去る春、君の声だけが在る
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マネージャー業を一通り習って、レースに連れてってもらえるようになった。大きな声で指示を出すのは不慣れで、喉が痛いし、口の端が切れたのかジンジンする。選手が走ってる間あれやってこれやって……と頑張るものの、手際が悪すぎて気づいたら隼人くんはゴールしていた。がーん……やること終わったら応援組と合流してゴール見れる予定だったのに……リップクリームを塗り直す暇もなかった。
レース終わりは終わりで撤収のためにやることがたくさん。休む暇なし。アイシングやらテープ、スプレーなどを持たされて選手を探しに行く。いた。隼人くん。ド派手なサイジャに明るい色の髪、人混みでも探しやすくて助かる。隼人くんはすぐに見つかった。泉田さんとふたり並んで水道を使っている。口を洗っているらしい。
「イテ」
「ああっ新開さん血が……」
「大丈夫だ、大したことじゃないよ。お前の方こそ怪我は」
「新開さん……!」
熱い先輩後輩のやり取り。背景に花が咲いているのが見える気すらする。百合とか薔薇みたいな派手なやつ。点描とキラキラエフェクトも。それを私は離れたところから冷めた目で見る。
そりゃ走る時にあんだけ叫んで口開けてたら、ゴミも入るし怪我もするだろう。ゴールを見届けた部員によると全身全霊のかっこいい走りだったらしいが、カッコよくレースを終えた後にコレじゃあ……
「先輩方、イチャイチャしてないで早く退いてください」
「ふぁ」
「名前、口ん中切っちまった」
「口ならなめときゃ治りますよ」
「へえ、」
確かに隼人くんの舌には血が滲んでいる。いや、見せられましても。舌噛むような走り方って、本当に効率的なのだろうか?何にせよ、速ければいいのか?二重人格だからレース中の言動はコントロールの範囲外?
……とにかく、なんだっていいから早く退いてほしい。アイスバックが結構重いから早く受け取ってほしい。肩掛けカバンを漁って、使いそうな道具をいくつか探す。えーと先輩によるとレース後に選手がまず使うのは……
頭上に影がさした。俯いた視界にサンダルの足が。レースが終わってすぐ靴を履き替えたのだろう。つま先が触れ合うくらい目の前に、隼人くんが立っている。近すぎる、ギョッとして見上げると青い目が私を見下ろしていた。さっきまで泉田さん相手にニコニコイチャイチャしていたのに、まったくの無表情。優しい笑顔が標準搭載されてる隼人くんの無表情は、怒ってるようにも見える。
「……なめときゃ治るのか?」
「い゙っ」
べろ。な、ななな……!舐めた……!?!?よりによって、切れたばかりの方!揶揄うにもやり方ってもんがあるでしょう!?鳥肌の立つ腕を摩って後ろに下がる。こいつ……やりやがった!ドン引きしているのは私だけでない、隼人くんの背後で一部始終を見ていた人がいる。びっくりしたのか大きな目を見開いている。……見えたか?背の高い隼人くんのせいで見えなかったことを祈ろう。振りかぶって、とりあえず一発。
「やめてください泉田さんの教育によくない!」
「し、新開さーん!!」
ばちん!3年にいるとかいう元ヤンの誰か(レギュラー陣の誰かと踏んでいる)のように技術も、あるいはバシさんのようなパワーもないので、気持ちいい音に反して手の感覚は頼りない。隼人くんは左頬を押さえて「泉田の方が一応年上なんだけどな……」と呟いた。……そんなの関係ないよ。私は威勢よく口元を手で拭って「さあ撤収!先輩方、撤収ですよ!」と踵を返す。……かわいい後輩とかわいい幼馴染相手になんたる暴挙。流石の私も羞恥心というものがあるんだけど。
しかし、背の高い男に上から見下ろされるというのは。
「……食われるかと思った」
「何か言ったか?」
「いいえ何も!」
頭から丸呑みされるかと思った。進撃の巨人みたいな、ああいうの。怖くて寝れなくなる方のドキドキ、見たくなかった幼馴染の衝撃シーン。一生懸命茶化してみたけど、今更心臓が暴れだす。隼人くんに「そういうつもり」はないとわかってるつもりだけど……そう、わかってるつもりなんだけど……
レース終わりは終わりで撤収のためにやることがたくさん。休む暇なし。アイシングやらテープ、スプレーなどを持たされて選手を探しに行く。いた。隼人くん。ド派手なサイジャに明るい色の髪、人混みでも探しやすくて助かる。隼人くんはすぐに見つかった。泉田さんとふたり並んで水道を使っている。口を洗っているらしい。
「イテ」
「ああっ新開さん血が……」
「大丈夫だ、大したことじゃないよ。お前の方こそ怪我は」
「新開さん……!」
熱い先輩後輩のやり取り。背景に花が咲いているのが見える気すらする。百合とか薔薇みたいな派手なやつ。点描とキラキラエフェクトも。それを私は離れたところから冷めた目で見る。
そりゃ走る時にあんだけ叫んで口開けてたら、ゴミも入るし怪我もするだろう。ゴールを見届けた部員によると全身全霊のかっこいい走りだったらしいが、カッコよくレースを終えた後にコレじゃあ……
「先輩方、イチャイチャしてないで早く退いてください」
「ふぁ」
「名前、口ん中切っちまった」
「口ならなめときゃ治りますよ」
「へえ、」
確かに隼人くんの舌には血が滲んでいる。いや、見せられましても。舌噛むような走り方って、本当に効率的なのだろうか?何にせよ、速ければいいのか?二重人格だからレース中の言動はコントロールの範囲外?
……とにかく、なんだっていいから早く退いてほしい。アイスバックが結構重いから早く受け取ってほしい。肩掛けカバンを漁って、使いそうな道具をいくつか探す。えーと先輩によるとレース後に選手がまず使うのは……
頭上に影がさした。俯いた視界にサンダルの足が。レースが終わってすぐ靴を履き替えたのだろう。つま先が触れ合うくらい目の前に、隼人くんが立っている。近すぎる、ギョッとして見上げると青い目が私を見下ろしていた。さっきまで泉田さん相手にニコニコイチャイチャしていたのに、まったくの無表情。優しい笑顔が標準搭載されてる隼人くんの無表情は、怒ってるようにも見える。
「……なめときゃ治るのか?」
「い゙っ」
べろ。な、ななな……!舐めた……!?!?よりによって、切れたばかりの方!揶揄うにもやり方ってもんがあるでしょう!?鳥肌の立つ腕を摩って後ろに下がる。こいつ……やりやがった!ドン引きしているのは私だけでない、隼人くんの背後で一部始終を見ていた人がいる。びっくりしたのか大きな目を見開いている。……見えたか?背の高い隼人くんのせいで見えなかったことを祈ろう。振りかぶって、とりあえず一発。
「やめてください泉田さんの教育によくない!」
「し、新開さーん!!」
ばちん!3年にいるとかいう元ヤンの誰か(レギュラー陣の誰かと踏んでいる)のように技術も、あるいはバシさんのようなパワーもないので、気持ちいい音に反して手の感覚は頼りない。隼人くんは左頬を押さえて「泉田の方が一応年上なんだけどな……」と呟いた。……そんなの関係ないよ。私は威勢よく口元を手で拭って「さあ撤収!先輩方、撤収ですよ!」と踵を返す。……かわいい後輩とかわいい幼馴染相手になんたる暴挙。流石の私も羞恥心というものがあるんだけど。
しかし、背の高い男に上から見下ろされるというのは。
「……食われるかと思った」
「何か言ったか?」
「いいえ何も!」
頭から丸呑みされるかと思った。進撃の巨人みたいな、ああいうの。怖くて寝れなくなる方のドキドキ、見たくなかった幼馴染の衝撃シーン。一生懸命茶化してみたけど、今更心臓が暴れだす。隼人くんに「そういうつもり」はないとわかってるつもりだけど……そう、わかってるつもりなんだけど……
