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秋。野川文房具店で小さいレターセットを買った。店主のおじさんはレターコーナーで悩んでいる私を見つけて「何かお探しだね?そうだろう?そうなんだろう?」ときらきらした目で言った。
ちょうどお客さんも他にいなくて、頼んでもないのに店主のおじさんはどれがいいか熱心に考えてくれた。私は迷った末に深い青地に銀の星が散ったレターセットを選んだ。おじさんがおすすめした、ピンク地にいちごとリボンのデザインは少し……私の目的にはかわいすぎた。
商売熱心のおじさんは会計の間、「何に使うのか?」「学校では手紙交換が流行っているのか?」「どういう色柄が人気か?」「今時はミニレターの方がいいのか?」とリサーチをかけてきたから、返答には少し困った。
「友達に……手紙を渡したくて」
「おお!手紙交換だね!いつの時代も女子高生は手紙が大好きだからね〜」
おじさんはうんうん頷いて納得してくれて、良かった。私は上手く誤魔化せたと安堵してため息をつく。本当に私がやりたいのは、親しい友人との手紙交換ではなく、ファンレターだから。
そう、ファンレターだ。間違ってもラブレターではない。ラブレターならいちごとリボンのデザインはかわいらしい印象を演出してくれただろうが、逆境の中に身を置く、たいして話したこともない同級生相手に送るには少し気合が入りすぎている。
ファンレター出したい相手は同じ学校の同級生、自転車競技部でこの度新キャプテンに就任した泉田塔一郎。直接渡す勇気はないから、こっそり下駄箱に入れておくつもりだ。多分、それくらいなら珍しくもなく騒ぎにもならずにただのファンレターのひとつで処理される。気がする。
なぜなら、我が校の自転車競技部は全国常連の強豪で、花形みたいなもんだから。日頃から練習見学、レースを見に行きバレンタインに全力投球する熱心なファンだけでなく、大会前と聞けば「頑張ってね」と声をかける生徒も多い。全校で注目されている……というか応援する雰囲気がある。だから、ファンレターの一通くらい、いけるはずだ。
しかし書くぞ!と決めたものの、書くことがない。降ったばかりの坂道を登って学校に戻り、誰もいない東校舎の2階から部室棟のあるエリアを見下ろす。ここは自転車部の練習風景……特に平地練をしようとする部員の姿がよく見える。少し前まではインハイ前の新開先輩の応援をしようとほとんど全ての窓辺が女子生徒に占拠されていたけど、最近は静かなものだ。
今日も自転車部の部員たちは次々隊列を組んでは学校を飛び出していく。練習風景を見れば、何か書くことも思い浮かぶかと思ったのだけど、そんなことはなかった。
ちょうどその時、新たに自転車を引いた一団が部室から出てきて。
「あっ」
後輩たちに指示を出すあの姿、間違いない。泉田だ。室内練の時間帯もあるから、外練しているところを毎日目撃できるとも限らないのだけど、今日はツイている。
いくつかの指示の後、部員たちは校外へと走り出す。先行する1台、少し遅れて他の部員が続く。まだ敷地内だからそんなに速度を出していないはずだが。先頭の1台は足を緩めて後続を待つ。後続が合流のち、敷地を出て左折。小集団はすぐに見えなくなった。あーあ。手摺にもたれて私はため息を吐く。
「頑張れって、頑張ってる人に言うのもな……」
じゃあ、「頑張らなくていいよ」?それこそ怪文書だ。もらった側も気味が悪いだろう。差出人を書くつもりがないから、なるべく怪しくない文面にしたい。
「そもそも差出人不明の手紙が怪しいんだけどね……」
でもできれば匿名がよかった。最近の泉田はいまいち覇気がない。夏前にあんなに楽しそうに辛い練習に身を投じていたのが嘘みたいに、楽しそうじゃない。私は自転車部の部員じゃないから明確な理由はわからないけど、夏前と違うのは明らかだった。
理由はいくつも想像できる。インターハイの結果が悪かったのか、彼自身最終日に完走がならなかったことか、それとも憧れの新開先輩が引退してしまうことか。とにかく最近の彼は、前みたいな覇気がない。匿名で励まそうっていうのがそもそも間違ってるのかな。でもあんまり話したことない同級生に励まされても困るだろうし……
結局、悩みに悩んで「いつもあなたが頑張っているところ、見てます。応援してます」というような手紙を書いた。
書くのも大変なら、渡すのも大変だった。いつもより早い時間のバスで登校して、人に見られることなく下駄箱に投函することに成功。自転車競技部は朝自主練してホームルームギリギリに登校する人が多いから、先周りは容易だ。
手紙の行方がどうしても気になって1時間目の後こっそり昇降口に見に行った。押し込んだ封筒は、なくなっていた。
ちょうどお客さんも他にいなくて、頼んでもないのに店主のおじさんはどれがいいか熱心に考えてくれた。私は迷った末に深い青地に銀の星が散ったレターセットを選んだ。おじさんがおすすめした、ピンク地にいちごとリボンのデザインは少し……私の目的にはかわいすぎた。
商売熱心のおじさんは会計の間、「何に使うのか?」「学校では手紙交換が流行っているのか?」「どういう色柄が人気か?」「今時はミニレターの方がいいのか?」とリサーチをかけてきたから、返答には少し困った。
「友達に……手紙を渡したくて」
「おお!手紙交換だね!いつの時代も女子高生は手紙が大好きだからね〜」
おじさんはうんうん頷いて納得してくれて、良かった。私は上手く誤魔化せたと安堵してため息をつく。本当に私がやりたいのは、親しい友人との手紙交換ではなく、ファンレターだから。
そう、ファンレターだ。間違ってもラブレターではない。ラブレターならいちごとリボンのデザインはかわいらしい印象を演出してくれただろうが、逆境の中に身を置く、たいして話したこともない同級生相手に送るには少し気合が入りすぎている。
ファンレター出したい相手は同じ学校の同級生、自転車競技部でこの度新キャプテンに就任した泉田塔一郎。直接渡す勇気はないから、こっそり下駄箱に入れておくつもりだ。多分、それくらいなら珍しくもなく騒ぎにもならずにただのファンレターのひとつで処理される。気がする。
なぜなら、我が校の自転車競技部は全国常連の強豪で、花形みたいなもんだから。日頃から練習見学、レースを見に行きバレンタインに全力投球する熱心なファンだけでなく、大会前と聞けば「頑張ってね」と声をかける生徒も多い。全校で注目されている……というか応援する雰囲気がある。だから、ファンレターの一通くらい、いけるはずだ。
しかし書くぞ!と決めたものの、書くことがない。降ったばかりの坂道を登って学校に戻り、誰もいない東校舎の2階から部室棟のあるエリアを見下ろす。ここは自転車部の練習風景……特に平地練をしようとする部員の姿がよく見える。少し前まではインハイ前の新開先輩の応援をしようとほとんど全ての窓辺が女子生徒に占拠されていたけど、最近は静かなものだ。
今日も自転車部の部員たちは次々隊列を組んでは学校を飛び出していく。練習風景を見れば、何か書くことも思い浮かぶかと思ったのだけど、そんなことはなかった。
ちょうどその時、新たに自転車を引いた一団が部室から出てきて。
「あっ」
後輩たちに指示を出すあの姿、間違いない。泉田だ。室内練の時間帯もあるから、外練しているところを毎日目撃できるとも限らないのだけど、今日はツイている。
いくつかの指示の後、部員たちは校外へと走り出す。先行する1台、少し遅れて他の部員が続く。まだ敷地内だからそんなに速度を出していないはずだが。先頭の1台は足を緩めて後続を待つ。後続が合流のち、敷地を出て左折。小集団はすぐに見えなくなった。あーあ。手摺にもたれて私はため息を吐く。
「頑張れって、頑張ってる人に言うのもな……」
じゃあ、「頑張らなくていいよ」?それこそ怪文書だ。もらった側も気味が悪いだろう。差出人を書くつもりがないから、なるべく怪しくない文面にしたい。
「そもそも差出人不明の手紙が怪しいんだけどね……」
でもできれば匿名がよかった。最近の泉田はいまいち覇気がない。夏前にあんなに楽しそうに辛い練習に身を投じていたのが嘘みたいに、楽しそうじゃない。私は自転車部の部員じゃないから明確な理由はわからないけど、夏前と違うのは明らかだった。
理由はいくつも想像できる。インターハイの結果が悪かったのか、彼自身最終日に完走がならなかったことか、それとも憧れの新開先輩が引退してしまうことか。とにかく最近の彼は、前みたいな覇気がない。匿名で励まそうっていうのがそもそも間違ってるのかな。でもあんまり話したことない同級生に励まされても困るだろうし……
結局、悩みに悩んで「いつもあなたが頑張っているところ、見てます。応援してます」というような手紙を書いた。
書くのも大変なら、渡すのも大変だった。いつもより早い時間のバスで登校して、人に見られることなく下駄箱に投函することに成功。自転車競技部は朝自主練してホームルームギリギリに登校する人が多いから、先周りは容易だ。
手紙の行方がどうしても気になって1時間目の後こっそり昇降口に見に行った。押し込んだ封筒は、なくなっていた。
