TRIGGER
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
苗字名前のウワサ。
千さんの曲が好き。酒に弱い。
千さんと百さんと親父と飲んだ時に、親父にもうよせと止められるまでRe:valeの曲の良さを語ったらしい。何かの打ち上げの時にはRe:valeはウチが欲しかっただの、古来日本人が最も好むのはああいうパフォーマーだのという話を親父と真剣にしているのを見たこともある。呆れた姉鷺が「社長、我らがTRIGGERも褒めていただいても?」と口を出すほどには白熱していた。
逢坂の曲が好き。涙もろい。
縁あって逢坂のデモを聞いた時、号泣してMEZZO"の2人を慌てさせたらしい。MEZZO"の引き抜きに失敗した親父の手前、大っぴらに応援するようなことはしていないが新曲の発売日に合わせて有給をとっていたのは二度や三度ではない。これは姉鷺にも確認したから間違いない。
棗の曲が好き。
俺らの前では絶対言わないけど。今回のライブのためにいつもは社長室のあるフロアに籠っている名前も契約書の締結や楽曲使用の許可取りのためにあちこち走り回っていた。その中で棗と話しているところを見た。名前が何を言ったのか俺には聞こえなかったが、棗が「ありがとうございます。次も喜んでもらえるように頑張ります」と折目正しく頭を下げた。それを見て、いいなと思った。たとえ社交辞令でも、羨ましいと思った。
その名前が新曲で泣いたのだという。
素面で。
職場で。
俺の曲で!
たまらず握り拳を振り上げて、天に「ちょっと!」と嫌な顔をされたが構わない。試行錯誤の末完成させた新曲は真っ先に天と龍に聞かせて、2人もいい曲だと太鼓判を押した。
姉鷺曰く俺が新曲を親父のところに持って行った後、親父は折角だからと走り回っていた姉鷺と名前を呼んで3人で聞いた。曲が終わってみれば名前はひとり言葉もなく泣いていたらしい。姉鷺からそれを聞いた天は「本当に?Pieces of the Worldじゃなくて?」と疑っていたけど(あれも俺が作ったデモを元に千さんたちの手を借りて完成させた最高の曲だ)龍は「わかる気がするよ。あれは楽にしか作れない曲だから」と笑った。
「名前は?まだそのへんにいるのか?」
「……あんた達が来たと知った瞬間からいつも以上に仕事仕事!よ。Last Dimensionの契約資料戻しに資料室に行ったわ」
「……逃げましたね……」
天の重たいため息、龍が呆れて「名前さんは変わらないな」と笑った。俺は今すぐ名前を探しに行きたくてウズウズしていた。天がすぐに気づいて呆れたような、じっとりした視線を送ってくる。そんな俺を見て姉鷺は「追いかけてもいいけど、あんまりいじめちゃダメよ」とため息をついた。俺が?そんなことするわけがないのに。
@@@
名前のことは入社した時から知っていた。新卒でいきなり社長室に配属されたことは事務所内でも有名で、一緒に仕事している姉鷺も新人ながら社長室で激務に追われる名前を気にかけていた。俺が名前を見かけても、いつも気を張った様子で挨拶してくるか無茶苦茶な要求に応えるのに必死で俺なんて目に入ってないかどちらかで。そのくせ俺が見てない時は滅茶苦茶見てくる。気づいてないわけないだろ、あれだけ見られて。そこまで鈍感なつもりじゃない。
……都合のいい、俺の勘違い?いや、一回告られてるし。好きってはっきり言葉にされたわけじゃないけど、「楽さんだけです、こんな……こんな気持ちになるの」なんてあんなん告白だろ!?あいつの精一杯の告白だよな!?不意打ちすぎて俺はその時にありがとう以外の言葉を返せなくて、それをオブラートに包んだ断り文句だと受けとって固まった名前を見て慌てて「俺も好きだよ」と言うことしかできなかった。いや、もっとあっただろ、なんかもっとカッコいい言い方が……
動揺したまま、抱きしめてもいいかって聞いたらいいともダメとも言えなかったのか名前は、真っ赤な顔して辺りを見渡した。「誰も来ないよ」と囁けば、抵抗の姿勢をやめてほんのわずか頷いてみせた。体に触れて、互いの鼓動が死にそうなくらい早くて、気持ちは言葉にせずとも伝わってると思った。名前が「……もう、無理です、無理……」と悲鳴を上げるまでそれは続いて、その後しばらく俺たちの関係はギクシャクした。主に、俺が声をかけようとして名前に逃げられるという感じで。そんな事ばっかりしてたから、天や龍には速攻バレた。2人は「可愛いのはわかるけど、構いすぎて嫌われないようにね」と散々言われて、どいつもこいつも俺が名前をいじめたくてしょうがないみたいに見えるらしかった。
事務所を離れる時だけは、「離れても、私も社長もずっとTRIGGERのファンなのは変わりません」と言って俺たちを見送ってくれた。姉鷺が「頼んだわよ、八乙女事務所のこと。社長のこと」と名前の肩を叩いた。名前は硬い表情でそれに応えた。社長室でメディアからの悪意ある取材対応に追われ、スポンサーに頭を下げて、広告契約の莫大な違約金と悪化する経営状態を目の当たりにしていた名前。少し痩せた。化粧でも隠しきれない隈、名前は「会社のことは任せてください。近い未来TRIGGERの戻ってくる場所を失うわけには行きませんから。何も心配しないで」と姉鷺の肩を抱いた。姉鷺の目から一つだけ涙がこぼれてそれを何も言わずに名前が拭った。俺たちはそれを黙って見ていることしかできなかった。
「忘れないで。離れていても、どこにいてもTRIGGERの歌は私たちに届くんですよ」
「届かせるわよ!TRIGGERの歌を、日本じゅう端から端までよ!」
姉鷺がいつもの調子で吠えて、それから力なく「当たり前でしょ」と言って名前は確かに頷いたのだ。あの日。
@@@
事務所の契約資料なんかは決まったところにルールに基づいて厳重に保存されている。俺たちは普段入らない部屋だが、名前を追いかけ回していたことでこの階には詳しい。
名前は分厚いファイルをいくつか積んでよろよろ歩いていた。後ろから声をかけたら驚かせてしまう、ファイルを落としてもしケガでもさせたら……足音を立ててなるべく外側から回り込む。
「それ、持つよ」
「あっ……!」
名前は周りが見えてなかったのか大袈裟に驚いて、分厚いファイルを取り返そうとした。
「楽さん!その、ファイル……!!」
「いいよ、資料室だろ、少し話そうぜ」
「わ、私、何も……あ!それより社長とお話ししてください。いつも寂しがってますよ」
「親父の話は今いいだろ……」
新曲のことを聞きたいが、名前はファイルを持たない代わりに一生懸命ドアを開けたり足元に注意を払っていてそれどころではない。
廊下の角を曲がる拍子に肘同士がぶつかって、名前の体がビクッと跳ねた。別に、何もしないのに。ジッと見下ろす視線を感じ取ったのか「な、何ですか」と名前が顔を上げた。
「……なにも」
「嘘!言おうかな〜やめようかな〜どうしよっかな〜って顔してますよ」
名前の表情がふっと緩んで、いつも真面目な顔ばかりだから珍しいなと思った。疲れた様子は相変わらずだが、嬉しくて仕方ない顔だ。4グループ合同の大きなステージ、名前がその準備のために喜んで朝から晩まで、会社の内外を駆け回っている話はいろんな人から聞いている。名前は俺を見上げて、大きな瞳がきらきら光って俺を映す。
「珍しいですね、楽さんがそういうの」
「あ?珍しくないだろ」
「楽さんって、言いたいことはハッキリ言う人だと思ってました」
しれっと名前がそう言ってのけて、俺は「でも前にハッキリ言ったらお前逃げただろ」と言いたいのを飲み込んだ。いじめないでよ、と釘を刺す姉鷺の顔が過る。いじめてないだろ、優しくしてるって。
「名前は?何か言うことないのか」
「私はありますよ」
「えっ」
「……新曲聞きました!」
「どうだった!?」
かなり大きい声が出て、名前がびっくりしたのか目を見開いた。
「よかった?結構好き?」
思わず詰め寄って食い気味に質問を重ねると名前は「あ、あ……」と焦った様子で左右を見渡した。
「すごく、すごくよかったです、社長が持ってきてくれたので姉鷺と一緒に聞かせてもらったんですけど、あたし感動して……」
「うん」
名前の眼鏡越しの瞳がうるうると光って、それをもっとよく見ようと距離を詰める。
「ああ、楽さんの歌だなあって……」
「俺の」
嬉しそうに笑う顔を見て、たまらない気持ちになる。喜んでほしかった。他のやつの曲と同じくらい、それ以上に褒めてほしかった。なのに、出てきた言葉はたったひとつ、俺の歌、俺らしい歌。俺らしいって、何?意地悪な気持ちで聞いてみたい気もしたが、顔を見れば言葉よりも雄弁にそれを語っている。いつも気を張った表情で、事務所のためにと隙を見せないように頑張ってる名前が、こんなに可愛い顔で笑っている。歌が、TRIGGERの歌がちゃんと届いている。それだけで十分だと思った。
……十分?それは、ちょっと格好つけすぎた。正直、もっと褒めてほしい。
「もっと褒めろよ」
「え!?」
じりじりと壁に追い詰めた途端に額に汗が浮いて、首まで赤くなってオロオロし出す。かわいい、もっと見たい。褒めてほしい。もっと近く、触れ合いたい。距離を詰めて、身長差のせいで見下ろすのは遠すぎるから、腰を折って顔を寄せる。
「楽さんって、本当に頑張り屋さんですね。え、えらい、えらい……」
「えっ」
俺が上体を屈めて顔を近づけたのを「褒められ待ち」と勘違いしたのか、名前は照れながら俺の頭にそっと手を乗せて「えらい、えらい」と繰り返した。髪型が崩れないようにか、ほとんど触ってないような強さだったが、記憶の限り名前から触ってきたのは初めてだった。驚いて目を見開くと、名前が慌てたように一歩後ずさる。しかし名前の背後は壁しかないので、逃げ場はなかった。
「ち、違いましたかね!?」
「え、いや。違わない」
「違わないんですか?」
追い詰められても気づかずに、呑気だなと思った。あとちょっと俺が近づいたら、キスだってできる。もうちょっと押してみるか、今ならいけるかも。俺の考えてることなんて知らない名前の右手が恐る恐る伸ばされて、先ほどよりもしっかりと頭を撫でられる。
「あのね、私本当に好きなんです。あなた達が、歌う歌が、パフォーマンスが。姉鷺が今日も力説してましたけど、ステージ上のあなた達に日本中が何度だって恋して、夢中になって。あなたを好きでいてよかったって再確認するたびにもっともっと好きになる」
「あなた達」がいつの間にか「あなた」に変わったことを指摘したら、真っ赤になって逃げ出すんだろうな。名前は俺の視線にも気づかずに「よしよし……えらいえらい……」と一生懸命俺を労っている。本当は嬉しくてキスもハグもしたかったけど、珍しく名前が頑張ってるから貴重な名前のよしよしを堪能することにする。だってあんまり攻めすぎると逃げ出すし、「あんまりいじめちゃだめよ」と念を押されているし。小さい猫か何かにするみたいに慎重な手つきで撫でられるのも別に嫌じゃない。
「……ありがとな」
「うわぁ!?」
「えらいえらい」のお礼にと指先で名前の頭をそっと撫でると、名前は驚いて飛び退ろうとした。自分が始めたくせに。だから後ろは壁なんだって、指摘する声は思いの外甘ったるくて、今更止めようにももう止まらない。
