去る春、君の声だけが在る
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
首筋の風が涼しい。ショートカット最高だ。レイさんとバシさんには部活休み中宿題を終わらせるための勉強会で会っていたので「まあ想定範囲内だ」「だな」との言葉を賜った。勉強中に異様に視線を感じたので、思うところがないでもないのだろうが、来年のために切り替えて頑張りたい気持ちは同じ。色々言われないのはありがたい。
新体制のトップ……泉田さんは一瞬絶句して「髪型や服装に、風紀を乱すとか校則違反だとか、そういうこと以外でとやかくいうつもりはない」と前置きの後、「いっそう気合が入ったということは確かだ。無様な真似はこれ以上晒さないと、ね」と黒田さんと葦木場さんを振り返った。頼もしい新主将の姿。レース中にしか見ない強気な視線に少しビビったけど、それだけ主将の責は重いということ。
部内、それから夏休み明けのクラスでは驚かれたけど「外部活は暑くて。短くしたら楽だし涼しいよ」と説明することで逃れた。みんな人の髪型なんて、そんな興味ないのだ。異様に過保護な3年の先輩方だけ。
しかし部内に蔓延る空気はあまり良くない。新1年代表のバシさんはともかく、私は泉田さん賛成派……もとい他にこの部を率いる人はいないと思っている。しかし部内には前代未聞のスプリンター主将に反対する空気がある。じゃあ他に誰がやるっていうのよ。あんなにストイックに朝から晩まで練習して真面目で、インハイ経験者で……彼がスプリンターでなければ、皆両手をあげて泉田体制を受け入れていただろう。スプリンターでなければ、なんて彼に対する最大の侮辱に他ならない。スプリンターであるから泉田さんで、前代未聞じゃなくて冠するなら「史上初」だろう。快挙だ。同期のスプリンターにして人格者の片鱗を見せるバシさんの未来が開けた。馬鹿馬鹿しい因習……とは流石に先人の功績を思うと口にできないが、さっさと受け入れて、とっとと走れ!と言いたくなる。でもこれは選手じゃない私の感覚で、やはりレギュラー入りを目指す部員とは見てるものが違うのだろう。
「……必要ですよね?泉田さん泉田さんって着いてくる信者があとひとりくらい」
「苗字」
「だって、おかしいです。こんなの、泉田さんが新主将でそう決まったのに」
「不満に思う者が出るのは当然だよ。それは、僕がいちばんわかっている」
「でも!」
練習終わり、黒田さんと泉田さんに捕まった。黒田さんは泉田さんとは昔からの付き合いだそうで、部内では実質まとめ役、レギュラー最有力で「黒田さんを主将に」との声もある。一番難しい立場のはずが、至って平然と「塔一郎が主将だ」と受け入れている。しかしそんな大人な態度が部を割るのだから、皮肉である。部室裏で捕まったので、まさかと一瞬不穏な想像がよぎったが、この顔を見ると杞憂だったようだ。
「お前が塔一郎の味方ってことはわかってる。十分やってる。だが、わざわざ部内で波風立てる必要はねえよ」
「でもね、泉田さん、黒田さん。私、これから1年勝利のための奴隷になる覚悟ですよ。来年の優勝のためにできることはなんでもします。今ハコガクは「インハイに負けた後の新体制」っていう誰も経験したことのない逆境にいるんです。だから、私にできることなら、何でも言ってください」
「……ありがとう」
私なりに言葉を尽くしたつもりが、泉田さんにはあんまり伝わってなさそうだった。食い下がろうとしたけど、泉田さんは思案顔のまま私を解放した。べつに困らせたくて言ってるんじゃないから、そんな顔をされると何も言えない。とぼとぼ帰宅した。視線を感じて、途中一回振り返ったら黒田さんが見ていた。先輩たち、いったい何を考えてるんだろう。目が熱くなって、涙が溢れた。泣いてる場合じゃないだろ、手で拭って、泣くのはやめる。仕事に戻る。本当に、いちマネージャーは無力だ。
新体制のトップ……泉田さんは一瞬絶句して「髪型や服装に、風紀を乱すとか校則違反だとか、そういうこと以外でとやかくいうつもりはない」と前置きの後、「いっそう気合が入ったということは確かだ。無様な真似はこれ以上晒さないと、ね」と黒田さんと葦木場さんを振り返った。頼もしい新主将の姿。レース中にしか見ない強気な視線に少しビビったけど、それだけ主将の責は重いということ。
部内、それから夏休み明けのクラスでは驚かれたけど「外部活は暑くて。短くしたら楽だし涼しいよ」と説明することで逃れた。みんな人の髪型なんて、そんな興味ないのだ。異様に過保護な3年の先輩方だけ。
しかし部内に蔓延る空気はあまり良くない。新1年代表のバシさんはともかく、私は泉田さん賛成派……もとい他にこの部を率いる人はいないと思っている。しかし部内には前代未聞のスプリンター主将に反対する空気がある。じゃあ他に誰がやるっていうのよ。あんなにストイックに朝から晩まで練習して真面目で、インハイ経験者で……彼がスプリンターでなければ、皆両手をあげて泉田体制を受け入れていただろう。スプリンターでなければ、なんて彼に対する最大の侮辱に他ならない。スプリンターであるから泉田さんで、前代未聞じゃなくて冠するなら「史上初」だろう。快挙だ。同期のスプリンターにして人格者の片鱗を見せるバシさんの未来が開けた。馬鹿馬鹿しい因習……とは流石に先人の功績を思うと口にできないが、さっさと受け入れて、とっとと走れ!と言いたくなる。でもこれは選手じゃない私の感覚で、やはりレギュラー入りを目指す部員とは見てるものが違うのだろう。
「……必要ですよね?泉田さん泉田さんって着いてくる信者があとひとりくらい」
「苗字」
「だって、おかしいです。こんなの、泉田さんが新主将でそう決まったのに」
「不満に思う者が出るのは当然だよ。それは、僕がいちばんわかっている」
「でも!」
練習終わり、黒田さんと泉田さんに捕まった。黒田さんは泉田さんとは昔からの付き合いだそうで、部内では実質まとめ役、レギュラー最有力で「黒田さんを主将に」との声もある。一番難しい立場のはずが、至って平然と「塔一郎が主将だ」と受け入れている。しかしそんな大人な態度が部を割るのだから、皮肉である。部室裏で捕まったので、まさかと一瞬不穏な想像がよぎったが、この顔を見ると杞憂だったようだ。
「お前が塔一郎の味方ってことはわかってる。十分やってる。だが、わざわざ部内で波風立てる必要はねえよ」
「でもね、泉田さん、黒田さん。私、これから1年勝利のための奴隷になる覚悟ですよ。来年の優勝のためにできることはなんでもします。今ハコガクは「インハイに負けた後の新体制」っていう誰も経験したことのない逆境にいるんです。だから、私にできることなら、何でも言ってください」
「……ありがとう」
私なりに言葉を尽くしたつもりが、泉田さんにはあんまり伝わってなさそうだった。食い下がろうとしたけど、泉田さんは思案顔のまま私を解放した。べつに困らせたくて言ってるんじゃないから、そんな顔をされると何も言えない。とぼとぼ帰宅した。視線を感じて、途中一回振り返ったら黒田さんが見ていた。先輩たち、いったい何を考えてるんだろう。目が熱くなって、涙が溢れた。泣いてる場合じゃないだろ、手で拭って、泣くのはやめる。仕事に戻る。本当に、いちマネージャーは無力だ。
