青く光っている
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千葉から戻ってきてすぐ、居ても立ってもいられず弓射くんに連絡した。私の第一声「あのね……」の後に何も続かないのを察して、弓射くんはわずかに沈黙した。それから何も聞かず、「その辺走ってるヨン。出てこれる?」と対面でのやり取りを提案した。私はしまったばかりの自転車をまた出してきて家を出た。
弓射くんが本当にその辺を走っていたのかは定かではないが、すぐに合流できた。日も落ちて、アスファルトは暑いがそれより上は少しだけ涼しい。自転車を押して歩くと、弓射くんの髪が風で揺れた。私が時折言葉に詰まりながら、千葉で自転車集団と行きあった話の後、数日後に開催されるインターハイを見に行くと伝えると、すぐに納得した様子で頷いた。
「名前ちゃん、ロードレースに興味あるの?」
しばらく前に日も落ちて、弓射くんはサングラスを外している。いつもなら貴重な素顔も今日だけは気まずい。サングラス越しでない直の瞳は、攻撃的にキラッと光って私を見た。言葉も視線も私を責めている様に感じて、ぎくっとした。
「べ、別になくはないよ。ただ……なんていうか。その……今乗ってるのもロードバイクだし……」
「でも、名前ちゃん今まで何にも興味なかった」
「人を無気力無関心みたいに言うね」
「MTBもロードも……便利な乗り物としか思ってなかった。なのにインターハイまで見に行くなんて、どういう心境の変化?」
弓射くんのようにそれを乗りこなすことに興味がなかったのは事実だ。さすが弓射くん、人のことをよく見ている。淡々と指摘されて昨日の今日に気づいたことでなく、ずっと思っていたんだろうなと予想する。それなりに付き合いが長いだけある。私は弓射くんの淡々とした態度に冷静さを取り戻しつつあった。が、次の言葉で一気に血の気が引いた。剥き出しの瞳が私を見る。
「オレのレース見ても何も思わなかったのに、今になってなんで?ロードの何がそんなに”惹いた”の?教えてよ」
「な、な、何って……」
「好きな人でもできた?」
「んな訳」
否定しながらも冷や汗が出た。勘が鋭い。昔読んでた漫画の主人公は広義の意味で「好きな人」に入らなくも無いだろう。弓射くんの勝負の勘についてはかなり信頼している。レース途中、素人目にも厳しいだろう局面で、弓射くんの目がまだまだ全然ギラギラしている時は「あ、勝てるんだな」とわかる。策も戦略も何もわからないけど、「勝つ気があるんだな」じゃなくて「勝つんだな」と思う。今も、そういう目をしている。勘弁してほしい。
「じゃあロードのどこがよかったの」
「あ、危なっかしくないから……」
「……ふーん」
「あとインターハイが群馬で開催なんて滅多にないだろうし……」
絞り出した声はすごく頼りなく情けなかった。そう、ロードはレース中選手同士が進路の取り合いで派手にガンガンぶつかりあったりしないし、泥道を無理やり登ったりしないし、木の根が露出する急な坂をノーブレーキで降りたりしないし、土壁を地面と平行になって走ったりしない。
昔に弓射くんが斜面ですっ転んで横に一回転した時の、見てるだけで全身冷たくなる感覚を今でも覚えている。あの時は確か、腕も脚も皮膚が削れてその下の赤いところが見えてた。水道で傷を洗っても破傷風がこわくて、弓射くんを引っ張って泣きながら帰った。崖から落ちた時にできたという、脇腹の傷は、薄くなっても今も残っている。自転車は危ないと思い知るたびにレース観戦をやめたくなる。あの時もこの時も、ヘルメットしてて本当によかった。いつからか、どこに行くにもいつもハイドロコロイドのテープを持ち歩くようにしている。MTBは、ド派手でカッコよくて刺激的だけど、危険と隣合わせだ。
という訳で、ビビりの私にとっては至極真っ当な理由づけのように思えたが弓射くんは不満そうにした。冷や汗が流れる。頼む、これ以上何も聞かないで。ボロが出るから、これ以上は……
無慈悲に弓射くんが口を開く。
「そんな顔してるの見ると……ちょっと妬けるヨン」
「妬ける!?!?」
とんでもない台詞に思わず大声が出た。何、怖いんですけど……それは何、一体どういうつもりで?尋ねる前に弓射くんは「いつもの」顔に戻っていた。わずかに目を細めて、揶揄うような表情で私を見下ろす。本当に私を翻弄するのがうまい。それから上体を屈めて、顔を寄せて。琥珀の中に青色の光がちらついて、ほら勝負の目だ。
「で?本当のところは」
「で、じゃないよ。せっかく近くでやるから見に行くの!以上!」
「へー」
わざとらしい相槌の後、興味を失ったようにフイッと視線が逸らされる。見逃された。よかった……何も解決してないけど。サングラス越しでない視線と尋問は相性が良すぎる。私は安堵のため息を飲み込んで、弓射くんの背中を追った。
弓射くんが本当にその辺を走っていたのかは定かではないが、すぐに合流できた。日も落ちて、アスファルトは暑いがそれより上は少しだけ涼しい。自転車を押して歩くと、弓射くんの髪が風で揺れた。私が時折言葉に詰まりながら、千葉で自転車集団と行きあった話の後、数日後に開催されるインターハイを見に行くと伝えると、すぐに納得した様子で頷いた。
「名前ちゃん、ロードレースに興味あるの?」
しばらく前に日も落ちて、弓射くんはサングラスを外している。いつもなら貴重な素顔も今日だけは気まずい。サングラス越しでない直の瞳は、攻撃的にキラッと光って私を見た。言葉も視線も私を責めている様に感じて、ぎくっとした。
「べ、別になくはないよ。ただ……なんていうか。その……今乗ってるのもロードバイクだし……」
「でも、名前ちゃん今まで何にも興味なかった」
「人を無気力無関心みたいに言うね」
「MTBもロードも……便利な乗り物としか思ってなかった。なのにインターハイまで見に行くなんて、どういう心境の変化?」
弓射くんのようにそれを乗りこなすことに興味がなかったのは事実だ。さすが弓射くん、人のことをよく見ている。淡々と指摘されて昨日の今日に気づいたことでなく、ずっと思っていたんだろうなと予想する。それなりに付き合いが長いだけある。私は弓射くんの淡々とした態度に冷静さを取り戻しつつあった。が、次の言葉で一気に血の気が引いた。剥き出しの瞳が私を見る。
「オレのレース見ても何も思わなかったのに、今になってなんで?ロードの何がそんなに”惹いた”の?教えてよ」
「な、な、何って……」
「好きな人でもできた?」
「んな訳」
否定しながらも冷や汗が出た。勘が鋭い。昔読んでた漫画の主人公は広義の意味で「好きな人」に入らなくも無いだろう。弓射くんの勝負の勘についてはかなり信頼している。レース途中、素人目にも厳しいだろう局面で、弓射くんの目がまだまだ全然ギラギラしている時は「あ、勝てるんだな」とわかる。策も戦略も何もわからないけど、「勝つ気があるんだな」じゃなくて「勝つんだな」と思う。今も、そういう目をしている。勘弁してほしい。
「じゃあロードのどこがよかったの」
「あ、危なっかしくないから……」
「……ふーん」
「あとインターハイが群馬で開催なんて滅多にないだろうし……」
絞り出した声はすごく頼りなく情けなかった。そう、ロードはレース中選手同士が進路の取り合いで派手にガンガンぶつかりあったりしないし、泥道を無理やり登ったりしないし、木の根が露出する急な坂をノーブレーキで降りたりしないし、土壁を地面と平行になって走ったりしない。
昔に弓射くんが斜面ですっ転んで横に一回転した時の、見てるだけで全身冷たくなる感覚を今でも覚えている。あの時は確か、腕も脚も皮膚が削れてその下の赤いところが見えてた。水道で傷を洗っても破傷風がこわくて、弓射くんを引っ張って泣きながら帰った。崖から落ちた時にできたという、脇腹の傷は、薄くなっても今も残っている。自転車は危ないと思い知るたびにレース観戦をやめたくなる。あの時もこの時も、ヘルメットしてて本当によかった。いつからか、どこに行くにもいつもハイドロコロイドのテープを持ち歩くようにしている。MTBは、ド派手でカッコよくて刺激的だけど、危険と隣合わせだ。
という訳で、ビビりの私にとっては至極真っ当な理由づけのように思えたが弓射くんは不満そうにした。冷や汗が流れる。頼む、これ以上何も聞かないで。ボロが出るから、これ以上は……
無慈悲に弓射くんが口を開く。
「そんな顔してるの見ると……ちょっと妬けるヨン」
「妬ける!?!?」
とんでもない台詞に思わず大声が出た。何、怖いんですけど……それは何、一体どういうつもりで?尋ねる前に弓射くんは「いつもの」顔に戻っていた。わずかに目を細めて、揶揄うような表情で私を見下ろす。本当に私を翻弄するのがうまい。それから上体を屈めて、顔を寄せて。琥珀の中に青色の光がちらついて、ほら勝負の目だ。
「で?本当のところは」
「で、じゃないよ。せっかく近くでやるから見に行くの!以上!」
「へー」
わざとらしい相槌の後、興味を失ったようにフイッと視線が逸らされる。見逃された。よかった……何も解決してないけど。サングラス越しでない視線と尋問は相性が良すぎる。私は安堵のため息を飲み込んで、弓射くんの背中を追った。
