去る春、君の声だけが在る
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バシさんの入退部は一体何回目か。インハイ予選で揉めて先輩を殴ったらしい。数えるのは諦めた。練習には来てるらしい。外に出れないからローラーばかりらしい。らしい、というのは揉めてるから近寄るなよと先輩に教えてもらって避けてたからなんだけど。部活終わって、流し台を使いたいからやむを得ず部室裏へ。流石にもう帰ったと思いたい。
「なんだ、まだいたの」
「うるせえ」
部室裏にはバシさんしかいなかった。折れたモップが直してある。なんだこれ?
ここにいるということは、今日は辞めさせられなかったらしい。よかった、と思ったけど全然良くない。まあ強豪に入ったら思ったより陰湿でネチネチした先輩ばっかりで、ヒーローみたいに誰かが助けてくれるわけでもなく、ガッカリする気持ちもわからないでもないが。この人先輩だろうが平気で殴るし、部室裏で返り血つけて転がってたり、2日おきに辞めさせられたり、本当にとんでもない。今まで出会ったことないタイプの人間。でも、「後悔してねェ!オレは、正しい!!」あの絶叫が忘れられない。何度辞めさせられても頭を下げて入り直す。今までそんなことするやつはいなかったらしく、完全に部則の穴を突いてきた。どうしても自転車に乗るつもりがあるのだ。
「手洗って」
別に喧嘩が特別強いわけじゃなく、パワーで振り抜いてるだけなので、指の背は擦り傷t打撲でいつもボコボコになっていた。喧嘩の後の賢者タイムか、促すと大人しく水道で手を洗う。
「指の骨折れたら自転車乗れないでしょう」
「……わかってるよ」
わかってるなら、やめればいいのに。部活じゃなくて、殴る方。私はため息をついて、手を取って備品の絆創膏を巻いてやった。確か今朝の時点では「入部届け受理」状態だったはずなので、彼は備品を使う権利があるはずだ。先輩にバレたらいい顔はされないだろうけど。
バシさんは話してみると結構真面目で常識人ぽくて、いいやつだった。真面目だから逆に今の自転車部の感じが許せなかったのかも。あとは反抗期で色々持て余してる、とか。そうとしか思えない。だからって、暴力はよくないでしょうよ。本当どうしたらいいんだろ。未経験者ど素人のマネージャーには解決できる気がしない。
「どうして、見切りをつけないの。もうわかったでしょ、あんまり自転車部がちゃんとしてないってこと」
「……」
「他に乗れる環境はあるよ。社会人チームとか。どうしてハコガクにこだわるの」
「……」
上層部はレギュラー争いに必死で、その実下の方じゃイジメだ暴力沙汰だと、散々な有様で、憧れの王者ハコガクの姿は入部ひと月も経たずに蜃気楼の如く消えた。私もガッカリだ。正直。クソみたいな体制に飽き飽きしている部員は他にもいるだろうが、選手たちはそれでも留まっている。箱根学園で勝利を掴むことには、きっとそれだけの価値があるから。
「クソみたいな部でも、それでも明日も練習来るんでしょ。ならやることは一択」
「アドバイスならいらねえぞ」
銅橋は「いったい何を考えてんだ」と言わんばかりの顔で私を見た。
「ハコガクの自転車部で勝ちたいんでしょう。認めさせたいんでしょう。殴らなければいいだけ」
「……それができたらこんな目にあってねえよ」
「それはそうだ」
本当に、どうしたらいいんだろう。今の不健全な部の状況じゃ彼の手綱を握る人がいない。先輩も悪い、銅橋も悪い。どこかに彼を導く良き先輩はいないのかしら。隼人くんはインハイに向けて忙しいし。私はまだ全然覚えられない自転車部の先輩たちをぼんやり思い浮かべ、ため息をついた。
「なんだ、まだいたの」
「うるせえ」
部室裏にはバシさんしかいなかった。折れたモップが直してある。なんだこれ?
ここにいるということは、今日は辞めさせられなかったらしい。よかった、と思ったけど全然良くない。まあ強豪に入ったら思ったより陰湿でネチネチした先輩ばっかりで、ヒーローみたいに誰かが助けてくれるわけでもなく、ガッカリする気持ちもわからないでもないが。この人先輩だろうが平気で殴るし、部室裏で返り血つけて転がってたり、2日おきに辞めさせられたり、本当にとんでもない。今まで出会ったことないタイプの人間。でも、「後悔してねェ!オレは、正しい!!」あの絶叫が忘れられない。何度辞めさせられても頭を下げて入り直す。今までそんなことするやつはいなかったらしく、完全に部則の穴を突いてきた。どうしても自転車に乗るつもりがあるのだ。
「手洗って」
別に喧嘩が特別強いわけじゃなく、パワーで振り抜いてるだけなので、指の背は擦り傷t打撲でいつもボコボコになっていた。喧嘩の後の賢者タイムか、促すと大人しく水道で手を洗う。
「指の骨折れたら自転車乗れないでしょう」
「……わかってるよ」
わかってるなら、やめればいいのに。部活じゃなくて、殴る方。私はため息をついて、手を取って備品の絆創膏を巻いてやった。確か今朝の時点では「入部届け受理」状態だったはずなので、彼は備品を使う権利があるはずだ。先輩にバレたらいい顔はされないだろうけど。
バシさんは話してみると結構真面目で常識人ぽくて、いいやつだった。真面目だから逆に今の自転車部の感じが許せなかったのかも。あとは反抗期で色々持て余してる、とか。そうとしか思えない。だからって、暴力はよくないでしょうよ。本当どうしたらいいんだろ。未経験者ど素人のマネージャーには解決できる気がしない。
「どうして、見切りをつけないの。もうわかったでしょ、あんまり自転車部がちゃんとしてないってこと」
「……」
「他に乗れる環境はあるよ。社会人チームとか。どうしてハコガクにこだわるの」
「……」
上層部はレギュラー争いに必死で、その実下の方じゃイジメだ暴力沙汰だと、散々な有様で、憧れの王者ハコガクの姿は入部ひと月も経たずに蜃気楼の如く消えた。私もガッカリだ。正直。クソみたいな体制に飽き飽きしている部員は他にもいるだろうが、選手たちはそれでも留まっている。箱根学園で勝利を掴むことには、きっとそれだけの価値があるから。
「クソみたいな部でも、それでも明日も練習来るんでしょ。ならやることは一択」
「アドバイスならいらねえぞ」
銅橋は「いったい何を考えてんだ」と言わんばかりの顔で私を見た。
「ハコガクの自転車部で勝ちたいんでしょう。認めさせたいんでしょう。殴らなければいいだけ」
「……それができたらこんな目にあってねえよ」
「それはそうだ」
本当に、どうしたらいいんだろう。今の不健全な部の状況じゃ彼の手綱を握る人がいない。先輩も悪い、銅橋も悪い。どこかに彼を導く良き先輩はいないのかしら。隼人くんはインハイに向けて忙しいし。私はまだ全然覚えられない自転車部の先輩たちをぼんやり思い浮かべ、ため息をついた。
