去る春、君の声だけが在るIF
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「起床!!」
「わあっ」
泉田さんに叩き起こされて、飛び起きた。寮の硬いマットレスと異なり、よく弾むベッド……ここはどこだ?なけなしのオトメゴコロで慌てて口元を拭う。よだれ、セーフ。てっきりミーティング中に寝落ちしたのかと思ったら、違うらしい。
私たちは謎の部屋にいた。身を起こす拍子にベッドのスプリングが音を立てる。その跳ね返りを確かめるように手をついて、部屋を見渡す。白い内装、家具は大きなベッドだけ。それから壁に掲げられた「縛らないと出られない部屋(きつめに)」の文字。
完全に、目が覚めた。
「ふっ不健全ですっ!!」
「別に指ささなくても見えてるよ」
「だ、だって……」
「あまり心配しなくていいよ。箱根学園自転車競技部 ではこういうことが稀に……偶に?よくあるらしいから」
「でも、こっ……こんなこと許されるんですか!?完全にアウトでしょう!?」
「さあ?東堂さんは『条件達成のための全ての行動はこの部屋の外に影響しない』って言っていたけど……」
「まあ東堂さんが言うならそうなのかもしれませんが……」
泉田さんは全然動揺していないが、しかしだ。し、しば……縛る!?きつめに縛るって、私の少ない脳内語彙を検索すればそれ即ち、き、緊縛ってやつ……それってつまりSMプレイ。いやいやいや。確かに泉田キャプテンはたまに乗馬鞭持ってる幻覚が見えるけど。あれはバシさん相手にしか出ないやつでしょう!?
まさか自分の身に降りかかるなんて思ってもいなかったので私は動揺した。きっと、縄でぐるぐる巻きにされて天井から吊るされ、ピンヒールを履いた御御足で踏まれ、乗馬鞭で血が出るまで尻を叩かれるのだ。SMプレイの知識がないのでその後何をされるのかはよくわからない。鍛え抜いた腕と足で踏んだり叩かれたら、ものすごく痛そうなことはわかる。血まみれの尻でサドルに跨る、その痛みを想像して、私は戦慄した。
「とにかく」
「ひゃい!」
「……そうも怯えられるとこちらもやりづらいのだけど」
私たち二人が腰かけても余裕のある大きなベッドには、ささくれだったロープ、綿のロープ、硬そうな革のベルト、縄跳び……他にも名前もしらない恐ろしい紐状のナニカが並べられている。それってどうやって使うの……?と聞きたくなるようなラインナップ。うそうそうそ、知りたくない。そういうプレイは高校生にはまだ早い!
悲鳴をあげた私に反して、泉田さんは重苦しいため息ばかりついている。
「さっさと出よう。とりあえず、そこから選んでくれるかい」
「私が!?縛られる側に選択権をいただける感じですかっ!?」
「まさか。君が縛る方だよ。そうだな……力がなくても縛れそうなのは……」
「ま、待って!待ってください!」
「君には悪いが時間がないんだ。この後部長会議でね」
「ひぇ〜」
鋭い視線、後輩の反論を許さない、キャプテンの顔。た、大変なことになってしまった。まさか私が縛る側に回るとは。わ、私が縛る側に……?そんなこと考えもしなかった。催促されてしまった私は慌てて縄ラインナップに目を通す。太い縄などは指示通り「きつめに」縛るのは難しそう。かといって細いものは怪我をさせてしまいそうだし……
助けを求めようにも泉田さんは淡々とブレザーの袖を捲って準備している。多分、縛る部位として、腕を貸してくれるつもりなのだと思う……ううううう腕!?いや別にどの部位差し出されても困るけど。「嘘とかイタズラだったらどうしますか」と今更言い出せる雰囲気ではないし、とにかく怪我だけはさせたくない。でもこの部屋を出たい。紐……なるべく硬くなくて痛くなさそうな……
……あっ。ちょうどいいものがあった。
「泉田さん、すみません。ネクタイ貸してください」
「いいけど……」
名案でしょう?別に「用意されたラインナップで」って言われてないし。ちょっと縛って、パッと部屋を出る。怪我がいちばん少なそうなこれがきっとベストアンサー。我ながら黒田さんも唸らせられそうな奇策だ……いや黒田さんにこんな部屋のこと、絶対知られたくないけど。
「失礼します」
「っ……」
ネクタイの輪っかに指を引っ掛けて、そのまま引っ張る。指先にかかる力は布同士の摩擦だけで、泉田さんは嫌そうな顔をしたけど抵抗せずに抜き取られるネクタイを見ていた。わー新鮮!
「えへへ」
「随分嬉しそうじゃないか」
「そ、そんなつもりは……でも名案ですよね?」
「それは……まあ」
泉田さんは背後の恐ろしい「おすすめ紐ラインナップ」をチラリと見る。うん。あれよりはマシ。諦めたようにため息。泉田さんは主将の仕事でただでさえ大変だというのに、また余計な心労をかけている。
ネクタイを取るためとはいえ、足と足がぶつかるくらいに近い。
「準備はできたかい?」
「はい」
後ずさろうとする前に声をかけられてそのままベッドに腰を下ろす。漸く落ち着いて正面の人を見た。泉田さんの冬制服ネクタイ抜き。ブレザーとシャツは肘まで捲り上げている。新鮮な姿だ。私はなんとなくネクタイの結び目のシワを軽く伸ばした。泉田さんは黙ってその動きを眺めていた。
……なんだか無意味に緊張してきた。鼓動は間違いなく速いし、息が浅いかもしれない。バレたら恥ずかしすぎるから深呼吸したが、「緊張しています」と言わんばかりですぐに後悔した。とりあえず部屋から出る見込みが立ったので、念のため確認。
「とりあえず、退路ができたら脱出優先するのでいいですか?」
「そうだね」
「了解です。じゃ、失礼して!」
空元気がバレているのか泉田さんは何も言わなかった。私は構わず「脱出優先」でその腕に触れる。ぴくりとむき出しの腕の筋肉が跳ねた。
まずはネクタイを両腕を纏めるように一周、「きつめに」のリクエスト通り緩みなくしっかり結ぶ。心臓がドキドキ暴れている。余った部分はリボン結び。喉が乾いて、唾を飲み込む。軽く結び目を整えて終了。鍛えた腕、グローブ焼けの跡を、いつも首元にある赤いネクタイが飾っている。指先が離れて初めて気がつく。他人の体温って、すごくあつい。
背後で鍵の開くガチャンという音がした。もう出られるのに、泉田さんは身動きが取れないからじっとしている。後輩によってネクタイを奪われ、両手を縛られて、おとなしくしている。
「名前」
「はい」
「これ、外してくれないか」
「はい……」
口がカラカラに乾いている。赤いリボン結びから目が逸せない。こんなの誰かに見られたら、私が泉田さんを襲っていたと勘違いされかねない。なのに、動けない。私は腕を縛られたりなんかしてないのに。
あれ?ネクタイ もしかして、縄とか革ベルトと同じくらいの変態度?私、もしかしてものすごい間違いをおかした?背中を冷や汗が伝う。
「名前?」
やっぱり私、とんでもないことをしでかした。顔が熱い。きっと耳まで赤いと思う。
こんな顔じゃ泉田さんが心配そうに名前を呼ぶのに、「待ってください」と俯くことしかできない。顔だけじゃなくて、ぶつかった膝、腕に触れた指先が今更熱い。
「すみません、すぐ、すぐ……解きますから……」
早くこんな部屋出なくちゃいけないのに、この後部長会議なのに……もつれる指で一生懸命ネクタイを解く。縛った時の倍は時間がかかったのに、泉田さんは文句も言わずに待ってくれた。私はその間「この部屋で起きたこと全てさっぱりなかったことになりますように」とひたすら祈り続けていた。
「わあっ」
泉田さんに叩き起こされて、飛び起きた。寮の硬いマットレスと異なり、よく弾むベッド……ここはどこだ?なけなしのオトメゴコロで慌てて口元を拭う。よだれ、セーフ。てっきりミーティング中に寝落ちしたのかと思ったら、違うらしい。
私たちは謎の部屋にいた。身を起こす拍子にベッドのスプリングが音を立てる。その跳ね返りを確かめるように手をついて、部屋を見渡す。白い内装、家具は大きなベッドだけ。それから壁に掲げられた「縛らないと出られない部屋(きつめに)」の文字。
完全に、目が覚めた。
「ふっ不健全ですっ!!」
「別に指ささなくても見えてるよ」
「だ、だって……」
「あまり心配しなくていいよ。
「でも、こっ……こんなこと許されるんですか!?完全にアウトでしょう!?」
「さあ?東堂さんは『条件達成のための全ての行動はこの部屋の外に影響しない』って言っていたけど……」
「まあ東堂さんが言うならそうなのかもしれませんが……」
泉田さんは全然動揺していないが、しかしだ。し、しば……縛る!?きつめに縛るって、私の少ない脳内語彙を検索すればそれ即ち、き、緊縛ってやつ……それってつまりSMプレイ。いやいやいや。確かに泉田キャプテンはたまに乗馬鞭持ってる幻覚が見えるけど。あれはバシさん相手にしか出ないやつでしょう!?
まさか自分の身に降りかかるなんて思ってもいなかったので私は動揺した。きっと、縄でぐるぐる巻きにされて天井から吊るされ、ピンヒールを履いた御御足で踏まれ、乗馬鞭で血が出るまで尻を叩かれるのだ。SMプレイの知識がないのでその後何をされるのかはよくわからない。鍛え抜いた腕と足で踏んだり叩かれたら、ものすごく痛そうなことはわかる。血まみれの尻でサドルに跨る、その痛みを想像して、私は戦慄した。
「とにかく」
「ひゃい!」
「……そうも怯えられるとこちらもやりづらいのだけど」
私たち二人が腰かけても余裕のある大きなベッドには、ささくれだったロープ、綿のロープ、硬そうな革のベルト、縄跳び……他にも名前もしらない恐ろしい紐状のナニカが並べられている。それってどうやって使うの……?と聞きたくなるようなラインナップ。うそうそうそ、知りたくない。そういうプレイは高校生にはまだ早い!
悲鳴をあげた私に反して、泉田さんは重苦しいため息ばかりついている。
「さっさと出よう。とりあえず、そこから選んでくれるかい」
「私が!?縛られる側に選択権をいただける感じですかっ!?」
「まさか。君が縛る方だよ。そうだな……力がなくても縛れそうなのは……」
「ま、待って!待ってください!」
「君には悪いが時間がないんだ。この後部長会議でね」
「ひぇ〜」
鋭い視線、後輩の反論を許さない、キャプテンの顔。た、大変なことになってしまった。まさか私が縛る側に回るとは。わ、私が縛る側に……?そんなこと考えもしなかった。催促されてしまった私は慌てて縄ラインナップに目を通す。太い縄などは指示通り「きつめに」縛るのは難しそう。かといって細いものは怪我をさせてしまいそうだし……
助けを求めようにも泉田さんは淡々とブレザーの袖を捲って準備している。多分、縛る部位として、腕を貸してくれるつもりなのだと思う……ううううう腕!?いや別にどの部位差し出されても困るけど。「嘘とかイタズラだったらどうしますか」と今更言い出せる雰囲気ではないし、とにかく怪我だけはさせたくない。でもこの部屋を出たい。紐……なるべく硬くなくて痛くなさそうな……
……あっ。ちょうどいいものがあった。
「泉田さん、すみません。ネクタイ貸してください」
「いいけど……」
名案でしょう?別に「用意されたラインナップで」って言われてないし。ちょっと縛って、パッと部屋を出る。怪我がいちばん少なそうなこれがきっとベストアンサー。我ながら黒田さんも唸らせられそうな奇策だ……いや黒田さんにこんな部屋のこと、絶対知られたくないけど。
「失礼します」
「っ……」
ネクタイの輪っかに指を引っ掛けて、そのまま引っ張る。指先にかかる力は布同士の摩擦だけで、泉田さんは嫌そうな顔をしたけど抵抗せずに抜き取られるネクタイを見ていた。わー新鮮!
「えへへ」
「随分嬉しそうじゃないか」
「そ、そんなつもりは……でも名案ですよね?」
「それは……まあ」
泉田さんは背後の恐ろしい「おすすめ紐ラインナップ」をチラリと見る。うん。あれよりはマシ。諦めたようにため息。泉田さんは主将の仕事でただでさえ大変だというのに、また余計な心労をかけている。
ネクタイを取るためとはいえ、足と足がぶつかるくらいに近い。
「準備はできたかい?」
「はい」
後ずさろうとする前に声をかけられてそのままベッドに腰を下ろす。漸く落ち着いて正面の人を見た。泉田さんの冬制服ネクタイ抜き。ブレザーとシャツは肘まで捲り上げている。新鮮な姿だ。私はなんとなくネクタイの結び目のシワを軽く伸ばした。泉田さんは黙ってその動きを眺めていた。
……なんだか無意味に緊張してきた。鼓動は間違いなく速いし、息が浅いかもしれない。バレたら恥ずかしすぎるから深呼吸したが、「緊張しています」と言わんばかりですぐに後悔した。とりあえず部屋から出る見込みが立ったので、念のため確認。
「とりあえず、退路ができたら脱出優先するのでいいですか?」
「そうだね」
「了解です。じゃ、失礼して!」
空元気がバレているのか泉田さんは何も言わなかった。私は構わず「脱出優先」でその腕に触れる。ぴくりとむき出しの腕の筋肉が跳ねた。
まずはネクタイを両腕を纏めるように一周、「きつめに」のリクエスト通り緩みなくしっかり結ぶ。心臓がドキドキ暴れている。余った部分はリボン結び。喉が乾いて、唾を飲み込む。軽く結び目を整えて終了。鍛えた腕、グローブ焼けの跡を、いつも首元にある赤いネクタイが飾っている。指先が離れて初めて気がつく。他人の体温って、すごくあつい。
背後で鍵の開くガチャンという音がした。もう出られるのに、泉田さんは身動きが取れないからじっとしている。後輩によってネクタイを奪われ、両手を縛られて、おとなしくしている。
「名前」
「はい」
「これ、外してくれないか」
「はい……」
口がカラカラに乾いている。赤いリボン結びから目が逸せない。こんなの誰かに見られたら、私が泉田さんを襲っていたと勘違いされかねない。なのに、動けない。私は腕を縛られたりなんかしてないのに。
あれ?
「名前?」
やっぱり私、とんでもないことをしでかした。顔が熱い。きっと耳まで赤いと思う。
こんな顔じゃ泉田さんが心配そうに名前を呼ぶのに、「待ってください」と俯くことしかできない。顔だけじゃなくて、ぶつかった膝、腕に触れた指先が今更熱い。
「すみません、すぐ、すぐ……解きますから……」
早くこんな部屋出なくちゃいけないのに、この後部長会議なのに……もつれる指で一生懸命ネクタイを解く。縛った時の倍は時間がかかったのに、泉田さんは文句も言わずに待ってくれた。私はその間「この部屋で起きたこと全てさっぱりなかったことになりますように」とひたすら祈り続けていた。
