去る春、君の声だけが在るIF
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エリート運動部系大学生の、平日モーニングルーティーン。まず朝は早起きして愛車で颯爽と坂を登る。通勤通学の時間を避ければいつもは混雑する道も、気持ちよく走れてオススメ。途中公園でライラックの花が咲いているのを見つけて写真を撮る。恋人の好きな花だ。香りまで持ち帰れないから、あの公園に咲いていたと報告するだけだけど。それから家に戻って、シャワー、アイスティーでクールダウンして、今日の予定をチェック。講義、部活、アルバイトとぎっしり詰まっているが、こういう日こそ朝の行動が大事。一息ついたところで、寝ている恋人のためにとびきりの朝食を作る。
「……我ながら意識高い系っぽいな」
実際はニセ・意識高い系だけど。まず早起きは前日バイトがなかった日だけ。「何が何でも寝坊できない日の早起き」は高校3年間で多少身につけたが、決してスッキリ爽やかに起床とはいかず、しばらく布団の中で葛藤する。
朝の個人練……近所の急坂を中心としたコースはいつものこととして、「颯爽」かどうかは残念ながら悩ましいところだ。それからライラックなんて名前に教えてもらうまでどんな形か知らなかったし。戻ってきてシャワーを浴びた家も半同棲みたいになっている恋人……名前の家だ。シルバニアのキーホルダーがついた合鍵で勝手に開けて入る、小さなアパートの一室。アイスティーは名前のリクエストで作り始めたけど、まだまだ朝晩寒いせいか思ったほど名前が飲まない。から、オレがせっせと消費している。
家主の名前はまだ寝ていて、今日はきっと遅刻ギリギリにならないと起きてこない。オレ以上に寝起きの悪い彼女を起こすのはきっと今日も困難だろうが、仕方ないか、昨日はレポート書いてて遅かったみたいだし……
それから冷蔵庫を勝手に開けて、賞味期限の近そうなものから組み合わせてメニューを考える。あまり凝ったものは作れないが、なんとかふたり分の朝食を捻り出す。これが「意識高い」モーニングルーティンの正体。
今朝はパンを焼いて、あるもの全部載せてオープンサンドだ。朝は元気のない名前もコレなら食べるだろう。パンの焼ける匂いで目を覚ましてくれればいいが、名前の寝起きの悪さはオレ以上。そう簡単に行くはずがない。
ベッドで一度目のアラームが鳴る。
鳴りっぱなしのアラームを止めてやる。夏がけのタオルケットを巻き込んで寝ている恋人、その耳にアラームが届いていたかは不明。小さい肩に手をかけて軽く揺すってみる。かける言葉はいつも同じ。半笑いを封印して、なるべく切羽詰まった、運動部っぽいトーンを……高校3年の頃みたいなマジのトーンを心がける。息を吸って。
「朝練遅れるぞ!」
「うー」
「あちゃー、ダメかー」
渾身の「運動部の先輩っぽい声」でも起きる気配無し!昔はこれで飛び起きたらしいが、大学生になった今となっては、ちっとも効かない。
ま、朝飯には間に合わなくても1限に間に合えばいいか。名前のことだから「あと5分早く起こしてよ〜」と泣き言言うかもしれないが、こいつ何時に起こしても言うからな……朝飯のオープンサンドも二つ折りにしてラップで包めば、講義の前に食えるだろ。あと15分くらい寝かしてやろ。
オレは名前を起こすことを諦めて、キッチンに戻る。焼きたてのオープンサンドに食らいつき、冷蔵庫のアイスティーをおかわり。行儀が悪いが空いた手でスマホをタップ、さっき撮ったばかりの写真……オーブントースターの中の2枚並んだオープンサンド、チーズがグツグツ溶けている……を親しい友人のみ・24時間限定の設定でアップすればハートのリアクションがすぐついた。青八木、大学の人たち、後輩。
いちばんハートがほしい恋人は投稿を見るどころか、まだ眠ったまま。
そもそも起きていても名前はあまりSNSをチェックする方ではない。オレが普段名前の好きそうなカフェの写真をあげるのは、単に行動記録と名前が釣れないかという期待が半々なのに、お目当てのアイコンが出てこないまま公開終了なんてこともしばしば。当然「私もその店行きたい!」もしくは「……誰と行ったの?」なんて可愛いリアクションはなし。いつも釣り針を垂らしたはずのこっちがヤキモキさせられる。オレの方は名前の同級生があげた動画にちらっと名前らしき姿が映るだけでモヤモヤするのに。性格の違いか?オレの心が狭いのか?
「うおっ、こんな時間」
時計を見て、慌てて残りのアイスティーを一気に飲み干す。流石にそろそろ起こしてやらないと1限に間に合わない。ここから大学までは徒歩10分、自転車ならもう少しゆっくりできるけど、今日はオレも名前も徒歩だから。
一度目より激しく名前を揺する。不快そうに名前が唸るが、流石にこっちも余裕がない。
「そろそろ起きないとマジで遅刻だぞ!」
「う……」
名前が薄目を開ける。ぐるぐる巻きのタオルケットを剥ぎ、抱えていた枕を取り上げ、長い髪を食ってるのを避けてやる。名前はモニョモニョ何か言ったが、はっきりした言葉にはならなかった。オレは意識を覚醒させようと畳みかける。
「朝飯サンドイッチだから起きろよ、な?」
「さ、んどいっち……」
「おー、あるもん載せて焼いただけだけど」
「んー」
「なんでまた寝るかな……!?」
そろそろ起きないと化粧の時間がなくなる。名前はいつも綺麗に化粧をして髪も巻いてから大学に行く。化粧をしていない顔は出会ったばかりの高校生の頃を思い出させ、オレは結構好きなんだけど、名前は嫌がる。だから時間のことを考えたら、心を鬼にして起こしてやるべきなのだろうが、どうしても天秤は「もう少し寝かしてやろうかな」という気持ちに傾いてしまう。
「なー、起きる気ある?」
「うん……」
「ないだろ」
いつもオレを見上げるキラキラの目は未だ閉ざされている。あーもう、あと5分くらい寝かせてやるべきか?我ながら甘すぎるが、仕方ないだろ。SNSの緑の輪っかをタップしても見られない、このかわいい寝顔は彼氏のオレの特権だから。ここでオレは心を鬼にしてアラームをセット。音量は最大、デッドラインまであと5分。
「……我ながら意識高い系っぽいな」
実際はニセ・意識高い系だけど。まず早起きは前日バイトがなかった日だけ。「何が何でも寝坊できない日の早起き」は高校3年間で多少身につけたが、決してスッキリ爽やかに起床とはいかず、しばらく布団の中で葛藤する。
朝の個人練……近所の急坂を中心としたコースはいつものこととして、「颯爽」かどうかは残念ながら悩ましいところだ。それからライラックなんて名前に教えてもらうまでどんな形か知らなかったし。戻ってきてシャワーを浴びた家も半同棲みたいになっている恋人……名前の家だ。シルバニアのキーホルダーがついた合鍵で勝手に開けて入る、小さなアパートの一室。アイスティーは名前のリクエストで作り始めたけど、まだまだ朝晩寒いせいか思ったほど名前が飲まない。から、オレがせっせと消費している。
家主の名前はまだ寝ていて、今日はきっと遅刻ギリギリにならないと起きてこない。オレ以上に寝起きの悪い彼女を起こすのはきっと今日も困難だろうが、仕方ないか、昨日はレポート書いてて遅かったみたいだし……
それから冷蔵庫を勝手に開けて、賞味期限の近そうなものから組み合わせてメニューを考える。あまり凝ったものは作れないが、なんとかふたり分の朝食を捻り出す。これが「意識高い」モーニングルーティンの正体。
今朝はパンを焼いて、あるもの全部載せてオープンサンドだ。朝は元気のない名前もコレなら食べるだろう。パンの焼ける匂いで目を覚ましてくれればいいが、名前の寝起きの悪さはオレ以上。そう簡単に行くはずがない。
ベッドで一度目のアラームが鳴る。
鳴りっぱなしのアラームを止めてやる。夏がけのタオルケットを巻き込んで寝ている恋人、その耳にアラームが届いていたかは不明。小さい肩に手をかけて軽く揺すってみる。かける言葉はいつも同じ。半笑いを封印して、なるべく切羽詰まった、運動部っぽいトーンを……高校3年の頃みたいなマジのトーンを心がける。息を吸って。
「朝練遅れるぞ!」
「うー」
「あちゃー、ダメかー」
渾身の「運動部の先輩っぽい声」でも起きる気配無し!昔はこれで飛び起きたらしいが、大学生になった今となっては、ちっとも効かない。
ま、朝飯には間に合わなくても1限に間に合えばいいか。名前のことだから「あと5分早く起こしてよ〜」と泣き言言うかもしれないが、こいつ何時に起こしても言うからな……朝飯のオープンサンドも二つ折りにしてラップで包めば、講義の前に食えるだろ。あと15分くらい寝かしてやろ。
オレは名前を起こすことを諦めて、キッチンに戻る。焼きたてのオープンサンドに食らいつき、冷蔵庫のアイスティーをおかわり。行儀が悪いが空いた手でスマホをタップ、さっき撮ったばかりの写真……オーブントースターの中の2枚並んだオープンサンド、チーズがグツグツ溶けている……を親しい友人のみ・24時間限定の設定でアップすればハートのリアクションがすぐついた。青八木、大学の人たち、後輩。
いちばんハートがほしい恋人は投稿を見るどころか、まだ眠ったまま。
そもそも起きていても名前はあまりSNSをチェックする方ではない。オレが普段名前の好きそうなカフェの写真をあげるのは、単に行動記録と名前が釣れないかという期待が半々なのに、お目当てのアイコンが出てこないまま公開終了なんてこともしばしば。当然「私もその店行きたい!」もしくは「……誰と行ったの?」なんて可愛いリアクションはなし。いつも釣り針を垂らしたはずのこっちがヤキモキさせられる。オレの方は名前の同級生があげた動画にちらっと名前らしき姿が映るだけでモヤモヤするのに。性格の違いか?オレの心が狭いのか?
「うおっ、こんな時間」
時計を見て、慌てて残りのアイスティーを一気に飲み干す。流石にそろそろ起こしてやらないと1限に間に合わない。ここから大学までは徒歩10分、自転車ならもう少しゆっくりできるけど、今日はオレも名前も徒歩だから。
一度目より激しく名前を揺する。不快そうに名前が唸るが、流石にこっちも余裕がない。
「そろそろ起きないとマジで遅刻だぞ!」
「う……」
名前が薄目を開ける。ぐるぐる巻きのタオルケットを剥ぎ、抱えていた枕を取り上げ、長い髪を食ってるのを避けてやる。名前はモニョモニョ何か言ったが、はっきりした言葉にはならなかった。オレは意識を覚醒させようと畳みかける。
「朝飯サンドイッチだから起きろよ、な?」
「さ、んどいっち……」
「おー、あるもん載せて焼いただけだけど」
「んー」
「なんでまた寝るかな……!?」
そろそろ起きないと化粧の時間がなくなる。名前はいつも綺麗に化粧をして髪も巻いてから大学に行く。化粧をしていない顔は出会ったばかりの高校生の頃を思い出させ、オレは結構好きなんだけど、名前は嫌がる。だから時間のことを考えたら、心を鬼にして起こしてやるべきなのだろうが、どうしても天秤は「もう少し寝かしてやろうかな」という気持ちに傾いてしまう。
「なー、起きる気ある?」
「うん……」
「ないだろ」
いつもオレを見上げるキラキラの目は未だ閉ざされている。あーもう、あと5分くらい寝かせてやるべきか?我ながら甘すぎるが、仕方ないだろ。SNSの緑の輪っかをタップしても見られない、このかわいい寝顔は彼氏のオレの特権だから。ここでオレは心を鬼にしてアラームをセット。音量は最大、デッドラインまであと5分。
