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声変わりを終えて、息子のCVが中村悠一になった。
その時のことはよく覚えている。あーついに。ついにきたか……という感じ。息子の名前は古賀公貴。公貴が高校生になった翌年、小野田坂道が総北に入学して物語が始まる。その日までのカウントダウンが始まった。
親バカかもしれないけど、公貴は中学生の時点で自転車が結構強かった。自分で立てた作戦を実行する力。レースを組み立て、負けたら敗因を自分で考える力。敗因を次回の作戦に生かす力。自分の実力込みで作戦立てて、その通りに走り、次回の作戦に反映する……それができる中学生は周りに多くなかった。早熟だったと思う。あと周りと比べても体も大きかったから。
総北に入ったばかりなのに、昨日の部活見学でも「期待の新人」と言われたらしい。最近反抗期なのかあんまりそういう学校の話とかしてくれないんだけど、それだけは嬉しそうに教えてくれた。こうして見ると、普通の高校1年生だなと思った。
でもこの後……高校3年間を思うと胸は痛む。これからの高校生活で公貴を待っているのは怪我と仲違い。親心としては怪我を回避してやりたいという気持ちがあった。仲違いも、怪我さえなければ回避できるんじゃないかと思った。でも……公貴が怪我をしなかったら、公貴が2年、3年の時のインターハイはどうなる?私はそれが恐ろしい。自分の子どもの無事より大事なものなんてないはずなのに、私は公貴と私の知っている原作を天秤にかけている時がある。母親失格だ。
「母さん?」
「公貴?どうしたの」
特大のお弁当箱に蓋をして、ビニール袋、さらに弁当袋に入れて顔を上げる。リビングに公貴が顔を出す。見慣れた……まだ数日しか着ていないのに、私にとっては見慣れた、総北の制服。
「どうかしたって……オレ学校行くけど、母さんもそろそろ出ないと仕事遅れるぞ」
「えっ嘘、もうこんな時間」
慌てて公貴にお弁当をパス。「横にしないでね」と一応言うけど自転車乗るから無理な話だ。そのためのビニールなんだけど。
手を洗って、拭いて、バタバタと公貴を追いかけて玄関へ向かう。玄関で靴を履く公貴の背中、それから、自転車。そう、自転車。
「そんな毎日見送らなくていいよ」
靴を履いて、嫌そうな顔でこちらを振り返る。公貴。なんて言葉を返そうか、一瞬反応が遅れる。
「なんでそんなこと言うの〜!?母さん泣いちゃうからねっ」
「はいはい……」
大げさに騒げば、思春期全開の公貴は付き合ってられないとばかりの呆れ顔。うまく誤魔化せたかな。
高校1年の、春。入学式を終えたばかり。まだ原作は始まらない。先日の身体測定の結果、身長がまた伸びてたらしい。どこまで伸びるんだろう。もしまだ伸びるようなら、大きめに作った制服も買い替えなければいけない。多分前世では「公式の身長」があったはずだけど、流石にその数値までは覚えていない。
わかってるよ、現実逃避だ。夏までのカウントダウンが始まっている。終わりへのカウントダウンだ。目を逸らしたくても、もう、始まってしまった。
何にも知らない公貴は、バランスが気に入らなかったのか弁当袋をカバンに詰め直して、それから自転車の点検。いつも走る前に必ず確認する。その指先は迷いなく、しかし決して手順を飛ばしたりおざなりにするようなことはない。
もし公貴が怪我をしなくて、1年生から3年生までのインターハイに出たりしたら、どうなるのだろう。3年生の合宿で手嶋に勝つようなことがあれば、「2年目のインターハイ」で起こった手嶋を中心とする原作のイベントはひとつも起きない?そもそも2年目も3年目も、原作と違うメンバーで走って総北は優勝できるのか……?
公貴の中学卒業が近づくにつれて、レースの勝敗がすごく気になるようになった。でもどんなに祈っても、準備しても。負ける時は負ける。勝つ時は勝つ。これは公貴自身にもどうにもできないこと。だから私にできるのはただ、高校生の我が子の衣食住を整えること、自転車のことにお金を惜しまないこと。それから毎日の安全と健康を願うことだけ。結果を左右するような大きなイベントは起こせない。私には。
自転車の点検を終えて公貴が立ち上がる。お年頃なのか、どんどん素っ気なくなっちゃって寂しいけど、「行ってきます」だけは変わらずしてくれるから。自分が「古賀公貴」の母だと気づいた時から、朝送り出す時だけは同じ言葉で送り出す。今日も。
「じゃ、行ってきます。今日も部活見学してから帰るから」
「いってらっしゃい。公貴、ちゃんと前見て走るのよ」
その時のことはよく覚えている。あーついに。ついにきたか……という感じ。息子の名前は古賀公貴。公貴が高校生になった翌年、小野田坂道が総北に入学して物語が始まる。その日までのカウントダウンが始まった。
親バカかもしれないけど、公貴は中学生の時点で自転車が結構強かった。自分で立てた作戦を実行する力。レースを組み立て、負けたら敗因を自分で考える力。敗因を次回の作戦に生かす力。自分の実力込みで作戦立てて、その通りに走り、次回の作戦に反映する……それができる中学生は周りに多くなかった。早熟だったと思う。あと周りと比べても体も大きかったから。
総北に入ったばかりなのに、昨日の部活見学でも「期待の新人」と言われたらしい。最近反抗期なのかあんまりそういう学校の話とかしてくれないんだけど、それだけは嬉しそうに教えてくれた。こうして見ると、普通の高校1年生だなと思った。
でもこの後……高校3年間を思うと胸は痛む。これからの高校生活で公貴を待っているのは怪我と仲違い。親心としては怪我を回避してやりたいという気持ちがあった。仲違いも、怪我さえなければ回避できるんじゃないかと思った。でも……公貴が怪我をしなかったら、公貴が2年、3年の時のインターハイはどうなる?私はそれが恐ろしい。自分の子どもの無事より大事なものなんてないはずなのに、私は公貴と私の知っている原作を天秤にかけている時がある。母親失格だ。
「母さん?」
「公貴?どうしたの」
特大のお弁当箱に蓋をして、ビニール袋、さらに弁当袋に入れて顔を上げる。リビングに公貴が顔を出す。見慣れた……まだ数日しか着ていないのに、私にとっては見慣れた、総北の制服。
「どうかしたって……オレ学校行くけど、母さんもそろそろ出ないと仕事遅れるぞ」
「えっ嘘、もうこんな時間」
慌てて公貴にお弁当をパス。「横にしないでね」と一応言うけど自転車乗るから無理な話だ。そのためのビニールなんだけど。
手を洗って、拭いて、バタバタと公貴を追いかけて玄関へ向かう。玄関で靴を履く公貴の背中、それから、自転車。そう、自転車。
「そんな毎日見送らなくていいよ」
靴を履いて、嫌そうな顔でこちらを振り返る。公貴。なんて言葉を返そうか、一瞬反応が遅れる。
「なんでそんなこと言うの〜!?母さん泣いちゃうからねっ」
「はいはい……」
大げさに騒げば、思春期全開の公貴は付き合ってられないとばかりの呆れ顔。うまく誤魔化せたかな。
高校1年の、春。入学式を終えたばかり。まだ原作は始まらない。先日の身体測定の結果、身長がまた伸びてたらしい。どこまで伸びるんだろう。もしまだ伸びるようなら、大きめに作った制服も買い替えなければいけない。多分前世では「公式の身長」があったはずだけど、流石にその数値までは覚えていない。
わかってるよ、現実逃避だ。夏までのカウントダウンが始まっている。終わりへのカウントダウンだ。目を逸らしたくても、もう、始まってしまった。
何にも知らない公貴は、バランスが気に入らなかったのか弁当袋をカバンに詰め直して、それから自転車の点検。いつも走る前に必ず確認する。その指先は迷いなく、しかし決して手順を飛ばしたりおざなりにするようなことはない。
もし公貴が怪我をしなくて、1年生から3年生までのインターハイに出たりしたら、どうなるのだろう。3年生の合宿で手嶋に勝つようなことがあれば、「2年目のインターハイ」で起こった手嶋を中心とする原作のイベントはひとつも起きない?そもそも2年目も3年目も、原作と違うメンバーで走って総北は優勝できるのか……?
公貴の中学卒業が近づくにつれて、レースの勝敗がすごく気になるようになった。でもどんなに祈っても、準備しても。負ける時は負ける。勝つ時は勝つ。これは公貴自身にもどうにもできないこと。だから私にできるのはただ、高校生の我が子の衣食住を整えること、自転車のことにお金を惜しまないこと。それから毎日の安全と健康を願うことだけ。結果を左右するような大きなイベントは起こせない。私には。
自転車の点検を終えて公貴が立ち上がる。お年頃なのか、どんどん素っ気なくなっちゃって寂しいけど、「行ってきます」だけは変わらずしてくれるから。自分が「古賀公貴」の母だと気づいた時から、朝送り出す時だけは同じ言葉で送り出す。今日も。
「じゃ、行ってきます。今日も部活見学してから帰るから」
「いってらっしゃい。公貴、ちゃんと前見て走るのよ」
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