去る春、君の声だけが在る2
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日光は避暑地のはずが、太陽が頭頂部をジリジリ焼く暑さ。私は画面の明るさをマックスまで上げてスマホに齧り付いていた。メインチャットはファーストリザルトを前に大賑わい。情報のみ簡潔に発信するはずが、その情報量が多い。
「15番出てます」
「先頭7人、後続切って出ました」
「対抗6来た、やっぱ総北」
山岳ライン待機の部員もその情報に沸いた。私は静かにガッツポーズ。あれだけ「初手が大事だ」と意気込んでいたから、出ないはずがないとは思っていた。去年このゼッケンを逃したことをどれほど泉田さんが悔やんでいたか、バシさんはきっと知っている。選手同士の絆は往々にしてバイクの上で築かれるので、今日までの日々でどんなやり取りがあったかマネージャーに知る由はない。が、あの慕い慕われる様子を見ていればなんとなく察しがついた。間違いなく、託されて出たという確信があった。しかし相手は……総北の1年選手はうちと同じで今年1人のはず。まさか揉めた相手じゃないだろうな。
それから流れの遅い2年チャットに移動。こちらは手の空いた同級生たちが、バシさんの活躍で大盛り上がりしていた。リザルトチャットよりはゆるい雰囲気だ。
「てかジッパー壊してます〜」
「いつもの〜」
……壊すなって言ってるのに!真波といい、泉田さんといい、うちの人はなんですぐ脱ぐかなあ!?バシさんの場合、ジッパー破損はすぐに直せないからこのままゴールまで行ってもらうしかない。なんで壊すかなあ!?うちの天空の羽王子 も大体終盤に『アガる』と全開だし、空気抵抗減らすためのジャージじゃないの!?と突っ込みたくなる。ゴールで待機してる部員が裁縫道具を持っているし着替えの予備も当然あるけど、なんでこんな序盤で壊すかなあ!?
それから個人チャットに通知、スプリントのライン付近待機の1年部員が「ファンの人と合流しました!旗も借りました!」と一報くれた。……いいなあ!私もそっちに混ざりたかった。今年のバシさんの走りを見ていた人らは、初日「期待を込めて」そこで待機すると聞いていた。去年の雪辱を晴らし、完全勝利のための一歩に期待する人がそれだけ多いということ。
バシさんはファンが多い。春から勝ち続けて、とにかく熱くフェアプレイ、勝ち方がかっこいい。顔は怖いし、声がデカいし、道の邪魔になるところで屯するファンには怒るし、めちゃくちゃ強気で勝利宣言するけど、有言実行。
今日来てくれたのも春先からの快勝を見てる人達だ。SNSでレースの写真とか上げてる人で、いい写真が撮れたからと自転車競技部の公式アカウントにも送ってくれたのが初めましてだった。私がそれに食いついて(なぜなら私はあんまり写真が上手くないので)、次のレースで直接御礼を言った。そこで何人か紹介してもらって、バシさんにファンがついたことを知った。嬉しすぎてちょっと泣いて、もらった写真はプリントしてバシさんのお母さまに送った。
バシさんのファンの中に字がうまい人がいて、インターハイに向けて応援カンペの新作を用意してくれたのは聞いていた。使い捨てのやつなんかはレース後に譲ってくれることもあって、私は勝手に寮の自室に飾っている。女子寮は男子禁制なので当然バシさんは知らない。デカい紙カンペはいつも沿道で目立っていて超かっこいい。今回は旗もあるらしい。風にたなびくような長いやつ。いいなあ、私も旗振りたかった……新作カンペは今回も譲ってもらう約束をしている。それを楽しみに今は自分の仕事を頑張ろう。
山岳ラインに設置されたテントからも最前線の白熱模様が一部伝えられる。部員は皆祈るように手を組んで結果を待っている。
「ファーストリザルト、15!」
「銅橋が取った!」
「写真とビデオなので間違いないです!」
リザルトチャットと2年チャットに速報。運営テント待機の部員が順位表の写メを添付。ブレてる、でも間違いなくいちばん上に銅橋正清の名前。実感と共にじわじわ喜びが込み上げてくる。ついに!このインターハイの大舞台で!結果を出した!泉田さんの期待に応え、自分の努力の結果を!やった!!思わずデカい声が出て、一緒に山岳ラインで待機していた部員がギョッとした。構わず拳を突き上げる。やった!バシさん、やったね!早くおめでとうって言いたい。頑張ったね、よかったね。本当に。
泣きそうになって慌てて空を見上げる。まだ早い、今日の仕事をまだ何もしてない。今日の栃木の空は突き抜けるほど青く、木々も負けじと青々と茂っている。ふと、バシさんに聞いた走る時のイメージが頭をよぎった。端から火がついて、燃えて、焼け焦げる、炎が全て舐めて、燃え落ちる。どうすか、今の気分。燃えて、焼けて、それでまたあっつい感じですか。山岳ラインで待ってるよ、早く来てよ、それでおめでとうって言わせて。私はこぼれかけた涙を手で拭って、息を吐く。深く深く吐き出して、これから選手たちが走ってくる道に視線を戻した。
「15番出てます」
「先頭7人、後続切って出ました」
「対抗6来た、やっぱ総北」
山岳ライン待機の部員もその情報に沸いた。私は静かにガッツポーズ。あれだけ「初手が大事だ」と意気込んでいたから、出ないはずがないとは思っていた。去年このゼッケンを逃したことをどれほど泉田さんが悔やんでいたか、バシさんはきっと知っている。選手同士の絆は往々にしてバイクの上で築かれるので、今日までの日々でどんなやり取りがあったかマネージャーに知る由はない。が、あの慕い慕われる様子を見ていればなんとなく察しがついた。間違いなく、託されて出たという確信があった。しかし相手は……総北の1年選手はうちと同じで今年1人のはず。まさか揉めた相手じゃないだろうな。
それから流れの遅い2年チャットに移動。こちらは手の空いた同級生たちが、バシさんの活躍で大盛り上がりしていた。リザルトチャットよりはゆるい雰囲気だ。
「てかジッパー壊してます〜」
「いつもの〜」
……壊すなって言ってるのに!真波といい、泉田さんといい、うちの人はなんですぐ脱ぐかなあ!?バシさんの場合、ジッパー破損はすぐに直せないからこのままゴールまで行ってもらうしかない。なんで壊すかなあ!?うちの
それから個人チャットに通知、スプリントのライン付近待機の1年部員が「ファンの人と合流しました!旗も借りました!」と一報くれた。……いいなあ!私もそっちに混ざりたかった。今年のバシさんの走りを見ていた人らは、初日「期待を込めて」そこで待機すると聞いていた。去年の雪辱を晴らし、完全勝利のための一歩に期待する人がそれだけ多いということ。
バシさんはファンが多い。春から勝ち続けて、とにかく熱くフェアプレイ、勝ち方がかっこいい。顔は怖いし、声がデカいし、道の邪魔になるところで屯するファンには怒るし、めちゃくちゃ強気で勝利宣言するけど、有言実行。
今日来てくれたのも春先からの快勝を見てる人達だ。SNSでレースの写真とか上げてる人で、いい写真が撮れたからと自転車競技部の公式アカウントにも送ってくれたのが初めましてだった。私がそれに食いついて(なぜなら私はあんまり写真が上手くないので)、次のレースで直接御礼を言った。そこで何人か紹介してもらって、バシさんにファンがついたことを知った。嬉しすぎてちょっと泣いて、もらった写真はプリントしてバシさんのお母さまに送った。
バシさんのファンの中に字がうまい人がいて、インターハイに向けて応援カンペの新作を用意してくれたのは聞いていた。使い捨てのやつなんかはレース後に譲ってくれることもあって、私は勝手に寮の自室に飾っている。女子寮は男子禁制なので当然バシさんは知らない。デカい紙カンペはいつも沿道で目立っていて超かっこいい。今回は旗もあるらしい。風にたなびくような長いやつ。いいなあ、私も旗振りたかった……新作カンペは今回も譲ってもらう約束をしている。それを楽しみに今は自分の仕事を頑張ろう。
山岳ラインに設置されたテントからも最前線の白熱模様が一部伝えられる。部員は皆祈るように手を組んで結果を待っている。
「ファーストリザルト、15!」
「銅橋が取った!」
「写真とビデオなので間違いないです!」
リザルトチャットと2年チャットに速報。運営テント待機の部員が順位表の写メを添付。ブレてる、でも間違いなくいちばん上に銅橋正清の名前。実感と共にじわじわ喜びが込み上げてくる。ついに!このインターハイの大舞台で!結果を出した!泉田さんの期待に応え、自分の努力の結果を!やった!!思わずデカい声が出て、一緒に山岳ラインで待機していた部員がギョッとした。構わず拳を突き上げる。やった!バシさん、やったね!早くおめでとうって言いたい。頑張ったね、よかったね。本当に。
泣きそうになって慌てて空を見上げる。まだ早い、今日の仕事をまだ何もしてない。今日の栃木の空は突き抜けるほど青く、木々も負けじと青々と茂っている。ふと、バシさんに聞いた走る時のイメージが頭をよぎった。端から火がついて、燃えて、焼け焦げる、炎が全て舐めて、燃え落ちる。どうすか、今の気分。燃えて、焼けて、それでまたあっつい感じですか。山岳ラインで待ってるよ、早く来てよ、それでおめでとうって言わせて。私はこぼれかけた涙を手で拭って、息を吐く。深く深く吐き出して、これから選手たちが走ってくる道に視線を戻した。
