去る春、君の声だけが在る
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インターハイ目前、メンバーも決まり練習にもいっそう熱が入る。謹慎だ強制退部だと揉め事も多いが、着々とその日は近づいている。自然とレギュラー陣が最後まで部室に残り、昼休みもなんとなく集まることが多い。昼飯食い終わって話題は新人共の話。オレが言えたクチではないがどいつもこいつも問題児ばかり。
まず真波。
前代未聞の1年でレギュラー内定。これに関しては単に実力を取った。レースにおいて安心と安定をとるべきでは?と思わなくもないが、勝ち取ったやつの権利だ。キッチリ働いてくれれば今更ゴチャゴチャ言うつもりはない。
それから懸念は新1年生マネージャー。
新開が無理やりねじ込んだのを福チャンがそのまま力技で入部させた。オレと東堂の反対を「黙って見逃してほしい」と無茶苦茶言って捩じ伏せて。中学時代不登校だった幼馴染を心配する気持ちはわからなくもないが、わざわざ過酷な環境に連れ出す気持ちが理解できない。
今のところドンクサなりによくやってるようだが、危なっかしい。とにかく警戒心がない。引き入れた張本人である新開が目を光らせてるものの、本人は部員に呼び出されれば部室裏でも使ってない倉庫でもノコノコやってくるし、無理難題をあれこれ頼まれてもいい子チャンだからハイ以外の返事はしない。挙句問題ばかりの銅橋とコソコソつるんでいる。うちの部の歪で陰湿な雰囲気には流石に気がついてるらしいが、東堂のファンとか女子同士の争いに怯える割に、野郎に対する警戒心はないに等しい。殴られるかも、とビビってるのは見たことあるが、ドンクサトロ女の想定は、正直甘すぎる。男子高校生の集団にひとり丸腰で入ってきた自覚がない。自分で言うのも何だがどいつもこいつもケダモノで、常に襲われる可能性を考えた方がいい。警戒心がないのは絶対幼馴染に過保護でいい顔ばっかりしてる新開のせいだが、当の本人が裏で手を回して表でスッとぼけている有様で全く信用ならない。本当に余計な、イレギュラー分子。
「そういや美術の授業でシルクスクリーンをやるのだが」
東堂がプリントを2枚出す。1枚は授業プリントで四角の枠に鉛筆書きのデザイン。ハコガクとカタカナ4文字。もう1枚は注文書。
「3枚刷ってインターハイの間苗字に着せようと思う。時に、苗字の衣類のサイズはいくつだ?」
「ダッセ!」
「ダッ、ダサくはない、見ろこの完璧なレタリングを!」
「レタリングどうこうより普通にダセーよ」
ギャーギャー騒ぐ東堂を無視して、授業プリントと注文書を新開から奪い取る。青地に白の文字。絶対ダセェ。幼馴染によって無理やり入部させられた女子高生にこんなの着せて許されると?インハイの間、部員だけじゃなく他校の目もあるってのに?
「フクとも話したが、レース中はオレたちはともかく部員もそれぞれ自分の仕事に忙しい。迷子防止にいいだろう」
新開と2人顔を見合わせて沈黙。高校生にもなって迷子?新開のやつは平然と授業プリントを指でなぞる。
「そりゃハコガクの部員とわかれば絡んでくるやつも多少は減るだろうけど」
あーそっちかよ。めんどくせぇな。確かにあのドンクサマネージャーが自力で絡んでくる他校の奴らを撃退できるとは思えない。銅橋となぜか仲がいいが、あれは連れて行けないし。どいつもこいつも謹慎だ退部だと、全く面倒かけやがって。
「オレは賛成だ」
「な」
「フクとオレで2票だ。どうする」
「どうするって」
「S3枚で頼む。悪いな」
「おい」
決定じゃねーか。ロクに見もせず新開が注文書を返す。苗字は運動歴がほぼ無いらしく、ジャージなんかはだいたいこいつのお下がりで済ませている。ジャージどころか、買い出しだ練習だとマネージャーでも乗る機会の多い自転車まで。弟がいるらしいが、そいつはそいつで自前の自転車があるから乗らないんだとか言って、全身自分のもので固めさせている。そういうとこが部内でヒソヒソされるんだよ、って言ってもどこ吹く風。苗字、気づいてんのかしらねぇけど、お前の幼馴染はなかなかヤバい。
「集金は?」
「教材費から出てるから不要だ。礼なら期始めに学費を納めたオレの両親に言ってくれ」
「そうか、ありがとう」
「Tシャツもいいけどよく言っておけよ。知らないやつにホイホイ付いていかないように」
「オレが?」
「当たり前だろ」
不思議そうに東堂に尋ねる姿を見てため息が出た。他に誰がいるんだよ。
結局過保護だなんだと新開のこと言えない。オレたち全員なんだかんだ過保護だ。そりゃそうだろ、男だらけの部活に半ば無理やり入れられた右も左も分からない初心者が、よくわからない競技のインターハイに向けて朝から晩まで奔走してる。オレらが引退するまでなんて条件付きの入部だが、おそらくその後も辞めることはないと全員なんとなく想像してる。でも「やっぱり続けます」って言わせるためには、完全優勝が決め手になるのは間違いないだろう。尤も、インハイはそれだけの舞台じゃない。心残りのあるやつは昨年のリベンジを果たしに、オレは福チャンに引き摺り込まれたこの道で決着をつけてやる。
翌週東堂が美術の授業で刷ったTシャツは、授業評価自体は高評価を得た。クソダサいのに完璧なレタリングと印刷技術で無駄に出来が良い。
部活前に自信満々の東堂から3着渡されて苗字は困惑していたが、インハイ用の「勝負服」だと言われて仕舞えば大人しく受け取った。真夏の青い空にド派手な青いハコガクT、笑えるくらいによく目立つだろう。
まず真波。
前代未聞の1年でレギュラー内定。これに関しては単に実力を取った。レースにおいて安心と安定をとるべきでは?と思わなくもないが、勝ち取ったやつの権利だ。キッチリ働いてくれれば今更ゴチャゴチャ言うつもりはない。
それから懸念は新1年生マネージャー。
新開が無理やりねじ込んだのを福チャンがそのまま力技で入部させた。オレと東堂の反対を「黙って見逃してほしい」と無茶苦茶言って捩じ伏せて。中学時代不登校だった幼馴染を心配する気持ちはわからなくもないが、わざわざ過酷な環境に連れ出す気持ちが理解できない。
今のところドンクサなりによくやってるようだが、危なっかしい。とにかく警戒心がない。引き入れた張本人である新開が目を光らせてるものの、本人は部員に呼び出されれば部室裏でも使ってない倉庫でもノコノコやってくるし、無理難題をあれこれ頼まれてもいい子チャンだからハイ以外の返事はしない。挙句問題ばかりの銅橋とコソコソつるんでいる。うちの部の歪で陰湿な雰囲気には流石に気がついてるらしいが、東堂のファンとか女子同士の争いに怯える割に、野郎に対する警戒心はないに等しい。殴られるかも、とビビってるのは見たことあるが、ドンクサトロ女の想定は、正直甘すぎる。男子高校生の集団にひとり丸腰で入ってきた自覚がない。自分で言うのも何だがどいつもこいつもケダモノで、常に襲われる可能性を考えた方がいい。警戒心がないのは絶対幼馴染に過保護でいい顔ばっかりしてる新開のせいだが、当の本人が裏で手を回して表でスッとぼけている有様で全く信用ならない。本当に余計な、イレギュラー分子。
「そういや美術の授業でシルクスクリーンをやるのだが」
東堂がプリントを2枚出す。1枚は授業プリントで四角の枠に鉛筆書きのデザイン。ハコガクとカタカナ4文字。もう1枚は注文書。
「3枚刷ってインターハイの間苗字に着せようと思う。時に、苗字の衣類のサイズはいくつだ?」
「ダッセ!」
「ダッ、ダサくはない、見ろこの完璧なレタリングを!」
「レタリングどうこうより普通にダセーよ」
ギャーギャー騒ぐ東堂を無視して、授業プリントと注文書を新開から奪い取る。青地に白の文字。絶対ダセェ。幼馴染によって無理やり入部させられた女子高生にこんなの着せて許されると?インハイの間、部員だけじゃなく他校の目もあるってのに?
「フクとも話したが、レース中はオレたちはともかく部員もそれぞれ自分の仕事に忙しい。迷子防止にいいだろう」
新開と2人顔を見合わせて沈黙。高校生にもなって迷子?新開のやつは平然と授業プリントを指でなぞる。
「そりゃハコガクの部員とわかれば絡んでくるやつも多少は減るだろうけど」
あーそっちかよ。めんどくせぇな。確かにあのドンクサマネージャーが自力で絡んでくる他校の奴らを撃退できるとは思えない。銅橋となぜか仲がいいが、あれは連れて行けないし。どいつもこいつも謹慎だ退部だと、全く面倒かけやがって。
「オレは賛成だ」
「な」
「フクとオレで2票だ。どうする」
「どうするって」
「S3枚で頼む。悪いな」
「おい」
決定じゃねーか。ロクに見もせず新開が注文書を返す。苗字は運動歴がほぼ無いらしく、ジャージなんかはだいたいこいつのお下がりで済ませている。ジャージどころか、買い出しだ練習だとマネージャーでも乗る機会の多い自転車まで。弟がいるらしいが、そいつはそいつで自前の自転車があるから乗らないんだとか言って、全身自分のもので固めさせている。そういうとこが部内でヒソヒソされるんだよ、って言ってもどこ吹く風。苗字、気づいてんのかしらねぇけど、お前の幼馴染はなかなかヤバい。
「集金は?」
「教材費から出てるから不要だ。礼なら期始めに学費を納めたオレの両親に言ってくれ」
「そうか、ありがとう」
「Tシャツもいいけどよく言っておけよ。知らないやつにホイホイ付いていかないように」
「オレが?」
「当たり前だろ」
不思議そうに東堂に尋ねる姿を見てため息が出た。他に誰がいるんだよ。
結局過保護だなんだと新開のこと言えない。オレたち全員なんだかんだ過保護だ。そりゃそうだろ、男だらけの部活に半ば無理やり入れられた右も左も分からない初心者が、よくわからない競技のインターハイに向けて朝から晩まで奔走してる。オレらが引退するまでなんて条件付きの入部だが、おそらくその後も辞めることはないと全員なんとなく想像してる。でも「やっぱり続けます」って言わせるためには、完全優勝が決め手になるのは間違いないだろう。尤も、インハイはそれだけの舞台じゃない。心残りのあるやつは昨年のリベンジを果たしに、オレは福チャンに引き摺り込まれたこの道で決着をつけてやる。
翌週東堂が美術の授業で刷ったTシャツは、授業評価自体は高評価を得た。クソダサいのに完璧なレタリングと印刷技術で無駄に出来が良い。
部活前に自信満々の東堂から3着渡されて苗字は困惑していたが、インハイ用の「勝負服」だと言われて仕舞えば大人しく受け取った。真夏の青い空にド派手な青いハコガクT、笑えるくらいによく目立つだろう。
