去る春、君の声だけが在る
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箱根学園の自転車部を一言で表すなら「さすが強豪!」って感じだった。……良くも悪くも。整った設備や部員の多さは言うまでもなく。しかしこの、そこそこ陰湿で暗くてギラギラした雰囲気こそ、まさに強豪と言った感じだ。練習中の部室の裏や、トレーニングルームに去年の夏の隼人くんの軽いのがたくさんいる感じ。ドンヨリしている。たくさん有力選手がいても部の代表として活躍できるのは限られた人数。野球やバスケは試合中に選手入れ替えができるけど、自転車は走り始めたら交代できない。レギュラーの椅子は限られる上に選考基準は完全な「実力主義」を歌いながら年功序列は暗黙の了解としてそこにある。バシさんみたいなのと型にハマらない真波みたいなのが同時に入部してきて、部内の暗い雰囲気に拍車をかけていた。別にスポーツ漫画のような爽やかな切磋琢磨、レギュラー争いに敗れ涙、夕日をバックに語らう姿、などを期待していたわけではないが、正直ガッカリであった。
私の指導役についてくれた先輩も元は選手で、怪我を理由に裏方に回っている。親切で1年生をいびるようなこともないが、ふとした時の暗い表情はまさにハコガクの元選手らしかった。そもそも今の自転車部でああいう陰の気配がないのは3年の東堂さんくらいだ。いつもハキハキしてて笑い声がうるさくて、面倒見が良く、周りへの気遣いも欠かさない。他校のライバル……通称「巻ちゃん」に執着する様子はあるが、陰湿な感じはせず純粋に選手として尊敬して張り合って、競技を終えれば普通に友達として付き合っている。インターハイ辞退まで追い詰められた隼人くん、昨年のインターハイ後に明らかに調子を崩した寿一くんをはじめ、メンタルが脆いやつ揃いがちのハコガクトップ層の中で燦然と輝く鋼メンタル。現レギュラー陣は何かしらに傷ついて、必死こいてレギュラーを死守して、不必要に何かを背負って、信じるもののために走っている、上がそんな「陰の者」揃いだから下もそんなになるのは必然である。
3年の先輩に申しつけられ、去年の会計資料を探している。自転車部は金がかかる。どこに行くにも自転車を積む必要があるから、遠くへ遠征になればなるほど金策に奔走する羽目になる。そういう意味では今年地元開催で助かった。寿一くんがOB会にヘコヘコ頭下げたり、荒北さんが理事会と喧嘩するところなんて見たくないからね。とはいえ地方のレースに出るためには金策と資金繰りのノウハウがないと困るので、今から先輩方に習っているわけだが。
埃くさい資料棚……スチールラックには何年分かの資料が並んでいる。背表紙をひとつずつ確認するが、ずいぶん高いところにしまってある。目当てのファイルが見つかったら、踏み台か何か取ってこようか。
「去年の会計資料、去年の生徒総会資料……」
「これか?」
「わあっ」
背後に影、ぬっと腕が伸びてきて、最上段からどデカいファイルを容易く抜き取った。私だったら腕痛めそうな厚さだが、難なくおろした。
「ありがとう……高田城、さん」
「なかなか戻ってこないから様子を見にきた」
「え!すみません」
インテリメガネみたいな見た目の通り、レイさんは部活をやりながら成績首位の頭脳派だ。レギュラー入りが難しいだろう今年は練習の傍ら、会計やレースコースのシミュレーションなど任されている。1年生ながら。力もあるし頭がいいので私より遥かに敏腕マネージャーをやっているが、レギュラー争いに加わるようになればこっちの業務は離れるだろう。選手にするには惜しい……とか言ったら失礼だけど優秀すぎる同級生。
「呼びづらいか?」
「な、何が!?」
「苗字が。高田城 なんて呼ぶやつもいるくらいだし」
「ああ、そうだね。いいな、同級生とあだ名で呼び合ってて。しかもかっこいいあだ名だし」
「……そうか?」
レイさんはジャージに引っ掛けていたタオルでファイルの埃を軽く拭った。こういうところができる男なのだ。レース同行の時もテキパキ指示出してたし、初めて遠征した時は持ち物リストなんかも作ってくれたし、中間テストの時は快く対策ノート(と言っても普通に授業中のノートらしい)を貸してくれた。どんくさコミュ障マネージャーにも優しい、いいヤツなのだ。
「銅橋とはあだ名で呼び合っているだろ?」
「バシさんは……もうなんかバシさんって感じだから。レイさんのことは仕事できるから尊敬してるけど」
「……」
「な、何」
「いや、今……」
「……すみません尊敬しすぎて私、高田城さんのこと、心の中でレイさんって呼んでて……」
すっとぼけようにもレイさんが挙動不審すぎて誤魔化しようがない。レイさんがずれてもいないメガネを直した。
「……ジョーよりはマシだと思うよ」
「じゃ、じゃあ、公認ってことですか!」
「好きにしなよ」
「れ、レイさん!!!!」
カッコつけきれてないですよ、レイさん!下から見上げた限り、なんか耳赤いし!シゴデキクールだと思っていた同級生の意外な姿に、私は妙な親しみを感じた。なんだ、この人も同じ1年生じゃん!
私の指導役についてくれた先輩も元は選手で、怪我を理由に裏方に回っている。親切で1年生をいびるようなこともないが、ふとした時の暗い表情はまさにハコガクの元選手らしかった。そもそも今の自転車部でああいう陰の気配がないのは3年の東堂さんくらいだ。いつもハキハキしてて笑い声がうるさくて、面倒見が良く、周りへの気遣いも欠かさない。他校のライバル……通称「巻ちゃん」に執着する様子はあるが、陰湿な感じはせず純粋に選手として尊敬して張り合って、競技を終えれば普通に友達として付き合っている。インターハイ辞退まで追い詰められた隼人くん、昨年のインターハイ後に明らかに調子を崩した寿一くんをはじめ、メンタルが脆いやつ揃いがちのハコガクトップ層の中で燦然と輝く鋼メンタル。現レギュラー陣は何かしらに傷ついて、必死こいてレギュラーを死守して、不必要に何かを背負って、信じるもののために走っている、上がそんな「陰の者」揃いだから下もそんなになるのは必然である。
3年の先輩に申しつけられ、去年の会計資料を探している。自転車部は金がかかる。どこに行くにも自転車を積む必要があるから、遠くへ遠征になればなるほど金策に奔走する羽目になる。そういう意味では今年地元開催で助かった。寿一くんがOB会にヘコヘコ頭下げたり、荒北さんが理事会と喧嘩するところなんて見たくないからね。とはいえ地方のレースに出るためには金策と資金繰りのノウハウがないと困るので、今から先輩方に習っているわけだが。
埃くさい資料棚……スチールラックには何年分かの資料が並んでいる。背表紙をひとつずつ確認するが、ずいぶん高いところにしまってある。目当てのファイルが見つかったら、踏み台か何か取ってこようか。
「去年の会計資料、去年の生徒総会資料……」
「これか?」
「わあっ」
背後に影、ぬっと腕が伸びてきて、最上段からどデカいファイルを容易く抜き取った。私だったら腕痛めそうな厚さだが、難なくおろした。
「ありがとう……高田城、さん」
「なかなか戻ってこないから様子を見にきた」
「え!すみません」
インテリメガネみたいな見た目の通り、レイさんは部活をやりながら成績首位の頭脳派だ。レギュラー入りが難しいだろう今年は練習の傍ら、会計やレースコースのシミュレーションなど任されている。1年生ながら。力もあるし頭がいいので私より遥かに敏腕マネージャーをやっているが、レギュラー争いに加わるようになればこっちの業務は離れるだろう。選手にするには惜しい……とか言ったら失礼だけど優秀すぎる同級生。
「呼びづらいか?」
「な、何が!?」
「苗字が。
「ああ、そうだね。いいな、同級生とあだ名で呼び合ってて。しかもかっこいいあだ名だし」
「……そうか?」
レイさんはジャージに引っ掛けていたタオルでファイルの埃を軽く拭った。こういうところができる男なのだ。レース同行の時もテキパキ指示出してたし、初めて遠征した時は持ち物リストなんかも作ってくれたし、中間テストの時は快く対策ノート(と言っても普通に授業中のノートらしい)を貸してくれた。どんくさコミュ障マネージャーにも優しい、いいヤツなのだ。
「銅橋とはあだ名で呼び合っているだろ?」
「バシさんは……もうなんかバシさんって感じだから。レイさんのことは仕事できるから尊敬してるけど」
「……」
「な、何」
「いや、今……」
「……すみません尊敬しすぎて私、高田城さんのこと、心の中でレイさんって呼んでて……」
すっとぼけようにもレイさんが挙動不審すぎて誤魔化しようがない。レイさんがずれてもいないメガネを直した。
「……ジョーよりはマシだと思うよ」
「じゃ、じゃあ、公認ってことですか!」
「好きにしなよ」
「れ、レイさん!!!!」
カッコつけきれてないですよ、レイさん!下から見上げた限り、なんか耳赤いし!シゴデキクールだと思っていた同級生の意外な姿に、私は妙な親しみを感じた。なんだ、この人も同じ1年生じゃん!
