去る春、君の声だけが在るIF
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「……お前、今日ウチで飯食うか?」
隣同士のロッカー、練習が被れば自然と着替えのタイミングは重なるもので。隣で着替えるボクを見下ろして銅橋くんが呟く。
「銅橋くんが料理するの!?」
「いや今日はオレじゃない。ウチでお好み焼き焼こうとしてるらしいから、お前も来い」
銅橋くんは練習終わりにロッカーを開けるとすぐにスマホを手に取った。着替えより先にタプタプタプ、と何事か打ち込む音を聞きながら隣で着替えていたのだけど。3秒ほど沈黙して、ある可能性に気づく。
「……ハッ!彼女さん?」
「ちげーーよ!うちの元マネージャー……苗字名前が入り浸ってンだよ」
「ははは半同棲ってこと!?」
「ちげーーーよ!」
ふたりはたまたま下宿先が近いらしく、練習終わりに一緒にご飯食べたりするらしい。名前ちゃんのメールによく名前が出る「バシさん」が銅橋くんだとは知っていたけど、今も仲良いんだ。
「急に行ってめ、迷惑じゃないかな?」
「名前のことだからどうせ大量に焼いて、持って帰って冷凍とかすんだろ。気にすんな」
ピロンと音が鳴ってスマホを見る。名前ちゃんから一言「具は豚とイカだよ!お待ちしてます」のメール。早い!彼女の中ではもう決定事項らしい。
「な、何か手土産!」
「いらねえよ。あ、なんか食いてえもんあるならスーパー寄るから買えよ」
「うん」
銅橋くんが見せた画面……名前ちゃんとのラインは簡単なひと言。
ソース
紅しょうが
それからポムポムプリンがハートを飛ばすスタンプ。お、お買い物のお願いだ……!名前ちゃんは割と誰にでも♡のスタンプを押すって知ってるけど(ボクたち3人とも最初はそれを知らず『も、もしかして……!?』とそれぞれ勘違いをしたことがある)ドキドキした。それと比べても随分気安い感じがする。もももしかして、銅橋くんが照れ隠しで言わなかっただけで、ほ、本当は付き合ってたりして……!
それから僕たちはスーパーで紅しょうがとソース、それから名前ちゃんがお風呂上がりに飲むとかいうヤクルト400を買った。お風呂上がりに飲むものまで把握している……!?流石にお、お風呂は……一緒に入ってないよね!?
◼︎
「おかえり!小野田も!」
名前ちゃんは自分の部屋かと思うくらいめちゃくちゃ自然体で僕らを出迎えた。ふつうの、エプロンをしている。「名前ちゃんが文化祭で自作のフリフリエプロンを部員に着せて、あら稼ぎしていた」話を真波くんから聞いていたので、ちょっと拍子抜けした。
「お、お邪魔します!」
「あはは、私もお邪魔してます」
「ほんとだよ……」
リビングにはホットプレートが既に用意してあり、3人座れるように綺麗に片づいている。自転車関係の道具はどこに置いているんだろう……ハッあんまりキョロキョロするのも失礼かな。
洗面所で手を洗って戻るついでに銅橋くんが名前ちゃんの長袖を捲り上げて、「準備悪かったな」「そんなの気にするなって〜我々の仲じゃん♡」「マジで腹減った」「無視しないで!でも今日粉入れすぎたから量増えた。めっちゃ食えるよ」「マジか」とやりとりしながら生地のボウルを受け取った。て、手慣れている……
名前ちゃんは「焼くぞー!換気扇を回せー!」とニコニコしながら肉のパックとイカゲソをテーブルに配置すると「とりあえずバシさんに焼かせとけばいいから」とボクを連れてキッチンに戻った。
「久しぶりだね。元気してた?ちょっと痩せた?飯食ってる?」
「あ、そうだね。久しぶり!えっと、その、名前ちゃんは元気そうで、」
「うん。質問分けるね。ご飯食べてる?」
ニコニコ笑顔のまま畳み掛けるところは変わっていない。ボクは大学生になって、初めての一人暮らしをすることになった。夜ご飯の出る寮だけど、それ以外の食事は自分で調達しなくちゃで……自分で作ったりとかはあんまり頑張れていない。練習前後に着替える時、隣の銅橋くんが無言で見下ろしていたのは、そういうことだと思う。ふたりとも、きっと心配してくれてたんだ。
「ご飯は……あんまり頑張ってなくて」
「そうなんだ。今日はいっぱい食べてね。あのね、ほんとに生地いっぱいつくっちゃったから!」
「うん。ありがとう」
名前ちゃんはためらう様子もなく冷蔵庫を開けて「昨日茹でたほうれん草あるけど食べる?緑の葉っぱも食べたほうがいいよ」と言った。「あーゴボウはバシさんが全部食べたかも……」と呟く姿を見るに、ほぼ毎日来ているのかもしれない。
「ボク、ほんとに邪魔じゃなかった?銅橋くんは付き合ってないって、その……!」
「全然!遊びに来てくれて嬉しいよ!まあ、私の部屋じゃないけどね」
ぺろっと名前ちゃんは舌を出して、ほうれん草の入った小鉢をくれた。ちらりとリビングの方を見やって、声を潜め。
「それから……付き合ってないのはほんと。でも部屋はわざと近いとこ借りたの。同意の上でね」
「え!?」
「大学決まったのはバシさんのが早かったでしょ。私が受かった後、バシさんがどうせ大学近いんだから、近くにしろよって。フフ」
「え、え、えー!?」
「で、アパートの場所教えてくれたから、本当に借りちゃったの。ここから5分しないとこだよ。男子禁制だからバシさんは入れないんだけど」
「へ、へえ〜〜」
……普通に爆弾発言じゃないか!?ふたりは確か、幼馴染とかではなく、高校で知り合った同級生同士。言うなればボクと寒咲さんと同じ関係性。ボクが寒咲さんに「ここのアパート借りたよ、近くに住もうよ」って言う……い、言わない。絶対。そして寒咲さんも住まないと思う……え、え〜!?
名前ちゃんは買ってきたばかりの紅しょうがを器に移し終えて「はい、しょうがと青のり、マヨネーズも持ってって」とリビングに繋がる扉を開けて呑気ににこにこしている。
「もう焼けた〜?」
「まだだ!」
「ほうれん草出しちゃった」
「好きに食え」
「好きにしまーす」
これって……これってどうなんだろう。おおおおかしいよね!?普通のトモダチにしては近いよね!?ねえ!?高校の3年間で友達ができて、前よりは友情のなんたるかを知ったつもりでいるけど、これは知らないよー!鳴子くんも今泉くんも知らないと思う……これって普通のこと!?普通じゃないよね!?
◼︎
……ふたりは食費をだいたい折半して週のほとんど一緒に夕飯を食べているらしい。
「あ、そうだ。新開さんの部屋には遊びに行ったりするの?幼馴染なんだよね」
「え?全然行ってない。男子大学生の一人暮らしに急に遊びに行くのも恐らくさわりがあるでしょ。ねえ?」
「……」
名前ちゃんを無視して銅橋くんは無言で生地を落とした。ふたりが何度も「もういらない?足りた?」「遠慮すんなよ」と聞いてくれたが、もう十分にお腹いっぱい。ふたりはその後も残りの生地を焼き続け、これは冷凍しておく分だという。
名前ちゃんが神妙な顔でホットプレートの油を拭いた。
「おそらくね、隼人くんだから。彼女連れ込んでいる可能性がある」
「あ、あ〜?」
名前ちゃんは「あのね、万が一があるから。嫌でしょ、知り合いのそういうとこ見るの」と平然と言い放ち、それを見た銅橋くんはすごい顔をしていた。あわわわわ……
銅橋くんが唸る。
「お前がここ合鍵で出入りしてんのはどうなんだよ」
「え?鍵やるから好きにしていいって言ったのはバシさんじゃん」
「お前が雨が降ろうが風が吹こうが、外で待ってるからだろ!」
「だって練習中は既読つかないし鍵開いてなかったんだもん」
「…………」
銅橋くんは諦めの顔でお好み焼きをひっくりかえす。名前ちゃんはのほほんとした顔で銅橋くんのコップにお茶を注いだ。
「小野田、本当にもう食べない?遠慮してない?」
「あ、うん。もうお腹いっぱいだよ。ご馳走様です」
「よかった。あ、これお土産分だから。持って帰りなね」
「また来いよ」
「オッ家主の許可出ました!ちなみに今日はいないけど真波がいる時もあるよ」
「アイツいつも連絡なしで来るからな……」
「えっ真波くんが!」
「うん、手の込んだ料理作ると何故か来る」
名前ちゃんが神妙な顔で頷いた。「ミートボールとか、エビフライとか……」と挙げたメニューはどれも美味しそう。
「今度来そうな時は呼んでやる」
「ね、そうしよう」
ふたりは頷き合って、それから冷凍用のお好み焼き作りに戻った。そ、そうなんだ……真波くんも来ることあるんだ。このふたりの間でどういう風に過ごすんだろう。いつもの真波くんの自然体な感じだろうか。いやなんていうか、それより、もう、気になることばかりなんだけど……
隣同士のロッカー、練習が被れば自然と着替えのタイミングは重なるもので。隣で着替えるボクを見下ろして銅橋くんが呟く。
「銅橋くんが料理するの!?」
「いや今日はオレじゃない。ウチでお好み焼き焼こうとしてるらしいから、お前も来い」
銅橋くんは練習終わりにロッカーを開けるとすぐにスマホを手に取った。着替えより先にタプタプタプ、と何事か打ち込む音を聞きながら隣で着替えていたのだけど。3秒ほど沈黙して、ある可能性に気づく。
「……ハッ!彼女さん?」
「ちげーーよ!うちの元マネージャー……苗字名前が入り浸ってンだよ」
「ははは半同棲ってこと!?」
「ちげーーーよ!」
ふたりはたまたま下宿先が近いらしく、練習終わりに一緒にご飯食べたりするらしい。名前ちゃんのメールによく名前が出る「バシさん」が銅橋くんだとは知っていたけど、今も仲良いんだ。
「急に行ってめ、迷惑じゃないかな?」
「名前のことだからどうせ大量に焼いて、持って帰って冷凍とかすんだろ。気にすんな」
ピロンと音が鳴ってスマホを見る。名前ちゃんから一言「具は豚とイカだよ!お待ちしてます」のメール。早い!彼女の中ではもう決定事項らしい。
「な、何か手土産!」
「いらねえよ。あ、なんか食いてえもんあるならスーパー寄るから買えよ」
「うん」
銅橋くんが見せた画面……名前ちゃんとのラインは簡単なひと言。
ソース
紅しょうが
それからポムポムプリンがハートを飛ばすスタンプ。お、お買い物のお願いだ……!名前ちゃんは割と誰にでも♡のスタンプを押すって知ってるけど(ボクたち3人とも最初はそれを知らず『も、もしかして……!?』とそれぞれ勘違いをしたことがある)ドキドキした。それと比べても随分気安い感じがする。もももしかして、銅橋くんが照れ隠しで言わなかっただけで、ほ、本当は付き合ってたりして……!
それから僕たちはスーパーで紅しょうがとソース、それから名前ちゃんがお風呂上がりに飲むとかいうヤクルト400を買った。お風呂上がりに飲むものまで把握している……!?流石にお、お風呂は……一緒に入ってないよね!?
◼︎
「おかえり!小野田も!」
名前ちゃんは自分の部屋かと思うくらいめちゃくちゃ自然体で僕らを出迎えた。ふつうの、エプロンをしている。「名前ちゃんが文化祭で自作のフリフリエプロンを部員に着せて、あら稼ぎしていた」話を真波くんから聞いていたので、ちょっと拍子抜けした。
「お、お邪魔します!」
「あはは、私もお邪魔してます」
「ほんとだよ……」
リビングにはホットプレートが既に用意してあり、3人座れるように綺麗に片づいている。自転車関係の道具はどこに置いているんだろう……ハッあんまりキョロキョロするのも失礼かな。
洗面所で手を洗って戻るついでに銅橋くんが名前ちゃんの長袖を捲り上げて、「準備悪かったな」「そんなの気にするなって〜我々の仲じゃん♡」「マジで腹減った」「無視しないで!でも今日粉入れすぎたから量増えた。めっちゃ食えるよ」「マジか」とやりとりしながら生地のボウルを受け取った。て、手慣れている……
名前ちゃんは「焼くぞー!換気扇を回せー!」とニコニコしながら肉のパックとイカゲソをテーブルに配置すると「とりあえずバシさんに焼かせとけばいいから」とボクを連れてキッチンに戻った。
「久しぶりだね。元気してた?ちょっと痩せた?飯食ってる?」
「あ、そうだね。久しぶり!えっと、その、名前ちゃんは元気そうで、」
「うん。質問分けるね。ご飯食べてる?」
ニコニコ笑顔のまま畳み掛けるところは変わっていない。ボクは大学生になって、初めての一人暮らしをすることになった。夜ご飯の出る寮だけど、それ以外の食事は自分で調達しなくちゃで……自分で作ったりとかはあんまり頑張れていない。練習前後に着替える時、隣の銅橋くんが無言で見下ろしていたのは、そういうことだと思う。ふたりとも、きっと心配してくれてたんだ。
「ご飯は……あんまり頑張ってなくて」
「そうなんだ。今日はいっぱい食べてね。あのね、ほんとに生地いっぱいつくっちゃったから!」
「うん。ありがとう」
名前ちゃんはためらう様子もなく冷蔵庫を開けて「昨日茹でたほうれん草あるけど食べる?緑の葉っぱも食べたほうがいいよ」と言った。「あーゴボウはバシさんが全部食べたかも……」と呟く姿を見るに、ほぼ毎日来ているのかもしれない。
「ボク、ほんとに邪魔じゃなかった?銅橋くんは付き合ってないって、その……!」
「全然!遊びに来てくれて嬉しいよ!まあ、私の部屋じゃないけどね」
ぺろっと名前ちゃんは舌を出して、ほうれん草の入った小鉢をくれた。ちらりとリビングの方を見やって、声を潜め。
「それから……付き合ってないのはほんと。でも部屋はわざと近いとこ借りたの。同意の上でね」
「え!?」
「大学決まったのはバシさんのが早かったでしょ。私が受かった後、バシさんがどうせ大学近いんだから、近くにしろよって。フフ」
「え、え、えー!?」
「で、アパートの場所教えてくれたから、本当に借りちゃったの。ここから5分しないとこだよ。男子禁制だからバシさんは入れないんだけど」
「へ、へえ〜〜」
……普通に爆弾発言じゃないか!?ふたりは確か、幼馴染とかではなく、高校で知り合った同級生同士。言うなればボクと寒咲さんと同じ関係性。ボクが寒咲さんに「ここのアパート借りたよ、近くに住もうよ」って言う……い、言わない。絶対。そして寒咲さんも住まないと思う……え、え〜!?
名前ちゃんは買ってきたばかりの紅しょうがを器に移し終えて「はい、しょうがと青のり、マヨネーズも持ってって」とリビングに繋がる扉を開けて呑気ににこにこしている。
「もう焼けた〜?」
「まだだ!」
「ほうれん草出しちゃった」
「好きに食え」
「好きにしまーす」
これって……これってどうなんだろう。おおおおかしいよね!?普通のトモダチにしては近いよね!?ねえ!?高校の3年間で友達ができて、前よりは友情のなんたるかを知ったつもりでいるけど、これは知らないよー!鳴子くんも今泉くんも知らないと思う……これって普通のこと!?普通じゃないよね!?
◼︎
……ふたりは食費をだいたい折半して週のほとんど一緒に夕飯を食べているらしい。
「あ、そうだ。新開さんの部屋には遊びに行ったりするの?幼馴染なんだよね」
「え?全然行ってない。男子大学生の一人暮らしに急に遊びに行くのも恐らくさわりがあるでしょ。ねえ?」
「……」
名前ちゃんを無視して銅橋くんは無言で生地を落とした。ふたりが何度も「もういらない?足りた?」「遠慮すんなよ」と聞いてくれたが、もう十分にお腹いっぱい。ふたりはその後も残りの生地を焼き続け、これは冷凍しておく分だという。
名前ちゃんが神妙な顔でホットプレートの油を拭いた。
「おそらくね、隼人くんだから。彼女連れ込んでいる可能性がある」
「あ、あ〜?」
名前ちゃんは「あのね、万が一があるから。嫌でしょ、知り合いのそういうとこ見るの」と平然と言い放ち、それを見た銅橋くんはすごい顔をしていた。あわわわわ……
銅橋くんが唸る。
「お前がここ合鍵で出入りしてんのはどうなんだよ」
「え?鍵やるから好きにしていいって言ったのはバシさんじゃん」
「お前が雨が降ろうが風が吹こうが、外で待ってるからだろ!」
「だって練習中は既読つかないし鍵開いてなかったんだもん」
「…………」
銅橋くんは諦めの顔でお好み焼きをひっくりかえす。名前ちゃんはのほほんとした顔で銅橋くんのコップにお茶を注いだ。
「小野田、本当にもう食べない?遠慮してない?」
「あ、うん。もうお腹いっぱいだよ。ご馳走様です」
「よかった。あ、これお土産分だから。持って帰りなね」
「また来いよ」
「オッ家主の許可出ました!ちなみに今日はいないけど真波がいる時もあるよ」
「アイツいつも連絡なしで来るからな……」
「えっ真波くんが!」
「うん、手の込んだ料理作ると何故か来る」
名前ちゃんが神妙な顔で頷いた。「ミートボールとか、エビフライとか……」と挙げたメニューはどれも美味しそう。
「今度来そうな時は呼んでやる」
「ね、そうしよう」
ふたりは頷き合って、それから冷凍用のお好み焼き作りに戻った。そ、そうなんだ……真波くんも来ることあるんだ。このふたりの間でどういう風に過ごすんだろう。いつもの真波くんの自然体な感じだろうか。いやなんていうか、それより、もう、気になることばかりなんだけど……
