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ホワイトチョコでコーティングされたザッハトルテとブラックコーヒーに郁は静かに目を輝かせた。
「あのね、コーヒーすくってからスプーンでケーキすくうといい感じにチョコが溶けるよ」
「なるほど……」
今朝ケーキ焼いたんだけど、と連絡したところ日研の部室にいるから持ってきてくれと電話口で言われ私は卒倒しそうになった。あの日本文化至上主義の麻布先輩のいる前でケーキを食べる?!私にとっては正気の沙汰ではないが郁の手にかかれば麻布先輩を丸め込むことなど容易い。
「いただきます」
そっと目を閉じて手を合わせる姿は彼の凜とした雰囲気と相まって日本男児そのもの、といった雰囲気だけど彼が慎重に向き合っているのは的でも自分自身でもなく、ザッハトルテだ。ケーキをすくったそのままのスプーンで熱々のコーヒーをすくい、口元に運ぶ。絵になる光景を郁が声を出さないのをいいことにじっと見つめる。
「……どう?」
「うまい」
感想はそれだけで、郁はそのままふた口目をすくった。言葉は少ないけど、目はきらきらしているので彼の満足いく出来だったらしい。半分ほど食べ終えたところでコーヒーをすすり、ようやく私の視線に気づいたらしい。
「何だ?」
「美味しそうに食べるから、見てるの。郁が食べてるの見てると楽しくて」
郁はそうか、と返事をして再びザッハトルテをスプーンで切り取った。
マカロン、ダックワーズ、ケーキ、スコーン、プリン、ビスケット……郁はスイーツなら何でも好きで有名なお店のものも、私が作ったようなものも喜んで食べる。こうやって顔は冷静ながら目が光るところを見ると郁のお眼鏡にかなうよう、密かに練習した甲斐があったなとしみじみ思う。
「名前、」
見れば郁は最後の一口をスプーンに乗せたところだった。
「うん?」
「名前は食べたのか?」
「ううん、あとは長野先生とかみのりくんとかにあげようかなって思ってたし……」
「そうか」
郁は少しスプーンに乗ったザッハトルテを見やりそれから私を見た。自分だけが食べていいのか悩んでるのかもしれない。意外だった。
「いいよ、郁が食べてるの見るの好きって言ったでしょう。全部食べて」
その言葉を聞き届けて、スプーンは郁の口の中へ。本当にスイーツが好きなんだなあって思うくらい、目は雄弁に語る。
「名前、」
もう一度名前を呼ばれて、目を合わせると先ほどのきらきらとはまた違う目つきをしていた。思わずドキッとした。忘れてた、こいつ、
「名前」
左手は肩に、右手は後頭部に添えられて、それから口のあたる柔らかな感触。それからコーヒーとチョコレートの味。……信じたくないけど、こいつ舌入れてきた。
しばらくして口が解放され、ペロリと唇を舐める。見た目がいいからこういうのをしても恥ずかしくないところがずるい。
「……子供みたいな顔で食べるから、あんたむっつりに見せかけてオープンすけべだったの忘れてた」
「ん?」
ズレた発言で場を凍りつかせることもしばしばの郁だが、まさか行動までとは思わなかった。しかも全く悪びれてない。顔がいいせいでたまに忘れるけど、こいつとみのりくんは麻布先輩相手に卑猥な言葉を連発するのが日常の輩だった。
「うまかっただろう?次は……そうだな、モンブランかフロランタンがいい」
ほんっとうに呆れるほど、ズレている。最早、天然か策略かもわからない。でも、絆されてまた次の差し入れをする日を考えてしまい、嫌になる。
そっと肩を抱き寄せられて、もう一度口が触れ合った。郁は私の考えてることをきっとわかってないけど、なんとなくでどの行動が正解かわかってる。思考を止めて、冷静にさせるなら口を塞げばいいと素で思っているのだ。
そして、近づいてくるどたどたという大きな足音に、驚いて抵抗すれば口がゆっくり離される。私よりうるうるつやつやの唇に少し気分は落ち込んだけどきっとこの足音は麻布先輩。
それを追うように独特の笑い声もするからみのりくんが「この後名前さんがケーキ持ってきてくれるんですよぉ郁くんと二人っきりだからもしかしたらえっちな展開が~~」などと煽ったのだろう。そしてそれは、麻布先輩の「郁ーっ!し、神聖な部室で貴様ぁ!!!!」の絶叫を聞く限りおそらく間違っていない。
一方、郁は全く冷静な顔で再度顔を近づけた。麻布先輩に叱られみのりくんにからかわれるなんて絶対嫌、と抵抗するもあっさり封じられて唇が触れ合う。
廊下とつながる部室の襖が1つすぱーんと開け放たれ、ぎゃあぎゃあと言い合いながらもだもだと靴を脱ぐ音がふたつ。生真面目な麻布先輩はこんな時もみのりくんの分まで丁寧に靴を揃えているのだろう。
これで、私たちと麻布先輩たちを隔てるのはあと襖ひとつだけ。
言い訳なんて、どうにでもなれ。弁解は郁に任せたとわたしは完全に諦めモードで目を閉じた。そうだ、みのりくんにあげる予定のケーキは麻布先輩に差し上げよう。日本文化を愛する先輩の怒りに日を注ぐ真似はしたくないけど、甘いものを食べてここは納めてもらおう。
考え事をするわたしを咎めるように郁が私の唇を噛んだ。気がそれたのがわかったらしい。
それから部室につながる襖が開け放たれ、麻布先輩の怒りの絶叫。顔を隠すように頭を抱かれた私の耳には、ただビリビリと振動だけが届いたのだった。
「あのね、コーヒーすくってからスプーンでケーキすくうといい感じにチョコが溶けるよ」
「なるほど……」
今朝ケーキ焼いたんだけど、と連絡したところ日研の部室にいるから持ってきてくれと電話口で言われ私は卒倒しそうになった。あの日本文化至上主義の麻布先輩のいる前でケーキを食べる?!私にとっては正気の沙汰ではないが郁の手にかかれば麻布先輩を丸め込むことなど容易い。
「いただきます」
そっと目を閉じて手を合わせる姿は彼の凜とした雰囲気と相まって日本男児そのもの、といった雰囲気だけど彼が慎重に向き合っているのは的でも自分自身でもなく、ザッハトルテだ。ケーキをすくったそのままのスプーンで熱々のコーヒーをすくい、口元に運ぶ。絵になる光景を郁が声を出さないのをいいことにじっと見つめる。
「……どう?」
「うまい」
感想はそれだけで、郁はそのままふた口目をすくった。言葉は少ないけど、目はきらきらしているので彼の満足いく出来だったらしい。半分ほど食べ終えたところでコーヒーをすすり、ようやく私の視線に気づいたらしい。
「何だ?」
「美味しそうに食べるから、見てるの。郁が食べてるの見てると楽しくて」
郁はそうか、と返事をして再びザッハトルテをスプーンで切り取った。
マカロン、ダックワーズ、ケーキ、スコーン、プリン、ビスケット……郁はスイーツなら何でも好きで有名なお店のものも、私が作ったようなものも喜んで食べる。こうやって顔は冷静ながら目が光るところを見ると郁のお眼鏡にかなうよう、密かに練習した甲斐があったなとしみじみ思う。
「名前、」
見れば郁は最後の一口をスプーンに乗せたところだった。
「うん?」
「名前は食べたのか?」
「ううん、あとは長野先生とかみのりくんとかにあげようかなって思ってたし……」
「そうか」
郁は少しスプーンに乗ったザッハトルテを見やりそれから私を見た。自分だけが食べていいのか悩んでるのかもしれない。意外だった。
「いいよ、郁が食べてるの見るの好きって言ったでしょう。全部食べて」
その言葉を聞き届けて、スプーンは郁の口の中へ。本当にスイーツが好きなんだなあって思うくらい、目は雄弁に語る。
「名前、」
もう一度名前を呼ばれて、目を合わせると先ほどのきらきらとはまた違う目つきをしていた。思わずドキッとした。忘れてた、こいつ、
「名前」
左手は肩に、右手は後頭部に添えられて、それから口のあたる柔らかな感触。それからコーヒーとチョコレートの味。……信じたくないけど、こいつ舌入れてきた。
しばらくして口が解放され、ペロリと唇を舐める。見た目がいいからこういうのをしても恥ずかしくないところがずるい。
「……子供みたいな顔で食べるから、あんたむっつりに見せかけてオープンすけべだったの忘れてた」
「ん?」
ズレた発言で場を凍りつかせることもしばしばの郁だが、まさか行動までとは思わなかった。しかも全く悪びれてない。顔がいいせいでたまに忘れるけど、こいつとみのりくんは麻布先輩相手に卑猥な言葉を連発するのが日常の輩だった。
「うまかっただろう?次は……そうだな、モンブランかフロランタンがいい」
ほんっとうに呆れるほど、ズレている。最早、天然か策略かもわからない。でも、絆されてまた次の差し入れをする日を考えてしまい、嫌になる。
そっと肩を抱き寄せられて、もう一度口が触れ合った。郁は私の考えてることをきっとわかってないけど、なんとなくでどの行動が正解かわかってる。思考を止めて、冷静にさせるなら口を塞げばいいと素で思っているのだ。
そして、近づいてくるどたどたという大きな足音に、驚いて抵抗すれば口がゆっくり離される。私よりうるうるつやつやの唇に少し気分は落ち込んだけどきっとこの足音は麻布先輩。
それを追うように独特の笑い声もするからみのりくんが「この後名前さんがケーキ持ってきてくれるんですよぉ郁くんと二人っきりだからもしかしたらえっちな展開が~~」などと煽ったのだろう。そしてそれは、麻布先輩の「郁ーっ!し、神聖な部室で貴様ぁ!!!!」の絶叫を聞く限りおそらく間違っていない。
一方、郁は全く冷静な顔で再度顔を近づけた。麻布先輩に叱られみのりくんにからかわれるなんて絶対嫌、と抵抗するもあっさり封じられて唇が触れ合う。
廊下とつながる部室の襖が1つすぱーんと開け放たれ、ぎゃあぎゃあと言い合いながらもだもだと靴を脱ぐ音がふたつ。生真面目な麻布先輩はこんな時もみのりくんの分まで丁寧に靴を揃えているのだろう。
これで、私たちと麻布先輩たちを隔てるのはあと襖ひとつだけ。
言い訳なんて、どうにでもなれ。弁解は郁に任せたとわたしは完全に諦めモードで目を閉じた。そうだ、みのりくんにあげる予定のケーキは麻布先輩に差し上げよう。日本文化を愛する先輩の怒りに日を注ぐ真似はしたくないけど、甘いものを食べてここは納めてもらおう。
考え事をするわたしを咎めるように郁が私の唇を噛んだ。気がそれたのがわかったらしい。
それから部室につながる襖が開け放たれ、麻布先輩の怒りの絶叫。顔を隠すように頭を抱かれた私の耳には、ただビリビリと振動だけが届いたのだった。
