去る春、君の声だけが在る2
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ひと足先にホテルに着いて挨拶、受付、伝達事項再確認、それからちらほらやってきた部員に鍵の受け渡し。この後選手が戻ってきたら怪我の手当てとミーティング、それから体とバイクのメンテナンス。やることだらけ。一息つくのはまだ少し先になりそうだ。
ホテルの人との挨拶の中で「別館には千葉代表が泊まっている」ことは把握していたが、わざわざ選手に言う必要はないだろう。だって相手は総北だし……喧嘩にならないと言い切れないのが恐ろしいところだ。流石にその気力体力もないと信じたい。
部員は大体学年ごとで部屋を分けた。しかし「今日泊まりに来る、箱根学園の子がゴール前で大変な怪我を負った」ニュースはホテルまで届いたらしく、私が到着した時には御厚意で洋室をひとつ用意してもらえることになっていた。せっかくのご厚意、黒田さんにはしっかり身体を休めてもらわなければ。
大体の手配が終わって、そろそろみんな帰ってきたかなと廊下に出たら、聞き覚えのある賑やかな声。朝ぶり、いや山岳ラインで一瞬会えたけど、もう長いこと会ってなかったみたいに感じる。表彰式を終えた部員たちの到着だった。真っ先に見つけた3年生の先輩方はどこにそんな元気があるのか、大いに揉めていた。目当ての人物を見つけて、駆け寄る。
「黒田さーん!!ご無事で……ぜっ全然無事じゃない……」
「言うと思った」
「大袈裟なんだよ苗字!ロビーに車椅子あるし、オレだけ部屋も別にされてるしよ!恥ずかしくて顔真っ赤だわ!」
「お言葉ですが、こっちは連絡もらって真っ青になりました!……ヤバい本当に泣きそう」
「生きてるわ!!泣くな!勝手に殺すな!」
いつもみたいに気安くくっつこうとして、でもそれが躊躇われるくらい包帯まみれの傷だらけだった。全部勝ったのに、持てる全てを差し出して手にした勝利だとわかっているのに、あまりにひどい怪我で言葉に詰まる。黒田さんはわざとらしく盛大にため息をついて、私の肩を叩く。葦木場さんをビシッと指差して。
「まず今日の成果を祝えよ、そしたら明日のレース計画の組み直しだ」
「あっそうです!葦木場さんおめでとうございます!」
「ありがと。バッシーの表彰式見れなくて残念だったね」
「そうなんです、でも動画もらえたので」
「塔ちゃんなんか、ステージからでもわかるくらいめちゃくちゃドヤ顔してたよ。見せたかったな」
「それは見たかったです」
「見なくていい」
泉田さんに小突かれるのは珍しいな。流石に初日完全勝利とあって浮かれているのかも。疑問符浮かべて顔を見たら、「やることがまだ残ってるんじゃないのか」と顔の向きを戻されてしまった。本当に珍しい。
「あ、3年部屋こっちです!荷物置きましょう。向かいが黒田さんで、その奥が私です」
「おお、結構広いな」
「そうだ、葦木場さんとこ布団増やしてもらったんで……」
「助かるよ」
一部敷布団を増やしてもらうのは予めお願いしてある。受付の時にもちゃんと伝わってることは確認済みだ。バシさんも葦木場さんも、普通の布団じゃ大体足がはみ出てしまうので。諦めてそのまま寝ることも多いけど、今回はとりあえず2枚くっつけてもらうことにしていた。宿の人は身長2メートル越えの選手に驚いていたが、快く対応してくれた。
で、スパンと勢いよく襖を開けて、真っ先に飛び込んできたもの。20畳ない部屋の1番奥に、ちんまりとカップル敷きの布団。2枚横並びで枕が真ん中に。
「んなっ」
「わー仲良し枕」
「……っ」
私が声をあげるより先に泉田さんの面食らった反応。葦木場さんの呑気な反応、黒田さんは盛大にむせた……傷だらけの体に響くだろうに大きく咳き込んで。
「な、なんでーーーっ!」
「うおっ」
一方私は絶叫と共に膝から崩れ落ちる。朝から張り詰めていた緊張の糸が一気に切れたような感じがした。立ち直りの早い黒田さんが、踏込で丸まった私を立ち上がらせようと肩に手を置いたが、もう一歩も動けない。もう無理、もう立てません。とりあえず私のせいじゃないので半泣きで弁解。
「ちが、違うんです、名前そんなつもりじゃなくて!ちゃんとお願いしたんです!202センチの人が寝ますって!そうなのねーって言ってた!」
「あー宿の人、間違えちゃったんだね」
葦木場さんが長い足で私を避け、畳に踏み入った。枕を払い、布団を1枚引きずって、2枚の布団をT字に配置した。これで私が想定していた通りの敷き方になった。葦木場さんは寝相がアレで丸まって寝るか、両手を開いて寝ることが多い、らしい。黒田さん曰く。
自分で敷き直した布団を見下ろして、葦木場さんのしみじみとしたため息。声色はいつも通り物思いに耽るように、静か。私達はそれに聞き入って。
「インターハイに来てさ、彼女と仲良く寝るような余裕のあるヤツ……いるわけないのにね」
「「ぐっ……」」
葦木場さんのド天然が幼馴染コンビの心を抉った。黒田さんなど、傷が痛むのか包帯の巻かれた胸の辺りをおさえている。
なお今年のハコガクレギュラー陣は全員彼女なし!ここにいない3人にもエースの天然発言がクリティカルヒットすることだろう。まあ、いい感じに力が抜けてよかったんじゃないですか。インターハイはあと2日あることですし。少しはリラックスしないと。
ホテルの人との挨拶の中で「別館には千葉代表が泊まっている」ことは把握していたが、わざわざ選手に言う必要はないだろう。だって相手は総北だし……喧嘩にならないと言い切れないのが恐ろしいところだ。流石にその気力体力もないと信じたい。
部員は大体学年ごとで部屋を分けた。しかし「今日泊まりに来る、箱根学園の子がゴール前で大変な怪我を負った」ニュースはホテルまで届いたらしく、私が到着した時には御厚意で洋室をひとつ用意してもらえることになっていた。せっかくのご厚意、黒田さんにはしっかり身体を休めてもらわなければ。
大体の手配が終わって、そろそろみんな帰ってきたかなと廊下に出たら、聞き覚えのある賑やかな声。朝ぶり、いや山岳ラインで一瞬会えたけど、もう長いこと会ってなかったみたいに感じる。表彰式を終えた部員たちの到着だった。真っ先に見つけた3年生の先輩方はどこにそんな元気があるのか、大いに揉めていた。目当ての人物を見つけて、駆け寄る。
「黒田さーん!!ご無事で……ぜっ全然無事じゃない……」
「言うと思った」
「大袈裟なんだよ苗字!ロビーに車椅子あるし、オレだけ部屋も別にされてるしよ!恥ずかしくて顔真っ赤だわ!」
「お言葉ですが、こっちは連絡もらって真っ青になりました!……ヤバい本当に泣きそう」
「生きてるわ!!泣くな!勝手に殺すな!」
いつもみたいに気安くくっつこうとして、でもそれが躊躇われるくらい包帯まみれの傷だらけだった。全部勝ったのに、持てる全てを差し出して手にした勝利だとわかっているのに、あまりにひどい怪我で言葉に詰まる。黒田さんはわざとらしく盛大にため息をついて、私の肩を叩く。葦木場さんをビシッと指差して。
「まず今日の成果を祝えよ、そしたら明日のレース計画の組み直しだ」
「あっそうです!葦木場さんおめでとうございます!」
「ありがと。バッシーの表彰式見れなくて残念だったね」
「そうなんです、でも動画もらえたので」
「塔ちゃんなんか、ステージからでもわかるくらいめちゃくちゃドヤ顔してたよ。見せたかったな」
「それは見たかったです」
「見なくていい」
泉田さんに小突かれるのは珍しいな。流石に初日完全勝利とあって浮かれているのかも。疑問符浮かべて顔を見たら、「やることがまだ残ってるんじゃないのか」と顔の向きを戻されてしまった。本当に珍しい。
「あ、3年部屋こっちです!荷物置きましょう。向かいが黒田さんで、その奥が私です」
「おお、結構広いな」
「そうだ、葦木場さんとこ布団増やしてもらったんで……」
「助かるよ」
一部敷布団を増やしてもらうのは予めお願いしてある。受付の時にもちゃんと伝わってることは確認済みだ。バシさんも葦木場さんも、普通の布団じゃ大体足がはみ出てしまうので。諦めてそのまま寝ることも多いけど、今回はとりあえず2枚くっつけてもらうことにしていた。宿の人は身長2メートル越えの選手に驚いていたが、快く対応してくれた。
で、スパンと勢いよく襖を開けて、真っ先に飛び込んできたもの。20畳ない部屋の1番奥に、ちんまりとカップル敷きの布団。2枚横並びで枕が真ん中に。
「んなっ」
「わー仲良し枕」
「……っ」
私が声をあげるより先に泉田さんの面食らった反応。葦木場さんの呑気な反応、黒田さんは盛大にむせた……傷だらけの体に響くだろうに大きく咳き込んで。
「な、なんでーーーっ!」
「うおっ」
一方私は絶叫と共に膝から崩れ落ちる。朝から張り詰めていた緊張の糸が一気に切れたような感じがした。立ち直りの早い黒田さんが、踏込で丸まった私を立ち上がらせようと肩に手を置いたが、もう一歩も動けない。もう無理、もう立てません。とりあえず私のせいじゃないので半泣きで弁解。
「ちが、違うんです、名前そんなつもりじゃなくて!ちゃんとお願いしたんです!202センチの人が寝ますって!そうなのねーって言ってた!」
「あー宿の人、間違えちゃったんだね」
葦木場さんが長い足で私を避け、畳に踏み入った。枕を払い、布団を1枚引きずって、2枚の布団をT字に配置した。これで私が想定していた通りの敷き方になった。葦木場さんは寝相がアレで丸まって寝るか、両手を開いて寝ることが多い、らしい。黒田さん曰く。
自分で敷き直した布団を見下ろして、葦木場さんのしみじみとしたため息。声色はいつも通り物思いに耽るように、静か。私達はそれに聞き入って。
「インターハイに来てさ、彼女と仲良く寝るような余裕のあるヤツ……いるわけないのにね」
「「ぐっ……」」
葦木場さんのド天然が幼馴染コンビの心を抉った。黒田さんなど、傷が痛むのか包帯の巻かれた胸の辺りをおさえている。
なお今年のハコガクレギュラー陣は全員彼女なし!ここにいない3人にもエースの天然発言がクリティカルヒットすることだろう。まあ、いい感じに力が抜けてよかったんじゃないですか。インターハイはあと2日あることですし。少しはリラックスしないと。
