去る春、君の声だけが在る
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朝イチで東堂さんから電話が来て、眠気が吹っ飛んだ。隼人くんが寝込んだらしい。あの超健康優良児新開隼人が!?
流石にあの箱根の直線鬼も受験やら何やらハードなスケジュールを終えて気が抜けたのかも。東堂さんが「朝な、粥を持っていってやったんだが。何か欲しいものはあるかと聞いたら朦朧としながら『シャケイチ』と……幼馴染なら何かわかるか?」……勿論わかりますとも。それにしても食欲すごいな。おかゆ食べながら次の飯の要求、もはや執念の域。シャケイチはシャケ雑炊1箱の意味。食欲ある時は2箱だから、まあ熱で朦朧としてるのは嘘じゃないのかも。
午前に往診が来てくれて(寮生は皆寝込むと近所のおじいちゃんドクターのお世話になる)たそうで、私は昼休み男子寮に侵入した。勿論許可済みで。
男子寮では寿一くんが待ち構えていたので、とりあえず寮母さんからごはんをもらって鍋を借りる。後は持参した雑炊セットと一生に軽く煮るだけ。病人でかわいそうなので、お見舞いとして卵と三つ葉も付けた。隼人くんも悠ちゃんも味のついてない粥はともかく、卵粥のパウチとか絶対食べないから……口の肥えた新開兄弟は熱が出ててもこの辺うるさい。
寿一くんの監視の元、鍋を混ぜる。
「風邪ひどいんですか?既読つかないし……」
「いや……本人は知恵熱と」
「ちえねつ」
昨晩は遅くまで寿一くんと今後の展望を語り合っていたらしい。で、考えすぎて知恵熱だと。ともかく、往診の先生によるとインフルエンザじゃないので薬飲んでよく寝て休めとのことらしい。この時期にインフルは寮内大感染阿鼻叫喚間違いなしなので、良かった……のかもしれない。
バシさんからわけてもらったみかん、泉田さんから預かったポカリ。それから雑炊。お茶も。全部盆に乗せてスタンバイ。寿一くんが盆を受け取ろうとして停止した。お茶の波打つ水面をじっと見ている。一体何考えてる?
「……お前が持っていくか?」
「え?あ、いいけど……」
「1時間で出てこなかったら突入する。そして、身の安全を優先しろ」
「……さすがの隼人くんもそんな元気はないと思う」
「ム」
寿一くんはあんまり納得してない様子で、僅かに眉を寄せた。怖いよ。……っていうか意外と信用されてなくて泣ける。
「……名前?」
なるべくそうっと入ったつもりが、盆を置いた瞬間隼人くんの目が開いた。この食欲よ!
「お昼あるよ。アチアチだから冷めるまでに着替えない」
「ああ」
隼人くんは身を起こすと躊躇いなくTシャツを着替え出した。1年前だったらキャッ!とか言ったかもしれないが、正直この1年で男子高校生の上裸は日常風景と化した。どいつもこいつもすぐ脱ぐから。さすがに女子マネがいるとあって部員たちは人前で下まで脱がないように心がけているらしい。ありがたい心がけです。
隼人くんはその後、いつもの倍くらい時間をかけて着替えて、3倍くらいかけて鮭雑炊とみかんを食べた。本当に具合が悪いんだ……なんだか、いつもよりぼんやりした様子というか、目つきというか、まだ熱がありそうな顔をしている。冷えピタがびろんって剥がれていたので新しいのに貼り替える。
「私1時間で戻ってこいって言われてるの。大丈夫そう?薬飲んだら寝れる?他何かいるものある?」
「いるもの」
ぼんやりとした口調で繰り返す。嫌な予感がする、なんかすごい無茶言われそうな。
「膝貸してくれ。ずっと同じ姿勢で寝てたから首が痛くてさ」
膝か……自分も先日エースの膝借りて寝た身だから微妙に断りにくい。ベッドに失礼して、軽く足を崩して座ると、隼人くんは体を丸めて横向きに寝た。太ももに遠慮なく体重がかかる。重っ。人間の頭って普通に重い。葦木場さん、大事なエースの脚借りてすみませんでした。
隼人くんの男子高校生にしては長めの髪を耳にかけてやると、横顔がよく見えた。昔はあんなに可愛かったのに、高校に入ってメキメキ背が伸びて体格も良くなって、可愛かったあの頃の面影はわずか。昔は本当に美少年だった。今は……なんか妙に男くさく、イケメンになってしまった。あの路線のまま薄幸の美青年に育つとばかり思っていたのだが。ご近所の初恋泥棒的な路線を想像していたら、なんか違う方にいった。少女漫画の報われない方のヒーロー的な……いやそれが悪いとは言ってない。ただ、寮に入って会わないうちにみるみるデカくなってなんか謎にセクシー路線に足を踏み入れていてビビっただけ。今はスラっと細っこい悠ちゃんも、高校生になったらこっちの路線になるのだろうか。
「昔、熱出してさ。ほら、ピューロランドに行こうって日に……結局悠人と名前がふたりで出かけたことあっただろ」
「……あの日のことは悪かったと思ってます」
「布団の中で悔しくて泣いたよ」
「本当にごめん」
「オレ、あの時から何にも変わってないんだ。図体ばっかりデカくなって」
「……変わってなくはないと思う」
声はいつもの通り落ち着いている。変わりすぎてこっちは戸惑いっぱなしだ。私の困惑を察して隼人くんは笑った。
「それなら今のオレは、どういう風に見える?」
……どういう風に。随分抽象的な問いかけだ。私の進学先を示して、部活まで誘って、隼人くんのせいでこの1年は怒涛だった。目まぐるしく、何もかもが目新しく、キラキラして見えた。自慢の幼馴染が自慢の先輩になり、何に夢中になり何を愛し、何のために頑張っているのかその一端を見れた。間違いなく、今までの人生でいちばん面白い1年だった。だから、なるべくいつも通り答える。
「どういう風にって、別に。今も昔も、優しくてかっこよくて、強くて、速い。自慢の幼馴染だよ」
「……はは」
自分がしてもらったように、髪をすいて、頭を撫でる。目を閉じてしまって、あの目は隠れてしまった。怒ってる時はこわいけど、私は結構隼人くんの目が好きだ。夏の日、インターハイのあっつい路上で、ライバルを射抜く瞳が爛々と燃えていた。新聞社の速報でその写真を見た時、仕事も忘れてなんて綺麗なんだろうと呆気に取られた。
あの景色を来年また見たいと願っても、隼人くんのインターハイは今夏の一度きり。たった1年しか同じ学校に通えなかった。同い年だったら3年、あるいはもう少しだけ早く生まれていればひとつ下で2年一緒に通えた。少し惜しいけど、だからと言ってどうにもならない。私は最初の夏に見た隼人くんの勇姿を追って、2年目3年目とまたがんばるだけ。
額の熱に触れて。
「それでね、私……隼人くんのこと、大好きなの。ずっとね」
「そうか、オレもだ」
目を閉じたまま笑ってそう答えて、そのまま何か……私のコメントに対してフィードバックがあるかと思ったら、隼人くんはそのまま寝た。なんだよ。結構勇気出したのに。結構……いやかなり、恥ずかしいこと言ったのに!今更なんか「人間としてだよ?」とか言い訳するのもダサいし、寝てるし、言い逃げならぬ聞き逃げされたし、この、この、この……!!隼人くんのそういうところがさあ……!!頭をかきむしって暴れたいのを我慢する。隼人くんは人の気も知らず、すやすや眠っている。
流石にあの箱根の直線鬼も受験やら何やらハードなスケジュールを終えて気が抜けたのかも。東堂さんが「朝な、粥を持っていってやったんだが。何か欲しいものはあるかと聞いたら朦朧としながら『シャケイチ』と……幼馴染なら何かわかるか?」……勿論わかりますとも。それにしても食欲すごいな。おかゆ食べながら次の飯の要求、もはや執念の域。シャケイチはシャケ雑炊1箱の意味。食欲ある時は2箱だから、まあ熱で朦朧としてるのは嘘じゃないのかも。
午前に往診が来てくれて(寮生は皆寝込むと近所のおじいちゃんドクターのお世話になる)たそうで、私は昼休み男子寮に侵入した。勿論許可済みで。
男子寮では寿一くんが待ち構えていたので、とりあえず寮母さんからごはんをもらって鍋を借りる。後は持参した雑炊セットと一生に軽く煮るだけ。病人でかわいそうなので、お見舞いとして卵と三つ葉も付けた。隼人くんも悠ちゃんも味のついてない粥はともかく、卵粥のパウチとか絶対食べないから……口の肥えた新開兄弟は熱が出ててもこの辺うるさい。
寿一くんの監視の元、鍋を混ぜる。
「風邪ひどいんですか?既読つかないし……」
「いや……本人は知恵熱と」
「ちえねつ」
昨晩は遅くまで寿一くんと今後の展望を語り合っていたらしい。で、考えすぎて知恵熱だと。ともかく、往診の先生によるとインフルエンザじゃないので薬飲んでよく寝て休めとのことらしい。この時期にインフルは寮内大感染阿鼻叫喚間違いなしなので、良かった……のかもしれない。
バシさんからわけてもらったみかん、泉田さんから預かったポカリ。それから雑炊。お茶も。全部盆に乗せてスタンバイ。寿一くんが盆を受け取ろうとして停止した。お茶の波打つ水面をじっと見ている。一体何考えてる?
「……お前が持っていくか?」
「え?あ、いいけど……」
「1時間で出てこなかったら突入する。そして、身の安全を優先しろ」
「……さすがの隼人くんもそんな元気はないと思う」
「ム」
寿一くんはあんまり納得してない様子で、僅かに眉を寄せた。怖いよ。……っていうか意外と信用されてなくて泣ける。
「……名前?」
なるべくそうっと入ったつもりが、盆を置いた瞬間隼人くんの目が開いた。この食欲よ!
「お昼あるよ。アチアチだから冷めるまでに着替えない」
「ああ」
隼人くんは身を起こすと躊躇いなくTシャツを着替え出した。1年前だったらキャッ!とか言ったかもしれないが、正直この1年で男子高校生の上裸は日常風景と化した。どいつもこいつもすぐ脱ぐから。さすがに女子マネがいるとあって部員たちは人前で下まで脱がないように心がけているらしい。ありがたい心がけです。
隼人くんはその後、いつもの倍くらい時間をかけて着替えて、3倍くらいかけて鮭雑炊とみかんを食べた。本当に具合が悪いんだ……なんだか、いつもよりぼんやりした様子というか、目つきというか、まだ熱がありそうな顔をしている。冷えピタがびろんって剥がれていたので新しいのに貼り替える。
「私1時間で戻ってこいって言われてるの。大丈夫そう?薬飲んだら寝れる?他何かいるものある?」
「いるもの」
ぼんやりとした口調で繰り返す。嫌な予感がする、なんかすごい無茶言われそうな。
「膝貸してくれ。ずっと同じ姿勢で寝てたから首が痛くてさ」
膝か……自分も先日エースの膝借りて寝た身だから微妙に断りにくい。ベッドに失礼して、軽く足を崩して座ると、隼人くんは体を丸めて横向きに寝た。太ももに遠慮なく体重がかかる。重っ。人間の頭って普通に重い。葦木場さん、大事なエースの脚借りてすみませんでした。
隼人くんの男子高校生にしては長めの髪を耳にかけてやると、横顔がよく見えた。昔はあんなに可愛かったのに、高校に入ってメキメキ背が伸びて体格も良くなって、可愛かったあの頃の面影はわずか。昔は本当に美少年だった。今は……なんか妙に男くさく、イケメンになってしまった。あの路線のまま薄幸の美青年に育つとばかり思っていたのだが。ご近所の初恋泥棒的な路線を想像していたら、なんか違う方にいった。少女漫画の報われない方のヒーロー的な……いやそれが悪いとは言ってない。ただ、寮に入って会わないうちにみるみるデカくなってなんか謎にセクシー路線に足を踏み入れていてビビっただけ。今はスラっと細っこい悠ちゃんも、高校生になったらこっちの路線になるのだろうか。
「昔、熱出してさ。ほら、ピューロランドに行こうって日に……結局悠人と名前がふたりで出かけたことあっただろ」
「……あの日のことは悪かったと思ってます」
「布団の中で悔しくて泣いたよ」
「本当にごめん」
「オレ、あの時から何にも変わってないんだ。図体ばっかりデカくなって」
「……変わってなくはないと思う」
声はいつもの通り落ち着いている。変わりすぎてこっちは戸惑いっぱなしだ。私の困惑を察して隼人くんは笑った。
「それなら今のオレは、どういう風に見える?」
……どういう風に。随分抽象的な問いかけだ。私の進学先を示して、部活まで誘って、隼人くんのせいでこの1年は怒涛だった。目まぐるしく、何もかもが目新しく、キラキラして見えた。自慢の幼馴染が自慢の先輩になり、何に夢中になり何を愛し、何のために頑張っているのかその一端を見れた。間違いなく、今までの人生でいちばん面白い1年だった。だから、なるべくいつも通り答える。
「どういう風にって、別に。今も昔も、優しくてかっこよくて、強くて、速い。自慢の幼馴染だよ」
「……はは」
自分がしてもらったように、髪をすいて、頭を撫でる。目を閉じてしまって、あの目は隠れてしまった。怒ってる時はこわいけど、私は結構隼人くんの目が好きだ。夏の日、インターハイのあっつい路上で、ライバルを射抜く瞳が爛々と燃えていた。新聞社の速報でその写真を見た時、仕事も忘れてなんて綺麗なんだろうと呆気に取られた。
あの景色を来年また見たいと願っても、隼人くんのインターハイは今夏の一度きり。たった1年しか同じ学校に通えなかった。同い年だったら3年、あるいはもう少しだけ早く生まれていればひとつ下で2年一緒に通えた。少し惜しいけど、だからと言ってどうにもならない。私は最初の夏に見た隼人くんの勇姿を追って、2年目3年目とまたがんばるだけ。
額の熱に触れて。
「それでね、私……隼人くんのこと、大好きなの。ずっとね」
「そうか、オレもだ」
目を閉じたまま笑ってそう答えて、そのまま何か……私のコメントに対してフィードバックがあるかと思ったら、隼人くんはそのまま寝た。なんだよ。結構勇気出したのに。結構……いやかなり、恥ずかしいこと言ったのに!今更なんか「人間としてだよ?」とか言い訳するのもダサいし、寝てるし、言い逃げならぬ聞き逃げされたし、この、この、この……!!隼人くんのそういうところがさあ……!!頭をかきむしって暴れたいのを我慢する。隼人くんは人の気も知らず、すやすや眠っている。
