去る春、君の声だけが在る
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休み時間にせっせとメールを打つ。インターハイの前後、他校の選手やマネージャーと連絡先交換をした甲斐あってメル友が増えた。
レースハイ(出てもいないのに)で知らない人と話せたり、「ハコガク」とデカデカ背中にプリントしたTシャツが目立ったのか、声をかけられることも多かった。3年生の先輩方が心配して着せた迷子防止のTシャツがまさかの交流を生むとは想定外。たとえばそう、京都のダークホース御堂筋が「そのTシャツオシャレやねえ」と明らかそう思ってない態度で声をかけてきたり、ね。
プクク、って笑って指さしてきたけど、私が「わあ〜!京都の人って本当にそういう煽りするんだあ〜!!京都代表背負ってるのによくやるねえ〜!スポーツマンシップのかけらもないねえ〜〜!」と指差し返して大声出したらピッて悲鳴あげてた。自分より遥かに背の低い気の弱そ〜な女子に言い返されると思ってなかったんだろうな。ハコガクのマネージャーやってて陰湿な人間にならないわけがないだろうが!うちの部員は大体皆陰湿なのはそれだけ情報収集してたらわかることだろうが!連絡先は御堂筋が怯んだ隙に赤外線出せやオラッて迫って無理やり入手した。人を指さすなって東堂さんに怒られながら無理やりケータイ突き合わせた甲斐があった。かっこよくビシッと指さし、先輩方のまねっこなんですけど。最悪の出会い方をしておきながら、御堂筋とのメールは地味に続いている。打率はかなり低いけど。
「ねえ、ちょっとマネージャー」
真波だ。廊下から声をかけられても遠い。渋々立ち上がると、真波は「生物の教科書貸して」と手を合わせた。午前に使ったのでちょうど持っている。ケータイを閉じてスラックスのポケットに戻し、生物の教科書を引き出しから取る。
「部活の時に返してよ」
「うん」
いい返事といい笑顔だが、今日のうちに返ってくるかは正直微妙。最悪次の授業までに戻って来ればいい、レイさんだったらその日のうちに復習するだろうけど、私は部活を止められない程度の成績だけで十分。
「さっきの、メール?」
「うん……」
さっさと教室に戻るかと思いきや、真波は動く様子がない。廊下で話すの、嫌なんだけど。強豪自転車部で1年ながらレギュラー入りを果たした真波は有名人だ。それに真波は私の数少ない友達であるすずこちゃんの片思いの相手だから、あんまり親しく見えるような真似をしたくない。
「誰?」
「みどーすじくん」
「へえ、何の話するの?」
おもしろそうに私を見た。別に、部員にもメールの話は知られてるし、内容も見せられないような秘密の話じゃないけど、何となくポケットの中でケータイを隠すように握った。
「今日は何食べたとか、真波がミーティング来ないとか、何のアニメ見てるとか。今週のワンピースの話とか」
「……それって、返事くる?」
「こないけど。たまに、キモとかウザとか、一言くる」
「ええ……」
真波には言わないけど、そういうチマチマしたやり取りの末、ついに先日「ぼくもそれ見てるわ」という日本語らしい返事をもらったのだ。せっせと今シーズンのアニメは何を見るかの話を送り続けた甲斐があった。へ〜そういうの見るんだという気持ちをそのまま打たずに「これ、小野田も見てるらしいよ」と小野田情報に頼ったら返事来なかったけど。今週ここすごかった、来週どうなるか楽しみだね、みたいなアニメの感想を細々送っている。ごくたまに「そやね」「あいつ絶対死んでない」とか、他の話題の時より比較的日本語ぽいメッセージが返ってくる。これを1年続けたら、来年のインターハイでもうちょっと話せるんじゃないかなと思っている。来期のアニメもいいやつありますように。
「坂道くんともしてるんでしょ」
ちょっとざらついたトーン。あの敗北をまだ割り切れていないことはわかってる。私はわざと明るいトーンで話す。
「うん、毎日ご飯の写真送ってもらってるよ」
「……うん?」
「朝はおはよう!ってメールきて朝ごはんの写真つけてくれるの。昼はお弁当とか、あと夜ごはん」
「なにそれ!」
真波だってしてるだろ、と思ったらこの男電話番号の交換すらしてないらしい。なんでだよ。誰かのアシストがないとできないのか?私がした方がいいのか?
「インターハイ王者のごはんすごく興味ある、うち寮生多いからごはんは皆同じのなんだよねって言ったらバリエーション披露ってことで毎日送ってくれるようになったの」
「す、ストーカーじゃん」
「ストーカーじゃないよ!友達だもん!」
真波は本気で引いた顔で首を振った。くそ、むかつくな。
「やってることはストーカーだよ」
「違うし!寮の月献立表の写メ送ったら、小野田のお母さんも『献立決まらない時に助かるわ〜』って言ってたもん」
「うっわ、頼むから、来年のインターハイより前に逮捕されないでね……」
「ひどい!」
私たちがギャーギャー言い合ってるとたまたま通りかかった荒北さんが「お前ら廊下でうるせえんだよ!!」と我々を一喝。完全にヤンキーの威圧。いたいけな1年生は蜘蛛の子を散らすように教室に入って行った。我々にとっては後輩思いの怖い先輩だけど、知らない1年生からしたら完全に関わりたくない部類の先輩だろうな。
「あ、荒北さん」
「お前らの喧嘩、廊下の端まで聞こえてんだよ」
「お疲れ様です」
「誰のせいだよ」
珍しくはあっとため息。3年生は受験に向けて大変な時期だろう。本当にお疲れ様です。
「名前チャンはストーカーほどほどにしろよ。さすがに来年は庇えねえから」
「ストーカーじゃないです、荒北さんこそわざわざ1年の廊下通ってどうしたんですか」
「1年ビビらせにきたんでしょ」
「ビビらせてやろうか?」
あ、その顔はまじでヤンキー。私たちは荒北さんにしごかれ怒鳴られた数ヶ月の記憶を思い出し、お疲れ様でした!と勝手に宣言してそれぞれの教室に逃げた。
風の噂によると、寿一くんが改心させるまで、荒北さんは本当にヤンキーだったらしい。それを手懐けて立派なエースアシストにした寿一くんっていったい何者なの?謎は深まるばかり。
レースハイ(出てもいないのに)で知らない人と話せたり、「ハコガク」とデカデカ背中にプリントしたTシャツが目立ったのか、声をかけられることも多かった。3年生の先輩方が心配して着せた迷子防止のTシャツがまさかの交流を生むとは想定外。たとえばそう、京都のダークホース御堂筋が「そのTシャツオシャレやねえ」と明らかそう思ってない態度で声をかけてきたり、ね。
プクク、って笑って指さしてきたけど、私が「わあ〜!京都の人って本当にそういう煽りするんだあ〜!!京都代表背負ってるのによくやるねえ〜!スポーツマンシップのかけらもないねえ〜〜!」と指差し返して大声出したらピッて悲鳴あげてた。自分より遥かに背の低い気の弱そ〜な女子に言い返されると思ってなかったんだろうな。ハコガクのマネージャーやってて陰湿な人間にならないわけがないだろうが!うちの部員は大体皆陰湿なのはそれだけ情報収集してたらわかることだろうが!連絡先は御堂筋が怯んだ隙に赤外線出せやオラッて迫って無理やり入手した。人を指さすなって東堂さんに怒られながら無理やりケータイ突き合わせた甲斐があった。かっこよくビシッと指さし、先輩方のまねっこなんですけど。最悪の出会い方をしておきながら、御堂筋とのメールは地味に続いている。打率はかなり低いけど。
「ねえ、ちょっとマネージャー」
真波だ。廊下から声をかけられても遠い。渋々立ち上がると、真波は「生物の教科書貸して」と手を合わせた。午前に使ったのでちょうど持っている。ケータイを閉じてスラックスのポケットに戻し、生物の教科書を引き出しから取る。
「部活の時に返してよ」
「うん」
いい返事といい笑顔だが、今日のうちに返ってくるかは正直微妙。最悪次の授業までに戻って来ればいい、レイさんだったらその日のうちに復習するだろうけど、私は部活を止められない程度の成績だけで十分。
「さっきの、メール?」
「うん……」
さっさと教室に戻るかと思いきや、真波は動く様子がない。廊下で話すの、嫌なんだけど。強豪自転車部で1年ながらレギュラー入りを果たした真波は有名人だ。それに真波は私の数少ない友達であるすずこちゃんの片思いの相手だから、あんまり親しく見えるような真似をしたくない。
「誰?」
「みどーすじくん」
「へえ、何の話するの?」
おもしろそうに私を見た。別に、部員にもメールの話は知られてるし、内容も見せられないような秘密の話じゃないけど、何となくポケットの中でケータイを隠すように握った。
「今日は何食べたとか、真波がミーティング来ないとか、何のアニメ見てるとか。今週のワンピースの話とか」
「……それって、返事くる?」
「こないけど。たまに、キモとかウザとか、一言くる」
「ええ……」
真波には言わないけど、そういうチマチマしたやり取りの末、ついに先日「ぼくもそれ見てるわ」という日本語らしい返事をもらったのだ。せっせと今シーズンのアニメは何を見るかの話を送り続けた甲斐があった。へ〜そういうの見るんだという気持ちをそのまま打たずに「これ、小野田も見てるらしいよ」と小野田情報に頼ったら返事来なかったけど。今週ここすごかった、来週どうなるか楽しみだね、みたいなアニメの感想を細々送っている。ごくたまに「そやね」「あいつ絶対死んでない」とか、他の話題の時より比較的日本語ぽいメッセージが返ってくる。これを1年続けたら、来年のインターハイでもうちょっと話せるんじゃないかなと思っている。来期のアニメもいいやつありますように。
「坂道くんともしてるんでしょ」
ちょっとざらついたトーン。あの敗北をまだ割り切れていないことはわかってる。私はわざと明るいトーンで話す。
「うん、毎日ご飯の写真送ってもらってるよ」
「……うん?」
「朝はおはよう!ってメールきて朝ごはんの写真つけてくれるの。昼はお弁当とか、あと夜ごはん」
「なにそれ!」
真波だってしてるだろ、と思ったらこの男電話番号の交換すらしてないらしい。なんでだよ。誰かのアシストがないとできないのか?私がした方がいいのか?
「インターハイ王者のごはんすごく興味ある、うち寮生多いからごはんは皆同じのなんだよねって言ったらバリエーション披露ってことで毎日送ってくれるようになったの」
「す、ストーカーじゃん」
「ストーカーじゃないよ!友達だもん!」
真波は本気で引いた顔で首を振った。くそ、むかつくな。
「やってることはストーカーだよ」
「違うし!寮の月献立表の写メ送ったら、小野田のお母さんも『献立決まらない時に助かるわ〜』って言ってたもん」
「うっわ、頼むから、来年のインターハイより前に逮捕されないでね……」
「ひどい!」
私たちがギャーギャー言い合ってるとたまたま通りかかった荒北さんが「お前ら廊下でうるせえんだよ!!」と我々を一喝。完全にヤンキーの威圧。いたいけな1年生は蜘蛛の子を散らすように教室に入って行った。我々にとっては後輩思いの怖い先輩だけど、知らない1年生からしたら完全に関わりたくない部類の先輩だろうな。
「あ、荒北さん」
「お前らの喧嘩、廊下の端まで聞こえてんだよ」
「お疲れ様です」
「誰のせいだよ」
珍しくはあっとため息。3年生は受験に向けて大変な時期だろう。本当にお疲れ様です。
「名前チャンはストーカーほどほどにしろよ。さすがに来年は庇えねえから」
「ストーカーじゃないです、荒北さんこそわざわざ1年の廊下通ってどうしたんですか」
「1年ビビらせにきたんでしょ」
「ビビらせてやろうか?」
あ、その顔はまじでヤンキー。私たちは荒北さんにしごかれ怒鳴られた数ヶ月の記憶を思い出し、お疲れ様でした!と勝手に宣言してそれぞれの教室に逃げた。
風の噂によると、寿一くんが改心させるまで、荒北さんは本当にヤンキーだったらしい。それを手懐けて立派なエースアシストにした寿一くんっていったい何者なの?謎は深まるばかり。
