も例外ではない。
「痛いのは確かにいやだけど……」
「でしょ?!」
そうと決まったら、探しに行こう!と陽太くんはカバンを持って立ち上がった。
「ごめんね、折角お買い物しようってなったのにつき合わせちゃった……」
陽太くんと手をつないで商店街を歩く。恋人繋ぎじゃないけど、ショーウィンドウにつないだ手がうつって気恥ずかしい。学校の子に見られたら、どうしよう。私たちは同じ部活で仲はいいけど付き合ってることはあんまり大々的に言ってない。
「ううん、僕が言い出したことだし、気にしないで。それに、名前ちゃんといれば、どこだって僕は楽しいよ」
にこにこ笑顔を崩さないで言うから本気だってわかって思わず目をそらす。絶対、何にも思ってない。深い意味とか喜ばせたいとかじゃなくて陽太くんは心からそう思ってる。陽太くんは優しくて素直だから。
「あ、名前ちゃん!あれ!」
ショーウィンドウの外、突き出したところにきらっと光るオレンジ色。陽太くんは迷わずそれを手にとって「耳見せて」と私の肩を引き寄せた。
そっと手が触れて、不慣れな手が耳朶に触れる。くすぐったくて身動きすると「動かないで」って真剣に言われるから私は顔を俯けて硬直することしかできない。今、私たち往来でめちゃくちゃ恥ずかしいことしてるんじゃない?ちらちら寄越される人の視線が気になってしょうがない。
「ねえ、陽太くん、」
耐えかねて陽太くんを呼ぶと、陽太くんはぱっと耳から手を離した。
「ご、ごめんね……人前なのに、こんなこと……」
陽太くんの顔が真っ赤で、あ、ちゃんと恥ずかしいことしたってわかるんだなあと変に感心した。だって、陽太くんたまに聖人みたいなとこあるし。
「新しいやつ、選んでくれるんでしょ?」
「うん……行こっか」
陽太くんがまた私の手を握って歩き始める。今度は指を絡めた恋人繋ぎだ。
「ねえ、陽太くん。新しいのもオレンジがいいな」
「……ぅえっ?!」
「耳につけるの、ずっとオレンジにしようかな」
「もう、名前ちゃん!」
よかった、ちゃんと意味通じてる。思わず笑ってしまうけど振り向いた陽太くんの顔が真剣で、あっからかいすぎたなと後悔する。
手が伸びて、肩に触って、近くなって、オレンジの目に焦った私の顔が映る。私ばっかり焦ってて陽太くんは真剣でかっこいい顔をしてる。まあ、このあと恥ずかしいことした!って慌てるのは陽太くんの方だから、いいけど。
