去る春、君の声だけが在るIF
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昼休み。ランチA定を胃におさめ、私はため息をついた。朝から泉田さんにお説教されたせいだ。朝練の後やってきた泉田さんに制服を返してそのまま説教突入、さらに朝食の時黒田さんからも。おかげで午前の授業を受けている間も全然集中できなかった。長い午前の授業を反省と後悔と羞恥に苛まれながらやり過ごし、やっと迎えた昼休み。わざわざ端っこの人気のない席をとったから、これでようやく話せる。
「とうとうやってしまったの、私……!」
「だから、何を」
向かいに座ったバシさんは低く尋ねる。朝から私の何事にも身の入らない様子を見ていたからか、イライラしている。私も声をひそめて、周囲を伺う。食堂の長机の端に座っていて、隣は真波とレイさんが座っている。ふたりとも呑気に牛乳を啜っている。
「い、泉田さんを部屋に連れ込んでしまったの!」
「言い方!言い方が悪い!」
レイさんが珍しく慌てた様子で声を荒げた。レイさんも私に連れ込まれた被害者のひとり。
「でも事実なんだよ……」
「そうにしても『ここ』で言うなら言い方を考えろ!」
「ああ、だからそれ」
真波はひとり納得した様子で私を指差した。バシさんとレイさんもこちらに視線を向ける。気まずく思って、机の上に両手を乗せた。お行儀よく見えるように。
「何?」
「引っ掻き傷。なーんだ、それ。泉田さんにつけられたんだ」
「言い方!言い方に悪意がある!」
バシさんが牛乳に咽せ、今度は私が声を荒げる番だった。慌てて手の甲をもう片方で覆い隠す。レイさんがテーブル備え付けのペーパータオルをバシさんに渡す。
「……それお前……手当しなかったのかよ」
「あんまり大袈裟にしたら、泉田さんが気にするでしょう」
「見せびらかすのもどうかと思うけど?」
「見せびらかしてない!」
保健室なり部室の救急箱を使えばある程度の処置はできる。が、怪我したのは利き手で誰かを頼るのも憚られた。どうしたの?って聞かれて冷静に嘘がつける気がしない。そもそも荒唐無稽なSF話すぎて、信じてもらえる気もしない。あーーー!なんであんなことしちゃったんだろう!?憧れの先輩を嫌がられるまで撫でまわして、挙句お腹の匂い嗅ぐなんて変態行為、いつもなら絶対しなかったのに!冷静に振り返ると本当にヤバすぎる。怒られて当然すぎる。セクハラだって訴えられてもおかしくない。いやでもだって泉田さんは平時からおなか出してるから全然恥ずかしくないし……!
真っ赤になって俯く私を見て、真波が神妙な声を出した。
「不純異性交遊は一発停学だから、バレると困るんだけど」
「馬鹿馬鹿馬鹿!んなわけないってわかってるくせに!!」
「天地がひっくり返ってもないな。正清」
「……オレに振るなよ」
バシさんに嫌な顔をされて、レイさんの矛先はこっちに向いた。視線はいつものクールを通り越して冷え切っている。
「お前のことだ、構いすぎて怒られたんだろう」
「ふ、フォローのはずが言葉に棘を感じる……」
「自分の過去の行いを振り返って見たらどうだ?」
「その節は本当にごめんって」
「一応言っておくと、腹を吸われるのは不愉快だ」
「本当に悪かったってば!そうだ、真波なんで教えてくれなかったの……!」
「何を?」
「ねこと一緒にせ、制服返す方法……」
今朝泉田さんから「猫を呼び出すシステム」「謎のタイマー」「制服の返却」あたりを詳しく教えてもらった。最初から教えてくださいと訴えたら、泉田さんは「真波には言ったはずだけど」とこわい顔をした。我々真波世代の連絡不足が露呈して、私は「すみませんでした……」と謝るしかなかった。全くお恥ずかしい話だ。泉田さんは今朝真波にも用があったみたいだけど、結局捕まらなかったし。真波が笑う。
「別に、どうにかなったんでしょ」
「どうにかなったけど……」
キャプテンに就任してからの真波は時折こういう態度をとる。何もかも、どうでもよくってそのくせギラギラしている。去年泉田さんがそうだったように、もう真波は次の夏のことを考えている。それ以外は今は、どうだっていいと思っている。
二度目のインターハイを経て、キャプテンに指名されてそれを受け入れて、真波は変わった。「良い方に変わった」とは言い切れない自分がいる。部員に示しがつかないからってプリントや課題は真面目にやって出すようになった……それはいいことなんだけど。最近の部活中は特に、ハッキリと物を言うキャプテンらしい姿と、一心不乱に山を登るエースクライマーとしての姿ばかり見ている。
私には、今の真波がかつての東堂さんより近寄りがたく思える時がある。レイさんは「圧倒的なカリスマ性だ」とそれを肯定したが、私は自分が夏の終わりに真波に告げた「自由に走ってほしい」という願いが真波を縛り付けているような気がしてならない。
「……次はもっと上手くやるね」
「うん、よろしく」
真波は朗らかにそう言って、その時ちょうどタイミングよく予鈴が鳴った。午後の授業のために私たちは席を立つ。猫を呼び出す仕組みを知った以上、これ以上こんなことがないようにストレスのコントロールをしなければ。何度目かのため息をついた私にバシさんが気遣わしげに「あんま悩みすぎるなよ」と声をかけた。
「とうとうやってしまったの、私……!」
「だから、何を」
向かいに座ったバシさんは低く尋ねる。朝から私の何事にも身の入らない様子を見ていたからか、イライラしている。私も声をひそめて、周囲を伺う。食堂の長机の端に座っていて、隣は真波とレイさんが座っている。ふたりとも呑気に牛乳を啜っている。
「い、泉田さんを部屋に連れ込んでしまったの!」
「言い方!言い方が悪い!」
レイさんが珍しく慌てた様子で声を荒げた。レイさんも私に連れ込まれた被害者のひとり。
「でも事実なんだよ……」
「そうにしても『ここ』で言うなら言い方を考えろ!」
「ああ、だからそれ」
真波はひとり納得した様子で私を指差した。バシさんとレイさんもこちらに視線を向ける。気まずく思って、机の上に両手を乗せた。お行儀よく見えるように。
「何?」
「引っ掻き傷。なーんだ、それ。泉田さんにつけられたんだ」
「言い方!言い方に悪意がある!」
バシさんが牛乳に咽せ、今度は私が声を荒げる番だった。慌てて手の甲をもう片方で覆い隠す。レイさんがテーブル備え付けのペーパータオルをバシさんに渡す。
「……それお前……手当しなかったのかよ」
「あんまり大袈裟にしたら、泉田さんが気にするでしょう」
「見せびらかすのもどうかと思うけど?」
「見せびらかしてない!」
保健室なり部室の救急箱を使えばある程度の処置はできる。が、怪我したのは利き手で誰かを頼るのも憚られた。どうしたの?って聞かれて冷静に嘘がつける気がしない。そもそも荒唐無稽なSF話すぎて、信じてもらえる気もしない。あーーー!なんであんなことしちゃったんだろう!?憧れの先輩を嫌がられるまで撫でまわして、挙句お腹の匂い嗅ぐなんて変態行為、いつもなら絶対しなかったのに!冷静に振り返ると本当にヤバすぎる。怒られて当然すぎる。セクハラだって訴えられてもおかしくない。いやでもだって泉田さんは平時からおなか出してるから全然恥ずかしくないし……!
真っ赤になって俯く私を見て、真波が神妙な声を出した。
「不純異性交遊は一発停学だから、バレると困るんだけど」
「馬鹿馬鹿馬鹿!んなわけないってわかってるくせに!!」
「天地がひっくり返ってもないな。正清」
「……オレに振るなよ」
バシさんに嫌な顔をされて、レイさんの矛先はこっちに向いた。視線はいつものクールを通り越して冷え切っている。
「お前のことだ、構いすぎて怒られたんだろう」
「ふ、フォローのはずが言葉に棘を感じる……」
「自分の過去の行いを振り返って見たらどうだ?」
「その節は本当にごめんって」
「一応言っておくと、腹を吸われるのは不愉快だ」
「本当に悪かったってば!そうだ、真波なんで教えてくれなかったの……!」
「何を?」
「ねこと一緒にせ、制服返す方法……」
今朝泉田さんから「猫を呼び出すシステム」「謎のタイマー」「制服の返却」あたりを詳しく教えてもらった。最初から教えてくださいと訴えたら、泉田さんは「真波には言ったはずだけど」とこわい顔をした。我々真波世代の連絡不足が露呈して、私は「すみませんでした……」と謝るしかなかった。全くお恥ずかしい話だ。泉田さんは今朝真波にも用があったみたいだけど、結局捕まらなかったし。真波が笑う。
「別に、どうにかなったんでしょ」
「どうにかなったけど……」
キャプテンに就任してからの真波は時折こういう態度をとる。何もかも、どうでもよくってそのくせギラギラしている。去年泉田さんがそうだったように、もう真波は次の夏のことを考えている。それ以外は今は、どうだっていいと思っている。
二度目のインターハイを経て、キャプテンに指名されてそれを受け入れて、真波は変わった。「良い方に変わった」とは言い切れない自分がいる。部員に示しがつかないからってプリントや課題は真面目にやって出すようになった……それはいいことなんだけど。最近の部活中は特に、ハッキリと物を言うキャプテンらしい姿と、一心不乱に山を登るエースクライマーとしての姿ばかり見ている。
私には、今の真波がかつての東堂さんより近寄りがたく思える時がある。レイさんは「圧倒的なカリスマ性だ」とそれを肯定したが、私は自分が夏の終わりに真波に告げた「自由に走ってほしい」という願いが真波を縛り付けているような気がしてならない。
「……次はもっと上手くやるね」
「うん、よろしく」
真波は朗らかにそう言って、その時ちょうどタイミングよく予鈴が鳴った。午後の授業のために私たちは席を立つ。猫を呼び出す仕組みを知った以上、これ以上こんなことがないようにストレスのコントロールをしなければ。何度目かのため息をついた私にバシさんが気遣わしげに「あんま悩みすぎるなよ」と声をかけた。
