去る春、君の声だけが在る
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「……来年の女子インターハイでも出させるつもりですか?」
泉田を呼び戻してすぐ、怪訝な顔で聞かれた。視線の先には銅橋に背負われた名前。今朝もなんとか無理やり起きてきた有様で、本殿まで歩くのは本人の言うとおり無理だろう。泣きついてくるかと思いきや、真っ直ぐ銅橋を頼りに行った。
「まさか。夏にマネージャーが欠けたら、お前らも困るだろ」
「じゃあ何だよ」
「来年はファンライドに参加させてやろうと思って」
寿一と靖友が顔を見合わせた。ファンライド……追い出しレースは毎年同じコースを120キロ走る。今年名前は留守番だった。追走車から追いかけてきて、ノートパソコンと携帯と買ったばかりのスマホを駆使して道路状況の把握と指示に追われていた、らしい。オレたちより先にゴールに着いていたが車酔いでダウンして、指示出しを交代していたのでその勇姿を見ることは叶わなかった。本当はきっと、一緒に走りたかったのだ。置いてかれるのが嫌で仕事に没頭してその感情を一旦追いやって。来年は泉田が追い出される側になる。初心者には無理かもしれないが、1年かければ、あるいは。
「本気か?」
「鬼だな」
「今はオレらが2往復する間に1往復ってくらいだけど、毎日走らせたら多分来年には完走くらいできるんじゃないか?」
「かわいい幼馴染殺す気かよ」
靖友が吐き捨てる。寿一は唸る。参道には雪が積もっている。国道あたりは明日に備えて雪がかいてあるが、道路規制で混雑するだろう。真波はきっと明日も走るだろうが、道を選ぶ必要がある。
「留守番も可哀想だろ」
な、と泉田に同意を求めるも困った顔で返される。
「苗字はきっと、今年新開さんたちと一緒に走りたかったんだと思いますよ」
「まあな」
無理なものは無理だ。今年のファンライドは終わってしまった。来年。来年オレはここにいないが。
「まあパレードまでなら後ろにくっつけて走れるか……」
「なら3年時に完走目標とする」
靖友と寿一のせいでこの先2年の名前の走行目標が決まってしまった。鬼は2人の方だ。勝手に目標まで決めて。靖友がニヤッと笑う。後輩的にいい思い出のない顔らしく、泉田が身を引いた。
「泉田ァ、大事に引いて、それこそ箱入りオヒメサマの護衛くらいの気持ちで走ってやれよ」
「そうそう、いつもお姫様扱いされてる分な。頼むぜ」
「任せた」
「?はい」
寿一が無表情を崩さぬまま、泉田の肩を叩く。世代交代の最中オレらが見てない間に、名前は泉田の「別の顔」に気がついたらしい。オレにとっては散々見慣れた勝負の顔だが、レースに出ない名前が驚くのも無理はない。
名前からは「優しくて頼れる真面目な一つ上の先輩」のイメージが崩壊したように見えるらしく、それに戸惑う姿は側から見ていて面白い。名前がその一面をこっそり「女王様」と呼んでいるのも、オレたちに揶揄われる一因だった。名前は「ハコガクの主将という責の重さによって生まれたもの」だと思っているらしいが、いうまでもなくあれはもともと泉田が持っていた性質だ。憧れの先輩フィルターで目の曇った名前が気づくか、それとも女王様呼ばわりに気づいて泉田が答え合わせをするのが先か。もし膠着状態が続くようなら、来年の初詣でネタバラシをするのも悪くない。1年後を楽しみに、それまではせいぜい名前が、名前の女王様に振り回される様を見せてもらうとしよう。
泉田を呼び戻してすぐ、怪訝な顔で聞かれた。視線の先には銅橋に背負われた名前。今朝もなんとか無理やり起きてきた有様で、本殿まで歩くのは本人の言うとおり無理だろう。泣きついてくるかと思いきや、真っ直ぐ銅橋を頼りに行った。
「まさか。夏にマネージャーが欠けたら、お前らも困るだろ」
「じゃあ何だよ」
「来年はファンライドに参加させてやろうと思って」
寿一と靖友が顔を見合わせた。ファンライド……追い出しレースは毎年同じコースを120キロ走る。今年名前は留守番だった。追走車から追いかけてきて、ノートパソコンと携帯と買ったばかりのスマホを駆使して道路状況の把握と指示に追われていた、らしい。オレたちより先にゴールに着いていたが車酔いでダウンして、指示出しを交代していたのでその勇姿を見ることは叶わなかった。本当はきっと、一緒に走りたかったのだ。置いてかれるのが嫌で仕事に没頭してその感情を一旦追いやって。来年は泉田が追い出される側になる。初心者には無理かもしれないが、1年かければ、あるいは。
「本気か?」
「鬼だな」
「今はオレらが2往復する間に1往復ってくらいだけど、毎日走らせたら多分来年には完走くらいできるんじゃないか?」
「かわいい幼馴染殺す気かよ」
靖友が吐き捨てる。寿一は唸る。参道には雪が積もっている。国道あたりは明日に備えて雪がかいてあるが、道路規制で混雑するだろう。真波はきっと明日も走るだろうが、道を選ぶ必要がある。
「留守番も可哀想だろ」
な、と泉田に同意を求めるも困った顔で返される。
「苗字はきっと、今年新開さんたちと一緒に走りたかったんだと思いますよ」
「まあな」
無理なものは無理だ。今年のファンライドは終わってしまった。来年。来年オレはここにいないが。
「まあパレードまでなら後ろにくっつけて走れるか……」
「なら3年時に完走目標とする」
靖友と寿一のせいでこの先2年の名前の走行目標が決まってしまった。鬼は2人の方だ。勝手に目標まで決めて。靖友がニヤッと笑う。後輩的にいい思い出のない顔らしく、泉田が身を引いた。
「泉田ァ、大事に引いて、それこそ箱入りオヒメサマの護衛くらいの気持ちで走ってやれよ」
「そうそう、いつもお姫様扱いされてる分な。頼むぜ」
「任せた」
「?はい」
寿一が無表情を崩さぬまま、泉田の肩を叩く。世代交代の最中オレらが見てない間に、名前は泉田の「別の顔」に気がついたらしい。オレにとっては散々見慣れた勝負の顔だが、レースに出ない名前が驚くのも無理はない。
名前からは「優しくて頼れる真面目な一つ上の先輩」のイメージが崩壊したように見えるらしく、それに戸惑う姿は側から見ていて面白い。名前がその一面をこっそり「女王様」と呼んでいるのも、オレたちに揶揄われる一因だった。名前は「ハコガクの主将という責の重さによって生まれたもの」だと思っているらしいが、いうまでもなくあれはもともと泉田が持っていた性質だ。憧れの先輩フィルターで目の曇った名前が気づくか、それとも女王様呼ばわりに気づいて泉田が答え合わせをするのが先か。もし膠着状態が続くようなら、来年の初詣でネタバラシをするのも悪くない。1年後を楽しみに、それまではせいぜい名前が、名前の女王様に振り回される様を見せてもらうとしよう。
