去る春、君の声だけが在る2
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「あと5分で着く!」メールの送り主は総北高校鳴子章吉、インターハイで連絡先を交換して以来、それなりの頻度でメールのやり取りがある。
基本元気とノリが良く、話が弾めばメールもポンポン返ってくるし、しかしレースの前はピタリと止んで(あーあのレース出るのかなー)と予想がつく。
今日は新年度目前の決起集会。会場は千葉県内某所、芝生の上。我々の目的はひたすら喋ることなので長居できるところがいい、お金もない。よってピクニック決行。それぞれ愛車を草に寝かして、レジャーシートは広々としていてふたりで寝っ転がっても余裕がある。悠ちゃん相手ならもう少し小さいのを持ってきたけど、さすがに幼馴染でもなく彼氏でもない人とくっついて座るのは、どうよ。千葉まで来たので私の方は知り合いに会う可能性も低いが向こうはそうじゃないし……鳴子はあんま気にしないタイプかもしれないけど。
念願の田所パンのサンドイッチを食べて見事お腹いっぱいになり、レジャーシートに寝転がる。すこし消化しないと動けそうにない。噂の通りの超ボリューム。
「ワイらもついに先輩やな。名前ちゃん」
「そうだね……鳴子はいい先輩になるだろうな。面倒見いいし、優しいし……」
「なんや急に……何が目当てや?情報か?小野田くんの昨日のおやつか?普通にどら焼きやったな」
「なるほど、昨日はどら焼き……」
「メモすんな!」
「や、でも別に情報ほしくて言ったんじゃないよ」
立派な公園なのに、広すぎて閑散としている。目を凝らしても遠くにフリスビー遊びをする犬と飼い主、もっと遠くに補助輪外したてで練習中の親子、そして決起集会中の私たちの3組しかいない。これならどんな話をしても聞かれないだろう。
「言い方悪いけど、今泉も小野田も後輩の面倒見れるタイプじゃないでしょう。総北の新しいキャプテンは正直頼りない。鳴子はムードメーカーで実力あって、インハイ経験もある。新入生きたらきっと、総北は何もかも鳴子章吉頼みだ」
「小野田くんもスカシも後輩来るの楽しみにしとる。手嶋さんは頼りになる、立派なキャプテンや」
鳴子はハッキリと言い切った。ちぎれた雲が浮かぶ青空。ピクニック日和なのに私たちの間の空気はどんどん険悪になる。
「……鳴子は『先輩にもらったモンは後輩に渡して行こう』って言うけどさ、本当にそれでいいのかな」
「なんやまだ喧嘩売るつもりか」
「忠告だよ。鳴子はお人よしだから、もらった分以上に他人に渡しちゃって、いつか大変なことになる」
「ならん」
「レースも部内のことも、頼れるお前におんぶに抱っこで、総北は今にお前なしでは回らなくなるんじゃないかって、心配してるの。総北はうちのライバルだからね」
「……なんにせよ、頼られんくなったら終わりや」
きっと、スプリンターから転向させられたことを思っているのだろう苦々しい口調だった。私の口は止まらない。やっと本題に繋げられた。
「その走りも天賦の才も、もっと生かせるところを紹介してあげようか」
「いらん、余計なお世話や」
「ハコガクだよ。転校しない?」
「せんわ」
「自分で、いちばんにゴールラインを越えてみたくない?」
「……」
「レース中はチーム内外の戦況に常に気を配り、心の脆い仲間のメンタルケア、全部力を使い果たして仲間を最前線に送り出して、自分は力尽きてリタイヤ。鳴子は本当にお人よしだね」
「お人よしやない。誰も彼も、レースっちゅうんはそういうモンやってわかって自分の役割を果たす。名前ちゃんの大好きな『イズミダサン』かてインハイでそうやったやろ」
嫌味っぽい言い方の下手なやつだなと思った。去年の敗北を当てこするにしたって、優しすぎる。まるでこっちが悪役じゃないか……どこから見てもそうなんだけど。まあ、悪役の陰湿王国ハコガクマネージャーにとっては全然痛くも痒くもない。私は顰めっ面で寝転がる鳴子ににっこり笑いかける。
「最前線に送り出される側になりたくないの?」
「……」
鳴子は黙って上空を見ていた。トンビか何かがぐるっと旋回するのを目で追う。鳴子がぽつりと呟いた。
「名前ちゃん御堂筋に似てきたな」
「褒め言葉として受け取るね?ちなみに京伏も鳴子が転校してくるなら喉から手が出るほど欲しいみたい」
「ンなわけあるかい」
「ほんとほんと。こないだその話題で盛り上がっちゃった」
「嘘や!」
「嘘じゃない。あたしたち、気が合うの」
こういう時はね、と付け加える。きっと今悪どい顔をしているだろうな。
「ハコガクも必死やな」
「そうだね、戦力的には不満はないけど」
よいしょと腹筋で起き上がり、体を伸ばす。風が体にぶつかって気持ちがいい。
「あんたがいたら……うちの人達はもっと楽しく走れる。きっとね」
鳴子は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見た。
「なんや、そっちかいな」
「なんだと思ったのよ」
「ウチの戦力削ったろーいう邪悪な戦略」
「ぶっ飛ばすよ」
「おーこわ、チクったろ」
「……誰によ」
「小野田くんに決まっとるやろ」
「ぶっ飛ばすわよ」
「あんな名前ちゃん、天丼はウケた時だけにしときや」
鳴子も続いてレジャーシートから身を起こす。風が吹いて空のペットボトルが転がるのを足で止めた。
「箱根学園自転車競技部では、いつでも『天真爛漫ハートの強いデーハームードメーカー』の入部をお待ちしております。レギュラー入りについては……入部後の努力とやる気次第ってとこかな。資料請求はこちら、」
「せめて戦力として期待しろや!」
鳴子のでっかい声が人のいない公園に響いた。人が少なくてよかった。
基本元気とノリが良く、話が弾めばメールもポンポン返ってくるし、しかしレースの前はピタリと止んで(あーあのレース出るのかなー)と予想がつく。
今日は新年度目前の決起集会。会場は千葉県内某所、芝生の上。我々の目的はひたすら喋ることなので長居できるところがいい、お金もない。よってピクニック決行。それぞれ愛車を草に寝かして、レジャーシートは広々としていてふたりで寝っ転がっても余裕がある。悠ちゃん相手ならもう少し小さいのを持ってきたけど、さすがに幼馴染でもなく彼氏でもない人とくっついて座るのは、どうよ。千葉まで来たので私の方は知り合いに会う可能性も低いが向こうはそうじゃないし……鳴子はあんま気にしないタイプかもしれないけど。
念願の田所パンのサンドイッチを食べて見事お腹いっぱいになり、レジャーシートに寝転がる。すこし消化しないと動けそうにない。噂の通りの超ボリューム。
「ワイらもついに先輩やな。名前ちゃん」
「そうだね……鳴子はいい先輩になるだろうな。面倒見いいし、優しいし……」
「なんや急に……何が目当てや?情報か?小野田くんの昨日のおやつか?普通にどら焼きやったな」
「なるほど、昨日はどら焼き……」
「メモすんな!」
「や、でも別に情報ほしくて言ったんじゃないよ」
立派な公園なのに、広すぎて閑散としている。目を凝らしても遠くにフリスビー遊びをする犬と飼い主、もっと遠くに補助輪外したてで練習中の親子、そして決起集会中の私たちの3組しかいない。これならどんな話をしても聞かれないだろう。
「言い方悪いけど、今泉も小野田も後輩の面倒見れるタイプじゃないでしょう。総北の新しいキャプテンは正直頼りない。鳴子はムードメーカーで実力あって、インハイ経験もある。新入生きたらきっと、総北は何もかも鳴子章吉頼みだ」
「小野田くんもスカシも後輩来るの楽しみにしとる。手嶋さんは頼りになる、立派なキャプテンや」
鳴子はハッキリと言い切った。ちぎれた雲が浮かぶ青空。ピクニック日和なのに私たちの間の空気はどんどん険悪になる。
「……鳴子は『先輩にもらったモンは後輩に渡して行こう』って言うけどさ、本当にそれでいいのかな」
「なんやまだ喧嘩売るつもりか」
「忠告だよ。鳴子はお人よしだから、もらった分以上に他人に渡しちゃって、いつか大変なことになる」
「ならん」
「レースも部内のことも、頼れるお前におんぶに抱っこで、総北は今にお前なしでは回らなくなるんじゃないかって、心配してるの。総北はうちのライバルだからね」
「……なんにせよ、頼られんくなったら終わりや」
きっと、スプリンターから転向させられたことを思っているのだろう苦々しい口調だった。私の口は止まらない。やっと本題に繋げられた。
「その走りも天賦の才も、もっと生かせるところを紹介してあげようか」
「いらん、余計なお世話や」
「ハコガクだよ。転校しない?」
「せんわ」
「自分で、いちばんにゴールラインを越えてみたくない?」
「……」
「レース中はチーム内外の戦況に常に気を配り、心の脆い仲間のメンタルケア、全部力を使い果たして仲間を最前線に送り出して、自分は力尽きてリタイヤ。鳴子は本当にお人よしだね」
「お人よしやない。誰も彼も、レースっちゅうんはそういうモンやってわかって自分の役割を果たす。名前ちゃんの大好きな『イズミダサン』かてインハイでそうやったやろ」
嫌味っぽい言い方の下手なやつだなと思った。去年の敗北を当てこするにしたって、優しすぎる。まるでこっちが悪役じゃないか……どこから見てもそうなんだけど。まあ、悪役の陰湿王国ハコガクマネージャーにとっては全然痛くも痒くもない。私は顰めっ面で寝転がる鳴子ににっこり笑いかける。
「最前線に送り出される側になりたくないの?」
「……」
鳴子は黙って上空を見ていた。トンビか何かがぐるっと旋回するのを目で追う。鳴子がぽつりと呟いた。
「名前ちゃん御堂筋に似てきたな」
「褒め言葉として受け取るね?ちなみに京伏も鳴子が転校してくるなら喉から手が出るほど欲しいみたい」
「ンなわけあるかい」
「ほんとほんと。こないだその話題で盛り上がっちゃった」
「嘘や!」
「嘘じゃない。あたしたち、気が合うの」
こういう時はね、と付け加える。きっと今悪どい顔をしているだろうな。
「ハコガクも必死やな」
「そうだね、戦力的には不満はないけど」
よいしょと腹筋で起き上がり、体を伸ばす。風が体にぶつかって気持ちがいい。
「あんたがいたら……うちの人達はもっと楽しく走れる。きっとね」
鳴子は鳩が豆鉄砲を食ったような顔で私を見た。
「なんや、そっちかいな」
「なんだと思ったのよ」
「ウチの戦力削ったろーいう邪悪な戦略」
「ぶっ飛ばすよ」
「おーこわ、チクったろ」
「……誰によ」
「小野田くんに決まっとるやろ」
「ぶっ飛ばすわよ」
「あんな名前ちゃん、天丼はウケた時だけにしときや」
鳴子も続いてレジャーシートから身を起こす。風が吹いて空のペットボトルが転がるのを足で止めた。
「箱根学園自転車競技部では、いつでも『天真爛漫ハートの強いデーハームードメーカー』の入部をお待ちしております。レギュラー入りについては……入部後の努力とやる気次第ってとこかな。資料請求はこちら、」
「せめて戦力として期待しろや!」
鳴子のでっかい声が人のいない公園に響いた。人が少なくてよかった。
