去る春、君の声だけが在る
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「甘え方が雑なんだよテメーは!!」
「ハイ……」
名前の看病の甲斐か元々の頑強さか、新開は一晩で全快した。その新開が正座させられているのは何故かオレの部屋だ。今朝方新開を連れて荒北が乗り込んできて、「新開正座ァ!」と言い放ち、今は荒北と2人仁王立ちで正座するその男を見下ろしている。新開。
話は昨日の昼にまで遡る。
名前を新開の部屋へけしかけたのは間違いだったかもしれない。約束の1時間を過ぎても名前は戻らず、柄にもなく逸る心臓を抑えて居室を開けた。ノックは無し、「1時間後に戻らなければ突入する」と予告済みだからだ。最悪の事態であれば友人を殴り飛ばしてでも名前を助けなければと覚悟したが、出迎えたのは情けない半べその名前と、新開の寝息。
「やっと1時間経った?寿一くん助けて、重いよ〜限界だよ……」
名前の膝を枕に新開が寝ていた。おかしな距離感の幼馴染、「妹のように大事に思っている」と口にしているがオレにはそうは見えなかった。妹と言うより、それは。
ひとまず名前の膝から新開を下ろしてやる。朝はだいぶ辛そうだったが、随分落ち着いたように見える。雑に枕に転がしても目を覚さない……恐らく本当に寝ているらしい。一方膝を解放してやったにも関わらず、名前はまだ新開のベッドから降りようとしない。
「名前、約束の時間は過ぎている。戻るぞ」
「た、立てない……!」
数十分の正座で足が痛いと名前はべそべそ泣き、結局担いで食堂まで戻る羽目になった。途中廊下で荒北と遭遇し「福ちゃん何やってんのォ!?」と、当然全てバレて。
食堂へ戻る道中「あの野郎回復したら絶対シメる」と息巻いていた荒北は、その言葉の通りに朝イチで新開を連れてオレの部屋に来た。正座させると「一応オレもお前らが、幼馴染だなんだで括れないめんどくせぇ関係なのはわかってるつもりだけど」との前置きの後、怒涛の勢いで説教を開始。曰く、「福ちゃんはわざわざ許可とって名前を男子寮に入れた。かわいそうに熱出してウンウン唸ってるテメーのためだ」云々、「そもそも福ちゃんが何を思ってアイツに厳しく『男子寮に入るな』って躾けたか、テメーがいちばんわかってんだろ」云々、「それを裏切ってテメーは膝枕ダァ!?」云々、「恥ずかしくないんかって聞いてんだヨ2個も下の女の子に甘えて、立てなくなるまで!」云々。緩急つけて、人間の良心に訴える見事な説教だった。散々吐き出して満足したのか、荒北は「福ちゃんからなんかある?」とオレを振り返る。なにか。代替わりして以来「来年リベンジするために、私がんばるから!敏腕マネージャーになるから!だから寿一くんもあんまり甘やかさないで!」意気込む名前が珍しくべそべそしていた、昨日。
「足が痛いと泣いていた。ちゃんと謝っておけ」
「さっすが福ちゃんド正論」
荒北の抑揚のない声が早朝の自室に落ちた。新開、荒北、と2人の顔を見てこの3人でこの部屋に集まるのは後数回だろうと思い至る。これまで数えきれない程この部屋に集まったが、そのうちの何割が真面目な話だったかは定かではない。退寮の日も近く、まさかこんなくだらない説教が最後にならないでくれと、思わずにはいられないが。
「ふたりとも迷惑かけたな。反省してるよ」
「どっからどう見ても、そういう顔じゃねぇんだよな……」
「オレのこと、大好きらしい」
「ンなこと聞いてねえよ!ニヤニヤすんな!」
だが、随分マシな顔になった。名前を自分で連れてきたくせに、後悔し、ひとりで苦しんでいた男の顔とは比べものにもならない。常の余裕ある頼れる男の仮面を取り繕えず、らしくない行動を幾度も取っていた。勝利を求めるには不要な苦しみであった。「強さ」を求めるには余計なことをしたと、言わざるをえない。だが、その日々も春から数えて、時期にもう1年になる。
「福ちゃん言いたいことあるなら口に出せよ」
「ああ」
「チッいつも自分だけで完結しやがって……」
だが、口に出すには野暮というものだ。苦悩と嫉妬に塗れた1年が幼馴染のたった一言「大好き」でぬり変わったことには呆れてしまうが。
「ったく、どいつもこいつも世話が焼ける……」
オレ達の中でいちばん気を揉んだであろう荒北はガックリと肩を落とした。新開が膝を伸ばして立ち上がり、荒北の肩を叩く。
「あんまり考えすぎもよくないぜ、靖友」
「誰のせいだと思ってんのォ!?」
「ハイ……」
名前の看病の甲斐か元々の頑強さか、新開は一晩で全快した。その新開が正座させられているのは何故かオレの部屋だ。今朝方新開を連れて荒北が乗り込んできて、「新開正座ァ!」と言い放ち、今は荒北と2人仁王立ちで正座するその男を見下ろしている。新開。
話は昨日の昼にまで遡る。
名前を新開の部屋へけしかけたのは間違いだったかもしれない。約束の1時間を過ぎても名前は戻らず、柄にもなく逸る心臓を抑えて居室を開けた。ノックは無し、「1時間後に戻らなければ突入する」と予告済みだからだ。最悪の事態であれば友人を殴り飛ばしてでも名前を助けなければと覚悟したが、出迎えたのは情けない半べその名前と、新開の寝息。
「やっと1時間経った?寿一くん助けて、重いよ〜限界だよ……」
名前の膝を枕に新開が寝ていた。おかしな距離感の幼馴染、「妹のように大事に思っている」と口にしているがオレにはそうは見えなかった。妹と言うより、それは。
ひとまず名前の膝から新開を下ろしてやる。朝はだいぶ辛そうだったが、随分落ち着いたように見える。雑に枕に転がしても目を覚さない……恐らく本当に寝ているらしい。一方膝を解放してやったにも関わらず、名前はまだ新開のベッドから降りようとしない。
「名前、約束の時間は過ぎている。戻るぞ」
「た、立てない……!」
数十分の正座で足が痛いと名前はべそべそ泣き、結局担いで食堂まで戻る羽目になった。途中廊下で荒北と遭遇し「福ちゃん何やってんのォ!?」と、当然全てバレて。
食堂へ戻る道中「あの野郎回復したら絶対シメる」と息巻いていた荒北は、その言葉の通りに朝イチで新開を連れてオレの部屋に来た。正座させると「一応オレもお前らが、幼馴染だなんだで括れないめんどくせぇ関係なのはわかってるつもりだけど」との前置きの後、怒涛の勢いで説教を開始。曰く、「福ちゃんはわざわざ許可とって名前を男子寮に入れた。かわいそうに熱出してウンウン唸ってるテメーのためだ」云々、「そもそも福ちゃんが何を思ってアイツに厳しく『男子寮に入るな』って躾けたか、テメーがいちばんわかってんだろ」云々、「それを裏切ってテメーは膝枕ダァ!?」云々、「恥ずかしくないんかって聞いてんだヨ2個も下の女の子に甘えて、立てなくなるまで!」云々。緩急つけて、人間の良心に訴える見事な説教だった。散々吐き出して満足したのか、荒北は「福ちゃんからなんかある?」とオレを振り返る。なにか。代替わりして以来「来年リベンジするために、私がんばるから!敏腕マネージャーになるから!だから寿一くんもあんまり甘やかさないで!」意気込む名前が珍しくべそべそしていた、昨日。
「足が痛いと泣いていた。ちゃんと謝っておけ」
「さっすが福ちゃんド正論」
荒北の抑揚のない声が早朝の自室に落ちた。新開、荒北、と2人の顔を見てこの3人でこの部屋に集まるのは後数回だろうと思い至る。これまで数えきれない程この部屋に集まったが、そのうちの何割が真面目な話だったかは定かではない。退寮の日も近く、まさかこんなくだらない説教が最後にならないでくれと、思わずにはいられないが。
「ふたりとも迷惑かけたな。反省してるよ」
「どっからどう見ても、そういう顔じゃねぇんだよな……」
「オレのこと、大好きらしい」
「ンなこと聞いてねえよ!ニヤニヤすんな!」
だが、随分マシな顔になった。名前を自分で連れてきたくせに、後悔し、ひとりで苦しんでいた男の顔とは比べものにもならない。常の余裕ある頼れる男の仮面を取り繕えず、らしくない行動を幾度も取っていた。勝利を求めるには不要な苦しみであった。「強さ」を求めるには余計なことをしたと、言わざるをえない。だが、その日々も春から数えて、時期にもう1年になる。
「福ちゃん言いたいことあるなら口に出せよ」
「ああ」
「チッいつも自分だけで完結しやがって……」
だが、口に出すには野暮というものだ。苦悩と嫉妬に塗れた1年が幼馴染のたった一言「大好き」でぬり変わったことには呆れてしまうが。
「ったく、どいつもこいつも世話が焼ける……」
オレ達の中でいちばん気を揉んだであろう荒北はガックリと肩を落とした。新開が膝を伸ばして立ち上がり、荒北の肩を叩く。
「あんまり考えすぎもよくないぜ、靖友」
「誰のせいだと思ってんのォ!?」
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