去る春、君の声だけが在る2
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>2年4月頃のレースにて
箱根学園自転車競技部公式インスタアカウントがある。メカの先輩でインスタ黎明期から熱心にやっていた人がいるので、その人を中心に選手以外の複数名で運営している。去年は「オレの勇姿を発信する手段」として東堂さんが強い関心を示していたが、当時2年のアカウント担当の先輩は頑なに関わらせようとしなかった。代わりに「東堂様」の勇姿はたくさんアップされ、その度にファンクラブからたくさんハートがついた。ご満悦の東堂さんはいつしか運営に関わろうとはしなくなった。
……自転車部公式インスタアカウントには、普通に選手宛のエロDMがくる。なので、選手には管理画面を見せるわけにはいかない。これがメカの先輩が絶対東堂さんを関わらせたくなかった理由。憧れのレギュラー陣相手にエロDMがくると知った日は泣きたかったけど、今は許すまじという強い意思でブロックしている。隼人くん宛のエロDMを闇に屠ったあの日から私は怖いものなしになった。残念だが貴様が隼人くんへ送った長文エロメッセージは、「愛しの新開クン」の目に届くことなく、死ぬほど邪魔な存在であろう女子マネージャーに阻まれている。憐れ!キモいおじさんは死になさい!……そういう気持ちで淡々とブロックしている。
そういう事情もあって、選手は現場での「モテ具合』でファン事情を測るしかない。なので現場で『モテない』バシさんは沿道のファンのことを仕込みだと思っていたらしい。ンなわけある!?レース前はあんたがピリピリしてるから声かけないようにしてんの!!ファンの鑑!天然ものですよ!みんな歴としたバシさんのファンですよ!と言ってもあまり信じていないらしかった。まあ、真波とか東堂さんのファンばっかり見てきたから路線が違うとは思うよね。
で、だ。4月。気温が予想外に高く、バシさんも汗だくで戻ってきたレース終わり。とりあえず持ってきたペットボトルを渡したら飲まずに頭からかけてた。お腹冷えるからあんまりたくさんかけない方がいいらしいんだけど、「もっと!」と所望するから最後は2リットルのやつをかけてやった。しゃがんでもらわないと頭に届かないので、なるべく高くペットボトル掲げつつ頑張って頭も下げてもらったんだけど「アサガオの水やりか!」と黒田さんから言われてしまった。アサガオにしてはデカい。
バシさんは例の如く口の中をジャリジャリさせて帰ってきたので、水道まで連れてった。顔と口洗ってるのに付き添って……いや付き添いというか、こっちが好き勝手今日のレースについて感想を喋ってるだけなんだけど。……そろそろかな。背中のポッケに引っ掛けてあるタオルをそっと奪う。
「苗字さん!」
バタバタと一般人複数名が駆け寄ってきた。何者かとバシさんが肩を揺らしたが、「知り合いだから大丈夫」と声をかけた。
「苗字さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。バシさんの応援ありがとうございました!」
「で、持ってきましたよ!これでいいんですよね、カンペ!『ガンバレ!銅橋』です!」
「わー!ありがとうございます!これです!体育祭で使わせてもらいます」
「新しいのでなくて良かったんですか?」
「ええ、レースで使ったやつが良くて」
バタバタと風に煽られる応援カンペを受け取り、ファイルにとじる。書道コンクールにもバリバリ出してるような字の上手いファン……長内さんが書いてくれた「ガンバレ!銅橋」カンペ。墨汁の飛沫まで見事。うちわや幕と違って紙のカンペは使い捨てて毎回新作を出すそうで、今度の体育祭に使いたくて1枚譲ってもらう約束をしていた。
バシさんがタオルを探すように腰のポッケに手を突っ込んだ。一生懸命探るけどどこにも無い。残念、そこにタオルはありません。私が持ってるからね。
「てか皆さん今日見ました!?見れました!?」
「見たに決まってるっ!」
「銅橋正清!!やっぱヤバいッス」
「オレらもう、大盛り上がり!」
「今日最後ヤバくて、ギャーギャー叫んじゃいました」
「ボクも!うるさく無かったかなあ」
「走ってる時だとそんな気にしてないですよ、バシさんも喜んでますよ」
「ほ、ほんとかな〜」
「ハイ!また良い写真撮れたら送ってくださいね!プリントして部屋に貼るんで」
「ちょっと選んで送ります……!アッそうだ、幕!横断幕インハイ用に新しくしたくて、なにがいいかなとご相談を」
「新しく!?新作ということですか!」
「はい!本人見てなくても描くんで!」
「いや見てますよ、ね。バシさん」
「え!?!?!?」
私に背中をどつかれて、気まずそうにバシさんが水道から顔を上げた。タオルを私に取られて、顔が拭けなくて困っていた。私はニヤニヤしながらタオルを手渡す。
「はい、どーぞ」
「どうも」
「やりやがったな」と言わんばかりに鋭い眼光が私を睨む。全然怖く無いけどね!
一方ファンの人達はまさか本人の前で騒いでいると思わなかったのか、顔面蒼白になった
「ど、ど……」
「あ、バシさん、こちら長内くん。バシさんのファンでいつもレースに横断幕とか持ってきてくれてます!今日はカンペ譲ってもらったよ」
「……いつもありがとうございます」
「いえ!!あの!オレたち!応援してます」
「知ってる」
バシさんは震えるファンの皆様をジッと見下ろし、素っ気なく「先に戻る」と言ってそのまま水道を去った。残されたファンの人たちはパニックになった。あまりに思い通りにことが運び、私は笑いが止まらない。レース中に作戦全部バチっと決まった時の黒田さんもきっとこういう気持ちだろうなと思った。たまに泉田さんとふたりで高笑いしてるのを見るから。
「あの、あの……怒ってました!?」
「照れてましたね!!!!!あれは!!」
「いつもありがとうって言われましたよ!?」
「超デカい!見下ろされてました!」
「見下ろされてましたね」
「いや、オレ、認知されてました!?」
「されてましたね」
「やっぱ怒ってないですか!?」
「あれは照れてますね」
「本当に!?」
2年目の付き合いの私が言うんだから間違いないですよ。一応私、学校じゃニコイチ扱いですから!
そういうわけでバシさんは沿道のファンが仕込みでないことを知った。ますます自信もついて、それから応援してくれる人に応えたいという気持ちも生まれたように思う。気性は荒いが基本いいヤツなのだ。
そしてバシさんはファンの人が送ってくれる写真を私がプリントして自室に飾ったり勝手にお母様にも送ったりしてることも知った。当然お怒りで、今にも女子寮に乗り込んできそうな勢いだった。が、「大事な宝物なの!怒らないで!怒らないでよ〜!!取らないでよ〜!」と泣いて縋って部屋突入は見逃してもらった。私が泣いてしがみついた途端にバシさんの怒りは鎮火して、あとは丸め込むだけなので簡単だった。乙女の涙に弱い男!友達に甘い男!そして私の部屋はますます写真が増えた。インハイに向けてますます練習に熱の入るバシさんは当然知らない。フッ、計画通り……
箱根学園自転車競技部公式インスタアカウントがある。メカの先輩でインスタ黎明期から熱心にやっていた人がいるので、その人を中心に選手以外の複数名で運営している。去年は「オレの勇姿を発信する手段」として東堂さんが強い関心を示していたが、当時2年のアカウント担当の先輩は頑なに関わらせようとしなかった。代わりに「東堂様」の勇姿はたくさんアップされ、その度にファンクラブからたくさんハートがついた。ご満悦の東堂さんはいつしか運営に関わろうとはしなくなった。
……自転車部公式インスタアカウントには、普通に選手宛のエロDMがくる。なので、選手には管理画面を見せるわけにはいかない。これがメカの先輩が絶対東堂さんを関わらせたくなかった理由。憧れのレギュラー陣相手にエロDMがくると知った日は泣きたかったけど、今は許すまじという強い意思でブロックしている。隼人くん宛のエロDMを闇に屠ったあの日から私は怖いものなしになった。残念だが貴様が隼人くんへ送った長文エロメッセージは、「愛しの新開クン」の目に届くことなく、死ぬほど邪魔な存在であろう女子マネージャーに阻まれている。憐れ!キモいおじさんは死になさい!……そういう気持ちで淡々とブロックしている。
そういう事情もあって、選手は現場での「モテ具合』でファン事情を測るしかない。なので現場で『モテない』バシさんは沿道のファンのことを仕込みだと思っていたらしい。ンなわけある!?レース前はあんたがピリピリしてるから声かけないようにしてんの!!ファンの鑑!天然ものですよ!みんな歴としたバシさんのファンですよ!と言ってもあまり信じていないらしかった。まあ、真波とか東堂さんのファンばっかり見てきたから路線が違うとは思うよね。
で、だ。4月。気温が予想外に高く、バシさんも汗だくで戻ってきたレース終わり。とりあえず持ってきたペットボトルを渡したら飲まずに頭からかけてた。お腹冷えるからあんまりたくさんかけない方がいいらしいんだけど、「もっと!」と所望するから最後は2リットルのやつをかけてやった。しゃがんでもらわないと頭に届かないので、なるべく高くペットボトル掲げつつ頑張って頭も下げてもらったんだけど「アサガオの水やりか!」と黒田さんから言われてしまった。アサガオにしてはデカい。
バシさんは例の如く口の中をジャリジャリさせて帰ってきたので、水道まで連れてった。顔と口洗ってるのに付き添って……いや付き添いというか、こっちが好き勝手今日のレースについて感想を喋ってるだけなんだけど。……そろそろかな。背中のポッケに引っ掛けてあるタオルをそっと奪う。
「苗字さん!」
バタバタと一般人複数名が駆け寄ってきた。何者かとバシさんが肩を揺らしたが、「知り合いだから大丈夫」と声をかけた。
「苗字さん、お疲れ様です」
「お疲れ様です。バシさんの応援ありがとうございました!」
「で、持ってきましたよ!これでいいんですよね、カンペ!『ガンバレ!銅橋』です!」
「わー!ありがとうございます!これです!体育祭で使わせてもらいます」
「新しいのでなくて良かったんですか?」
「ええ、レースで使ったやつが良くて」
バタバタと風に煽られる応援カンペを受け取り、ファイルにとじる。書道コンクールにもバリバリ出してるような字の上手いファン……長内さんが書いてくれた「ガンバレ!銅橋」カンペ。墨汁の飛沫まで見事。うちわや幕と違って紙のカンペは使い捨てて毎回新作を出すそうで、今度の体育祭に使いたくて1枚譲ってもらう約束をしていた。
バシさんがタオルを探すように腰のポッケに手を突っ込んだ。一生懸命探るけどどこにも無い。残念、そこにタオルはありません。私が持ってるからね。
「てか皆さん今日見ました!?見れました!?」
「見たに決まってるっ!」
「銅橋正清!!やっぱヤバいッス」
「オレらもう、大盛り上がり!」
「今日最後ヤバくて、ギャーギャー叫んじゃいました」
「ボクも!うるさく無かったかなあ」
「走ってる時だとそんな気にしてないですよ、バシさんも喜んでますよ」
「ほ、ほんとかな〜」
「ハイ!また良い写真撮れたら送ってくださいね!プリントして部屋に貼るんで」
「ちょっと選んで送ります……!アッそうだ、幕!横断幕インハイ用に新しくしたくて、なにがいいかなとご相談を」
「新しく!?新作ということですか!」
「はい!本人見てなくても描くんで!」
「いや見てますよ、ね。バシさん」
「え!?!?!?」
私に背中をどつかれて、気まずそうにバシさんが水道から顔を上げた。タオルを私に取られて、顔が拭けなくて困っていた。私はニヤニヤしながらタオルを手渡す。
「はい、どーぞ」
「どうも」
「やりやがったな」と言わんばかりに鋭い眼光が私を睨む。全然怖く無いけどね!
一方ファンの人達はまさか本人の前で騒いでいると思わなかったのか、顔面蒼白になった
「ど、ど……」
「あ、バシさん、こちら長内くん。バシさんのファンでいつもレースに横断幕とか持ってきてくれてます!今日はカンペ譲ってもらったよ」
「……いつもありがとうございます」
「いえ!!あの!オレたち!応援してます」
「知ってる」
バシさんは震えるファンの皆様をジッと見下ろし、素っ気なく「先に戻る」と言ってそのまま水道を去った。残されたファンの人たちはパニックになった。あまりに思い通りにことが運び、私は笑いが止まらない。レース中に作戦全部バチっと決まった時の黒田さんもきっとこういう気持ちだろうなと思った。たまに泉田さんとふたりで高笑いしてるのを見るから。
「あの、あの……怒ってました!?」
「照れてましたね!!!!!あれは!!」
「いつもありがとうって言われましたよ!?」
「超デカい!見下ろされてました!」
「見下ろされてましたね」
「いや、オレ、認知されてました!?」
「されてましたね」
「やっぱ怒ってないですか!?」
「あれは照れてますね」
「本当に!?」
2年目の付き合いの私が言うんだから間違いないですよ。一応私、学校じゃニコイチ扱いですから!
そういうわけでバシさんは沿道のファンが仕込みでないことを知った。ますます自信もついて、それから応援してくれる人に応えたいという気持ちも生まれたように思う。気性は荒いが基本いいヤツなのだ。
そしてバシさんはファンの人が送ってくれる写真を私がプリントして自室に飾ったり勝手にお母様にも送ったりしてることも知った。当然お怒りで、今にも女子寮に乗り込んできそうな勢いだった。が、「大事な宝物なの!怒らないで!怒らないでよ〜!!取らないでよ〜!」と泣いて縋って部屋突入は見逃してもらった。私が泣いてしがみついた途端にバシさんの怒りは鎮火して、あとは丸め込むだけなので簡単だった。乙女の涙に弱い男!友達に甘い男!そして私の部屋はますます写真が増えた。インハイに向けてますます練習に熱の入るバシさんは当然知らない。フッ、計画通り……
