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総合授業棟の階段をひいひい言いながら四階まで上がって、目的の部屋の前で息を整える。
「失礼します、」
音楽室特有の引き戸を開けたその時、私の頭の中に歌が、音楽が、勢いよくそれこそ奔流のように流れ込んできて私は手にしたノートを落としそうになった。
挑発するようなそれでいて甘い歌詞、低音からサビで音が上がるところまで完璧な歌声、声の主は音楽準備室に隣接したブースで歌っていた。
歌が終わるまで全く動けなかった。
それは同じ部屋にいた人たちもそうで、でも彼らは私と違って彼の歌を聞いて評価し、賞賛し、彼の邪魔をしないために止まっていただけだった。
「ごきげんよう。ここに何か用事でも?」
鑑香先輩が優雅に微笑んで(それでいて彼の目は決して笑ってはいない)私に尋ねた。
「えっと……あの、光司に数学のノートを返しに来ました。」
「あ!返ってきたんだ」
「陽太先輩、ノート無くしちゃってたんですか?」
オレンジ色の目立つ頭、光司が声を上げ、背が高い一年生が陽太に親しげに声をかけた。
「ううん、家の都合で休んでた間にノート提出があって……遅くなって提出したんだ」
「明日課題があるでしょう。ないと困ると思って」
「助かるよ、苗字さんありがとう~」
「丁度職員室で渡されただけだし、気にしないで」
見れば見るほど変なメンバーだなぁと思って私は周囲に軽く頭を下げた。
歌唱部は鑑香先輩と光司しかいなくて、水泳部の清洲先輩と美化部の一乗谷先輩という謎のコンビが頭を付き合わせて何かを見ていた。
飯盛は通話先の誰かと言い争っていて(だから駆の発音はー!という七尾らしき人の声がして、飯盛が言い返していた)、臼杵先生がソファでその様子を眺めていた。
かと思えば知らない一年生が二人(片方はアメフト部の友人が有望な一年生だと騒いでいた確か松なんとかくん)一乗谷先輩が美化に励む写真を手にして盛り上がっていた。美化部の一年生だろうか。きりりとした、眉の子が私に挨拶をして、なんとか松くんもそれに続いたので私も慌てて会釈をした。
一乗谷先輩がそれを見て満足そうに微笑んで、清洲先輩が呆れたように笑った。
彼に挨拶をしてから帰ろうかな、でも居心地が悪いしやっぱり帰ろうと思った時、隣の部屋のドアが空いた。
「甲斐、水!」
「もー三毛くんってば、ぼくは水じゃないよ」
背の高い一年生が机の上のペットボトルと飴を拾って彼、円城寺くんの元へ向かった。
「うっせ、駄犬のくせに俺に文句言う気か」
「水取ってくらい言えるでしょ。はい、のど飴」
「ん」
「三毛くん歌良かったよ」
「あたり前だろ、飴もう一個よこせ。いちごがいい」
「はいはい」
円城寺くんが飴を口に入れた瞬間、彼は私を見つけて目を丸くした。
「苗字……さん……?!」
「円城寺くん、こんにちは」
私が挨拶を返すと円城寺くんは明らかに狼狽して甲斐くん(思い出した、バスケ部をやめて考古学部に入った一年生だ。円城寺くんと歌唱コンテストに出てた)の名前を呼んで振り返った。
「三毛くんがちゃんと確認しないのが悪いんだよ」
甲斐くんが呆れたように言って、円城寺くんはその後ろであれこれ文句を言っていた。
いつも爽やかでクラスメイトや先生からの信頼が厚くて、サッカー部一モテる優しくてかっこよくて歌唱コンテストで女の子の視線を一身に浴びた、実は170センチの身長をちょっと気にしてる円城寺くんは、もし私の耳が悪いのでなければ……後輩を駄犬と罵り、それに結構横暴なところが、あったりする?
……まさか、ないない。円城寺くんの歌も聞けたし、本格的に耳が悪くなってるってことが分かったので満足して帰ろう。
「じゃ、光司、私帰るね!お邪魔しました」
「え?もう帰っちゃうの?」
「うん、用事ができたから」
「そっか。よかったらまた、歌唱部に遊びに来てね」
光司はノートありがとう、と言って手を振った。
鑑香先輩は届けてくれてありがとうと微笑んでごきげんようと手を振った。
で、出た……鑑香スマイル、そしてごきげんよう…噂のそれを目の当たりにして私は目線をそらしつつ退室した。ち、直視できない…
ぱたぱたと顔を仰ぎながら廊下を走る。学園の有名人が揃い踏みな部屋に入ってしまった。
ああ、息苦しかった。これで後学園の王子様である丸目先輩と剣道部の天才剣士麻布先輩あたりがそろえば学園の有名人が勢ぞろいするところだった。
丸目先輩以外の考古学部員は揃っていたし、麻布先輩と親しい三年生も揃っていたのでぶっちゃけありえなくもなかった。
その2人が来たら他の親しい有名人がさらに増えそうだけど。
そう、あの歌唱コンテストの時みたいに……
……歌唱コンテストの時の円城寺くん、かっこよかったな。ぴったりした衣装が甲斐くんと対照的でモチーフのひとつひとつもすごく歌に、彼に合ってた。あの時私は芦原くんが司会をするとかで、裏方には湯山一人、圧倒的に手が足りなかったので手伝いをしていた。舞台袖からこっそり覗いていて湯山にど突かれたっけ。
「苗字さん、」
はっとして振り向くとはぁはぁと息を荒げた円城寺くんが廊下を走ってくるところだった。
「円城寺くん、どうしたの」
「いや、さっきの……」
珍しく歯切れの悪い円城寺くんを見て納得した。
「さっきのことは誰にも言わないよ。幼馴染だけには気を許しちゃうとか、よくあるよね」
「えと、それもそうなんだけど、」
さっきの歌のことなんだけどさ。
円城寺くんは居心地悪げに目線をそらした。
「あ、さっきの?やっぱり私円城寺くんの歌、好きだなあ。さっきもノート渡しにきただけなのに聞き惚れちゃった」
ぱっと円城寺くんは頬を染めてありがとうと言った。
「曲選、どう思った?」
円城寺くんの聞きたかったのはそこか。
確かに女の子のちょっとワガママでやらしくて、ずるくてかわいいところを歌ってる歌だったから円城寺くんが照れるのもわかる。私もそういうの歌ってるところ聞かれたら恥ずかしいって思うもんね。
「珍しいなって思ったけど、甲斐くんにいろいろ言ってるの見たらなんか納得したよ。いつもの円城寺くんっぽくないけど、円城寺くんに合ってるって思った」
「……へぇ」
円城寺くんはにっこり笑った。私はそこに違和感を感じて一歩後ずさる。
それを逃さず円城寺くんはしっかり私の腕を掴み、いつもより低いトーンで宣言した。
「決めた、お前駄犬2号」
「は?!」
「うるせぇ、俺が決めたんだから黙って従え」
「えー、円城寺くんて俺様……」
にこにこ爽やかな笑顔はあっさりかき消され、取り繕わない円城寺くんは私を見下ろし、壁際に追い詰め、不敵に宣言した。
「誰にも言うなよ。いろいろ面倒だからな」
円城寺の背後にドSオーラが見えた気がした。
「は、はい……」
完璧に猫を被っていたわけだから、私が言ってもみんな信じないと思うよ、とは言えなくて返事をする。
「じゃあな、苗字。また明日」
声はいつもの通り(っていうか今となっては猫かぶってるときの、と言った方が正しい)けれど笑顔は素の円城寺くんだった。
「はは……また明日」
行きとは違った意味でヘロヘロになりながら私は授業棟を出た。
「三毛くん、見ちゃった~~」
「見ちゃった、じゃないだろ。このクソ犬。ずっと盗み聞きしといてそれか?」
甲斐が柱の陰からにやにやしながら現れた。
ムカついてすねを蹴飛ばすとひどーい!!と憤慨されたが知ったことではない。
「長かったね、でもおつき合いするまでがまた長そうだね」
「黙れ」
「しかもまさか、せっかく褒めてくれたのに駄犬2号だなんて呼び出すとは思わなかったな~」
「黙れって言ってるのが聞こえないのかお前は」
「でもね、三毛くん。三毛くんのツンデレに付き合ってくれる子なんてたくさんはいないんだよ。ちゃんとデレも出さなきゃダメだよ」
甲斐の神妙な声を黙って聞いた。
素の自分でいると快適な学校生活に支障が出るからわざわざ猫かぶってるわけで、そんなことはわかっている。
「歌唱部の部室戻るぞ。あそこ、高い菓子いっぱいあるから葛野大路もいない今こそ食い尽くしてやらねぇと」
「はいはい」
一通り歌い終わって、今は鷲帆先生のポイント争奪戦の真っ最中だろう。
ランキング上位に入れるに越したことはないし、今日は千熊がいないから俺らが積極的に奪いに行かないと。
まあ、あの先生のことだから上手くやってくれるだろうし、今はとりあえず気分がいい。
「失礼します、」
音楽室特有の引き戸を開けたその時、私の頭の中に歌が、音楽が、勢いよくそれこそ奔流のように流れ込んできて私は手にしたノートを落としそうになった。
挑発するようなそれでいて甘い歌詞、低音からサビで音が上がるところまで完璧な歌声、声の主は音楽準備室に隣接したブースで歌っていた。
歌が終わるまで全く動けなかった。
それは同じ部屋にいた人たちもそうで、でも彼らは私と違って彼の歌を聞いて評価し、賞賛し、彼の邪魔をしないために止まっていただけだった。
「ごきげんよう。ここに何か用事でも?」
鑑香先輩が優雅に微笑んで(それでいて彼の目は決して笑ってはいない)私に尋ねた。
「えっと……あの、光司に数学のノートを返しに来ました。」
「あ!返ってきたんだ」
「陽太先輩、ノート無くしちゃってたんですか?」
オレンジ色の目立つ頭、光司が声を上げ、背が高い一年生が陽太に親しげに声をかけた。
「ううん、家の都合で休んでた間にノート提出があって……遅くなって提出したんだ」
「明日課題があるでしょう。ないと困ると思って」
「助かるよ、苗字さんありがとう~」
「丁度職員室で渡されただけだし、気にしないで」
見れば見るほど変なメンバーだなぁと思って私は周囲に軽く頭を下げた。
歌唱部は鑑香先輩と光司しかいなくて、水泳部の清洲先輩と美化部の一乗谷先輩という謎のコンビが頭を付き合わせて何かを見ていた。
飯盛は通話先の誰かと言い争っていて(だから駆の発音はー!という七尾らしき人の声がして、飯盛が言い返していた)、臼杵先生がソファでその様子を眺めていた。
かと思えば知らない一年生が二人(片方はアメフト部の友人が有望な一年生だと騒いでいた確か松なんとかくん)一乗谷先輩が美化に励む写真を手にして盛り上がっていた。美化部の一年生だろうか。きりりとした、眉の子が私に挨拶をして、なんとか松くんもそれに続いたので私も慌てて会釈をした。
一乗谷先輩がそれを見て満足そうに微笑んで、清洲先輩が呆れたように笑った。
彼に挨拶をしてから帰ろうかな、でも居心地が悪いしやっぱり帰ろうと思った時、隣の部屋のドアが空いた。
「甲斐、水!」
「もー三毛くんってば、ぼくは水じゃないよ」
背の高い一年生が机の上のペットボトルと飴を拾って彼、円城寺くんの元へ向かった。
「うっせ、駄犬のくせに俺に文句言う気か」
「水取ってくらい言えるでしょ。はい、のど飴」
「ん」
「三毛くん歌良かったよ」
「あたり前だろ、飴もう一個よこせ。いちごがいい」
「はいはい」
円城寺くんが飴を口に入れた瞬間、彼は私を見つけて目を丸くした。
「苗字……さん……?!」
「円城寺くん、こんにちは」
私が挨拶を返すと円城寺くんは明らかに狼狽して甲斐くん(思い出した、バスケ部をやめて考古学部に入った一年生だ。円城寺くんと歌唱コンテストに出てた)の名前を呼んで振り返った。
「三毛くんがちゃんと確認しないのが悪いんだよ」
甲斐くんが呆れたように言って、円城寺くんはその後ろであれこれ文句を言っていた。
いつも爽やかでクラスメイトや先生からの信頼が厚くて、サッカー部一モテる優しくてかっこよくて歌唱コンテストで女の子の視線を一身に浴びた、実は170センチの身長をちょっと気にしてる円城寺くんは、もし私の耳が悪いのでなければ……後輩を駄犬と罵り、それに結構横暴なところが、あったりする?
……まさか、ないない。円城寺くんの歌も聞けたし、本格的に耳が悪くなってるってことが分かったので満足して帰ろう。
「じゃ、光司、私帰るね!お邪魔しました」
「え?もう帰っちゃうの?」
「うん、用事ができたから」
「そっか。よかったらまた、歌唱部に遊びに来てね」
光司はノートありがとう、と言って手を振った。
鑑香先輩は届けてくれてありがとうと微笑んでごきげんようと手を振った。
で、出た……鑑香スマイル、そしてごきげんよう…噂のそれを目の当たりにして私は目線をそらしつつ退室した。ち、直視できない…
ぱたぱたと顔を仰ぎながら廊下を走る。学園の有名人が揃い踏みな部屋に入ってしまった。
ああ、息苦しかった。これで後学園の王子様である丸目先輩と剣道部の天才剣士麻布先輩あたりがそろえば学園の有名人が勢ぞろいするところだった。
丸目先輩以外の考古学部員は揃っていたし、麻布先輩と親しい三年生も揃っていたのでぶっちゃけありえなくもなかった。
その2人が来たら他の親しい有名人がさらに増えそうだけど。
そう、あの歌唱コンテストの時みたいに……
……歌唱コンテストの時の円城寺くん、かっこよかったな。ぴったりした衣装が甲斐くんと対照的でモチーフのひとつひとつもすごく歌に、彼に合ってた。あの時私は芦原くんが司会をするとかで、裏方には湯山一人、圧倒的に手が足りなかったので手伝いをしていた。舞台袖からこっそり覗いていて湯山にど突かれたっけ。
「苗字さん、」
はっとして振り向くとはぁはぁと息を荒げた円城寺くんが廊下を走ってくるところだった。
「円城寺くん、どうしたの」
「いや、さっきの……」
珍しく歯切れの悪い円城寺くんを見て納得した。
「さっきのことは誰にも言わないよ。幼馴染だけには気を許しちゃうとか、よくあるよね」
「えと、それもそうなんだけど、」
さっきの歌のことなんだけどさ。
円城寺くんは居心地悪げに目線をそらした。
「あ、さっきの?やっぱり私円城寺くんの歌、好きだなあ。さっきもノート渡しにきただけなのに聞き惚れちゃった」
ぱっと円城寺くんは頬を染めてありがとうと言った。
「曲選、どう思った?」
円城寺くんの聞きたかったのはそこか。
確かに女の子のちょっとワガママでやらしくて、ずるくてかわいいところを歌ってる歌だったから円城寺くんが照れるのもわかる。私もそういうの歌ってるところ聞かれたら恥ずかしいって思うもんね。
「珍しいなって思ったけど、甲斐くんにいろいろ言ってるの見たらなんか納得したよ。いつもの円城寺くんっぽくないけど、円城寺くんに合ってるって思った」
「……へぇ」
円城寺くんはにっこり笑った。私はそこに違和感を感じて一歩後ずさる。
それを逃さず円城寺くんはしっかり私の腕を掴み、いつもより低いトーンで宣言した。
「決めた、お前駄犬2号」
「は?!」
「うるせぇ、俺が決めたんだから黙って従え」
「えー、円城寺くんて俺様……」
にこにこ爽やかな笑顔はあっさりかき消され、取り繕わない円城寺くんは私を見下ろし、壁際に追い詰め、不敵に宣言した。
「誰にも言うなよ。いろいろ面倒だからな」
円城寺の背後にドSオーラが見えた気がした。
「は、はい……」
完璧に猫を被っていたわけだから、私が言ってもみんな信じないと思うよ、とは言えなくて返事をする。
「じゃあな、苗字。また明日」
声はいつもの通り(っていうか今となっては猫かぶってるときの、と言った方が正しい)けれど笑顔は素の円城寺くんだった。
「はは……また明日」
行きとは違った意味でヘロヘロになりながら私は授業棟を出た。
「三毛くん、見ちゃった~~」
「見ちゃった、じゃないだろ。このクソ犬。ずっと盗み聞きしといてそれか?」
甲斐が柱の陰からにやにやしながら現れた。
ムカついてすねを蹴飛ばすとひどーい!!と憤慨されたが知ったことではない。
「長かったね、でもおつき合いするまでがまた長そうだね」
「黙れ」
「しかもまさか、せっかく褒めてくれたのに駄犬2号だなんて呼び出すとは思わなかったな~」
「黙れって言ってるのが聞こえないのかお前は」
「でもね、三毛くん。三毛くんのツンデレに付き合ってくれる子なんてたくさんはいないんだよ。ちゃんとデレも出さなきゃダメだよ」
甲斐の神妙な声を黙って聞いた。
素の自分でいると快適な学校生活に支障が出るからわざわざ猫かぶってるわけで、そんなことはわかっている。
「歌唱部の部室戻るぞ。あそこ、高い菓子いっぱいあるから葛野大路もいない今こそ食い尽くしてやらねぇと」
「はいはい」
一通り歌い終わって、今は鷲帆先生のポイント争奪戦の真っ最中だろう。
ランキング上位に入れるに越したことはないし、今日は千熊がいないから俺らが積極的に奪いに行かないと。
まあ、あの先生のことだから上手くやってくれるだろうし、今はとりあえず気分がいい。
