ONE PIECE
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「おい!納品計画はどうなってる!?締切までもう時間がないんだぞ!!」
「急げ急げ〜!納期厳守!」
「いやしかし労働時間厳守が最優先だ!うちは勤怠には厳しいんだ」
現場は上へ下へのわあわあ大騒ぎ。我々はたった今、「悪魔の実能力者グッズ」の作成に追われている、クロスギルドの一部門である。上層部は懸賞金の手配やら海賊王の夢やらでやんややんやしているが、我々はそれどころではない。納期最優先なのだ。
フィギュアの仕上がり監修のために海軍基地や革命軍、あるいは海賊島へ突入したり(どこもクロスギルド上層部に負けず劣らず大変なことになっているようだが、我々の知ったことではない。それよりスモーカーの腹筋の溝は本当にこの深さでいいのか、黒ひげの塗装オプションはこれ以上盛れないという念押し、革命軍からのサボの顔に関する厳しいダメ出しへの対応の方が深刻なのだ)工場との生産計画の最終確認に追われたり、店舗への納品数の決定で揉めたり……正直げっそりしているが私にはまだひとつ重大な仕事が残っている。
サー・クロコダイル謹製スナスナのマグカップ生産の任務である。
私は悪魔の実をウッカリ口にした時間停止の能力者……右手を基点に半径ほにゃららメートル以内の運動・電気または化学的な状態変化を全て意のままに停止することができる。そう、エッチなことがやりたい放題の神がかった能力なのだ。ただしすけべな事は合意の元でやれよ……!と昔から厳しくバギーさんに言い含められており(偏にその後に発生しうる面倒ごとを回避するために)、もっぱらバギーさん相手にしか発動の機会がない。
我々の能力を使い、クロコダイルさんが能力で砂にしたマグカップを絶妙な加減で時間停止、程よく崩れたスナスナのマグカップを梱包のち全国の社長ファンに送り届けるのが今回の「スナスナのマグカップ生産の任務」である。イヤーッ!難易度高い!
これの作成にはもちろんサーの協力が必要不可欠なのだが、なぜか(聞くまでもない)ご機嫌斜めで全然生産が捗らないのである。上層部の最後の砦たる彼にはもちろんこんなことにかかずらっている暇がないというのは百も承知だが、海兵捕獲の懸賞金を捻出するためにグッズで売上を出すようバギーさんから厳命されている。なので新作くじ引き企画書に適当に目を通してサインしたクロスギルドの財布係・クロコダイルさんの自業自得である(我々企画班が珍しく酒に飲まれかけてるところを狙ったという事実には目を瞑るものとする)。
しかしそろそろ真面目に生産しないと間に合わない……私は恐る恐るサーの私室をノックした。
「あのぉ……グッズ生産のお願いにまいりました」
「……」
サー・クロコダイルは今日もご機嫌斜め。しかし流石にそろそろ本気で作らないと間に合わない。葉巻の煙がゆらゆらと揺れるのをしばらく眺める。大きなソファにいつものスーツを着込んで、不機嫌全開の顔で葉巻を咥えているだけでも非常に絵になる姿だ。こりゃ変な商売っけを出さずにフィギュアにした方が良かったかな。D賞、サー・クロコダイル……インペルダウン収監の姿。あれはあれでかなりセクシーなのだが、口にした瞬間あの鉤爪が喉を切り裂くだろう。
「あのですね、流石に間に合わないんですよ。1ロットに2個の予定なので」
「テメェはおれの能力をなんだと思ってやがる?」
うわ〜キレてますねえ。気持ちはもう動物観察番組のナレーションである。荒れ狂う猫ちゃんも蚊帳の外から見れば微笑ましいものだ。そう、社長は寝起きでご機嫌斜めのフワフワの猫ちゃん。猫ちゃんなのだ……と必死に言い聞かせる。額に青筋ビギビキ浮かべて、今にも葉巻を噛みちぎらんという勢いだが、怯む余裕もない。こっちはマジで納期に余裕がないのだ。
「んなこと言われても困りますよ。もうラインナップは公開済みで、グランドラインじゅうの皆が楽しみにしてるんですから」
「今から撤回してこい」
「ご自分がサインしたのお忘れですか?ご自分が!このラインナップで良いと!サインしたんですよ!わはは!!」
「うるせェ」
「あばばばば」
勝ち誇って稟議書をヒラヒラさせた瞬間、能力のチラ見せと鉤爪がきらめき、大いに慌てる。イヤ!想像しただけで痛い!砂は言わずもがな、あんなの刺さったら絶対痛い!鷹鰐コンビのサクサク切り落として吊し上げ〜がギャグになるのはバギーさんの能力ありきで、私がやられたらスプラッタ不可避なのだ。
「……それにしたって困りますよ、もう告知出しちゃって他のは順調に生産が進んでて、遅れてるのはマグカップだけなんですから。工場長からせっつかれる私の身にもなってくださいよぉ」
「……お嬢さん。コレはそんな遊びに使う能力じゃないと口にしなければわからねェのか?」
片手を振ってみせるサーのため息ももっともである。私も「名前さんの能力で麦わらの一味の時間停止AV撮りましょうよ!」って言われたらキレる。違うだろ!一味はそういうんじゃないんだよ!私にとっては!私は!乳飲み子の私を成り行きで拾って渋々船に乗せてくれた船の主人に、よりによって命の恩人のバギーさんに使うのがいいんだよ!!あの人が「でもまあ、おれのウッカリで能力者にしちまったわけだし……」って困惑しながら時間停止に甘んじてるのがいいの!!!!
そう、話は逸れたが、この能力は自分が自分の意思で使うのだ。果実の意思で人間が選ばれたのだとしても、使うのは能力者自身だ。信念のもとに振るわれるべき力、と言ったら「夢を見過ぎだ」と笑われるだろうか?
でも、今回ばかりはなんと言われてもサインしたのが悪い。サー・クロコダイルが悪い。私はウッカリ怪しい書類にサインしないよう気をつけてる。ウッカリは悪魔の実を口にした一度きりで十分だ。
しばし元七武海の眼光と睨み合い、その圧倒的気迫に負けそうになりながらド根性でその目を見つめて、あまりにも怖すぎてだんだん半泣きになり私の手のひらが汗でビシャビシャになった頃、折れたのはクロコダイルさんの方だった。
「1ロットにひとつだ」
「え?」
「お嬢さんに一晩中こき使われては、こちらも身が持たないんでな」
「や、やったぁ〜〜!ありがとうございます!お願いします!やったあ〜〜!!」
半泣きで喜ぶ私を、クロコダイルさんはすご〜〜くイヤそうな顔で見て、それでも片手を差し出した。思わず女神に縋る心地でギュッ!!と両手で握ったところ「違ェ!さっさとコップを寄越せ!」と雷が落ちた。ははーーっ、仰せの通りに……
作業としてはクロコダイルさんの手の中でサッ……と砂になり崩れ落ちるその前に私が時間を止める、それの繰り返し。サーにとっては片手に乗るほどの小さなもののごく一部を砂にするだけだが、流石に連続で1時間も繰り返せば疲労も溜まる。ましてや気に食わない小娘と向かい合ったまま小一時間も私室に缶詰。クロコダイルさんを休憩させる間に私はせっせと完成したマグカップの梱包に励んでいた。
マグカップが1ロット1個限りになったのは痛いが、ロットごとの封入数については、A賞をひとつ増やせば問題なさそうだ。企画班に電伝虫で連絡したら、急なフィギュア増産のせいで工場長には怒られたが、企画班長は全ラインナップの納期が間に合いそうなことに涙を流して喜んでいた。
サー・クロコダイルは優雅にソファに凭れ休憩中だが(コーヒーは件のマグカップではなく、サーお気に入りの陶製コーヒーカップに注がれた)、私はそれを横目に箱詰め作業に追われる。自分のコーヒーも用意すればよかった、という気持ちと、サーと向かい合ってコーヒーを楽しむなど肝の小さい名前には到底無理なのでやる事があってよかった、という気持ちでぐるぐるしながら箱入りのマグカップを増やしていく。
何より、休憩中のサーはせこせこ箱詰めに励む私をどこか楽し気に眺めているので気まずくて仕方ない。まだ生産予定数に達しないため、機嫌が悪いよりずっといいが、ものすごく居心地が悪い。
コーヒーの湯気がゆらゆらとたちのぼり、サーのひと吹きでかき消える。それを最後まで目で追ってしまって、ハッとして慌てて梱包作業に戻る。コーヒーを飲む仕草に完全に目を奪われた私を揶揄うようにクロコダイルさんが笑う。あーなんなんだよーーッ!もーー!
「休憩終了です!生産再開!」
ダン!と新しいマグカップを机に叩きつけた私にサー・クロコダイルはクハハと笑った。これは機嫌がいい内に製造するに限る。私はため息を押し殺し、能力発動のポーズをとった。
