去る春、君の声だけが在るIF
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撮影の招集があり、私もついて行く役目を仰せつかった。撮影同行を狙っていた他の部員は「負けた……」とうちひしがれ、珍しくコソコソ「もしスマホで撮った動画があれば後で見せてほしい」と頼んでくる始末。気持ちはわかる。撮れるかどうかは現場の許可次第だが。
そうして、スタジオにて、再三の厳しい注意事項の後、着ぐるみパジャマに着替えた選手たちの前に現れたのは……かわいいかわいい黄色のアライグマ、ラスカル!
かわいいものが好きな悠人はもうメロメロで、使える写真があるのか心配なほど。いつもは「行っても他校の先輩ばっかりだし、兄貴いる時あるし……」と乗り気じゃないことも多いが、今回ばかりはオファーの時点で「絶対、行く!」とやる気満々だった。お揃いの着ぐるみもウキウキで着てくれた。
今回は順番にカメラの前に立つのではなく、なるべく自然なショットをということで戯れているところをカメラまわっていく方式。しかし選手よりラスカルの方がはるかにカメラ慣れしており、翻弄されている者もいた。
小さい生き物が苦手なのか、巻島さんは「ご挨拶」の時点で指を食まれて、小さな悲鳴をあげていた。腰が引けてしまって、こちらが心配になる程だったけど、座って視線を近づけると互いに安心したのか柔らかい表情を見せる。
他のみんなも大きな声を出さずに、静かに遊んでやっている。背の高い人はなるべく、姿勢を低く……選手の気遣いもなんのその、元気なラスカルは背中をよじ登ったり肩に張り付いたりして選手を困らせていた。困らされても嬉しそうだから、いいか。
アライグマらしい一生懸命両手を使う仕草に思わずため息が出る。角砂糖や飴を手にしているつもりなのだろうか。……幼い頃はアニメと絵本でその仕草に心掴まれた。あー、かわいいなあ。
動画も写真も撮っていいとお許しが出たので、静かに撮影に励む。ラスカルが一生懸命荒北さんの背中を登頂しようと重たいお尻で頑張っていた。
「苗字」
「黒田さん」
撮影用のエリアから離れたところで撮っていたら、フードを外した黒田さんが近寄ってきた。フード、散々メイクさんがセットしてくれたのに。
「撮れ高あったか?」
「私のスマホの方じゃなくて、カメラさんの心配してくださいよ」
私はそれより、相棒のラスカルをどこに置いてきたのか聞きたい。休憩だろうか。遊び疲れちゃったのかも。
私が「ほら、あっち」と指さした方ではカメラマンが一生懸命中腰で構える姿。視線の先はラスカルに翻弄される小野田の姿。いいなあ、かわいい……
「ほらよ」
「えっ」
黒田さんがフードを引っ張ると、下ろしていたフードがモゾモゾ蠢きラスカルが出てきた。落ちたらどうしようと、思わず受け止める手を差し出してしまう。みゃーみゃー鳴いて、黒田さんの背中を一生懸命這い上がり、肩周りに落ち着く。私はいらなかった手を、ちょっと残念な気持ちで下ろした。黄色のアライグマはこちらを見てみゃーと鳴いた。ら、ラスカル!
「触りたかったんだろ」
緊張でガチガチになってる私をしゃがませてから、黒田さんはラスカルを差し出した。特徴的な丸い瞳と半開きの口で、呑気にこちらを見ている。
「みゃー」
「ほ、本物だ……!」
「スタッフの人に聞いたらいいって。お前、羨ましそうに見てるから……」
「う、嬉しいです……!」
「ほらよ」
抱いてみろと寄越されて、恐る恐る手を伸ばす。ふわふわの毛、まるまるとした姿。抱えてみれば、重みを感じるからだ。
「かわいい……」
「だろ?」
戯れる選手たちが羨ましかったのは本当。ただ、小さい頃にみたアニメを思い出してちょっと怖かった。仲良しだったのに、いくつかの事情で一緒に暮らせなくなってしまって、最後は森に返されてしまう。あれは、幼心にもショックだった。
今日のスタジオにもいっぱいいるし、多分あの子と同一の個体ではないようなのだけど……この辺のことを考えると頭が痛くなるのでやめておいた。あの愛らしい黄色のアライグマ全般をラスカルと呼ぶ。そういうことにしておこう。
「あっ」
みゃーと鳴いては首を傾げ、何が不満なのか膝を降りて行ってしまう。なるべく声を抑えようと手のひらで口を塞いでおく。びっくりさせないように。ラスカルは両手を私に着いて、後ろ足で立とうとしていた。こっちを一生懸命見上げてみゃーと鳴く。
「か、かわいい……」
思わず天を仰ぐ。かわいすぎる。ラスカル最高。罪のない、全てのアライグマが幸せに暮らせますように。
スタジオの天井ライトで滲む視界をラスカルに戻そうとしたら、スマホを構えている黒田さんと目があった。
「な」
「やべ」
互いを見つめて硬直する私たちをよそに、カメラ慣れしているラスカルが黒田さんのスマホに向かって、愛らしく鳴いてみせた。みゃー。
そうして、スタジオにて、再三の厳しい注意事項の後、着ぐるみパジャマに着替えた選手たちの前に現れたのは……かわいいかわいい黄色のアライグマ、ラスカル!
かわいいものが好きな悠人はもうメロメロで、使える写真があるのか心配なほど。いつもは「行っても他校の先輩ばっかりだし、兄貴いる時あるし……」と乗り気じゃないことも多いが、今回ばかりはオファーの時点で「絶対、行く!」とやる気満々だった。お揃いの着ぐるみもウキウキで着てくれた。
今回は順番にカメラの前に立つのではなく、なるべく自然なショットをということで戯れているところをカメラまわっていく方式。しかし選手よりラスカルの方がはるかにカメラ慣れしており、翻弄されている者もいた。
小さい生き物が苦手なのか、巻島さんは「ご挨拶」の時点で指を食まれて、小さな悲鳴をあげていた。腰が引けてしまって、こちらが心配になる程だったけど、座って視線を近づけると互いに安心したのか柔らかい表情を見せる。
他のみんなも大きな声を出さずに、静かに遊んでやっている。背の高い人はなるべく、姿勢を低く……選手の気遣いもなんのその、元気なラスカルは背中をよじ登ったり肩に張り付いたりして選手を困らせていた。困らされても嬉しそうだから、いいか。
アライグマらしい一生懸命両手を使う仕草に思わずため息が出る。角砂糖や飴を手にしているつもりなのだろうか。……幼い頃はアニメと絵本でその仕草に心掴まれた。あー、かわいいなあ。
動画も写真も撮っていいとお許しが出たので、静かに撮影に励む。ラスカルが一生懸命荒北さんの背中を登頂しようと重たいお尻で頑張っていた。
「苗字」
「黒田さん」
撮影用のエリアから離れたところで撮っていたら、フードを外した黒田さんが近寄ってきた。フード、散々メイクさんがセットしてくれたのに。
「撮れ高あったか?」
「私のスマホの方じゃなくて、カメラさんの心配してくださいよ」
私はそれより、相棒のラスカルをどこに置いてきたのか聞きたい。休憩だろうか。遊び疲れちゃったのかも。
私が「ほら、あっち」と指さした方ではカメラマンが一生懸命中腰で構える姿。視線の先はラスカルに翻弄される小野田の姿。いいなあ、かわいい……
「ほらよ」
「えっ」
黒田さんがフードを引っ張ると、下ろしていたフードがモゾモゾ蠢きラスカルが出てきた。落ちたらどうしようと、思わず受け止める手を差し出してしまう。みゃーみゃー鳴いて、黒田さんの背中を一生懸命這い上がり、肩周りに落ち着く。私はいらなかった手を、ちょっと残念な気持ちで下ろした。黄色のアライグマはこちらを見てみゃーと鳴いた。ら、ラスカル!
「触りたかったんだろ」
緊張でガチガチになってる私をしゃがませてから、黒田さんはラスカルを差し出した。特徴的な丸い瞳と半開きの口で、呑気にこちらを見ている。
「みゃー」
「ほ、本物だ……!」
「スタッフの人に聞いたらいいって。お前、羨ましそうに見てるから……」
「う、嬉しいです……!」
「ほらよ」
抱いてみろと寄越されて、恐る恐る手を伸ばす。ふわふわの毛、まるまるとした姿。抱えてみれば、重みを感じるからだ。
「かわいい……」
「だろ?」
戯れる選手たちが羨ましかったのは本当。ただ、小さい頃にみたアニメを思い出してちょっと怖かった。仲良しだったのに、いくつかの事情で一緒に暮らせなくなってしまって、最後は森に返されてしまう。あれは、幼心にもショックだった。
今日のスタジオにもいっぱいいるし、多分あの子と同一の個体ではないようなのだけど……この辺のことを考えると頭が痛くなるのでやめておいた。あの愛らしい黄色のアライグマ全般をラスカルと呼ぶ。そういうことにしておこう。
「あっ」
みゃーと鳴いては首を傾げ、何が不満なのか膝を降りて行ってしまう。なるべく声を抑えようと手のひらで口を塞いでおく。びっくりさせないように。ラスカルは両手を私に着いて、後ろ足で立とうとしていた。こっちを一生懸命見上げてみゃーと鳴く。
「か、かわいい……」
思わず天を仰ぐ。かわいすぎる。ラスカル最高。罪のない、全てのアライグマが幸せに暮らせますように。
スタジオの天井ライトで滲む視界をラスカルに戻そうとしたら、スマホを構えている黒田さんと目があった。
「な」
「やべ」
互いを見つめて硬直する私たちをよそに、カメラ慣れしているラスカルが黒田さんのスマホに向かって、愛らしく鳴いてみせた。みゃー。
