去る春、君の声だけが在る
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告白された時の断り文句は難しい。
「ごめんなさい、好きな人がいるから」
……咄嗟に出た一言がまさか火種を生むとはね。
事務作業は嫌いじゃないけどあまりにも量が多いとげんなりする。2年の先輩方が「去年やったやつだから」と手伝ってくれて、ようやく終わりが見えてきた。これが終わったら、自販機でジュースでも買ってこようかなと顔を上げたその時。向かいで部員が書いた公休申請書を数えていた泉田さんが顔を上げた。
「そういえば、また告白されたそうじゃないか」
「ヒッ泉田さんどこでそれを」
「相手、2年だったろ。もう噂になってるぜ」
「ひーっクソですね」
「クソじゃない」
「すみませんでした葦木場さん撤回します」
「1年生呼び出してこそこそ告白して、フラれたら有る事無い事吹聴して……最低野郎にかわりないけどね」
「……葦木場さんもしかして今の、クソって言い方が良くなかったってことです?」
「当たり前だろ。女の子がクソとか言うんじゃない」
「……はーい」
「で、誰が好きなんだ?」
「ピッ」
意味もなく書類をトントン揃えていたところで黒田さんから追撃。慌てて顔を見ると3人とも面白がっている顔をしている。黒田さんの後輩いびる時のニヤニヤした顔には、完全に荒北さんの血を感じる。
「なななななんのことです」
「好きな人がいるから付き合えません〜ってフったらしいな。やるじゃねえか」
「2年の間じゃ自転車部の誰かに違いないって、大いに話題だ。オレも相手を知らないかクラスメイトに聞かれたよ」
「吹聴って、そこをですか!?クソだな!!」
「名前」
「はい」
山の中の学校、男所帯の部活、男子寮暮らし……とくれば、面白そうな話題に飢えているのは当然。誰と誰が付き合いだしただの別れただの、そういう話題はゴール前の葦木場さん並みの速度で伝播する。みんな恋愛話にはとびきり食いつきがいい。泉田さんは笑っているばかりで、でも止めないということはそういうことだ。所詮2年の先輩方も面白い話題に飢えたいちハコガク生ということ。ため息が出る。
「……好きな人とかいませんよ」
「またまた」
「程のいい断り文句ですよ。だいたいこれで引くし……これで逆に燃える人もいますけど、そういうやつは大体直線鬼が出てくると逃げるし」
「存在しない思い人を理由に断っているということかい?」
「ウッそんな人をクズみたいに言わないでくださいよ、逆にどうやって断ってるんですか、最近異様にモテてる黒田さんとか!」
「フッ……」
そう、2年の先輩方は最近異様にモテてる。普通に気に食わない。クラスメイトから「黒田先輩に渡して」「葦木場先輩って甘いものはお好きかしら……」「泉田先輩ってお休みの日は何を……?」みたいなのが異様に増えた。どいつもこいつも急にモテやがって!!ムカつく!!……もしや差し入れも質問も「ぜひ直接伝えて!先輩方きっと喜ぶと思う!」で逃げてたせいでモテが増長したのか……?自業自得……?
黒田さんはカッコつけてわざとらしいポーズを決めた。
「今は、部活が大事だからって断ってるぜ」
「部活を言い訳に来年までキープしとこうってことですか!?サイテー!」
「「ウッ」」
まさかの2年生全員に被弾。まさか自転車部ではよくある断り文句なのだろうか……
「引退したら彼女とイチャイチャしながら大学受験なんて……不潔……がっかりです……ただでさえ最近モテてて気に食わないのに〜!」
「拗ねるな拗ねるな」
「ない恋愛を理由に断ってるやつと五十歩百歩だろ」
「なんてこというんですか葦木場さん!私は気を持たせないようにきっぱり断ってます!!」
「でもそれって……塔ちゃん?」
撃沈から復活した葦木場さんが机に頬をつけたまま泉田さんを伺った。腕を組んで険しい顔で考え込んでいる。この人はド真面目なので、私の批判を真剣に受け止めすぎたのかも……
「ボクもはっきり断ろうかな。好きな子がいるって。相手にも悪いし……」
「は」
「ドっどこのどいつですか!?そいつは!?!?私の目の黒いうちはここここ交際なんて許しませんけど!!認められませんけど!!!!」
「過保護のオカンか!」
「じゃあ黒田さんは許せるんですか引退後の泉田さんがぽっと出の恋人とイチャイチャイチャイチャ受験勉強してて全然構ってくれなくなっても!!」
「許せるわけない!!」
「ですよね!!」
うるさい私たちを横目に葦木場さんの特大ため息。机にぐるぐると何か書いて。
「オレも好きな子いるからって断ろうかな」
「いるんですか?」
「さあ?」
「さあって……なんだよ天然がよ」
「ていうか急に2人してそんなこと言い出したら、両片思いって噂になりますよ。自転車部が禁断の花園になってしまう」
「そもそも別に自転車部は恋愛禁止ではない」
「寛容ですね。でも彼女持ち全然いなくないですか」
「事実だとしても言ってやるなよ」
言い合いを続ける黒田さんと私を横目に、葦木場さんは完成書類を片付け始めた。やばい、昼休み終わってしまう。訂正がいるやつと提出できる物を分けて泉田さんに返却。
「塔ちゃん先にその言い訳使っていいよ。オレも半年ぐらいしたらそっちにシフトするから……塔ちゃんに片想いしてるとか……勘違いされたくないし」
「こっちこそ願い下げだよ拓斗」
「揉めるな揉めるな」
……こっちもこっちでめんどくさいことになってるし……ペンケースにペンを戻して、プラスチックかばんにしまう。通学生じゃないけど、校内の移動に便利で気に入っている。
「そういうユキちゃんはどうなの」
「ユキも半年ずらして使うかい」
「え……いいよ、オレべつに今、好きな人いねえし……」
……。神妙な顔の葦木場さんと泉田さんと顔を見合わせて。今日一番の特大ため息。
「……ある意味ユキがいちばん誠実かもしれないな」
「ありもしない片思いの嘘ついてる自分が恥ずかしくなってきました!部活でいっぱいいっぱいだからって正直に言うことにします」
「ユキちゃん、やっぱすごいよ……オレ、ユキちゃんのこと眩しいよ……!!」
「なんなんだよお前ら!!!!」
「ごめんなさい、好きな人がいるから」
……咄嗟に出た一言がまさか火種を生むとはね。
事務作業は嫌いじゃないけどあまりにも量が多いとげんなりする。2年の先輩方が「去年やったやつだから」と手伝ってくれて、ようやく終わりが見えてきた。これが終わったら、自販機でジュースでも買ってこようかなと顔を上げたその時。向かいで部員が書いた公休申請書を数えていた泉田さんが顔を上げた。
「そういえば、また告白されたそうじゃないか」
「ヒッ泉田さんどこでそれを」
「相手、2年だったろ。もう噂になってるぜ」
「ひーっクソですね」
「クソじゃない」
「すみませんでした葦木場さん撤回します」
「1年生呼び出してこそこそ告白して、フラれたら有る事無い事吹聴して……最低野郎にかわりないけどね」
「……葦木場さんもしかして今の、クソって言い方が良くなかったってことです?」
「当たり前だろ。女の子がクソとか言うんじゃない」
「……はーい」
「で、誰が好きなんだ?」
「ピッ」
意味もなく書類をトントン揃えていたところで黒田さんから追撃。慌てて顔を見ると3人とも面白がっている顔をしている。黒田さんの後輩いびる時のニヤニヤした顔には、完全に荒北さんの血を感じる。
「なななななんのことです」
「好きな人がいるから付き合えません〜ってフったらしいな。やるじゃねえか」
「2年の間じゃ自転車部の誰かに違いないって、大いに話題だ。オレも相手を知らないかクラスメイトに聞かれたよ」
「吹聴って、そこをですか!?クソだな!!」
「名前」
「はい」
山の中の学校、男所帯の部活、男子寮暮らし……とくれば、面白そうな話題に飢えているのは当然。誰と誰が付き合いだしただの別れただの、そういう話題はゴール前の葦木場さん並みの速度で伝播する。みんな恋愛話にはとびきり食いつきがいい。泉田さんは笑っているばかりで、でも止めないということはそういうことだ。所詮2年の先輩方も面白い話題に飢えたいちハコガク生ということ。ため息が出る。
「……好きな人とかいませんよ」
「またまた」
「程のいい断り文句ですよ。だいたいこれで引くし……これで逆に燃える人もいますけど、そういうやつは大体直線鬼が出てくると逃げるし」
「存在しない思い人を理由に断っているということかい?」
「ウッそんな人をクズみたいに言わないでくださいよ、逆にどうやって断ってるんですか、最近異様にモテてる黒田さんとか!」
「フッ……」
そう、2年の先輩方は最近異様にモテてる。普通に気に食わない。クラスメイトから「黒田先輩に渡して」「葦木場先輩って甘いものはお好きかしら……」「泉田先輩ってお休みの日は何を……?」みたいなのが異様に増えた。どいつもこいつも急にモテやがって!!ムカつく!!……もしや差し入れも質問も「ぜひ直接伝えて!先輩方きっと喜ぶと思う!」で逃げてたせいでモテが増長したのか……?自業自得……?
黒田さんはカッコつけてわざとらしいポーズを決めた。
「今は、部活が大事だからって断ってるぜ」
「部活を言い訳に来年までキープしとこうってことですか!?サイテー!」
「「ウッ」」
まさかの2年生全員に被弾。まさか自転車部ではよくある断り文句なのだろうか……
「引退したら彼女とイチャイチャしながら大学受験なんて……不潔……がっかりです……ただでさえ最近モテてて気に食わないのに〜!」
「拗ねるな拗ねるな」
「ない恋愛を理由に断ってるやつと五十歩百歩だろ」
「なんてこというんですか葦木場さん!私は気を持たせないようにきっぱり断ってます!!」
「でもそれって……塔ちゃん?」
撃沈から復活した葦木場さんが机に頬をつけたまま泉田さんを伺った。腕を組んで険しい顔で考え込んでいる。この人はド真面目なので、私の批判を真剣に受け止めすぎたのかも……
「ボクもはっきり断ろうかな。好きな子がいるって。相手にも悪いし……」
「は」
「ドっどこのどいつですか!?そいつは!?!?私の目の黒いうちはここここ交際なんて許しませんけど!!認められませんけど!!!!」
「過保護のオカンか!」
「じゃあ黒田さんは許せるんですか引退後の泉田さんがぽっと出の恋人とイチャイチャイチャイチャ受験勉強してて全然構ってくれなくなっても!!」
「許せるわけない!!」
「ですよね!!」
うるさい私たちを横目に葦木場さんの特大ため息。机にぐるぐると何か書いて。
「オレも好きな子いるからって断ろうかな」
「いるんですか?」
「さあ?」
「さあって……なんだよ天然がよ」
「ていうか急に2人してそんなこと言い出したら、両片思いって噂になりますよ。自転車部が禁断の花園になってしまう」
「そもそも別に自転車部は恋愛禁止ではない」
「寛容ですね。でも彼女持ち全然いなくないですか」
「事実だとしても言ってやるなよ」
言い合いを続ける黒田さんと私を横目に、葦木場さんは完成書類を片付け始めた。やばい、昼休み終わってしまう。訂正がいるやつと提出できる物を分けて泉田さんに返却。
「塔ちゃん先にその言い訳使っていいよ。オレも半年ぐらいしたらそっちにシフトするから……塔ちゃんに片想いしてるとか……勘違いされたくないし」
「こっちこそ願い下げだよ拓斗」
「揉めるな揉めるな」
……こっちもこっちでめんどくさいことになってるし……ペンケースにペンを戻して、プラスチックかばんにしまう。通学生じゃないけど、校内の移動に便利で気に入っている。
「そういうユキちゃんはどうなの」
「ユキも半年ずらして使うかい」
「え……いいよ、オレべつに今、好きな人いねえし……」
……。神妙な顔の葦木場さんと泉田さんと顔を見合わせて。今日一番の特大ため息。
「……ある意味ユキがいちばん誠実かもしれないな」
「ありもしない片思いの嘘ついてる自分が恥ずかしくなってきました!部活でいっぱいいっぱいだからって正直に言うことにします」
「ユキちゃん、やっぱすごいよ……オレ、ユキちゃんのこと眩しいよ……!!」
「なんなんだよお前ら!!!!」
