去る春、君の声だけが在る
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「ディズニーランドねえ……」
バシさんが心底興味なさそうに呟いた。確かにディズニーランドで楽しそうにしているところは想像つかない。そのバシさんがどうしてディズニーランドに行くことになったかというと、秋遠足だ。
ハコガクには伝統の秋遠足がある。クラスの親睦を深めるべく、行き先を決めてバスを借りるなり電車に乗るなりして日帰りで行って帰ってくる、というもの。隼人くん曰く1年生はだいたいディズニーランドに行って、2年生はもう少し近く県内の観光地、3年生にもなるとほとんどの人が行かない、もしくは足湯に浸かって帰ってくる程度になるという。今年も1年生は伝統に倣い、ランドになった。
とにかくバシさんとディズニーランドの浮かれた雰囲気が不一致すぎるが、口に出したら一緒に回ってもらえなくなる。私は、バシさんとレイさんに行き先が決まる前から「絶対一緒に行こうね」としつこく言っておいた。例年通りディズニーランドだとしたら、ひとりで回るのは勇気が出ないと思って。「次に問題を起こしたら永久退部」状態が長かったバシさんにも無事秋遠足の許可がおり(遠足の許可がおりないかもなんて前代未聞だと泉田さんが呆れていた)、めでたく一緒にディズニーランド行きが決まった。
遠出は初めて、一緒に遊びにいけるのが嬉しくて、その上行き先はディズニーランドだ。2人が行かなかったら不参加にしよう(不参加の人は学校で自習)と思っていたから、初めての友達ディズニーに私は大いに浮かれた。
「お前がわざわざ行くってことは、何か目当てのもんでもあるのか?」
「あのね、カヌー乗りたい」
「カヌー」
バシさんがよくわかってなさそうな顔でそのまま繰り返す。レイさんはパタパタとキーボードを叩いて、検索結果に辿り着いたのか首を傾げた。
「人力か?わざわざ、ディズニーランドで?」
「嫌じゃなければ一緒にカヌー漕いでほしい……」
「まあいいけど……」
「やった!いつも隼人くんちと行くと、みんなで乗ってたの。バシさんもレイさんもパワーあるし、絶対楽しいよ!」
「へえ、幼馴染とは聞いていたけど、家族ぐるみで遊びに行くような仲だったのか」
「私が不登校になるまではね……」
「ああ、そう……」
私の不登校事情を知っているレイさんが眉を寄せたが、あまり深刻に捉えないでほしい。新開家とは中学生にもなると家族ぐるみで遊びに行くようなことは無くなったが、代わりに毎年クリスマスに悠ちゃんとふたりでディズニーに遊びに行っていた。悠ちゃんから今年も行こうと誘われたが、相手が受験生なので断った。悠ちゃんには真面目に勉強してもらって、なんとしてもハコガクに受かっていだだきたい。
「そうだおふたりとも、カヌーのご経験は?」
「ねえよ」
「ボーイスカウトで少しやったかな」
「おー頼もし」
未経験とか関係なく、バシさんは多分平気だ。脚だけじゃなく上半身もガチガチに重視しているスプリンターの漕ぐカヌー。なんか、すごく速そう。一般人並みの体力の私と、未経験者のバシさんと一緒に乗る以上、同乗キャスト以上に自分の采配が重要になると察したレイさんがカヌーの効率的な漕ぎ方を調べておくと遠足のしおりにメモした。いつも頼りになる。
「真波は?」
「誘ったよ、でもカヌーにもイッツアスモールワールドにも興味ないって言ってたから」
「まあ無いだろうな」
「でも遠足は行くらしい」
「おお、意外じゃねえか」
「すずこちゃんが行きたそうにしてたから「ランドには有名な山が3つあるよ。クライマーなら制覇しないとね」って唆して参加名簿も書かせた」
「お前な……」
「訴えられたら普通に負けるぞ」
「訴えられないよ。だって真波、すずこちゃんのこと好きじゃん。すずこちゃんに誘われたら行くって」
イッツアスモールワールドを検索したレイさんがちらりと私を見た。これに3人で乗るのかって顔だ。乗るよ。なんならポップコーンバケツも下げてもらう。耳とか帽子は勘弁してあげてもいいけど、いるなら実家から持ってくる。ディズニーランドで中途半端に恥ずかしがってたら勿体無いからね。そもそもポップコーンは絶対ひとりひとつ必要。隼人くんも悠ちゃんも待ち時間に絶対なにかしら食べてた。食べてない時がないくらい食べてた。チュロスも食べたいし、うちにあるバケツはミニーちゃんとプーさんとマリーちゃんだから3人で仲良く相談して誰がどれ下げるか決めなくちゃ。何なら新しく買ってもいいし。
「楽しみだなあ、友達と行くディズニーランド!」
私の浮かれた発言に、ふたりは顔を見合わせて沈黙した。多分部活外に友達がいなくてかわいそうだと思われているのだと思う。
すずこちゃんのウキウキ片思いディズニーデートも素敵だけど、お友達とディズニーに行くのもきっと楽しいだろう。すずこちゃんの口から聞く恋バナは(相手が見知った真波山岳とはいえ)どれも少女漫画みたいで、私は数少ないお友達の恋路をハラハラドキドキ見守っている。恋するふたりがディズニーランドに行くと、いったいどんな素敵なイベントが起こるんだろう。
秋遠足当日はバシさんとレイさんと、どのポップコーンバケツを誰が下げるかで喧嘩したり、3人貸切でめちゃくちゃカヌー漕いだりした。効率厨のレイさんがバシさんにああしろこうしろと漕ぎ方を事前に指示 しておいた結果、人力とは思えない速度が出たので、漕ぐのを放棄して爆笑してしまった。バシさんとレイさんを乗せた時点で爆走なのは想像してたけど、背中の力が強すぎるスプリンターの全力カヌーは割ととんでもない速度が出るとひとつ勉強になった。下船後にキャストさんに勧誘されて困惑するバシさんを見て、笑いすぎて死ぬかと思った。それからふたりは私に付き合って気まずそうな顔をしつつイッツアスモールワールドに乗ってくれたし、バシさんはやっぱりチュロスとターキーの2本持ちだったし(普通の人がやったら破産しそうな食べ方だけどバシさん家はいわゆる超”太い”タイプ。超高級自転車に乗ってるのも納得だ)ガッツリ予習済みのレイさんが背後から口出す通りに構えた結果、保安官バッチは2個もらえたし。すずこちゃんみたいなドキドキの少女漫画デートじゃないけど、朝から晩まで笑い転げて、初めて友達と行ったディズニーランドのいい思い出になった。来年の秋遠足も一緒に行けたらいいな。ふたりに彼女ができたら流石に遠慮かな……
バシさんが心底興味なさそうに呟いた。確かにディズニーランドで楽しそうにしているところは想像つかない。そのバシさんがどうしてディズニーランドに行くことになったかというと、秋遠足だ。
ハコガクには伝統の秋遠足がある。クラスの親睦を深めるべく、行き先を決めてバスを借りるなり電車に乗るなりして日帰りで行って帰ってくる、というもの。隼人くん曰く1年生はだいたいディズニーランドに行って、2年生はもう少し近く県内の観光地、3年生にもなるとほとんどの人が行かない、もしくは足湯に浸かって帰ってくる程度になるという。今年も1年生は伝統に倣い、ランドになった。
とにかくバシさんとディズニーランドの浮かれた雰囲気が不一致すぎるが、口に出したら一緒に回ってもらえなくなる。私は、バシさんとレイさんに行き先が決まる前から「絶対一緒に行こうね」としつこく言っておいた。例年通りディズニーランドだとしたら、ひとりで回るのは勇気が出ないと思って。「次に問題を起こしたら永久退部」状態が長かったバシさんにも無事秋遠足の許可がおり(遠足の許可がおりないかもなんて前代未聞だと泉田さんが呆れていた)、めでたく一緒にディズニーランド行きが決まった。
遠出は初めて、一緒に遊びにいけるのが嬉しくて、その上行き先はディズニーランドだ。2人が行かなかったら不参加にしよう(不参加の人は学校で自習)と思っていたから、初めての友達ディズニーに私は大いに浮かれた。
「お前がわざわざ行くってことは、何か目当てのもんでもあるのか?」
「あのね、カヌー乗りたい」
「カヌー」
バシさんがよくわかってなさそうな顔でそのまま繰り返す。レイさんはパタパタとキーボードを叩いて、検索結果に辿り着いたのか首を傾げた。
「人力か?わざわざ、ディズニーランドで?」
「嫌じゃなければ一緒にカヌー漕いでほしい……」
「まあいいけど……」
「やった!いつも隼人くんちと行くと、みんなで乗ってたの。バシさんもレイさんもパワーあるし、絶対楽しいよ!」
「へえ、幼馴染とは聞いていたけど、家族ぐるみで遊びに行くような仲だったのか」
「私が不登校になるまではね……」
「ああ、そう……」
私の不登校事情を知っているレイさんが眉を寄せたが、あまり深刻に捉えないでほしい。新開家とは中学生にもなると家族ぐるみで遊びに行くようなことは無くなったが、代わりに毎年クリスマスに悠ちゃんとふたりでディズニーに遊びに行っていた。悠ちゃんから今年も行こうと誘われたが、相手が受験生なので断った。悠ちゃんには真面目に勉強してもらって、なんとしてもハコガクに受かっていだだきたい。
「そうだおふたりとも、カヌーのご経験は?」
「ねえよ」
「ボーイスカウトで少しやったかな」
「おー頼もし」
未経験とか関係なく、バシさんは多分平気だ。脚だけじゃなく上半身もガチガチに重視しているスプリンターの漕ぐカヌー。なんか、すごく速そう。一般人並みの体力の私と、未経験者のバシさんと一緒に乗る以上、同乗キャスト以上に自分の采配が重要になると察したレイさんがカヌーの効率的な漕ぎ方を調べておくと遠足のしおりにメモした。いつも頼りになる。
「真波は?」
「誘ったよ、でもカヌーにもイッツアスモールワールドにも興味ないって言ってたから」
「まあ無いだろうな」
「でも遠足は行くらしい」
「おお、意外じゃねえか」
「すずこちゃんが行きたそうにしてたから「ランドには有名な山が3つあるよ。クライマーなら制覇しないとね」って唆して参加名簿も書かせた」
「お前な……」
「訴えられたら普通に負けるぞ」
「訴えられないよ。だって真波、すずこちゃんのこと好きじゃん。すずこちゃんに誘われたら行くって」
イッツアスモールワールドを検索したレイさんがちらりと私を見た。これに3人で乗るのかって顔だ。乗るよ。なんならポップコーンバケツも下げてもらう。耳とか帽子は勘弁してあげてもいいけど、いるなら実家から持ってくる。ディズニーランドで中途半端に恥ずかしがってたら勿体無いからね。そもそもポップコーンは絶対ひとりひとつ必要。隼人くんも悠ちゃんも待ち時間に絶対なにかしら食べてた。食べてない時がないくらい食べてた。チュロスも食べたいし、うちにあるバケツはミニーちゃんとプーさんとマリーちゃんだから3人で仲良く相談して誰がどれ下げるか決めなくちゃ。何なら新しく買ってもいいし。
「楽しみだなあ、友達と行くディズニーランド!」
私の浮かれた発言に、ふたりは顔を見合わせて沈黙した。多分部活外に友達がいなくてかわいそうだと思われているのだと思う。
すずこちゃんのウキウキ片思いディズニーデートも素敵だけど、お友達とディズニーに行くのもきっと楽しいだろう。すずこちゃんの口から聞く恋バナは(相手が見知った真波山岳とはいえ)どれも少女漫画みたいで、私は数少ないお友達の恋路をハラハラドキドキ見守っている。恋するふたりがディズニーランドに行くと、いったいどんな素敵なイベントが起こるんだろう。
秋遠足当日はバシさんとレイさんと、どのポップコーンバケツを誰が下げるかで喧嘩したり、3人貸切でめちゃくちゃカヌー漕いだりした。効率厨のレイさんがバシさんにああしろこうしろと漕ぎ方を事前に
