去る春、君の声だけが在る2
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「えーーッ金精峠来てたの!?」
すずこちゃんからメールが来ていた!3日間の中で都合をつけて見にくることは聞いていたが、そっちか!どうりで会えなかったわけだ。
自分の仕事でバタバタしていたせいで、すずこちゃんからのドキドキ大困惑大慌てメールに気づいたのは帰宿後。それも夜になってからだった。大体部員のやり取りはチャットで来るため、メールは見落としていた。帰宿後も3年の先輩方から説教され、そのままミーティングに連れて行かれたから。
いつも冷静沈着で聡明な彼女にしては珍しく荒ぶった文章だ。ドキドキしながら一番下まで目を通す。無事、真波に差し入れは手渡しできたらしい。すごい!
あれは普通に難しいやつだ。走ってる方が、沿道の渡そうとしてる方を認識して速度とか調整しないといけないから。渡す方も置いてかれずにスムーズに渡すのは緊張するもの。
インターハイの舞台で、リベンジ戦、地元開催の去年と違ってはるばる応援に来てくれた幼馴染。勇気を出して差し入れ。それってかなり……!?ゲキアツじゃない!?普通に少女マンガみたいな展開!!
様々な要素が重なった結果、あの地点ではハコガクは競り合いなどもなく走れて、真波は応援の気持ちに応える余裕があった……普通に、運命である。やっぱり走ってても好きな女の子の声援は聞こえるものなんだ!きゃー!こんなの、少女漫画じゃん!
居ても立っても居られない、この興奮はひとりでは受け止めきれない!かといって真波本人に直接「よくやった!」と言えるわけもなく。
廊下を走りたい気持ちを抑えて、大急ぎで追加打ち合わせ中の一室に乗り込む。予想通り、休憩中だった。第二次追加打ち合わせと第三次の間の小休憩。私は追加一次でお役御免となったので後は細々とした調整をして寝るだけだ。今日は第何次までやるんだろう。
スリッパを脱ぎ捨てるようにして畳の部屋に上がり込む。
「レイさん!」
「どうした」
「今試合外の話していい!?」
「何か面白いことがあったか?」
休憩中とあって、足を崩してペットボトルを傾けていたその人はすぐに応じてくれた。他に休憩中の3年の先輩方……シノさんなんかもニヤニヤ遠巻きに眺めているが、「後にしろ」とは言われなかった。私は大興奮でレイさんに飛びつく。
「ねーッレイさん!!今日すずこちゃん来てたの!真波の応援に!」
「オレは会わなかったが、来ていたのは聞いてるよ」
「差し入れ、成功したって!」
「ああ、そうらしいな」
「えっちょ、反応薄っ!マジで少女漫画じゃない!?誰かビデオ回してなかったかな!?」
「落ち着け」
「すごくない!?普通走ってて気づくものなの!?やっぱり特別ってこと!?きゃっ少女漫画みた〜い!」
「落ち着け」
「落ち着けるもんですか!落ち着かせられるもんなら落ち着かせてみなさいよ」
「はあ、わかったわかった」
レイさんはズレてもいないメガネを直した。これは、もうそういうポーズなので。似合うからいい。私が伊達メガネでやってもギャグにしかならないけど(知性の問題で)、レイさんがやると様になるから。
「お前も今日はだいぶ少女漫画してたよ」
「えっ」
「な、落ちついただろ」
「……落ち着いたどころか、血の気が引いて倒れそうだよ」
なんで、どうして、みんなして……みんなどうしてそういうことを言う!?やっぱりあの無様アナウンスを聞かれてたのか!?私は本部で真面目に仕事してただけなのに……!
「ちなみに、ど、どの辺が……」
「泣きそうになってリザルトアナウンスぶち切ったところ」
「不名誉!もっとかわいいところ切り取ってよ!」
やっぱり聞かれてたんじゃん!レギュラー陣のあの反応も、リザルト直後の泉田さんはともかく、後続選手達は聞いていたのだろう。やっぱり……!恥ずかしすぎて頭を抱えてしまう。それで、あんな生温かい反応を……!ギャーッ
レイさんは半笑いだったのが、だんだん肩を震わせて、最早取り繕うつもりもないらしかった。思い出し笑いするな!見守ってくれてたはずのシノさん達も爆笑している。
「恥ずかしい!こんなことなら、やらなきゃよかった……!」
「いや、本部で放送代行したのはファインプレーだったよ。相変わらずお前は爪が甘いっていうだけで」
「手厳しー」
「手厳しいも何も、他やったことと言ったら京都伏見に喧嘩売ったことくらいだろ。お前は毎年インハイで京伏相手にトラブル起こすつもりか?もしかして来年もやる気か?」
「ゲッその話は無し!もう散々怒られたから勘弁して!」
レイさんは私が3年幹部トリオに説教されてたのを思い出したのか、「面白いものを見せてもらった」と笑った。爽やかに笑うな!で、笑いすぎてズレたメガネを今度こそ押さえて。
「泉田さんは多分かわいいって言うと思うよ。あの人、お前のアホなとこ全部かわいいと思ってるから」
「レイさん本気で面白がってるだろ!?」
「これに懲りたら、休み明けの考査では赤点取らないように頑張れよ」
「べべべ別に今その話しなくてもいいでしょう!?」
「するさ。お前のアホは肝心なとこで爪が甘いとか、そういう愛嬌の範囲に留めてくれないとオレが困る」
「……インハイ終わったら宿題頑張ります」
「よし」
「で、その……あの……行き詰まったら助けてください……」
「流石にそれは織り込み済みだ」
「レイさんんんん」
取り縋ろうとしたのを容赦なく引っぺがされ、畳に転がされた。後輩マネージャーが畳をコロコロ転がっていく光景に先輩方が爆笑する。今回裏方の先輩たちはレースの前から睡眠時間を削って打ち合わせや調整にかかりきりなので、かなりお疲れだ。レースは後1日残っているが、精神体力ともに限界が近い。普段なら笑わないようなことでも笑えてしまうほど。みんな明日の朝はエナジードリンクのお世話になることだろう。
私も流石に2日目とあって疲れ切っている。あー畳最高。このまま寝れそう……気絶するように落ちて、朝までぐっすり……
「それから」
仰向けで見上げるレイさんは、眼鏡が逆光になっていて表情が読めない。相手が床に転がっていても、先輩達が爆笑していても、説教は続行らしい。
「お前も差し入れとか、恥ずかしがらずにできるように頑張ろうな。思い切って手作りとかどうだ?」
「ぎゃーっ!レイさん私の料理の腕、知ってるくせに!本当にからかってるでしょう!?」
さすが来期参謀、とどめの差し方も心得ている!慌てて畳から飛び起きる羽目になり、それを見た気力体力限界の先輩達がゲラゲラ笑った。
「マネージャー、今年はバレンタイン頼むぞー」
「最後のバレンタインだからな、いい加減黒田を成仏させてやってくれ」
「ちょっと!贅沢言わないでください!」
バレンタインをプロテイン配布で済ませたことは部員達から未だにいじられる。手作りの差し入れなど夢のまた夢である。くそー、敗北濃厚の気配を感じ取り私は撤退するしかない。笑いのリミッターがバカになってる先輩たちに見送られて私は臨時会議室となっている客室を出た。
すずこちゃんからメールが来ていた!3日間の中で都合をつけて見にくることは聞いていたが、そっちか!どうりで会えなかったわけだ。
自分の仕事でバタバタしていたせいで、すずこちゃんからのドキドキ大困惑大慌てメールに気づいたのは帰宿後。それも夜になってからだった。大体部員のやり取りはチャットで来るため、メールは見落としていた。帰宿後も3年の先輩方から説教され、そのままミーティングに連れて行かれたから。
いつも冷静沈着で聡明な彼女にしては珍しく荒ぶった文章だ。ドキドキしながら一番下まで目を通す。無事、真波に差し入れは手渡しできたらしい。すごい!
あれは普通に難しいやつだ。走ってる方が、沿道の渡そうとしてる方を認識して速度とか調整しないといけないから。渡す方も置いてかれずにスムーズに渡すのは緊張するもの。
インターハイの舞台で、リベンジ戦、地元開催の去年と違ってはるばる応援に来てくれた幼馴染。勇気を出して差し入れ。それってかなり……!?ゲキアツじゃない!?普通に少女マンガみたいな展開!!
様々な要素が重なった結果、あの地点ではハコガクは競り合いなどもなく走れて、真波は応援の気持ちに応える余裕があった……普通に、運命である。やっぱり走ってても好きな女の子の声援は聞こえるものなんだ!きゃー!こんなの、少女漫画じゃん!
居ても立っても居られない、この興奮はひとりでは受け止めきれない!かといって真波本人に直接「よくやった!」と言えるわけもなく。
廊下を走りたい気持ちを抑えて、大急ぎで追加打ち合わせ中の一室に乗り込む。予想通り、休憩中だった。第二次追加打ち合わせと第三次の間の小休憩。私は追加一次でお役御免となったので後は細々とした調整をして寝るだけだ。今日は第何次までやるんだろう。
スリッパを脱ぎ捨てるようにして畳の部屋に上がり込む。
「レイさん!」
「どうした」
「今試合外の話していい!?」
「何か面白いことがあったか?」
休憩中とあって、足を崩してペットボトルを傾けていたその人はすぐに応じてくれた。他に休憩中の3年の先輩方……シノさんなんかもニヤニヤ遠巻きに眺めているが、「後にしろ」とは言われなかった。私は大興奮でレイさんに飛びつく。
「ねーッレイさん!!今日すずこちゃん来てたの!真波の応援に!」
「オレは会わなかったが、来ていたのは聞いてるよ」
「差し入れ、成功したって!」
「ああ、そうらしいな」
「えっちょ、反応薄っ!マジで少女漫画じゃない!?誰かビデオ回してなかったかな!?」
「落ち着け」
「すごくない!?普通走ってて気づくものなの!?やっぱり特別ってこと!?きゃっ少女漫画みた〜い!」
「落ち着け」
「落ち着けるもんですか!落ち着かせられるもんなら落ち着かせてみなさいよ」
「はあ、わかったわかった」
レイさんはズレてもいないメガネを直した。これは、もうそういうポーズなので。似合うからいい。私が伊達メガネでやってもギャグにしかならないけど(知性の問題で)、レイさんがやると様になるから。
「お前も今日はだいぶ少女漫画してたよ」
「えっ」
「な、落ちついただろ」
「……落ち着いたどころか、血の気が引いて倒れそうだよ」
なんで、どうして、みんなして……みんなどうしてそういうことを言う!?やっぱりあの無様アナウンスを聞かれてたのか!?私は本部で真面目に仕事してただけなのに……!
「ちなみに、ど、どの辺が……」
「泣きそうになってリザルトアナウンスぶち切ったところ」
「不名誉!もっとかわいいところ切り取ってよ!」
やっぱり聞かれてたんじゃん!レギュラー陣のあの反応も、リザルト直後の泉田さんはともかく、後続選手達は聞いていたのだろう。やっぱり……!恥ずかしすぎて頭を抱えてしまう。それで、あんな生温かい反応を……!ギャーッ
レイさんは半笑いだったのが、だんだん肩を震わせて、最早取り繕うつもりもないらしかった。思い出し笑いするな!見守ってくれてたはずのシノさん達も爆笑している。
「恥ずかしい!こんなことなら、やらなきゃよかった……!」
「いや、本部で放送代行したのはファインプレーだったよ。相変わらずお前は爪が甘いっていうだけで」
「手厳しー」
「手厳しいも何も、他やったことと言ったら京都伏見に喧嘩売ったことくらいだろ。お前は毎年インハイで京伏相手にトラブル起こすつもりか?もしかして来年もやる気か?」
「ゲッその話は無し!もう散々怒られたから勘弁して!」
レイさんは私が3年幹部トリオに説教されてたのを思い出したのか、「面白いものを見せてもらった」と笑った。爽やかに笑うな!で、笑いすぎてズレたメガネを今度こそ押さえて。
「泉田さんは多分かわいいって言うと思うよ。あの人、お前のアホなとこ全部かわいいと思ってるから」
「レイさん本気で面白がってるだろ!?」
「これに懲りたら、休み明けの考査では赤点取らないように頑張れよ」
「べべべ別に今その話しなくてもいいでしょう!?」
「するさ。お前のアホは肝心なとこで爪が甘いとか、そういう愛嬌の範囲に留めてくれないとオレが困る」
「……インハイ終わったら宿題頑張ります」
「よし」
「で、その……あの……行き詰まったら助けてください……」
「流石にそれは織り込み済みだ」
「レイさんんんん」
取り縋ろうとしたのを容赦なく引っぺがされ、畳に転がされた。後輩マネージャーが畳をコロコロ転がっていく光景に先輩方が爆笑する。今回裏方の先輩たちはレースの前から睡眠時間を削って打ち合わせや調整にかかりきりなので、かなりお疲れだ。レースは後1日残っているが、精神体力ともに限界が近い。普段なら笑わないようなことでも笑えてしまうほど。みんな明日の朝はエナジードリンクのお世話になることだろう。
私も流石に2日目とあって疲れ切っている。あー畳最高。このまま寝れそう……気絶するように落ちて、朝までぐっすり……
「それから」
仰向けで見上げるレイさんは、眼鏡が逆光になっていて表情が読めない。相手が床に転がっていても、先輩達が爆笑していても、説教は続行らしい。
「お前も差し入れとか、恥ずかしがらずにできるように頑張ろうな。思い切って手作りとかどうだ?」
「ぎゃーっ!レイさん私の料理の腕、知ってるくせに!本当にからかってるでしょう!?」
さすが来期参謀、とどめの差し方も心得ている!慌てて畳から飛び起きる羽目になり、それを見た気力体力限界の先輩達がゲラゲラ笑った。
「マネージャー、今年はバレンタイン頼むぞー」
「最後のバレンタインだからな、いい加減黒田を成仏させてやってくれ」
「ちょっと!贅沢言わないでください!」
バレンタインをプロテイン配布で済ませたことは部員達から未だにいじられる。手作りの差し入れなど夢のまた夢である。くそー、敗北濃厚の気配を感じ取り私は撤退するしかない。笑いのリミッターがバカになってる先輩たちに見送られて私は臨時会議室となっている客室を出た。
