青く光っている
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父の趣味はゴルフ。近所でやることが多いけど、たまの休みに遠くのゴルフ場に行くことを楽しみにしている。私は時折父の車に自転車を乗せて、ゴルフ場について行く。父とゴルフに興じるのではなく、お下がりの自転車で知らない土地を探検する。だだっ広い駐車場で「夕方まで、好きに遊んでおいで」と知らない土地に解き放たれるのが好きだった。
その日もゴルフ場へ。いつもの通り駐車場で自転車を下ろし、飲み物をくくりつけ、サンドイッチと保冷剤を前カゴに入れた。市街地ほど道の舗装は丁寧にされていないから、あちこち走り回るうちにきっとサンドイッチは崩壊するだろう。なるべく早めに食べなければいけない。
さて、どのあたりを目指そうかな。コピーした地図をガサゴソ開く。ゴールデンウィークの最中、山あい特有の木々に遮られた日差しが眩しい。展望台を目指して、そこでサンドイッチを食べよう。その後下りながらその辺を散策。脇道や打ち捨てられた別荘も多くて存分に楽しめそうだ。地図をしまって自転車を漕ぎ出す。
自転車は左側通行、頭を守るヘルメットは絶対、走る時は歩いてる人や車にぶつからないように、同じ自転車でも大人の人は速いから邪魔にならないように。追い越してもらう時は道の端に避ける。
せっせと上り坂を立ち漕ぎしていると、遠くから自転車の音がした。シャーっという軽快な音、下りだ。向こうも左通行を守っているなら何も危ないことはないが、カーブで先は見えないしなるべく気をつけるに越したことはない。しばらくすると自転車が見えた。あれ、大人じゃなさそう。
「ねえ、君」
「え?」
下りの人はゆっくりブレーキをかける。振り返って往来を確認する。私?今私に声をかけた?おろおろしていると彼は私の返事を待たず、反対側から車道を渡る。
「君も、MTB?」
男の子だ。私より少し上?同じくらい?どぎまぎしてる間に彼はすぐに車道を渡り切って私の前で止まった。
「ね、それ。MTB、でしょ?」
「う、うん……」
高揚した声で繰り返し尋ねる。私はなんとか声を絞り出し、向かい合った相手を観察する。クラスの男の子と違って、なんだか綺麗で大人っぽい。手も足もすらっとしている。目元を覆うアイウェアのせいで顔はあまり見えない。顔が見えてなくても雰囲気だけでカッコいい。ドギマギしながら視線を下げると彼の自転車が視界に入る。サスペンションひとつ、サドルが高い。私の乗ってるMTBとはちょっと違う仕様だ。
「どこまで行くの?展望台?ここ、結構坂だよ」
「うん、そう……そのつもり」
「上でちょっと話そうよ。こんなとこ走ってる子、初めてなんだ」
「う、うん……」
「やった、ついてきて!」
さっそく漕ぎ出す後ろ姿がほんとうに王子様みたいだった。いつもなんとなく切り替えるギアをタイミングを合わせて、足運びもルートも彼の後ろを着いて真似をして。彼は時折振り返って最後まで私のペースに合わせて坂道を登り切った。2回も登ったはずなのに、余裕そうだ。
「着いたよ」
景色を見渡して思わず歓声を上げる。出発地点のゴルフ場が遥か下の方に見える。
「自転車でこんなに高いとこまで登ったの初めて……!すごいね」
男の子は先ほど見た景色だろうに、嬉しそうにウンウン頷いた。
四阿の脇に自転車を並べて止める。日陰に入ったところで、彼がアイウェアを外した。後ろのゴムバンドが引っかかって髪を乱す。これ、よく見たらスキー用ゴーグルだ。それで、ようやくその素顔とご対面して、思わず声が漏れる。
「あ」
人の顔を見て声を上げるなんて失礼なのに。でも、ゴーグルの下の顔がとんでもなく整っていたのだ。彼はぎゅうと目を細めてそれからパッと開く。見開いた目はまたすぐにすがめられる。手のひらで顔に影を作る。
「眩しーね」
「そ、そうだね……晴れてるからね」
なんとか返事を返したが、正直それどころではなかった。初めて見る目の色をしていた。薄い色の瞳に青い光がチラチラ揺れる。これ何色って言うんだろう?でも、あんまり顔見るのも失礼だよね。私の衝撃を知らずに彼は「雉弓射、よろしく」と笑った。きじくん。何の字を書くのだろう。
「鳥だよ、きゅーいは弓を射る」
「雉くん」
名前までカッコいい。本当に芸能人かもしれない。あんまり見すぎると好きになりそう。何年生なんだろう、背は高いのになんだかのほほんとしてて、年上のようにも年下のようにも見える。
「キミは?」
「あっ私、名前!雉くん、一緒に走ってくれてありがとう」
「弓射でいいよ、名前ちゃん」
夢みたいな出会い方をして、私は浮かれていたのだと思う。坂を登るだけで技術の差を見せつけられ、ゴーグルを外した顔は王子様みたいだったから。
「……弓射くん。坂のぼれて、おもしろかった。ありがとう」
「ほんと?オレ、誰かと自転車乗ったの初めてだから……よかった」
買ってもらったばかりの携帯で連絡先を交換した。サンドイッチを食べて、お互いの話をした。弓射くんは「もっと上の方」に住んでいて、毎日MTBで「遊んで」いるのだと言う。弓射くんは家にテレビがないしゲームもしないので、MTBばかり、ということらしい。「やーうち山奥だし電波悪いし」という言葉に驚いたが、大体の場所を聞いて納得した。弓射くんの家は真冬には雪がドカドカ降るような山中だった。あの辺は携帯会社によってはアンテナをめいっぱい伸ばしても圏外になる。同じ群馬のはずが、関東平野に片足突っ込んでる我が家とは大違いだ。
弓射くんはMTBでできるいろんな道の走り方だとか、冬は池の氷を割らずに走るのが楽しいだとか、色々教えてくれた。そして危険な乗り方まで色々マスターしていて、私は聞いてるだけで悲鳴をあげそうになった。なにせ弓射くんは、落ちたら谷底真っ逆さまの細道を平気な顔で走るし、前でも後ろでも片方の車輪で自由に立って見せる……といった高度なテクニックをすでにマスターしていたのだ。……恐怖心というものが著しく欠けているのでは?
弓射くんは神がかったバランス感覚を発揮して、どれも簡単に実演して見せてくれたが、私は正直ハラハラしすぎて心臓が千切れるかと思った。恐怖心が足りなすぎる!しかしビビりの私に初対面の男の子相手に危ないよ!とか言えるほどの度胸はなく、やがて息を詰めて見守っているのに弓射くんの方が気付いた。
「あー大丈夫、コケるのも練習だし。名前ちゃんもやってみる?」
「無理無理無理」
「オレも結構コケてる。斜面落ちた時の傷が、ココとかソコとか」
「ギャー」
ビビりな私に合わせて弓射くんは道を選び、私の本日の目的であった探検に付き合い(さすがに毎日MTBを乗り回してるだけあって弓射くんは細い道にも道なき道にも詳しかった)、最後はスタート地点のゴルフ場まで連れてってくれた。知らない子を連れて帰ってきたので、駐車場で待っていた父はひっくり返るほど驚いた。
それが、私と弓射くんの出会い。私たちが小学5年生の時だ。同い年の可能性を考えてなかったので、学年を知った時はお互い驚いた。背の高い弓射くんには私が年下に見えていたらしい。挙句私の方が誕生日が早いのを知って、「マジ?」とか言ってショックを受けていた。失礼だな。
弓射くんと私の家の間は自転車でおよそ1時間の距離にあり、弓射くんは「ちょうどいい距離だ」とか言って、度々自転車でうちの辺まで遊びに来るようになった。行きは下りでも帰りは上り坂だが、弓射くんにかかれば大した問題ではなかった。私たちはそれなりの頻度で会うようになり、自転車に乗ったり、どうでもいい話をするような仲になった。
その日もゴルフ場へ。いつもの通り駐車場で自転車を下ろし、飲み物をくくりつけ、サンドイッチと保冷剤を前カゴに入れた。市街地ほど道の舗装は丁寧にされていないから、あちこち走り回るうちにきっとサンドイッチは崩壊するだろう。なるべく早めに食べなければいけない。
さて、どのあたりを目指そうかな。コピーした地図をガサゴソ開く。ゴールデンウィークの最中、山あい特有の木々に遮られた日差しが眩しい。展望台を目指して、そこでサンドイッチを食べよう。その後下りながらその辺を散策。脇道や打ち捨てられた別荘も多くて存分に楽しめそうだ。地図をしまって自転車を漕ぎ出す。
自転車は左側通行、頭を守るヘルメットは絶対、走る時は歩いてる人や車にぶつからないように、同じ自転車でも大人の人は速いから邪魔にならないように。追い越してもらう時は道の端に避ける。
せっせと上り坂を立ち漕ぎしていると、遠くから自転車の音がした。シャーっという軽快な音、下りだ。向こうも左通行を守っているなら何も危ないことはないが、カーブで先は見えないしなるべく気をつけるに越したことはない。しばらくすると自転車が見えた。あれ、大人じゃなさそう。
「ねえ、君」
「え?」
下りの人はゆっくりブレーキをかける。振り返って往来を確認する。私?今私に声をかけた?おろおろしていると彼は私の返事を待たず、反対側から車道を渡る。
「君も、MTB?」
男の子だ。私より少し上?同じくらい?どぎまぎしてる間に彼はすぐに車道を渡り切って私の前で止まった。
「ね、それ。MTB、でしょ?」
「う、うん……」
高揚した声で繰り返し尋ねる。私はなんとか声を絞り出し、向かい合った相手を観察する。クラスの男の子と違って、なんだか綺麗で大人っぽい。手も足もすらっとしている。目元を覆うアイウェアのせいで顔はあまり見えない。顔が見えてなくても雰囲気だけでカッコいい。ドギマギしながら視線を下げると彼の自転車が視界に入る。サスペンションひとつ、サドルが高い。私の乗ってるMTBとはちょっと違う仕様だ。
「どこまで行くの?展望台?ここ、結構坂だよ」
「うん、そう……そのつもり」
「上でちょっと話そうよ。こんなとこ走ってる子、初めてなんだ」
「う、うん……」
「やった、ついてきて!」
さっそく漕ぎ出す後ろ姿がほんとうに王子様みたいだった。いつもなんとなく切り替えるギアをタイミングを合わせて、足運びもルートも彼の後ろを着いて真似をして。彼は時折振り返って最後まで私のペースに合わせて坂道を登り切った。2回も登ったはずなのに、余裕そうだ。
「着いたよ」
景色を見渡して思わず歓声を上げる。出発地点のゴルフ場が遥か下の方に見える。
「自転車でこんなに高いとこまで登ったの初めて……!すごいね」
男の子は先ほど見た景色だろうに、嬉しそうにウンウン頷いた。
四阿の脇に自転車を並べて止める。日陰に入ったところで、彼がアイウェアを外した。後ろのゴムバンドが引っかかって髪を乱す。これ、よく見たらスキー用ゴーグルだ。それで、ようやくその素顔とご対面して、思わず声が漏れる。
「あ」
人の顔を見て声を上げるなんて失礼なのに。でも、ゴーグルの下の顔がとんでもなく整っていたのだ。彼はぎゅうと目を細めてそれからパッと開く。見開いた目はまたすぐにすがめられる。手のひらで顔に影を作る。
「眩しーね」
「そ、そうだね……晴れてるからね」
なんとか返事を返したが、正直それどころではなかった。初めて見る目の色をしていた。薄い色の瞳に青い光がチラチラ揺れる。これ何色って言うんだろう?でも、あんまり顔見るのも失礼だよね。私の衝撃を知らずに彼は「雉弓射、よろしく」と笑った。きじくん。何の字を書くのだろう。
「鳥だよ、きゅーいは弓を射る」
「雉くん」
名前までカッコいい。本当に芸能人かもしれない。あんまり見すぎると好きになりそう。何年生なんだろう、背は高いのになんだかのほほんとしてて、年上のようにも年下のようにも見える。
「キミは?」
「あっ私、名前!雉くん、一緒に走ってくれてありがとう」
「弓射でいいよ、名前ちゃん」
夢みたいな出会い方をして、私は浮かれていたのだと思う。坂を登るだけで技術の差を見せつけられ、ゴーグルを外した顔は王子様みたいだったから。
「……弓射くん。坂のぼれて、おもしろかった。ありがとう」
「ほんと?オレ、誰かと自転車乗ったの初めてだから……よかった」
買ってもらったばかりの携帯で連絡先を交換した。サンドイッチを食べて、お互いの話をした。弓射くんは「もっと上の方」に住んでいて、毎日MTBで「遊んで」いるのだと言う。弓射くんは家にテレビがないしゲームもしないので、MTBばかり、ということらしい。「やーうち山奥だし電波悪いし」という言葉に驚いたが、大体の場所を聞いて納得した。弓射くんの家は真冬には雪がドカドカ降るような山中だった。あの辺は携帯会社によってはアンテナをめいっぱい伸ばしても圏外になる。同じ群馬のはずが、関東平野に片足突っ込んでる我が家とは大違いだ。
弓射くんはMTBでできるいろんな道の走り方だとか、冬は池の氷を割らずに走るのが楽しいだとか、色々教えてくれた。そして危険な乗り方まで色々マスターしていて、私は聞いてるだけで悲鳴をあげそうになった。なにせ弓射くんは、落ちたら谷底真っ逆さまの細道を平気な顔で走るし、前でも後ろでも片方の車輪で自由に立って見せる……といった高度なテクニックをすでにマスターしていたのだ。……恐怖心というものが著しく欠けているのでは?
弓射くんは神がかったバランス感覚を発揮して、どれも簡単に実演して見せてくれたが、私は正直ハラハラしすぎて心臓が千切れるかと思った。恐怖心が足りなすぎる!しかしビビりの私に初対面の男の子相手に危ないよ!とか言えるほどの度胸はなく、やがて息を詰めて見守っているのに弓射くんの方が気付いた。
「あー大丈夫、コケるのも練習だし。名前ちゃんもやってみる?」
「無理無理無理」
「オレも結構コケてる。斜面落ちた時の傷が、ココとかソコとか」
「ギャー」
ビビりな私に合わせて弓射くんは道を選び、私の本日の目的であった探検に付き合い(さすがに毎日MTBを乗り回してるだけあって弓射くんは細い道にも道なき道にも詳しかった)、最後はスタート地点のゴルフ場まで連れてってくれた。知らない子を連れて帰ってきたので、駐車場で待っていた父はひっくり返るほど驚いた。
それが、私と弓射くんの出会い。私たちが小学5年生の時だ。同い年の可能性を考えてなかったので、学年を知った時はお互い驚いた。背の高い弓射くんには私が年下に見えていたらしい。挙句私の方が誕生日が早いのを知って、「マジ?」とか言ってショックを受けていた。失礼だな。
弓射くんと私の家の間は自転車でおよそ1時間の距離にあり、弓射くんは「ちょうどいい距離だ」とか言って、度々自転車でうちの辺まで遊びに来るようになった。行きは下りでも帰りは上り坂だが、弓射くんにかかれば大した問題ではなかった。私たちはそれなりの頻度で会うようになり、自転車に乗ったり、どうでもいい話をするような仲になった。
