去る春、君の声だけが在る2
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言葉で追い詰めようと言葉を放つほど、心臓が痛いのは何故だろう。でも、そんなの今更だ。ずっと痛かった。ずっと俺の前には隼人くんがいて、みんな隼人くんを見てた。家族も友達も、名も知らぬ他人も、名前ちゃんも。
インターハイ2日目。待ちに待った出番……山王との勝負。しかし葦木場さんの声で一度心は冷えて「戦況次第だ、それまで耐えろ」という言いつけをいい子で守る。
かわいい後輩、いい子の悠人のつもりだったのに、予定外の事態で心臓がジクジク痛む。ことが起こったのは、先頭 の勝負がついただろうその時。審判車のスピーカーがざらついたノイズを吐き出した。
勝負の結果を告げたのは、榛名山の運営本部テントにいるはずの名前ちゃんだった。聞き間違えようがない、幼馴染の声。
なんで。どうやって、榛名山のゴールにいるんじゃなかったのか?
固く平坦で冷静な声音は、喜びと動揺を隠すため。最後少し性急にマイクは切られ、黒田さんが笑った。勝利を喜び、京伏を煽るように一瞥。葦木場さんも相好を崩す。
「ありゃ泣いてるな」
「そうだね、泣いちゃうくらい嬉しかったんだろうね……どうした、悠人」
「あ、いえ……苗字センパイ今日運営入ってるって言ってたから、どうしたのかなって思って」
「これも、運営の仕事ってことだろ」
「ツイてるよね、苗字も」
「どうだか。今朝方、運営に専念する!って鼻息荒く出てったのに、雑念入りまくりで今頃キャパオーバー起こしてるぜ」
「そうだユキちゃん、今朝廊下で何騒いでたの」
「あれは聞かなかったことにしろ!」
先輩達と一緒に「そうですね」と笑えればよかったのに、できなかった。葦木場さんが「悠人?」とオレを振り返ったけど、多分あんまりうまく笑えなかった。
羨ましかった、名前ちゃんの賞賛を得られる人が、その勝利を泣くほど喜んでもらえる人が。昨日だって、ゼッケン獲った先輩達に向けた笑顔は見たことないくらい優しかった。
銅橋さんに「獲ってくれてありがと」って笑ってお礼を言って、それでちょっと泣きそうになってるのを見た。
名前ちゃんと山岳ラインで言葉を交わした真波さんも「苗字にしては珍しく喜んでたね」となんてことないように言っていた。
全部、羨ましかった。ずっと。ここに来るより前から。
……そして複雑な心境は見ないふりして。目まぐるしく変わる戦況に振り落とされないように必死で走った。なのにオレは肝心なところで読み違った。
葦木場さんは「箱根学園の勝利のために」と山岳ライン手前で飛び出して、ゼッケンをあっさり回収した。あまりにも、呆気なく、この有利な状況でエースの脚を使い果たして。オレが出なかったから……!
ここからゴールまで逃げ切るだけの距離はなく、代償の大きさなんてオレがいちばん分かっていた。
葦木場さん、オレがいちばん尊敬している先輩。オレに教えてくれた人。
その人に「お前が出ろ」って名前を呼ばれて、どれだけ嬉しかったか!
煽れば煽るほど、憎くて、苦しくて、血が熱く沸騰するようだった。いつも。煽られれば煽られる程、心は冷たく、心臓の奥が痛む。
なのに今日は違った!とんでもなくワクワクして、心臓がドキドキして、こんなに楽しいのは初めてだった。
他校のエースを出し抜く進路変更もフェイントもバッチリ決まって、御堂筋さんがオレを通して去年の隼人くんを見ていることなんて全ッ然気にならなかった。むしろ、隼人くんの存在が1年経ってもこの人に焼きついてるのは気分が良かった。
これからもっともっと驚いてくれるだろう。オレが「隼人の弟」だってこと、きっちり教えてやるよ。目を逸らすどころか、煽る余裕すらあった。だってオレは箱根学園の代表選手で、葦木場さんに任された、今日のゴールを狙う最後の弾丸だから。
ゴール前の攻防はとにかく苦しい。熱いし、痛いし、口の中は血の味がする。これが隼人に教わったのと同じ、スプリントだって気づいたら、涙まで出てきた。化け物みたいな先輩エース達を追って追われて、とんでもなく最高の気分だ。
名前ちゃん、オレ、ハコガク来てよかった。見てるかな、本部テントじゃ見えないかな。見ててほしいな。ずっと隼人ばっかり追っかけてたオレが、今全然違うとこ見て、とにかく必死でがむしゃらに走ってるとこ。
インターハイ2日目。待ちに待った出番……山王との勝負。しかし葦木場さんの声で一度心は冷えて「戦況次第だ、それまで耐えろ」という言いつけをいい子で守る。
かわいい後輩、いい子の悠人のつもりだったのに、予定外の事態で心臓がジクジク痛む。ことが起こったのは、
勝負の結果を告げたのは、榛名山の運営本部テントにいるはずの名前ちゃんだった。聞き間違えようがない、幼馴染の声。
なんで。どうやって、榛名山のゴールにいるんじゃなかったのか?
固く平坦で冷静な声音は、喜びと動揺を隠すため。最後少し性急にマイクは切られ、黒田さんが笑った。勝利を喜び、京伏を煽るように一瞥。葦木場さんも相好を崩す。
「ありゃ泣いてるな」
「そうだね、泣いちゃうくらい嬉しかったんだろうね……どうした、悠人」
「あ、いえ……苗字センパイ今日運営入ってるって言ってたから、どうしたのかなって思って」
「これも、運営の仕事ってことだろ」
「ツイてるよね、苗字も」
「どうだか。今朝方、運営に専念する!って鼻息荒く出てったのに、雑念入りまくりで今頃キャパオーバー起こしてるぜ」
「そうだユキちゃん、今朝廊下で何騒いでたの」
「あれは聞かなかったことにしろ!」
先輩達と一緒に「そうですね」と笑えればよかったのに、できなかった。葦木場さんが「悠人?」とオレを振り返ったけど、多分あんまりうまく笑えなかった。
羨ましかった、名前ちゃんの賞賛を得られる人が、その勝利を泣くほど喜んでもらえる人が。昨日だって、ゼッケン獲った先輩達に向けた笑顔は見たことないくらい優しかった。
銅橋さんに「獲ってくれてありがと」って笑ってお礼を言って、それでちょっと泣きそうになってるのを見た。
名前ちゃんと山岳ラインで言葉を交わした真波さんも「苗字にしては珍しく喜んでたね」となんてことないように言っていた。
全部、羨ましかった。ずっと。ここに来るより前から。
……そして複雑な心境は見ないふりして。目まぐるしく変わる戦況に振り落とされないように必死で走った。なのにオレは肝心なところで読み違った。
葦木場さんは「箱根学園の勝利のために」と山岳ライン手前で飛び出して、ゼッケンをあっさり回収した。あまりにも、呆気なく、この有利な状況でエースの脚を使い果たして。オレが出なかったから……!
ここからゴールまで逃げ切るだけの距離はなく、代償の大きさなんてオレがいちばん分かっていた。
葦木場さん、オレがいちばん尊敬している先輩。オレに教えてくれた人。
その人に「お前が出ろ」って名前を呼ばれて、どれだけ嬉しかったか!
煽れば煽るほど、憎くて、苦しくて、血が熱く沸騰するようだった。いつも。煽られれば煽られる程、心は冷たく、心臓の奥が痛む。
なのに今日は違った!とんでもなくワクワクして、心臓がドキドキして、こんなに楽しいのは初めてだった。
他校のエースを出し抜く進路変更もフェイントもバッチリ決まって、御堂筋さんがオレを通して去年の隼人くんを見ていることなんて全ッ然気にならなかった。むしろ、隼人くんの存在が1年経ってもこの人に焼きついてるのは気分が良かった。
これからもっともっと驚いてくれるだろう。オレが「隼人の弟」だってこと、きっちり教えてやるよ。目を逸らすどころか、煽る余裕すらあった。だってオレは箱根学園の代表選手で、葦木場さんに任された、今日のゴールを狙う最後の弾丸だから。
ゴール前の攻防はとにかく苦しい。熱いし、痛いし、口の中は血の味がする。これが隼人に教わったのと同じ、スプリントだって気づいたら、涙まで出てきた。化け物みたいな先輩エース達を追って追われて、とんでもなく最高の気分だ。
名前ちゃん、オレ、ハコガク来てよかった。見てるかな、本部テントじゃ見えないかな。見ててほしいな。ずっと隼人ばっかり追っかけてたオレが、今全然違うとこ見て、とにかく必死でがむしゃらに走ってるとこ。
