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日曜日の特別登校はみんなどこか浮き足立っている。授業は午前で終わり、午後も部活はなし……ということで名前ちゃんの家に遊びに行ってプリキュアの録画を見る約束をしている。
ボク達の関係は部内に知られているのだけど、名前ちゃんは部員からそれを言われるのは恥ずかしいみたいだ。クリスマスイブにソワソワしている名前ちゃんに「なんや今日は小野田くんとデートかいな」と声をかけた鳴子くんは100回くらい無言で背中を叩かれていたし、今泉くんが「まさか手も繋いだことないのか?お前たち1年くらい付き合ってるだろ」と言った時は名前ちゃんは1週間今泉くんと口を聞かなかった。
最近は結構慣れたみたいだけど(後輩の鏑木くんはその辺りの遠慮がないので慣れるしかなかったともいう)、一緒に帰るのはやっぱり恥ずかしいらしく、いつもボクが部室でモタモタしているうちに名前ちゃんはさっさと帰ってしまう。
今日はお家に遊びにいく約束をしているから、一緒に帰ろうとクラスを覗いたけど、名前ちゃんはどこにもいない。カバンは机に引っかかっている。寒咲さんとお揃いのディズニーランドのキーホルダーがついてるスクールバッグ。外からは見えないけど、今日も彼女のお守り「ミラクルライト」が入っているはず。
名前ちゃんは、自転車部のマネージャーで「隠れオタク」だ。ふとしたきっかけで自転車部にオタクがいると知った時は嬉しかったけど、名前ちゃんは「絶対言わないで」とボクを脅した。名前ちゃんは「折角高校デビューに成功したんだから、絶対絶対オタバレするわけにはいかないの……!」と涙目で拳を握り、だから彼女が変身ヒロインアニメ特化オタク、プリキュアを卒業せず高校生になったいわゆる「大きいおともだち」なのを知っているのはボクだけだ。
名前ちゃんがいないからって、ずっとよそのクラスを覗いているのも不審なので、こそこそ撤退する。自分の教室にいないのなら、残る選択肢は寒咲さんか今泉くんのところなのだけど……いた。今泉くんのクラス。窓際の席、初夏らしく教室の窓は開け放たれ、名前ちゃんのポニーテールが風に揺れている。話しているのは今泉くんだ。
今泉くんは言わずもがな、名前ちゃんもクール系美少女だ。というか、クールを通りすぎて塩対応。ボクなんて、告白されるまで嫌われてるんだろうなって思っていたくらい。2人は何かの資料を突き合わせて真剣に話し合っている。一体何の話だろう、周りのクラスメイトも2人を遠巻きにしているせいで近寄りがたさがすごい。
「照、ちょっといい」
「うん」
たまたま通りがかった杉元くんが名前ちゃんに捕まった。名前ちゃんは「紛らわしいから」という理由で2年生の時から杉元くんを下の名前で呼んでいる。寒咲さんは「じゃあ私も」とそれに乗じて名前呼びを手に入れたけど、とてもじゃないけどボクには無理だった。
「なんや小野田くん、そんなとこでセミみたいにくっついて」
「わあ〜!!ごめん!邪魔だったよね!!」
「夏にはまだ早いで……ってははーん」
鳴子くんが通りがかって、クラスの奥の方で遠巻きにされている自転車部3人を見た。やけに面白そうな顔をしてボクを振り返る。
「……嫉妬 やな?」
「じじじじジェラシー!?!?」
そんなわけない。今泉くんがかっこよくて、名前ちゃんが美少女なのは事実で、ボクは2人のことを尊敬してるしチームメイトとして、友達としてすごく好きだ。弁解する間もなく鳴子くんはズカズカ教室に入っていき、「さっさと帰るでスカシ!日曜日!部活も休み!絶好のデート日和や!行くで!な、苗字さんもそう思うやろ!って痛!!」とクラス中に響く大きな声で言って、怖い顔の名前ちゃんに足を蹴られていた。
「何しにきたの?なんで鳴子はいっつもそんなにうるさいの?」
「そっちこそ自転車乗りの足蹴るなや!大・事・な・足!」
「うるさい。黙って早く帰れ」
「はあああ〜〜〜!?!?なんやスカシ!」
「ねえこれここでやる話?今泉と鳴子が外でやればいいよね?」
「ワイは教室での揉め事は部室に持ちこまん主義や!」
「癪だが同意だ」
「なんやと」
言い合いは日常茶飯事の2人に威嚇モード(通称・極寒トゲトゲハリネズミ。鳴子くん命名)の名前ちゃんまで加わってしまった。放課後の教室は一層賑やかさを増し、収集がつかなくなる。杉元くんが「今の言い方だと鳴子が今泉をデートに誘ってなかった……?」と1人冷静に疑問を口にしたけど、それに返事をする人はいない。
結局、鳴子くんと今泉くんの喧嘩は寒咲さんが仲裁するまで続いた。仲裁というより、寒咲さんは名前ちゃんに話があって、結果として3人の言い争いが中断された。
鳴子くん達と話しているうちに名前ちゃんはすっかり姿をくらました。教室のカバンはなし、自転車置き場にも彼女の愛車はなく、いつものように置いていかれたのだと気づいて、慌てて自転車のロックを外す。
学校を先に出発した名前ちゃんを自転車で追いかけるのは慣れている。5分10分の差なら、名前ちゃんの家より前に捕まえられる。不機嫌そうに「もう来たの」と言うのは、鳴子くん曰く「アレは照れ隠しや」、杉元くんの言うところの「嬉しいのを我慢しているね」、手嶋さんのアドバイスによると「オトメゴコロは複雑だから仕方ないんだよ」。悪い意味ではないのだと思いたい。
今日もバス停の手前で見間違えようのない後ろ姿を捉えた。
「名前ちゃん!」
いつもの通り、名前ちゃんは一瞬振り返ったあと無言で足を緩める。その隙に前に出て、あとは名前ちゃんの家までボクが引く。あまり速度を出しすぎると名前ちゃんがついて来れないし、遅すぎると「舐めてんのか」と言わんばかりにタイヤがぶつけられる。乙女心と彼女のコンディションを読むのはある意味練習より難しい。無言で名前ちゃんの家まで引いて、自転車を玄関に入れて、「お邪魔します」と声をかける。いつもの通り。しかし、いつもなら名前ちゃんのお母さんが出迎えてくれるのに、今日は返事がない。
自分の愛車を定位置に納めた名前ちゃんが、顔を上げた。ボク達の身長差は10センチもないが、彼女がこちらを見上げるといつも嬉しいような居心地の悪いような、そんな気持ちになる。名前ちゃんが口を開く。
「今日親いないの」
「へ」
「……そういうことだから」
「そそそそう、そうなんです、ね!」
「なんで敬語なの」
名前ちゃんのクールな仮面……通称鉄面皮、氷の仮面が外れて優しく微笑んだ。「どうぞ」と手を引かれれば、指先から血が沸騰するみたいに熱くなる。
「今日は音量12くらいで、攻めてみる?」
「け、結構攻めるね」
「だって……」
それなら、ボク達がやることはひとつ。いつもよりちょっと音量を上げてのアニメ鑑賞会!名前ちゃんは中学生の頃、暗い部屋で音量を絞って深夜アニメを見ていたらしい。なので一緒にテレビを見る時も音量は小さい。その名前ちゃんが音量12なんて、お家の人に怒られる心配がないからできる、特別な楽しみ方だ。
「まず今朝の放送分見るでしょ、その次は何にする?」
「えーっと……」
名前ちゃんは毎週プリキュアを見るのを楽しみにしていて、それから今期のまじこな(流行りの男性アイドルが大絶賛したとかで、最近は一般にも知名度のある深夜帯美少女アニメだ。あと、ちょっと真波くんと雰囲気が似たキャラが出てくる)も録画してて、ボクの方もラブヒメの3期がくる前にもう一回見ておきたい回があって……ボク達ふたりが見たいものを全部見たら、夜までかかるだろうな。
「早く見よう。絶対時間が足りないよ」
「う、うん。そうだね」
お家の人のいない、名前ちゃんのおうちはしんとしている。階段の軋む音がやけに大きく響いてドキッとしたけど、名前ちゃんは気にせず、早く早くとボクを急かした。手を繋ぐことも、ロマンチックなデートもないけど、これが、3年目の夏を控えたボクたちのささやかな楽しみだ。
ボク達の関係は部内に知られているのだけど、名前ちゃんは部員からそれを言われるのは恥ずかしいみたいだ。クリスマスイブにソワソワしている名前ちゃんに「なんや今日は小野田くんとデートかいな」と声をかけた鳴子くんは100回くらい無言で背中を叩かれていたし、今泉くんが「まさか手も繋いだことないのか?お前たち1年くらい付き合ってるだろ」と言った時は名前ちゃんは1週間今泉くんと口を聞かなかった。
最近は結構慣れたみたいだけど(後輩の鏑木くんはその辺りの遠慮がないので慣れるしかなかったともいう)、一緒に帰るのはやっぱり恥ずかしいらしく、いつもボクが部室でモタモタしているうちに名前ちゃんはさっさと帰ってしまう。
今日はお家に遊びにいく約束をしているから、一緒に帰ろうとクラスを覗いたけど、名前ちゃんはどこにもいない。カバンは机に引っかかっている。寒咲さんとお揃いのディズニーランドのキーホルダーがついてるスクールバッグ。外からは見えないけど、今日も彼女のお守り「ミラクルライト」が入っているはず。
名前ちゃんは、自転車部のマネージャーで「隠れオタク」だ。ふとしたきっかけで自転車部にオタクがいると知った時は嬉しかったけど、名前ちゃんは「絶対言わないで」とボクを脅した。名前ちゃんは「折角高校デビューに成功したんだから、絶対絶対オタバレするわけにはいかないの……!」と涙目で拳を握り、だから彼女が変身ヒロインアニメ特化オタク、プリキュアを卒業せず高校生になったいわゆる「大きいおともだち」なのを知っているのはボクだけだ。
名前ちゃんがいないからって、ずっとよそのクラスを覗いているのも不審なので、こそこそ撤退する。自分の教室にいないのなら、残る選択肢は寒咲さんか今泉くんのところなのだけど……いた。今泉くんのクラス。窓際の席、初夏らしく教室の窓は開け放たれ、名前ちゃんのポニーテールが風に揺れている。話しているのは今泉くんだ。
今泉くんは言わずもがな、名前ちゃんもクール系美少女だ。というか、クールを通りすぎて塩対応。ボクなんて、告白されるまで嫌われてるんだろうなって思っていたくらい。2人は何かの資料を突き合わせて真剣に話し合っている。一体何の話だろう、周りのクラスメイトも2人を遠巻きにしているせいで近寄りがたさがすごい。
「照、ちょっといい」
「うん」
たまたま通りがかった杉元くんが名前ちゃんに捕まった。名前ちゃんは「紛らわしいから」という理由で2年生の時から杉元くんを下の名前で呼んでいる。寒咲さんは「じゃあ私も」とそれに乗じて名前呼びを手に入れたけど、とてもじゃないけどボクには無理だった。
「なんや小野田くん、そんなとこでセミみたいにくっついて」
「わあ〜!!ごめん!邪魔だったよね!!」
「夏にはまだ早いで……ってははーん」
鳴子くんが通りがかって、クラスの奥の方で遠巻きにされている自転車部3人を見た。やけに面白そうな顔をしてボクを振り返る。
「……
「じじじじジェラシー!?!?」
そんなわけない。今泉くんがかっこよくて、名前ちゃんが美少女なのは事実で、ボクは2人のことを尊敬してるしチームメイトとして、友達としてすごく好きだ。弁解する間もなく鳴子くんはズカズカ教室に入っていき、「さっさと帰るでスカシ!日曜日!部活も休み!絶好のデート日和や!行くで!な、苗字さんもそう思うやろ!って痛!!」とクラス中に響く大きな声で言って、怖い顔の名前ちゃんに足を蹴られていた。
「何しにきたの?なんで鳴子はいっつもそんなにうるさいの?」
「そっちこそ自転車乗りの足蹴るなや!大・事・な・足!」
「うるさい。黙って早く帰れ」
「はあああ〜〜〜!?!?なんやスカシ!」
「ねえこれここでやる話?今泉と鳴子が外でやればいいよね?」
「ワイは教室での揉め事は部室に持ちこまん主義や!」
「癪だが同意だ」
「なんやと」
言い合いは日常茶飯事の2人に威嚇モード(通称・極寒トゲトゲハリネズミ。鳴子くん命名)の名前ちゃんまで加わってしまった。放課後の教室は一層賑やかさを増し、収集がつかなくなる。杉元くんが「今の言い方だと鳴子が今泉をデートに誘ってなかった……?」と1人冷静に疑問を口にしたけど、それに返事をする人はいない。
結局、鳴子くんと今泉くんの喧嘩は寒咲さんが仲裁するまで続いた。仲裁というより、寒咲さんは名前ちゃんに話があって、結果として3人の言い争いが中断された。
鳴子くん達と話しているうちに名前ちゃんはすっかり姿をくらました。教室のカバンはなし、自転車置き場にも彼女の愛車はなく、いつものように置いていかれたのだと気づいて、慌てて自転車のロックを外す。
学校を先に出発した名前ちゃんを自転車で追いかけるのは慣れている。5分10分の差なら、名前ちゃんの家より前に捕まえられる。不機嫌そうに「もう来たの」と言うのは、鳴子くん曰く「アレは照れ隠しや」、杉元くんの言うところの「嬉しいのを我慢しているね」、手嶋さんのアドバイスによると「オトメゴコロは複雑だから仕方ないんだよ」。悪い意味ではないのだと思いたい。
今日もバス停の手前で見間違えようのない後ろ姿を捉えた。
「名前ちゃん!」
いつもの通り、名前ちゃんは一瞬振り返ったあと無言で足を緩める。その隙に前に出て、あとは名前ちゃんの家までボクが引く。あまり速度を出しすぎると名前ちゃんがついて来れないし、遅すぎると「舐めてんのか」と言わんばかりにタイヤがぶつけられる。乙女心と彼女のコンディションを読むのはある意味練習より難しい。無言で名前ちゃんの家まで引いて、自転車を玄関に入れて、「お邪魔します」と声をかける。いつもの通り。しかし、いつもなら名前ちゃんのお母さんが出迎えてくれるのに、今日は返事がない。
自分の愛車を定位置に納めた名前ちゃんが、顔を上げた。ボク達の身長差は10センチもないが、彼女がこちらを見上げるといつも嬉しいような居心地の悪いような、そんな気持ちになる。名前ちゃんが口を開く。
「今日親いないの」
「へ」
「……そういうことだから」
「そそそそう、そうなんです、ね!」
「なんで敬語なの」
名前ちゃんのクールな仮面……通称鉄面皮、氷の仮面が外れて優しく微笑んだ。「どうぞ」と手を引かれれば、指先から血が沸騰するみたいに熱くなる。
「今日は音量12くらいで、攻めてみる?」
「け、結構攻めるね」
「だって……」
それなら、ボク達がやることはひとつ。いつもよりちょっと音量を上げてのアニメ鑑賞会!名前ちゃんは中学生の頃、暗い部屋で音量を絞って深夜アニメを見ていたらしい。なので一緒にテレビを見る時も音量は小さい。その名前ちゃんが音量12なんて、お家の人に怒られる心配がないからできる、特別な楽しみ方だ。
「まず今朝の放送分見るでしょ、その次は何にする?」
「えーっと……」
名前ちゃんは毎週プリキュアを見るのを楽しみにしていて、それから今期のまじこな(流行りの男性アイドルが大絶賛したとかで、最近は一般にも知名度のある深夜帯美少女アニメだ。あと、ちょっと真波くんと雰囲気が似たキャラが出てくる)も録画してて、ボクの方もラブヒメの3期がくる前にもう一回見ておきたい回があって……ボク達ふたりが見たいものを全部見たら、夜までかかるだろうな。
「早く見よう。絶対時間が足りないよ」
「う、うん。そうだね」
お家の人のいない、名前ちゃんのおうちはしんとしている。階段の軋む音がやけに大きく響いてドキッとしたけど、名前ちゃんは気にせず、早く早くとボクを急かした。手を繋ぐことも、ロマンチックなデートもないけど、これが、3年目の夏を控えたボクたちのささやかな楽しみだ。
