青く光っている
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土曜日、自転車でちょっと足を伸ばして榛城まで。環境を変えて勉強しようと思ったのだ。毎日家と学校の往復ばかりは気が滅入るから。ここは駐車場の端に手作りサイクルラックの駐輪場もついていてたまに来る。
窓際の席に座れば自転車が見えるのでいたずら・盗難対策も安心。万が一、我がビアンキに何かあれば走っていって止められる。それより先にマスターがカウンターを飛び出していきそうだけど。マスターは自転車好きだから。
昼を過ぎても勉強は全く捗らなかった。目前に控えたロードの方のインターハイのせいだ。
とにかく、コースが長すぎる。3日間一体どこで見ればいいんだろう。陵成のエントリーメンバーが決まってから、私は勉強そっちのけでそればかり考えている。とにかく、情報がなさすぎる。加えて土地勘もない。
私は過去2年のリザルト結果と選手達の因縁にはそこそこ詳しいつもりだし(これは弓射くんにばれるとストーカーの疑い待ったなしなので絶対に知られてはならない)、それから「雉弓射」という選手がどういうやつか知っている。そのアドバンテージがあっても、全然わからない。
弓射くんどこで出るつもりなんだろ。流石に聞くわけにはいかないので私は頭を悩ませている。弓射くん「ココとココとココ」って3日間指定してくれないかな。
「あ」
窓の外、見覚えのある長身が自転車に跨ったまま停止した。そのまま器用に静止して背後を振り返るという高度な芸当をこなしながら、私の白いバイクを凝視している。これが見知らぬ人間だったら走り出す準備をしないといけないけど、あれは間違いなく弓射くんなので、暑そうな窓の外に飛び出すのはやめておいた。
弓射くんは寄って行くことにしたらしく、自転車から降りると、軽々と自転車をラックに引っ掛ける。隣の自転車……私のロードに車体を寄せて、まとめて鍵をかけた。
珍しく制服だな、と思って窓の外の幼馴染を眺める。向こうも外からガラスを覗き込み、店内の私に気づいて破顔した。暑そう。眩しい。ペかーって光を放っているとしか思えない。
「今日来てたんだ」
「うん。弓射くんは学校?」
「そ。土曜講座」
「大変だねー」
「半日机に縛り付けられて、もー限界」
「天気いいから走りたくなっちゃったんでしょ」
「うん」
自転車好きのマスターは当然弓射くんのファンだ。メニューも見ないで注文した弓射くんに、マスターは「お腹空いてる?」と確認した。弓射くんが笑顔で頷いたので、マスターはウキウキしながらキッチンに消えていった。これは大盛りサービスだろうな。
時計を見ると午後1時少し前。
「お昼食べてこなかったの?」
「うん。持ってくるの忘れちゃって」
かわいそう。午前授業で昼ごはんにありつけない苦しみは私もよく知っているので、同情してしまう。弓射くんは空腹と暑さを誤魔化すように一気にお冷を煽る。コップを空にして一言。
「そうだ、バトってきたヨン。先週」
「……?」
「『坂道くん』とそれから『真波くん』。聞いてた通り、強かった」
「えっ3人で?」
「うん」
わっ何それ!聞きたい!インターハイを前にそんなドリームマッチが!?
気になる……「一緒に走ったよ」じゃなくてバトったってことは、多分勝敗がついている。誰が勝ったんだろう?聞いていいのかな、わざわざ自分から言ったってことは、聞いていいんだよね?気になる、すごく気になる……
だってもうすぐに迫ったインターハイには3人とも出るけど、3人並んで走るなんてことはきっとないだろうから……流石にないよね?
「ど、どうだった?」
弓射くんはニコニコ結果報告してくれた。いつ、どこで、急に始まって、それで必死で追いかけたこと。ドキドキしすぎて、「いいな」「すごい」ばっかり言ったと思う。
まさか、インターハイを前にそんなことが……いいな、前哨戦ってことでしょう。いいな〜!見たかった……私もついていけばよかった……「インターハイじゃない3年夏の真波」とかいうある意味一番尖ってキレッキレの男の走り……見たかった……坂道くんはどんな感じだったんだろう。大好きなふたりとの勝負を満喫できたんだろうか、どんな気持ちで走ったんだろう。いいなあ〜!本当に見たかった……
先週私は学外模試で、2日間予備校に缶詰だった。弓射くんが「週末空いてる?」って聞いたのに断ったのはそういう事情だ。私も内部進学狙っている高校3年生なので、流石に毎週遊んでいるわけには行かないのだ。自分の通っている高校が「明早」だと気づいた時は衝撃だったけど、規模の大きな大学だしレジェンド達ともすれ違うことすらほとんどないでしょう……と諦めて内進内定に向けて頑張っている。まあ一応、一応ね?洋南のオープンキャンパスなども行ってみたけど。無意味に理工キャンパスの見学などもしたけど。まあ、大本命は幼少の頃から計画していた内部進学コースなので。
「私が予備校に閉じ込められてる間にそんな激闘があったんだね……」
「そんなに悔しがらなくても、ふたりもインターハイに出るからすぐ見れるヨン」
「……とりあえず今日は奢ってあげるね!強敵相手に健闘したで賞」
「へーえ」
弓射くんの声のトーンが不穏に下がり、瞳はキラリと光った。機嫌を損ねたのではなく、何かが「引っ掛かった」反応だ。ギクっ!
「な、なに」
「やっぱり名前ちゃん的にはそこが『強敵』なんだ?」
「なになになに」
「あのふたりのこと」
ギクーーッ!『やっぱり』ってなんだよやっぱりって!そんなん当たり前でしょ!『連載』的には3年インターハイは、3連覇かけた坂道くんとここで勝つしかない覚悟決まりまくりの真波のラストバトル、そこに割り込むのが3年目にして現れた最強のライバル雉弓射でしょ!?
が、そんなこと正直に言うわけにはいかないので。
「……2連覇と今年優勝大本命選手だよ!?知ってるでしょ、丹貴くんがいっぱい調べてくれてたでしょ!?」
「そうだけど、反応がなあ……」
弓射くんが首を傾げる。
「名前ちゃんって、もしかして未来人だったりする?」
ギクーーーーッ!!
未来人ではない。今となっては、過去しか知らないから。知るはずのない過去を知ってるというだけ。過去の戦績やレースの詳細に詳しいのは、最悪ただのストーカーですむ……不名誉だけど、前世の記憶を口にして彼を惑わす頭のおかしい幼馴染になるよりは100倍マシだ。
なるべく大きくため息を吐いて。弓射くんのとんでも発言には慣れっこですという表情を取り繕って。
「ちがいます。弓射くんあれでしょ、こないだの金曜ロードショー見たんでしょ」
「あはは見たよ、『未来で待ってる』ってやつ」
ドキッとした。私にとっては、もうここは未来だから。
「ああいうロマンチックなのは弓射くんの担当でしょ。私みたいな一般女子高生には未来はわかりません」
今度は弓射くんがため息をついた。わざとらしく、がっかりした風に。
「じゃあ、インターハイの結果はわからないんだ」
「当たり前でしょ」
「楽しみ?」
……何も答えられない。怖いよ。と言えたらどんなによかっただろう。
3日目最後に弓射くんが負けるとわかっていても、怖いものは怖い。
「楽しみだよ。派手に大暴れして表彰台乗りまくり、新規ファン獲得しまくりの弓射くんを見て、後方幼馴染面するんだから」
弓射くん、私これから起こること、何も知らないんだよ。「楽しみ」と口にしたのはきっとあるだろう未来だ。総北とハコガクを圧倒するダークホースとして活躍すること、たくさん女性ファンがつくことくらいならわかる。私じゃなくたって、「弱虫ペダル」のセオリーを知っている人間なら誰だってこのくらいは予想できるだろう。
私、勢いだけで九州までいくけど、レースの最中どこでどんなことが起こるかも、そもそも沿道のどこで待つべきかも、わかんないんだよ。
2年の夏からあんなに京都伏見の戦績を熱心に調べていたのに、3年になってぱったりやめた。弓射くんはどう思っているだろう。
未来なんてわわかんないよ。今の真波がそんなにすごいのも知らなかった。御堂筋って今どうなってるんだろう。私が最後に見にいったレースではほとんど人間を逸脱していたが、あれより「完成」しているのだろうか。坂道くんだって、そこに実力で劣るようなことはないはずだ。坂道3年目のインターハイ。描かれるのはきっとどうやって坂道が勝つか、3連覇までのストーリーだから。
「大丈夫、本番はちゃんと勝つヨン」
はっとして顔を上げると、弓射くんはいつもの通りにっこり笑って見せた。自信満々で、頼もしい。すがるような気持ちで「楽しみにしてるよ」と口にした。
「あのさ、名前ちゃん」
「うん」
「そんなに心配しなくても大丈夫だから」
「うん」
「九州行ったらさ、何かおいしいもの食べよう。何がいいか探しといてくれる?」
「……うん」
グローブ焼けした指先が向かいから伸びてきて、シャーペンを握る私の手を捕まえた。3日間のコースを脳裏に思い描く。平坦も山も、活躍の機会は存分にある。少年漫画の定石通りなら、まずは初日最強のライバルに相応しい大活躍でレースを荒らしまくる。どの選手もその強さに圧倒されることになるだろう。
「……あのね、楽しみなのは本当なの。弓射くんの2冠がかかった大舞台でしょ、一番いいとこで応援したいよ。絶対見逃したくないの」
「……」
「……弓射くん?」
弓射くんは驚いた顔で私を見ていた。まんまるに目を見開いて。
「……どこで見たらいいと思う?私、弓射くんの大活躍するところ見逃したら、多分本当に落ち込むと思う……」
「あはは、コース長いから見る側も難しいよね」
「そうなんだよ……」
小さい子供を宥めるみたいな優しい声で弓射くんは、「大丈夫、そんな絶望することないヨン。3日あるしチャンスはどこかで回ってくるって」と軽く口にした。それじゃダメなんだって……私は深く項垂れた。その後頭部に弓射くんの掌が乗る。慰めより、確実な応援スポットを教えて欲しいと思った。
窓際の席に座れば自転車が見えるのでいたずら・盗難対策も安心。万が一、我がビアンキに何かあれば走っていって止められる。それより先にマスターがカウンターを飛び出していきそうだけど。マスターは自転車好きだから。
昼を過ぎても勉強は全く捗らなかった。目前に控えたロードの方のインターハイのせいだ。
とにかく、コースが長すぎる。3日間一体どこで見ればいいんだろう。陵成のエントリーメンバーが決まってから、私は勉強そっちのけでそればかり考えている。とにかく、情報がなさすぎる。加えて土地勘もない。
私は過去2年のリザルト結果と選手達の因縁にはそこそこ詳しいつもりだし(これは弓射くんにばれるとストーカーの疑い待ったなしなので絶対に知られてはならない)、それから「雉弓射」という選手がどういうやつか知っている。そのアドバンテージがあっても、全然わからない。
弓射くんどこで出るつもりなんだろ。流石に聞くわけにはいかないので私は頭を悩ませている。弓射くん「ココとココとココ」って3日間指定してくれないかな。
「あ」
窓の外、見覚えのある長身が自転車に跨ったまま停止した。そのまま器用に静止して背後を振り返るという高度な芸当をこなしながら、私の白いバイクを凝視している。これが見知らぬ人間だったら走り出す準備をしないといけないけど、あれは間違いなく弓射くんなので、暑そうな窓の外に飛び出すのはやめておいた。
弓射くんは寄って行くことにしたらしく、自転車から降りると、軽々と自転車をラックに引っ掛ける。隣の自転車……私のロードに車体を寄せて、まとめて鍵をかけた。
珍しく制服だな、と思って窓の外の幼馴染を眺める。向こうも外からガラスを覗き込み、店内の私に気づいて破顔した。暑そう。眩しい。ペかーって光を放っているとしか思えない。
「今日来てたんだ」
「うん。弓射くんは学校?」
「そ。土曜講座」
「大変だねー」
「半日机に縛り付けられて、もー限界」
「天気いいから走りたくなっちゃったんでしょ」
「うん」
自転車好きのマスターは当然弓射くんのファンだ。メニューも見ないで注文した弓射くんに、マスターは「お腹空いてる?」と確認した。弓射くんが笑顔で頷いたので、マスターはウキウキしながらキッチンに消えていった。これは大盛りサービスだろうな。
時計を見ると午後1時少し前。
「お昼食べてこなかったの?」
「うん。持ってくるの忘れちゃって」
かわいそう。午前授業で昼ごはんにありつけない苦しみは私もよく知っているので、同情してしまう。弓射くんは空腹と暑さを誤魔化すように一気にお冷を煽る。コップを空にして一言。
「そうだ、バトってきたヨン。先週」
「……?」
「『坂道くん』とそれから『真波くん』。聞いてた通り、強かった」
「えっ3人で?」
「うん」
わっ何それ!聞きたい!インターハイを前にそんなドリームマッチが!?
気になる……「一緒に走ったよ」じゃなくてバトったってことは、多分勝敗がついている。誰が勝ったんだろう?聞いていいのかな、わざわざ自分から言ったってことは、聞いていいんだよね?気になる、すごく気になる……
だってもうすぐに迫ったインターハイには3人とも出るけど、3人並んで走るなんてことはきっとないだろうから……流石にないよね?
「ど、どうだった?」
弓射くんはニコニコ結果報告してくれた。いつ、どこで、急に始まって、それで必死で追いかけたこと。ドキドキしすぎて、「いいな」「すごい」ばっかり言ったと思う。
まさか、インターハイを前にそんなことが……いいな、前哨戦ってことでしょう。いいな〜!見たかった……私もついていけばよかった……「インターハイじゃない3年夏の真波」とかいうある意味一番尖ってキレッキレの男の走り……見たかった……坂道くんはどんな感じだったんだろう。大好きなふたりとの勝負を満喫できたんだろうか、どんな気持ちで走ったんだろう。いいなあ〜!本当に見たかった……
先週私は学外模試で、2日間予備校に缶詰だった。弓射くんが「週末空いてる?」って聞いたのに断ったのはそういう事情だ。私も内部進学狙っている高校3年生なので、流石に毎週遊んでいるわけには行かないのだ。自分の通っている高校が「明早」だと気づいた時は衝撃だったけど、規模の大きな大学だしレジェンド達ともすれ違うことすらほとんどないでしょう……と諦めて内進内定に向けて頑張っている。まあ一応、一応ね?洋南のオープンキャンパスなども行ってみたけど。無意味に理工キャンパスの見学などもしたけど。まあ、大本命は幼少の頃から計画していた内部進学コースなので。
「私が予備校に閉じ込められてる間にそんな激闘があったんだね……」
「そんなに悔しがらなくても、ふたりもインターハイに出るからすぐ見れるヨン」
「……とりあえず今日は奢ってあげるね!強敵相手に健闘したで賞」
「へーえ」
弓射くんの声のトーンが不穏に下がり、瞳はキラリと光った。機嫌を損ねたのではなく、何かが「引っ掛かった」反応だ。ギクっ!
「な、なに」
「やっぱり名前ちゃん的にはそこが『強敵』なんだ?」
「なになになに」
「あのふたりのこと」
ギクーーッ!『やっぱり』ってなんだよやっぱりって!そんなん当たり前でしょ!『連載』的には3年インターハイは、3連覇かけた坂道くんとここで勝つしかない覚悟決まりまくりの真波のラストバトル、そこに割り込むのが3年目にして現れた最強のライバル雉弓射でしょ!?
が、そんなこと正直に言うわけにはいかないので。
「……2連覇と今年優勝大本命選手だよ!?知ってるでしょ、丹貴くんがいっぱい調べてくれてたでしょ!?」
「そうだけど、反応がなあ……」
弓射くんが首を傾げる。
「名前ちゃんって、もしかして未来人だったりする?」
ギクーーーーッ!!
未来人ではない。今となっては、過去しか知らないから。知るはずのない過去を知ってるというだけ。過去の戦績やレースの詳細に詳しいのは、最悪ただのストーカーですむ……不名誉だけど、前世の記憶を口にして彼を惑わす頭のおかしい幼馴染になるよりは100倍マシだ。
なるべく大きくため息を吐いて。弓射くんのとんでも発言には慣れっこですという表情を取り繕って。
「ちがいます。弓射くんあれでしょ、こないだの金曜ロードショー見たんでしょ」
「あはは見たよ、『未来で待ってる』ってやつ」
ドキッとした。私にとっては、もうここは未来だから。
「ああいうロマンチックなのは弓射くんの担当でしょ。私みたいな一般女子高生には未来はわかりません」
今度は弓射くんがため息をついた。わざとらしく、がっかりした風に。
「じゃあ、インターハイの結果はわからないんだ」
「当たり前でしょ」
「楽しみ?」
……何も答えられない。怖いよ。と言えたらどんなによかっただろう。
3日目最後に弓射くんが負けるとわかっていても、怖いものは怖い。
「楽しみだよ。派手に大暴れして表彰台乗りまくり、新規ファン獲得しまくりの弓射くんを見て、後方幼馴染面するんだから」
弓射くん、私これから起こること、何も知らないんだよ。「楽しみ」と口にしたのはきっとあるだろう未来だ。総北とハコガクを圧倒するダークホースとして活躍すること、たくさん女性ファンがつくことくらいならわかる。私じゃなくたって、「弱虫ペダル」のセオリーを知っている人間なら誰だってこのくらいは予想できるだろう。
私、勢いだけで九州までいくけど、レースの最中どこでどんなことが起こるかも、そもそも沿道のどこで待つべきかも、わかんないんだよ。
2年の夏からあんなに京都伏見の戦績を熱心に調べていたのに、3年になってぱったりやめた。弓射くんはどう思っているだろう。
未来なんてわわかんないよ。今の真波がそんなにすごいのも知らなかった。御堂筋って今どうなってるんだろう。私が最後に見にいったレースではほとんど人間を逸脱していたが、あれより「完成」しているのだろうか。坂道くんだって、そこに実力で劣るようなことはないはずだ。坂道3年目のインターハイ。描かれるのはきっとどうやって坂道が勝つか、3連覇までのストーリーだから。
「大丈夫、本番はちゃんと勝つヨン」
はっとして顔を上げると、弓射くんはいつもの通りにっこり笑って見せた。自信満々で、頼もしい。すがるような気持ちで「楽しみにしてるよ」と口にした。
「あのさ、名前ちゃん」
「うん」
「そんなに心配しなくても大丈夫だから」
「うん」
「九州行ったらさ、何かおいしいもの食べよう。何がいいか探しといてくれる?」
「……うん」
グローブ焼けした指先が向かいから伸びてきて、シャーペンを握る私の手を捕まえた。3日間のコースを脳裏に思い描く。平坦も山も、活躍の機会は存分にある。少年漫画の定石通りなら、まずは初日最強のライバルに相応しい大活躍でレースを荒らしまくる。どの選手もその強さに圧倒されることになるだろう。
「……あのね、楽しみなのは本当なの。弓射くんの2冠がかかった大舞台でしょ、一番いいとこで応援したいよ。絶対見逃したくないの」
「……」
「……弓射くん?」
弓射くんは驚いた顔で私を見ていた。まんまるに目を見開いて。
「……どこで見たらいいと思う?私、弓射くんの大活躍するところ見逃したら、多分本当に落ち込むと思う……」
「あはは、コース長いから見る側も難しいよね」
「そうなんだよ……」
小さい子供を宥めるみたいな優しい声で弓射くんは、「大丈夫、そんな絶望することないヨン。3日あるしチャンスはどこかで回ってくるって」と軽く口にした。それじゃダメなんだって……私は深く項垂れた。その後頭部に弓射くんの掌が乗る。慰めより、確実な応援スポットを教えて欲しいと思った。
