去る春、君の声だけが在る
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
着信は予想通り、東堂さんからだった。「山神主催・真波と小野田仲直りサイクルイベント兼継承式」決行は今日だと聞いていたが、この悪天候の中本当にやったとは。
「お疲れ様です」
『真波は戻ってきたか?』
「戻ってきました、風邪ひきそうだったので着替えに行かせましたよ。東堂さんと……小野田は大丈夫そうですか」
『オレはメガネくんを送っていったところだ。苗字、長いこと心配させて悪かったな』
「いえ、何も……何も心配していませんでした。真波のことなら」
『ワハハ相変わらず強がるな、お前は!では切るぞ』
真波と小野田の仲を取り持つために東堂さんが色々計画していたことは知っていた。志望校は筑士波、必要科目も多いし一番忙しい時期だろうに、本当に後輩思いの先輩だ。真波とは喧嘩しているところも見られていたし、心配かけたのは私の方だ。冷たい廊下で吐き気はすっかり消えた。部室に戻ろうか。
「……そんなところで何してるの?」
「真波」
何を話そうか一瞬悩んだが、その姿を視界に入れればいうことは一つだった。びしょびしょのまま出てくる悪癖は、どうにかならないのか?頭まで洗ったらしく、長い髪から水滴がつたい、首からかけたタオルに消えていった。せっかく温水の出るシャワールームなのにちゃんと温まったかも怪しい。
「お前ね、髪くらい乾かしてきなさいよ、風邪ひくでしょう」
「えーめんどくさくて」
「こんな寒い中走ってきて風邪ひくかもとか、1ミリでも思わなかったの?」
「思わなかった」
真波が軽く屈んで、意図を理解した私は思わず周囲を見渡した。誰もいないことを確認の後、タオルで容赦なくがしゃがしゃ拭いてやる。抵抗するように、みよんとアホ毛が揺れた。くそ、こんなところ誰かに見られたら死ぬ。すずこちゃんごめん、でも幼馴染がちゃんと風呂入って髪乾かすところまでできるように教育しておいて。……まさかいつもはやってもらってる?許すまじ真波山岳。この幼馴染ラブコメ野郎。
「……ごめん」
「悪いと思うならちゃんと乾かしてから出てこい」
「うん」
別に、ただ今の状況だけに謝罪したのではないとわかっていた。でも、返すべき言葉は持っていなくて、しらばっくれることしかできなかった。最後にポンポンと水気を叩いて終わり。案外背の高い真波だが、真下から見上げることで表情は全て良く見えた。バスタオルの囲いのせいで視界の情報が制限される。男にしては長い髪、整った顔。ファンがつくのもわかる、綺麗な顔だなと改めて思った。
「オレ、苗字に謝ること、他にもあって」
しつこい男だな。誰に似た?東堂さんか?尊敬する先輩だが、そこは見習わなくていい。
「いいんだよ、別に私に謝ることなんて……あるとしたら、遅刻と掃除当番のサボりと、寝坊と遅刻くらいでしょ」
「あは、結構多いな」
真波は「……ありがとう」と妙に殊勝な態度で呟いた。それから私の背中を頼りない手つきで手繰り寄せ、私たちの距離はゼロになった。色気も恋愛感情もない、不安な子どものそれと同じだとわかっていたから、私は両手をだらんと下ろしたまま、騒がず黙って受け入れた。これは、アニマルセラピーみたいなものだ。そうに決まっている。
「別に、感謝されるようなこともしてない」
「ううん。オレ、本当苗字に感謝してるから」
……そんな顔でそういういい子ちゃんの態度を取られると、お前の方が大人で、こっちが意地張ってるみたいじゃないか。私は部員同士にしては妙に近すぎる距離に目を瞑って、今までの日々を思った。真波も黙って私を見下ろしていたから、きっと同じようにしているだろうと思った。気弱な態度を見せられるのは、これが最後になることを祈る。
「お疲れ様です」
『真波は戻ってきたか?』
「戻ってきました、風邪ひきそうだったので着替えに行かせましたよ。東堂さんと……小野田は大丈夫そうですか」
『オレはメガネくんを送っていったところだ。苗字、長いこと心配させて悪かったな』
「いえ、何も……何も心配していませんでした。真波のことなら」
『ワハハ相変わらず強がるな、お前は!では切るぞ』
真波と小野田の仲を取り持つために東堂さんが色々計画していたことは知っていた。志望校は筑士波、必要科目も多いし一番忙しい時期だろうに、本当に後輩思いの先輩だ。真波とは喧嘩しているところも見られていたし、心配かけたのは私の方だ。冷たい廊下で吐き気はすっかり消えた。部室に戻ろうか。
「……そんなところで何してるの?」
「真波」
何を話そうか一瞬悩んだが、その姿を視界に入れればいうことは一つだった。びしょびしょのまま出てくる悪癖は、どうにかならないのか?頭まで洗ったらしく、長い髪から水滴がつたい、首からかけたタオルに消えていった。せっかく温水の出るシャワールームなのにちゃんと温まったかも怪しい。
「お前ね、髪くらい乾かしてきなさいよ、風邪ひくでしょう」
「えーめんどくさくて」
「こんな寒い中走ってきて風邪ひくかもとか、1ミリでも思わなかったの?」
「思わなかった」
真波が軽く屈んで、意図を理解した私は思わず周囲を見渡した。誰もいないことを確認の後、タオルで容赦なくがしゃがしゃ拭いてやる。抵抗するように、みよんとアホ毛が揺れた。くそ、こんなところ誰かに見られたら死ぬ。すずこちゃんごめん、でも幼馴染がちゃんと風呂入って髪乾かすところまでできるように教育しておいて。……まさかいつもはやってもらってる?許すまじ真波山岳。この幼馴染ラブコメ野郎。
「……ごめん」
「悪いと思うならちゃんと乾かしてから出てこい」
「うん」
別に、ただ今の状況だけに謝罪したのではないとわかっていた。でも、返すべき言葉は持っていなくて、しらばっくれることしかできなかった。最後にポンポンと水気を叩いて終わり。案外背の高い真波だが、真下から見上げることで表情は全て良く見えた。バスタオルの囲いのせいで視界の情報が制限される。男にしては長い髪、整った顔。ファンがつくのもわかる、綺麗な顔だなと改めて思った。
「オレ、苗字に謝ること、他にもあって」
しつこい男だな。誰に似た?東堂さんか?尊敬する先輩だが、そこは見習わなくていい。
「いいんだよ、別に私に謝ることなんて……あるとしたら、遅刻と掃除当番のサボりと、寝坊と遅刻くらいでしょ」
「あは、結構多いな」
真波は「……ありがとう」と妙に殊勝な態度で呟いた。それから私の背中を頼りない手つきで手繰り寄せ、私たちの距離はゼロになった。色気も恋愛感情もない、不安な子どものそれと同じだとわかっていたから、私は両手をだらんと下ろしたまま、騒がず黙って受け入れた。これは、アニマルセラピーみたいなものだ。そうに決まっている。
「別に、感謝されるようなこともしてない」
「ううん。オレ、本当苗字に感謝してるから」
……そんな顔でそういういい子ちゃんの態度を取られると、お前の方が大人で、こっちが意地張ってるみたいじゃないか。私は部員同士にしては妙に近すぎる距離に目を瞑って、今までの日々を思った。真波も黙って私を見下ろしていたから、きっと同じようにしているだろうと思った。気弱な態度を見せられるのは、これが最後になることを祈る。
