去る春、君の声だけが在る
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放課後隼人くんは何事もなかったかのように教室まで迎えに来た。いつも家に帰る時みたいにバスと電車を乗り継いで、ただし互いに終始無言で、今までで一番気まずくて最悪な帰り道だった。いつ謝ろう、なんて謝ろう。そんなことをぐるぐる考えていたら、最寄りに着くのはすぐだった。いつもなら同じ県だと思えないほど、遠くて仕方ないのに。
最寄りで電車を降りて、悪天候のせいで混雑した構内を人並みを掻い潜って進む。隼人くんのママが駅まで車で迎えに来てくれるって言ってたから、ふたりで話せるのはあと少ししかない。
「隼人くん」
「ん?どうかしたか」
「えっと、私、その……」
ごめんなさい、傷つけるようなこと言って、ごめん、隼人くんの気持ち考えられなくて、私何も分かってなくて。隼人くんを蔑ろにするような態度、たくさん取って。言いたいことはあって、電車に乗ってる間何回も繰り返したのにいざ言おうとしたら何も言葉が出てこない。黙ってるのがいちばん良くないって、間違いのない綺麗な日本語でなくたって何か言うべきだって、わかっているのに凍りついたように舌が動かない。些細なことで学校に行けなくなったあの日から、私は何も変わっていない。
「ケーキ買うんだろ?行こう」
隼人くんは苦笑して私の手を引いた。諦めてる顔だ。「もういいよ」って思ってる、期待されてない証拠。絡れる舌を動かそうとして、出てきた言葉は4文字だけだった。
「ごめん、ね」
情けない。余計なことに涙が出てきた。それよりもっと他に言うことがあった、泣いてごまかしたみたいになりたくない、空いてる左手の甲で顔を拭う。
「もっと言いたいこと、いっぱいあって」
「うん」
「ずっと、すごいねって思ってたんだよ……」
「うん」
「速いねって、思ってた」
「……うん」
「あと本当は、泉田さんと一緒になって新開さんすごいって言いたかったの……」
「名前は知らないだろうけど、急に『シンカイセンパイ』って呼ばれるようになって結構傷ついたよ」
「だって部活なんだから仕方ないでしょ……隼人くんのこと好きな子達にこれ以上睨まれたくないし……」
「そうか」
隼人くんはもう一度「ケーキ買うんだろ。行こう」と私の手を引いた。改札を抜けて、西口出てすぐのところに悠ちゃんお気に入りのケーキ屋さんがある。悠ちゃんが隼人くんのことを隼人って呼んでた頃は、いつもここでチョコレートのオペラといちごのナポレオンパイをひとつずつ買って半分こするのがお約束だった。
「……怖かっただろ。ごめんな」
手を繋いだままでは近すぎて、聞こえないふりもできなかった。隼人くんと手を繋ぐなんて、小学生ぶりかもしれない。あの頃「迷子になるから」って、いつも右が隼人くん左が悠ちゃんに捕まっていた。今はもう、無理だろうな。
「ううん。私が先だったもん……だから、本当にごめんなさい」
私は首を振って、出口へ向かう階段を踏みしめる。箱根ほどではないが荒天で、吹きこむ雨が顔にぶち当たる。隼人くんとふたり「ひどいな」「本当に」って顔を見合わせた。
最寄りで電車を降りて、悪天候のせいで混雑した構内を人並みを掻い潜って進む。隼人くんのママが駅まで車で迎えに来てくれるって言ってたから、ふたりで話せるのはあと少ししかない。
「隼人くん」
「ん?どうかしたか」
「えっと、私、その……」
ごめんなさい、傷つけるようなこと言って、ごめん、隼人くんの気持ち考えられなくて、私何も分かってなくて。隼人くんを蔑ろにするような態度、たくさん取って。言いたいことはあって、電車に乗ってる間何回も繰り返したのにいざ言おうとしたら何も言葉が出てこない。黙ってるのがいちばん良くないって、間違いのない綺麗な日本語でなくたって何か言うべきだって、わかっているのに凍りついたように舌が動かない。些細なことで学校に行けなくなったあの日から、私は何も変わっていない。
「ケーキ買うんだろ?行こう」
隼人くんは苦笑して私の手を引いた。諦めてる顔だ。「もういいよ」って思ってる、期待されてない証拠。絡れる舌を動かそうとして、出てきた言葉は4文字だけだった。
「ごめん、ね」
情けない。余計なことに涙が出てきた。それよりもっと他に言うことがあった、泣いてごまかしたみたいになりたくない、空いてる左手の甲で顔を拭う。
「もっと言いたいこと、いっぱいあって」
「うん」
「ずっと、すごいねって思ってたんだよ……」
「うん」
「速いねって、思ってた」
「……うん」
「あと本当は、泉田さんと一緒になって新開さんすごいって言いたかったの……」
「名前は知らないだろうけど、急に『シンカイセンパイ』って呼ばれるようになって結構傷ついたよ」
「だって部活なんだから仕方ないでしょ……隼人くんのこと好きな子達にこれ以上睨まれたくないし……」
「そうか」
隼人くんはもう一度「ケーキ買うんだろ。行こう」と私の手を引いた。改札を抜けて、西口出てすぐのところに悠ちゃんお気に入りのケーキ屋さんがある。悠ちゃんが隼人くんのことを隼人って呼んでた頃は、いつもここでチョコレートのオペラといちごのナポレオンパイをひとつずつ買って半分こするのがお約束だった。
「……怖かっただろ。ごめんな」
手を繋いだままでは近すぎて、聞こえないふりもできなかった。隼人くんと手を繋ぐなんて、小学生ぶりかもしれない。あの頃「迷子になるから」って、いつも右が隼人くん左が悠ちゃんに捕まっていた。今はもう、無理だろうな。
「ううん。私が先だったもん……だから、本当にごめんなさい」
私は首を振って、出口へ向かう階段を踏みしめる。箱根ほどではないが荒天で、吹きこむ雨が顔にぶち当たる。隼人くんとふたり「ひどいな」「本当に」って顔を見合わせた。
