去る春、君の声だけが在る2
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>インハイ直前合宿、部屋割りで揉める2年カルテット
インターハイの宿泊先について、3年マネからの「とにかく早く押さえろ」「なんならコース予想段階で電話をかけ始める」という教えは、初年地元開催で呑気にしてた私とレイさんを震え上がらせた。1年の夏が終わると、レイさんはあーでもないこーでもないとゴール地点がどのあたりか予想して、コース発表の後は目星をつけていた宿に速攻連絡。箱根学園は無事両日ゴールスタート地点に程近い宿舎を抑えることに成功した。さっすがレイさん。頼りになる。寒咲さんも2日目はちょっと遠いけどなんとか周辺を手配したと言っていた。私たちはとりあえず来年のインターハイに向けてひとつ目の仕事を終えたというわけ。それが昨年のこと。
季節は初夏通り過ぎて夏真っ盛り、インハイ目前。自転車部は夏季補習も全部蹴って(代わりに真波は夏休み追加課題が出されることが決まっている)、直前合宿中。昼休憩中、レイさんとインハイ3日間のスケジュールを話し合っていたら、バシさんと真波が帰ってきた。午前に結構遠くまで走りに行くと、戻りは遅くなって昼休憩も短くなりがち。選手はそんな短い時間も惜しんで練習に明け暮れている。
で、ホテルのことだけど。私は両日別部屋を手配してもらったが、今回選手も大部屋に割り振られている。ちなみにレイさんは2年部屋でバシさんと真波が同室と発覚した時点で対策を進めていた。主に耳栓の準備と布団の配置。
真波は隣で何が起きようと……たとえ枕元で寿一くんが皿を回そうと、耳元で東堂さんが山神伝説を熱く語ろうと、気にせず寝るタイプなのであまり心配していない。夜中にふらっと脱走しないように真ん中辺に寝かすくらいでいいだろう。
心配なのはバシさんの方。実は結構繊細タイプ。神経質というか。緊張と疲労といつもと違う環境で、リラックスして安眠とはいかないだろう。そして本人がいちばんそれを気にしている。そしてそのことで突かれるのも嫌。絶賛思春期反抗期だから。
「ねえ」
「あ?」
「……寝れるか心配なら部屋代わろうか、起きれないのが心配なら起こしに行くけど」
恐る恐る提案すると同期トリオが揃ってご飯の器から顔を上げた。あり得ないものを見る目で私を見て、バシさんが唸る。こめかみに青筋が浮いた。
「代わるって、お前はどこに寝るんだよ」
ここでもし「バシさんが出てって空いたスペースで、真波とレイさんに挟まれて寝るよ」とか言ったら殺されるなと思った。さすがに。真面目に考えて、口を開く。
「入り口なら踏込、奥なら広縁。どっちも障子だか襖だか閉められるよね?」
「うーん」
真波も唸る。「そうしなよ」くらいのテンションかと思ったら、なんとも言えない微妙な顔をしている。
「閉めたとて……」
レイさんも唸る。そんなにまずいか。私としては選手が寝不足で走る方がまずいと思うんだけど。不満でいっぱいの私の顔を見て、真波が苦笑した。珍しいな。最近は小野田との再戦が近いせいか、ピリピリ通り越してビリビリしてるから。ただ、道端で喧嘩する散歩中の犬を見るような、同級生と喧嘩する悠人を見るような、生暖かい感じの微笑だ。なんだその顔。
「普通に大問題じゃない?」
「そうだろうか。私は選手が寝れないことの方が大問題だと思うんだけど!」
ポヤポヤの真波に握り拳で反論するも、返ってきたのは同期3人の重たい沈黙。バシさんがいちばんに復活すると机を殴って立ち上がる。後ろのテーブルでご飯食べてた1年生がわけもわからず悲鳴を上げた。
「ちょっと!」
私の抗議は怖い顔で黙殺された。レイさんも真波も呑気にバシさんを見上げて。
「……お前死ぬぞ!」
「顔こわっ!『オレが殺す!』ってこと!?」
「その可能性もなくはないが……まあ、若い男女が同じ部屋で……という懸念もあるだろう。オレがいる以上「何も」起こさせるつもりはないから安心して寝ろよ、正清。真波も」
「ねえよ!起こってたまるか!」
「レイさんその若い男女〜みたいな言い方キモい!」
「キモいとか言うな」
レイさんは言葉の棘がいつにも増してすごいし、バシさんも周囲を見渡して威圧しまくりだ。真波は興味を失ったのか昼食を再開した。流石にそりゃないでしょうと周りを見渡しても、同期はみんな「早く銅橋座らせてくれ〜」「アイツ最近ピリピリしてんだよ勘弁してくれよ〜」と言わんばかりの顔で首を振り、視線を逸らす。同期に味方なし!
「あのね、流石にインターハイで馬鹿なことしでかす部員はいないよ。ふたりとも、わかってるでしょ」
「インターハイだからって男子部員に混じって寝る女子部員も『流石に』いねえよ」
「それはそうだが、箱根学園の名を背負って走る正清の安眠を思うなら、お前は大人しく別部屋で寝るべきだ」
「ぐっ」
「そうそう」
真波が呑気に同意して、アホ毛がほよんとエアコンの風に揺れた。夏の風物詩。選手にそう言われると、従うしかないんだよ。
「でも、本当にダメだったら言ってよ。真波もね」
「うん……」
「……」
諦められなくてなお言い募る私に真波もバシさんもいい顔をしなかった。仕方ない、女子だから。分別のついてない自分が悪い。でもこういう時、自分だけ女子なのが本当に嫌なんだよな。しょんぼり俯くと頭のてっぺんに手のひらの感触。
「余計なこと考えんな。お前はいつも通りヘラヘラしてろ」
「言い方ァ!」
見上げた顔がちょっとでも照れてたりしたら、からかいようがあったのに、バシさんはぜんっぜん照れてなかったから私の負け。一応反論だけして、大人しく昼食を再開する。向かいのレイさんと隣の真波がおかしそうに肩を震わせたので私はいっそう不機嫌になった。いいよね、アンタたちは!
インターハイの宿泊先について、3年マネからの「とにかく早く押さえろ」「なんならコース予想段階で電話をかけ始める」という教えは、初年地元開催で呑気にしてた私とレイさんを震え上がらせた。1年の夏が終わると、レイさんはあーでもないこーでもないとゴール地点がどのあたりか予想して、コース発表の後は目星をつけていた宿に速攻連絡。箱根学園は無事両日ゴールスタート地点に程近い宿舎を抑えることに成功した。さっすがレイさん。頼りになる。寒咲さんも2日目はちょっと遠いけどなんとか周辺を手配したと言っていた。私たちはとりあえず来年のインターハイに向けてひとつ目の仕事を終えたというわけ。それが昨年のこと。
季節は初夏通り過ぎて夏真っ盛り、インハイ目前。自転車部は夏季補習も全部蹴って(代わりに真波は夏休み追加課題が出されることが決まっている)、直前合宿中。昼休憩中、レイさんとインハイ3日間のスケジュールを話し合っていたら、バシさんと真波が帰ってきた。午前に結構遠くまで走りに行くと、戻りは遅くなって昼休憩も短くなりがち。選手はそんな短い時間も惜しんで練習に明け暮れている。
で、ホテルのことだけど。私は両日別部屋を手配してもらったが、今回選手も大部屋に割り振られている。ちなみにレイさんは2年部屋でバシさんと真波が同室と発覚した時点で対策を進めていた。主に耳栓の準備と布団の配置。
真波は隣で何が起きようと……たとえ枕元で寿一くんが皿を回そうと、耳元で東堂さんが山神伝説を熱く語ろうと、気にせず寝るタイプなのであまり心配していない。夜中にふらっと脱走しないように真ん中辺に寝かすくらいでいいだろう。
心配なのはバシさんの方。実は結構繊細タイプ。神経質というか。緊張と疲労といつもと違う環境で、リラックスして安眠とはいかないだろう。そして本人がいちばんそれを気にしている。そしてそのことで突かれるのも嫌。絶賛思春期反抗期だから。
「ねえ」
「あ?」
「……寝れるか心配なら部屋代わろうか、起きれないのが心配なら起こしに行くけど」
恐る恐る提案すると同期トリオが揃ってご飯の器から顔を上げた。あり得ないものを見る目で私を見て、バシさんが唸る。こめかみに青筋が浮いた。
「代わるって、お前はどこに寝るんだよ」
ここでもし「バシさんが出てって空いたスペースで、真波とレイさんに挟まれて寝るよ」とか言ったら殺されるなと思った。さすがに。真面目に考えて、口を開く。
「入り口なら踏込、奥なら広縁。どっちも障子だか襖だか閉められるよね?」
「うーん」
真波も唸る。「そうしなよ」くらいのテンションかと思ったら、なんとも言えない微妙な顔をしている。
「閉めたとて……」
レイさんも唸る。そんなにまずいか。私としては選手が寝不足で走る方がまずいと思うんだけど。不満でいっぱいの私の顔を見て、真波が苦笑した。珍しいな。最近は小野田との再戦が近いせいか、ピリピリ通り越してビリビリしてるから。ただ、道端で喧嘩する散歩中の犬を見るような、同級生と喧嘩する悠人を見るような、生暖かい感じの微笑だ。なんだその顔。
「普通に大問題じゃない?」
「そうだろうか。私は選手が寝れないことの方が大問題だと思うんだけど!」
ポヤポヤの真波に握り拳で反論するも、返ってきたのは同期3人の重たい沈黙。バシさんがいちばんに復活すると机を殴って立ち上がる。後ろのテーブルでご飯食べてた1年生がわけもわからず悲鳴を上げた。
「ちょっと!」
私の抗議は怖い顔で黙殺された。レイさんも真波も呑気にバシさんを見上げて。
「……お前死ぬぞ!」
「顔こわっ!『オレが殺す!』ってこと!?」
「その可能性もなくはないが……まあ、若い男女が同じ部屋で……という懸念もあるだろう。オレがいる以上「何も」起こさせるつもりはないから安心して寝ろよ、正清。真波も」
「ねえよ!起こってたまるか!」
「レイさんその若い男女〜みたいな言い方キモい!」
「キモいとか言うな」
レイさんは言葉の棘がいつにも増してすごいし、バシさんも周囲を見渡して威圧しまくりだ。真波は興味を失ったのか昼食を再開した。流石にそりゃないでしょうと周りを見渡しても、同期はみんな「早く銅橋座らせてくれ〜」「アイツ最近ピリピリしてんだよ勘弁してくれよ〜」と言わんばかりの顔で首を振り、視線を逸らす。同期に味方なし!
「あのね、流石にインターハイで馬鹿なことしでかす部員はいないよ。ふたりとも、わかってるでしょ」
「インターハイだからって男子部員に混じって寝る女子部員も『流石に』いねえよ」
「それはそうだが、箱根学園の名を背負って走る正清の安眠を思うなら、お前は大人しく別部屋で寝るべきだ」
「ぐっ」
「そうそう」
真波が呑気に同意して、アホ毛がほよんとエアコンの風に揺れた。夏の風物詩。選手にそう言われると、従うしかないんだよ。
「でも、本当にダメだったら言ってよ。真波もね」
「うん……」
「……」
諦められなくてなお言い募る私に真波もバシさんもいい顔をしなかった。仕方ない、女子だから。分別のついてない自分が悪い。でもこういう時、自分だけ女子なのが本当に嫌なんだよな。しょんぼり俯くと頭のてっぺんに手のひらの感触。
「余計なこと考えんな。お前はいつも通りヘラヘラしてろ」
「言い方ァ!」
見上げた顔がちょっとでも照れてたりしたら、からかいようがあったのに、バシさんはぜんっぜん照れてなかったから私の負け。一応反論だけして、大人しく昼食を再開する。向かいのレイさんと隣の真波がおかしそうに肩を震わせたので私はいっそう不機嫌になった。いいよね、アンタたちは!
