去る春、君の声だけが在る
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葦木場さんと泉田さんが仲良しになった……のだと思う。具体的に言うと距離感が、変だ。ギクシャクしてるけど、妙に近い。バシさんが「ただのクラスメイトだったら絶対一緒にはいないふたりだ」と失礼なことを言った。レイさんと私は「きっとそうだろうな」と思ったので、ふたり黙ってバシさんのデカい背中を叩くことしかできない。距離感を測りかねているのか、随分と……ぎこちなく見える。それを見る我々があまりにも挙動不審だったのか、黒田さんから黙って見とけの指示が出た。
しかしエース内定の葦木場さんがハッキリ泉田さん側についたことで、部内はようやく動き出した。安心しすぎて、部活の後レイさんに泣きついたら、レイさんはクールに「まだスタート地点にも立ってない」と私を宥めて引き剥がした。……私の顔拓がついたTシャツはお気に召さなかったようで。
そして、部内の雰囲気が変わってから改めて呼び出し。今度は葦木場さんも一緒だ。泉田さんはハコガクの主将に相応しく「不満があるなら跳ね除けよう」と宣言した。「悪かったね」と、少しも悪びれぬ態度に私は一瞬浮かれたが次の言葉に絶句した。
罪を負って上に立つこと。主将の責務。改めて口にされると、お腹の奥底が冷えるような心地がした。黒田さんと葦木場さんは平然としている。納得の上、受け入れてここに立っているのだ。私は、受け止めきれない。上に立つものの責務。
「つ、罪……ですか」
「そうだよ」
寿一くんも、罪を背負ったからあんな顔をしていたの?泉田さんはこれから1年、そんな覚悟で自転車に乗るの?じゃあ来年は?真波は……今絶不調の真波は、負けた真波は来年どうなるの?背筋が寒くなる。まだ冬には早い、バシさんはブレザーすら着てない、そんな時期だ。今から夏まで、そんな覚悟で走り通すつもりでいる。どうして、そんな。
「わかりました、お時間ありがとうございました」
声が震えた。私の全然納得してない態度に葦木場さんは声をあげかけ、黒田さんは眉を寄せたが、泉田さんは表情を崩しもしなかった。それが、ハコガクの主将になるということ。今夏までの実直で優しくて真面目で不器用で心配症の優しい先輩は、もういないということ。「何でもやります」とか言った私の覚悟が、泉田さんに遠く及ばなかったということ。私はそれを今ようやく受け入れて、項垂れた。私の覚悟が足りなかった。甘かった、この人の覚悟は多分人には計り知れない。
「何でもやります、本当に……なんでも」
「ああ、頼むよ」
まるで女王様に首を差し出す心地だった。紛れもなく男で、尊敬する先輩で、普段だったらそんな感想は抱かないのに、この日の泉田さんには妙に跪きたくなるような、そういう変な風格があった。髪を短く切ったせいで、風がやたらに首筋を撫でるのを感じられて、一生この感覚を忘れないだろうと思った。
しかしエース内定の葦木場さんがハッキリ泉田さん側についたことで、部内はようやく動き出した。安心しすぎて、部活の後レイさんに泣きついたら、レイさんはクールに「まだスタート地点にも立ってない」と私を宥めて引き剥がした。……私の顔拓がついたTシャツはお気に召さなかったようで。
そして、部内の雰囲気が変わってから改めて呼び出し。今度は葦木場さんも一緒だ。泉田さんはハコガクの主将に相応しく「不満があるなら跳ね除けよう」と宣言した。「悪かったね」と、少しも悪びれぬ態度に私は一瞬浮かれたが次の言葉に絶句した。
罪を負って上に立つこと。主将の責務。改めて口にされると、お腹の奥底が冷えるような心地がした。黒田さんと葦木場さんは平然としている。納得の上、受け入れてここに立っているのだ。私は、受け止めきれない。上に立つものの責務。
「つ、罪……ですか」
「そうだよ」
寿一くんも、罪を背負ったからあんな顔をしていたの?泉田さんはこれから1年、そんな覚悟で自転車に乗るの?じゃあ来年は?真波は……今絶不調の真波は、負けた真波は来年どうなるの?背筋が寒くなる。まだ冬には早い、バシさんはブレザーすら着てない、そんな時期だ。今から夏まで、そんな覚悟で走り通すつもりでいる。どうして、そんな。
「わかりました、お時間ありがとうございました」
声が震えた。私の全然納得してない態度に葦木場さんは声をあげかけ、黒田さんは眉を寄せたが、泉田さんは表情を崩しもしなかった。それが、ハコガクの主将になるということ。今夏までの実直で優しくて真面目で不器用で心配症の優しい先輩は、もういないということ。「何でもやります」とか言った私の覚悟が、泉田さんに遠く及ばなかったということ。私はそれを今ようやく受け入れて、項垂れた。私の覚悟が足りなかった。甘かった、この人の覚悟は多分人には計り知れない。
「何でもやります、本当に……なんでも」
「ああ、頼むよ」
まるで女王様に首を差し出す心地だった。紛れもなく男で、尊敬する先輩で、普段だったらそんな感想は抱かないのに、この日の泉田さんには妙に跪きたくなるような、そういう変な風格があった。髪を短く切ったせいで、風がやたらに首筋を撫でるのを感じられて、一生この感覚を忘れないだろうと思った。
